死者への手向け

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nice boat.



ブ、ウン……

        それは黒い魂(タマ)。一寸の濁りもない墨の貌(カタチ)。
        死に神は手を向け、かざし、その墨は軋む床へ沈み、落とす黒い波紋。
        その波が描く文様は、鳥。

「くっく。枯れてるね」
サイは、月季花(ちょうしゅんげ)を視ている。

∽∞∽

時移り。
「結局、行方不明者は七人、いや八人で終わりだったか。呆れるような結果だ。霊視ができないんじゃ限界があるか」
「因(よすが)を断ったから、でしょう」
「なんか、八って数字に縁があるな。…こんなこといったら、いなくなってしまった方たちに対して不謹慎かもしれないけど」
「そうでもないよ。どうにも、私たちは自分の視点からしか物を語れない癖があるみたいだが、仮にだ。その消えた相手の視点で考えたら、どうなる?」

「…え?」
「皆、男の方でしたね。登山家、写真家、それに学者の方もおられたように覚えています」
「そうそう。考えても見ろ。まことにお美しい女子(おんなご)の皆々様に触って触られて抱いて抱かれて、それはそれは夢のようなひと時でした、だろう?くっく、これ以上の安楽死が一体どこにある」

「……それは、男としては反論したい意見だな。できないけど」
「彰さんがいなくならなくて良かったです。寂しくなる、ところでした」
「ありがとう、晴子さん」
「無用な心配だよ、晴子。犬は飼い主がちゃんと側にいれば、そう他人に尻尾を振ったりはしないからね。ほら、あの時もちゃんと私が側にいた」

「……お生憎(あいにく)と。俺に振る尻尾はないよ」



今までペース配分がおかしかったので、今回は短め。
というよりは、次に書く場面が多くなりそうな予感がしたため。

ちなみに、会話だけ登場してる「晴子さん」について。
以前どこぞに書いたことあるが、純黒の着物、純白のシルクハット、前世に陰陽師である安倍晴明をもつ占い師。
考えたキャラの中では一番のお気に入りです。



時戻り。
風には色が滲み入っている。
この屋敷の天辺は見えないけど、空から俯瞰してみれば、屋敷はきっと謎めいた彩りをしていることだろう。
七瀬彰は、軋む径(みち)、床に体をねじ込みながらも、ようやく到達した。


ウゥン…軋リ……。


その、奇怪な音は何処から聴こえているのか。
耳にではなく、じかに脳髄そのものを鳴らすかのような音。

サイと七瀬彰は、ある部屋の正面(まえ)に立っている。
その二枚の戸、襖は灰色の香いを、霞と共に空気に溶かしている。
…不思議と、七瀬はそれを、
(花の香い……)
だとおもった。その形容しがたい、雪を被った桜のような香い。

「…………」

七瀬彰のこめかみより、一筋、

「つ、ぅ………」

冷や汗めいたものが墜ちる。息を呑んでしまう。
首筋に、何か厭なモノが這い寄っているような……。

――その首筋のうしろ、庭には屋敷をぐるりと囲う檻(おり)、もしくは城を守るかのような石壁があり、庭園は燈籠、すえた緑草と、その廃墟めいた草たちの一節には池、上をかかる小さな渡り橋がある。

池には風に惑う香いがつぃ、つぃ、と渦を巻いている。
それは、墨を落としたかのように色の亡い霊の香い。

――ふと、気になって。
七瀬彰は、ぐる、りと体を振り返らせようとし、

「うわ」

声を上げたのは、視界がほのり、とした熱と共にくろくなったからである。

「そっちは死体だ」
漆黒を内包したサイの声は、この屋敷という異世界には実に、善く溶けている。
……急に眼を手で覆われたものだから、吃驚(びっくり)した。

「いきなり手を出されると吃驚するよ」
「いい刺激にはなったろう」
――まぁ、息抜きにはなったかもしれない。
この屋敷には、どうにも居るものを奇妙に酔わせてしまう空気がある。

「……死体?」
「報道(ニュース)で云ってた行方不明者八人のうちの一人。ま、見たいなら止めやしないけどね。
警察も呼べないんだし、誰かその眼で視て、覚えているものがいるなら供養にもなるだろう」
「…うん、まぁ。本人も生きてたときの綺麗なときを見てもらったほうが嬉しいだろうから、やめておくよ」

絶えずに、枯れかかった池、死体の沈む上空を霊香が亡い風と共に舞っている。
一段と鈍い、空気には闇を孕んだ幕が下りる。

「――むせ返るくらいの血の香い」

それは宴の前夜。気が狂うほどの嬌声。月季花(ちょうしゅんげ)よりも赫い惨殺死体。

「…サイ?」
「いや。で、七瀬。すこし、恐がり過ぎだ」

ヤミを挟み、間(ま)。
灰色の靄が、七瀬彰を包む。

「……困ったくらいに隠しごとできないな。心を覗く鏡でも持ってるのか?」
「顔は心を写す鏡、ってね。
にしても、何をそんなに恐がることがあるんだ?目の前にこんなに恐い奴がいるというのに」
「あぁ……確かに一理あるな。俺は一番君が恐ろしいよ」
「くっく。わたしは死に神だからね」

サイという死に神は片頬を吊り上げてからに微笑(わら)った。
それをみて、呆れながらも七瀬彰はそのふすまに手を触れる。


”じゃあ、開けるよ。”

”ふふ……はい。どうぞ。”


ズ、、、ずずず、ずず

ささくれだった襖を両側へと押していく。
――なかより風が一筋、シャラン。

「がはっ……」
七瀬彰は千の槍で体を刺し貫かれ、肉を穿たれた。
ふきでているものは、どうしようもなくきれいなまっかなち。

「どうした、七瀬。突っ立てないで開けたらどうだ」
「あぁ、うん」
……確かに開けたつもりだが、どうやら自分は突っ立っていたらしい。別人にでもすり替わっていたのかもしれない。


――別人?ほう、ベツジン。
それはつまり別の人と云う意か?もしくは、別れる人と云う意でもある、か?
そうだ、そうだ。春(ハル)は別れの季節とも云うではないか。

――いや。出逢いの季節か。ヒ、まちがえた。邂逅だ。
ほぅら。視て、みろ。
もうその直視、すぐ其処にまだ視ぬ良きに深きにじつに面白きにある出逢いが視えるであろぅ?

「え?」

「ブウン、「ズ、「リィ、ン――

其処は座敷。四方はカベ。
まぁ、平常(ふつう)で視ればそれは絵画(え)のあるふすまだが、なに、もう開くことはないのだからそれはもはやただの壁だ。
ふぅむ……いやはや、それにしてもいい壁ではありませんか。これほどまでに優れた壁がどこのいずこにある?
この極彩に溢れている空間はまさに、

――七瀬彰は立っている。先の襖を開けた先、座敷のなかに。

『ふふふ』

襖は開いていない。
それもそうである、七瀬彰は"引っ張られた"だけなのだから。

『あらあら』

――座敷の畳のささくれがみえる。
  四つの綺麗なふすまがみえる。
  後は――

∽∞∽

時移り。
「彰さん。なにが、視えたのですか?」
「うん。覚えている限りでは……」

「美女が八人。風景(けしき)が八つ」

∽∞∽

時戻り。

そのクチは三日月。そのカラダは幽霊そのもの。
揺れる八つの振袖、四季すべてを彩るかの如し。

――美女が八人。

その色は夢幻めいて。その風景は万葉の和歌めいて。
観る四つの襖絵、四季すべてを彩るかの如し。
そして四方を染める襖を開けてみれば、

――風景が八つ。

七瀬彰は立っている。
……引っ張られたというより、この場合はただ変わったというのが正しいかもしれない。
俺は一歩も動いていないから。引っ張られたのなら、少しは動いていないと言葉としてはおかしい。

「――――」

俺は手を、
「閉じたり、」
「、開いたり」
してみる。それは紛れもなく自分の手である。
いまも、血潮がドクン、と滾っている。


――ヒ、ヒヒ。
あぁ、まさに此処は八景の間と云うにふさわしいではありませんか……。


「ほんとうに……俺は死んでから、ろくな目に合ってないな」

死ぬことが最たる"ろくな目に合わぬ"ことだというのに。
天井を振り仰ぎ、七瀬彰はその矛盾を苦笑した。



墜ちる落ちる落ちる落ちる。

いやぁ、あんまりボクが勉強しないから担任の先生様に散々に連呼されちゃったよ。
いやいや、これでもわたくしは夢を高く持つ男で…。なので志望する大学もちゃんといいとこ目指すのさ。

しかしこれで「作家になります」なんて言ったらなんて顔されるだろうか。
目指す所は理系でかつ工学部です。えへへ。

7/11追記:後半部分をちょいと追加



魔法使:美しきとは、それは神秘だ。形ならざるモノ、此の世ならざるモノさ。
        世の理を持ってしても明かすことなどできはせぬ真(マコト)。
        それもそうさ、「真理」という言葉はあっても「理真」という言葉はない。ねぇ?

(魔法使は、心の奥を見透かすかのような瞳でぐるりと見廻す。手鏡を視る)

        梅香があるという真があって美しいという理があるのさ。
(べろり、と赫い舌で鏡の面(おもて)を舐める)この鏡に映る世界も面白い。

        鏡に映る此の世は別の世を映しているかもしれない。
        これに映るワタシは別の世のワタシで、別の世から映るワタシが此の世
        のワタシかもしれない。あぁ、なんという神秘か。
        『無い』を『有る』と仮定して、『有る』を追い求めるのさ。

        ……つまるところ、私の云う美しさとは何かを求める美しさともいえる。


人形使:美しきとは、造る事だ。なんだ、それ以外にナニガアルというのですかぇ?
        ふん、ない。亡い。


外道使:あらあら、否定は好くないですよ。有りのままを見据えるが吉。
        なにが美しくなにが美しくないかなどそう分かるものでもない。視なさい、
        この風景を。(桜、梅、椛、桃を指差す)

        あぁ、歌があたまのうしろの方を掠める。桜の花蕾、梅の香り、椛の色、桃の実。
        極彩ですに、これは。
        桜の樹を眺め、梅の香りに鼻は澄み、椛の色に瞳は瞼のうらの裏にまで
        万の花を魅せる鏡、万華鏡をつくり、桃の実、その白く甘い蜜の味は舌をこれでもか?
        というまでに溶けて、蕩けさせてくれる。あまい、甘い。

        おっと、(口元より液が一筋流れる)涎が。
        天地自然、地球(ほし)よりそのまま流れ出たもの、つまり穢れのない生まれたばかりの
        ホントウ。
        美しきとは、それはホントウだ。


召使:外道使さんはホントウか。苦々々々々、外道がホントウとは言い得て妙だなそれは。
        美しきとは、それは……ん?
        なんだ、お前が先に言いたいか。そうか、いいだろう。言うがいい、言うがいい。
        恐れずして言うがいい。
        その心の内を曝け出せ。おれがよぉく、この耳に入れてやろう。

        ――いつまで耳に残るかは知らぬがな、秘々々々々。刹那も経てば遽疾(きょしつ)に
        しておれは虚無に返す。

        無とは、それはそれは素晴らしい、からな?茶室を思い出すがいい、かの
        千利休が生み出したあの虚無空間。
        俗世のつまらんことも亡い、武力も権力も精力すらも亡い。有るのは茶の一杯しかないだろう。
        湯飲みを抱え、口をつけ、茶を嚥下するのみだ。すべてを忘れてそれだけにすべてを捧ぐ。

(手元の椀をもち、指でその形をなぞり、死したかの如く茶を飲む)

        己を忘却の彼方に送り、セカイに置き捨てただ茶を飲む。
        これは虚無だ。タマシイだけとなり茶を飲むという『有る』だけのものになる。無いは亡い。
        その大伽藍。仏のセカイ。いや、仏は仏という『有る』だから仏も『亡い』セカイこそ
        おれの零点。
        心も肉体もタマシイも何もかもが亡いモノ。
        美しきとは、それは虚無だ。


魔法使:で、キミさ。
(頬を奇に曲げ、破顔する。手鏡にそのすがたを映す)

        美しい、ってなにかな?



美女屋敷。
軽い短編のつもりで書き始めたが、どうやらこいつはひとつの山だったらしい。
いやね、赤雪に書いてからも、エディタの方で何回も修正したりひどいときは展開がそのまま抹消されてたりするのですよ。
今まで普通の話ばっかり書いてたが、これは変な話だからか。
この手探り感が言いようも無く楽しいぜ!



時移り。

「一寸も動かない湖の水面(みなも)。脆い硝子。さざめいて佇む樹林」
「心に直接響く。脳髄を焼く。一筋の稲妻。底の亡い井戸に落ちていくような。はい、彰」
「俺は二人みたいに詩人じゃないよ。美しいものは美しい、かな」
「それはまた随分と彰らしい暴論だ」
「美しさなど、そのようなものです。美しいものを美しいと思う心が一番に大切なのです。
……どうか、されましたか?彰さん、呆とされています」

「あ、ごめん。
いや。以前(まえ)にサイにも似たようなことをいわれたから、ちょっとね」


        …


「くるくる…狂々(くるくる)……」
「…晴子さん?」
「円(まどか)と縁(えにし)。『えん』と云うおなじ韻を踏んでいます。
――どちらも、くるくるしているとは、思いませんか?」


        …

時戻り。
処は八景の間。四つの襖。
人は八人の美女。八人の男。

青の美女:ふふふふふ。
藍の美女:ほぅら、御酒(みき)を。どれ、酔わせて差し上げる。
七瀬:あぁ、ありがとう。――うん、美味い。

緑の美女:あれ、かわいい。
黄の美女:あれ、おもしろい。
赤の美女:あれ、いやらしい、厭らしい。

橙の美女:殿方らしき、よい、飲みですこと。そなたの目は熱(あたた)かい。
            その目はよいな。ふふふ。
紫の美女:あぁ、そうだ。ほぅら、これ。ね。
            詠んでみましょうよ。ね。皆々様。
黒の美女:歌を、詠んでくださいな。和の歌を、詠んでくださいな。ね。よい考えでしょう?
七瀬:……和歌?


「美女屋敷」


犬神使:ははっ、やぁや皆さん。そろいも揃って萃(あつ)まっているね。
          酒宴の席。うん、この円形の並びもいい。輪廻転生の輪を描いてるみたいな円だね。

八人の美女、八人の男。八景に囲まれ円形に座。

魔法使:あぁ、円とは美しいね。曰く、ひとは昔から円に惹かれるという。何故だろうかな、あれは。
祈雨使:…のぅ、お二方。此の場は宴の座。先ずは、名乗るが真であり理であり世の常でないか?
          いかがですかな、麗しき女子(おんなご)の皆々様。

八美女:そのように。


鈴(リン)。一時挟み、間。


犬神使:おっと、こいつは僕としたことが。悪かったよ。いや、(長い髪をかきあげつつ)
          参るね。ついつい語りそうに、

召使:しゝゝゝゝ。悪しと思うのならば、すこし、黙ること。
          (不滅を求めて彷徨う坊主の如き尽きることのない声で)あぁ、おれはこの通り召使だ。
赤の美女:――、じゃ。(名乗る。畳をひとつの指ですぅ、と線を引きつつ)

祈雨使:(理想郷に辿りついて迷う凡人めいた声で)祈雨使(あまごいのつかい)で、
          ございます。
青の美女:――、じゃ。(名乗る。揺れる長い袖を興味深げに眺めつつ)

魔法使:(大宇宙を見据える学者を匂わす声で)魔法使さ。
緑の美女:――、じゃ。(名乗る。一旦、なにかを天井に視つつ)

狐使:(世を儚み憂えては打ちひしがれる子狐めいた声で)……狐使、よ。
黄の美女:――、じゃ。(名乗る。ふぅ、と細い糸を紡ぐかのような息をつきつつ)

外道使:(愛を育む御仏のような声で)外道使です。
橙の美女:――、じゃ。(名乗る。脆く白い小指を舌で舐めつつ)

人形使:(何事も願いを叶える土人形、叡智を識る神を思わせる声で)ふん、人形使ですよ。
藍の美女:――、じゃ。(名乗る。滝のような髪を梳[くしけず]りつつ)

犬神使:(流行に安易に流され何でも好きになる若人そのままの声で)犬神使だぜ。
紫の美女:――、じゃ。(名乗る。手を虚空に伸ばしつつ)
黒の美女:――、じゃ。(名乗る。つぃ、ぐるり、と円形の座、酒宴を描く面々を視線にて刺しつつ)
            どれ、あなたさまは?なんと、申すのですか?


七瀬:(この八景の間、何故自分がいるのかということを疑問に、そして明らかに狼狽えた声で)
        七瀬彰です。保険会社で働いています。うん、妻はいたけど、いかんせんこの体たらく
        なので。
        (苦笑して)もう逢うこともできなくなりました。




まともに名乗ってるのは七瀬くんだけ。お前らちゃんと名乗れ。
てなわけで、自分の中でも展開がごちゃごちゃして大変なことになっているこの美女屋敷。
こいつはまずい!と思いまして、せめてものお詫びにここまでのフローチャート置いときますね。
+ フローチャート
七瀬に美女の声が聞こえる
        ↓
七瀬とサイ、門の前。開けゴマ
        ↓
屋敷の中を歩く
        ↓
七瀬、極彩の風景にて美女と会話
        ↓
二人、「八景の間」の前(分かりにくい)
        ↓
七瀬が八景の間に引きずりこまれる(物凄く分かりにくい)
        ↓
中に美女と七人の使、宴(謎前提)
        ↓
今ここですたい

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最終更新:2010年07月19日 13:06