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修学旅行は京都

外道使:うん、でも桜が七十五に有るというのは正しい。私でも、正確な数は分かってはないのです
          がね。ただ、桜を美しいと感じるからには、きっと七十五のなかに含まれているのでしょ
          う。…いえども、女性ばかりというのは事実です。気付けば、女性ばかりのことを考えて
          いる。風と戯れているとき。霞に惑うてみたとき。雲を見上げてみたとき。
          いつからでしょうかねぇ。私が『女性を愛している』ということに気付いてから、もう、
          女性、女性、ジョセイ。

人形使:女に狂うのが、男というものよ。
犬神使:おっとぉ? 早いな旦那。もう、美女との戯れはいいのか?
橙の美女:(冬の名残を夢にみて、春の訪れを寂しく思いつつも、その春の美しきに惑うかのような
            眼を虚空に漂わす)
魔法使:うん。かぐわしき娘子さんは悦に浸っているみたいだね。
七瀬:儚(ぼう)、とされてるな。水の一杯を飲んだら心地がいいかな?
赤の美女:あれ、お優しい旦那様ですこと。うふふ。

外道使:女性にくるってしまうは悲しき男の性、ですね。
          いや、もしくは喜ぶべきですか? 何はともあれですよ。
人形使:ふん、そうだな。せっかくだから私も熱冷ましにでも語るとするか。久々に張り切ってしま
          ったからな。それもそう、人形をかき抱くのは、どうにも飽きる。人肌のぬくもりには、
          何物も叶わぬということよ。
          見目形は玲瓏たるものがあったとしても、心の方が空だからな。欲もない、愛もない。そ
          れではつまらぬ。


魔法使:人形を抱く、ねぇ。無から有をつくりだす、と云ったところかい?
          そんなことを云ってみても、所詮は無は有にはなれない、と。人形はあくまで人の形であ
          って、人には決してなれない、か。
          うん、私の味わった絶望に近しいものがあるね。


外道使:行く先々で遊廓へ行き女郎屋を散策してはあちらこちらの女性と一夜を過ごし。暑い日も寒
          い日も問わず、ですね。私の愛が尽きぬうちはいくらでも愛と愛とで睦み合いますよ。

          そうそう、偶に嬉しいことに私宛の文(ふみ)が届くこともあるのですよ。勿論、その
          逢瀬を交わした女性の皆々様からです。まったく、根無し草の私の居所をどうやって突
          き止めているのだか。いや、そしてそんな文をですね、桜色の笠を降らす雨、花の在り
          香と甘い風を肴に呑む酒と共に、じっくり、じっくりと……読むのですよ。

人形使:私の人形がいらぬだと。邪魔というか。汚いというか。あまつさえ、人形ではない、おま
          えのそれはただの塵屑(ごみくず)だ、などと云いやがる。莫迦な依頼主が、此処のと
          ころどうにも多すぎる。

          つくれつくれと囃しておきながら、いざ私がつくってみるとつまらぬ文句を垂れる。そ
          そも人形に依るというのが馬鹿げているもの。私は人形使だからこそ、人形とは何か
          は心得ている。

          所詮、あれは人を模しただけの形だ。そんなモノに高望みするなど…あぁ、私は人形使
          なのに人形を作るとは何事かと思うかもしれないが、それは簡単。人形は私が遣うもの
          だぞ? 己で遣うものを人につくらせるなぞ言語道断。それを生業とする人形師にへいこ
          らと頭を下げ、私の遣う人形をつくってくれと頼むなど膝頭で江戸へ行くに同じだ。第
          一、己の思う作ができるとも限らぬだろう?

七瀬:人の形をつくる、ですか。なんだか神さまみたいだ。
藍の美女:神様仏様あなた様。うふふ。
緑の美女:あ…鈴ふり花。ちりん、ちりん、という音が聴こえてきそうな。
犬神使:おお、本当だ。風も強いね。此の間の来客も多くなったな。


男女戯れる八景の間、畳の上のみならず、今や並べられた膳にも色取り取りの花びらが落ちている。
皆、何かに惹かれ、もしくは引きずり込まれたかのように散り散りとする。
こち風に、花びらが一斉に、ふわ、と舞い上がる。




ハーゲンダッツ。
いやあれおいしいですよね本当に。イチゴ味が大好き。
何故か?
式が食べてたから。



祈雨使:ふうむ…花が飛沫いていますな。花の雨乞いでも、気付かぬうちに私はしていたかな。

人形使:そう、雨だ。雨の日だった。最高に気の合わぬ依頼人が来たのだ、私の工房に。
          山奥の、人も獣も寄り付かぬ、大気すらも逃げ路を探すかのような処だが、私はきにいって
          いる。肌に合う。何せ、人形をつくるのだからな。人形とは人形(ヒトガタ)。人の形を模
          したモノ。つまり異形だ。異形をつくる、それに相応しい舞台(こうぼう)といえば異界が
          一番に相応しい。外れたモノをつくろうというのだから、外れたセカイでつくるに越したこ
          とはないのさ。

外道使:恋を読む。いいですね。文に綴られている筆は全て恋の文字。私を慕い、貴方に逢いたい、
          話したい、また一夜を共にしたい、と。そういった文が何枚も来るものですから、これがま
          た嬉しくて溜まりません。本当にどうやって私の居場所を突き止めているのやら。いやはや、
          女性とは恋に、愛に生きるいきものですから、斉しく近しいものをもつ私に惹かれるのです
          かねぇ。私も愛に生きるいきもの。旅をするも愛が故、です。然し、ただですねぇ、


魔法使:…。(落ちる花びら、山吹をひろい、手鏡に乗せ映してはしげしげと眺める。箸にてその山
          吹の一花を摘み、甘嚼《か》みする。それを、一緒に酒を口に含み飲み込む)


人形使:その依頼人は斯様に云った。
          「おまえのつくったなかで、おまえが思う最高傑作の人形をくれ」
          とな。なんとも無茶をいう奴よ。
七瀬:それは…「私が次につくるものが最高傑作だ」という風に答えたら面白いかも。
人形使:ふふ、それも一興だな。

          あぁ、然し私にそんな無粋を云う輩に最高傑作などつくってやろうという気は欠片もない。
          それもそう、そいつは私に最高傑作をつくらせておき、それを手放せと云う。なんという
          たわけ者か。ふん、だが私はあくまで異界の住人。現(うつつ)に住まう者に私の理を話
          したところで無駄。通ずる筈はない。だからなぁ、それならばと三体の人形を差し出した
          わけですよ。
橙の美女:まぁ……それは。

外道使:風を食べて呑気に過ごしていた或時、何やら厄介な文があることに気付きまして。なんと、
          私に逢いに行く、と。文ですから一方通行、断りの文を送るは遅いというものです。いや
          ですね、それが一つならば構わないのですが、何枚も、何枚も、私を三途の迷夢に陥れよ
          うとする冥界の屍の群れのように、送られてくるのです。あちらの人、そちらの人、こ
          ちらの人。それが重なり、果てにはどちらの人? ……ふふふ。

犬神使:笑うなよ、気色悪い。女を自慢されても、何も嬉しくないね。
魔法使:はは。嫉妬の炎で焼き殺されないように。外道使さん。
紫の美女:やきもち? うふふ、その必要はないですよ。だって、私が此処にいるではないですか。
          白鳥のようなこれほどの美貌、うぐいすのような可愛らしさ。……ね?

人形使:最高傑作ではないが、私のまじないをかけた人形。掃除、布団、殺害の三種の人形。あぁ、
          先刻(さき)に花麗な美女の皆様にみせたものだ。あれが最高傑作でない、というのはな
          、あれら全ては斉しい時、同時にしてつくったのだ。更にそれを何体も、何体もな。だか
          ら最高傑作には成り得ぬ。最高傑作とは一品に限らねば最高傑作とは呼べぬ。三つで一つ
          と考えるなどはそもそも不可能と云うもの。考えてもみろ。我らは人間だ。人などせいぜ
          いが二つで一つが限り、であろう? 両腕に両足、肺に心ノ臓。…まぁ、心ノ臓は一つ
          しかないがな。

祈雨使:いや、愛する者と契りを結べば二つが一つになりますな。
          己の心臓の伴侶の心臓。契りを結ぶ、ということはそういうことだろうて。
人形使:ふん。まぁいいだろう。であってな。三つ人形とは掃除人形、布団人形、殺害人形と三つ
          が揃ってこそ一つなのだ。何故か、と? そんなことは問うまでもないですよ。
青の美女:掃除をして、殺害をして、布団に寝かせる?

七瀬:(遠くの方を視て)あれ、召使さん。おかえり。
召使:おかえりと云われれば、ただいまと返すが世の常だな。
黒の美女:ふふふ。真摯なお方。(乱れた裾をさっと直す)御酒の一杯でも、いかが?
召使:頂こうか。
犬神使:酌までしてもらうのか。お前さん……。
――いや、いい。俺は紳士だからな。(膳の上より徳利を掴み、ぐい、とそのまま飲む)
          そう、余計なことは云わないさ。別に誰も妬いてないぜ?

外道使:女性は愛すべきものですが、然し怨まれるとほんとうに怖い。たくさんの方から逢いたい、
          と云われるのは嬉しいといえば嬉しいですが、あんまり多いと、つまりですねぇ。どうい
          えばいいか…そうそう修羅場。修羅場です、修羅場。一人の男に、何人もの女性が逢いた
          い、と押しかけてくる。これは修羅場というものです。困り者ですねぇ。いくら愛でる
          ものといえ、下手をすれば殺されてもおかしくない状況が私に降りかかろうとしているわ
          けですから。



残暑ざんしょ。
甘いものが常にほしいから困る。
しかしMATCHうまいね。最近好きになったぜ。


人形使:掃除をして、殺害をして、布団に寝かせる。その通りだ。この一連の殺人(さぎょう)。
          先ずは相手を尊重せねばならぬからな。いや、単純に私はモノが汚いのがゆるせないだ
          けか。そうやってその掃除人形を操り、さっさ、さっさと綺麗に掃除をする。

          (掃除人形。いまだ円形の座の中央に置かれており、その地蔵の見た目。片腕に箒、片腕
          にも箒)。


          綺麗にするだけならば、相手も厭だなどとは云わぬ。己が綺麗になるのだからな、厭な
          わけが亡い。次に殺害(殺害人形。その地蔵の見た目。片腕に四本の刀、片腕にも四本
          の刀)。これは理想的だ。なぜならば、私の操る人形が殺害をする。私の手そのものは
          汚れない。綺麗のままを保つというわけだ。返り血の一滴も浴びぬ。あんな穢れたモノ
          はみたくもないが、殺害人形(ヤツ)の四本の刀が下半の身を抉り、もう四本の刀が上
          半の身を斬り裂き、その刀の雨をその身に浴びた肉塊が悶えるさまは、みていて真に
          おもしろい。


          飛沫く血も、飛散する肉片も、粉砕する骨も。あわれな魂魄が彼方此方と飛行するさま
          も。

          最後は、寝かせるだけだ。なに、私はできた男ですよ。亡骸(むくろ)をそのままに
          放置する、などということはせぬ。身を綺麗にし、丁寧に解体した後は、ちゃんと後始
          末をする。永眠の整えをな。

          しっかりと手に六道の銭も握らせてやるのさ。三途川での儀礼は行わせてやらねばな。
          現世より境界の川へ逝き、最後に欲に塗れた金を使う場だあそこは。その欲に引導をく
          れてやり、仏となり冥土を踏むのだろう? それくらいは、ちゃんとさせるのさ。

          なんといっても、私は綺麗。できた男だからな。

召使:ひゝゝゝゝ。酒はうまい、うまい。妙にうまい。月を眺めればうまい。滝を視ればうまい。女と
        飲むと特にうまい。

        たとえば、我が主人とかだな。あれは女であるにかかわらず、実によくできた女だ。
        雨が打ち、雷の絶えぬなかに建つ大きな蔵だ。そんなものが、何個も何個もどこの行軍だろう
        な、あれは。鎮座する城そのものだ。あそこまでの蔵の数となると。

        我が主人の女の所有物であるその蔵に、そこから不可思議に香う酒に、魅せられたのだ。暴風
        暴雨の雷の神鳴りのなかの出来事。なにやら天の神も荒ぶっていたのか。

        波打つ風は私の纏(き)る衣(ころも)を跡形無しに寸々(ずたずた)にするかの如き勢いで
        からだを撃ち。ぼろぼろ、ぼろぼろ、ぼろぼろぼろぼろと墜ちる雨は私の皮膚を貫かんとする
        ばかりの勢い。千の針にからだを刺されるにおなじ勢い。ばがばがばがばがりぃい! と叫喚
        す神鳴りなんぞは酷いものだ。

        あれは夜の噺だな、夜。泣く子も死に失せる晩のことだ。ひゝゝゝゝ。あまりの上戸が災いし、
        ついついあの女主人がもつ蔵に忍び込んだはいいが、あのざまだ。


七瀬:酒ですか。…まぁ、好みは人それぞれだけど。盗みはあまり、よくないんじゃないかな。倫理
        に反するというよりは、人のものが自分の手元にあってもなんか気持ちが悪いですし。あれ
        かな。人が幽霊に取り憑かれたみたいな。自分じゃないものが自分にあるような感覚?
魔法使:おや、自分以外を中に飼う、というのは普通じゃないのかい? もう一人の自分やはたまた
          それとも一線を越えた自分、ってね。

人形使:自分以外のモノ。それが人形であるな。自分の内に有るが、自分の内に無いモノ。つまり
          いきものであって、いきものではない。だからだろうな。いきものでも有りいきもので
          も無いわけにあるから、人形とはいきものに触りやすく、またいきものが触れぬモノを
          触ることも出来る。それは何か? ふん、それが殺しというモノに決まっているであり
          ますよ。殺しとはそういうモノさ。触ることができ、触ることができぬという……その
          傀儡のような……まるで命のような……綺麗な……美しさと云うか。それに惹かれたの
          だ。その殺しに惹かれたのだ。繰り返すはつまりそういうこと。


藍の美女:もの思へば 沢の蛍も わが身より
                あくがれ出づる 魂かとぞ見る


祈雨使:蛍の火ときましたか。視るにはまだちと早いですな。もういくばくか立てば…夏になる。
          炎天の前に雨がくる。
犬神使:なんだなんだ、悩み事か? どれどれ俺が聞いてあげよう。
緑の美女:血染めの惨(いた)み……。



完全に惚けてしまった。
気付けばいつも愛しのあの子のこと考えてるんですが。自分の童貞さ加減に腹が立つぜ。
しかしあれですな。片思いは楽しいもの!ってけーねが言ってた。



(青の美女)深紅。たしか、そんな日でした。おそらも、まわりみんなも、真っ赤の赤。ふふ。お天道様も、きらきら、きらきら、と紅く燃えていた。いえ…咲いていた、といいましょう。
(召使)んゝゝゝゝ。あれはメが病む洋館だ。いたるところに童子と酒だ。あとは絵だ。浮世を描くのみかと思いきや、浮世に有るのだな、あの絵は。その館は廃墟。何物も近寄らぬ廃墟。断崖に聳えているな。あそこは朽ちずに永久に、滅することもなく、生きることもなくあり続けるのだろう。尽きることのない不滅。仕えていたのは女主人だ。これがまた、あの女も妙でな。死々々々々。云うなれば、瑞鳥鳳凰のよう。…いや違う、不死鳥か。ふむ。まぁ、いずれにしても火のような女だということだ。紡ぐ言葉は萌える詩。曰く、「妾(わらわ)のことのはは詩でしかない」だとかな。その脳漿には溢れるほどの言葉の数々があるのだ。
(七瀬)詩人で不死鳥みたいな女主人ですか。…そういえばサイって不死なのかな。
(外道使)ほほう、七瀬くんの知己の方は面白いですね。不死ですか。いいですねぇ、憧れます。私の愛は不滅ですが、不死ではないですからね。なんていっても、私が死んでしまったら愛も一緒に死んでしまうのですから。あぁでも、不滅であることに変わりはないのです。私が愛した、という記録はいつまでも残りますから。不死ではないですが不滅ではありますね。
(人形使)不死に不滅。人形とはそういうモノだな。ふむ、いや。こいつも不滅か。そもそも生きてはいないな。ということは生死(いきしに)の噺は何も関係がないわけか。所詮は人の形だからな。魂が有るだけで、生きてはおらず死にもあらず。まぁ、魂の亡い人形もあるがな。込める必要のあるモノとないモノがある。ふん、ただの装飾として遣うのならば、魂など不要というものですよ。道具に魂は宿らず。ちゃんと、容れ物の形をしたモノでなければ魂は宿らぬ。魂の有る無しのみわけは容易い。夜だな。月は亡い方が好い。供え物……田螺がいいか……たんまりと、そうだな、つまらぬ邪気があると解り難くなるからな。さっと茹でておくといい。それを皿に盛り、人形の前に置く。後は明りの灯されておらぬ蝋燭の火を一列に並べ、後は一斉に火を灯せ。ぶわっ、とな。ふん、眼球を視てみろ。其にくらむほどの幻(あか)りが有るなら、あたりだ。そいつが魂。水面に浮かぶ蛍火とおなじモノよ。それがな。
(魔法使)藍色さんは夕闇にじぶんの魂を視たのか。夕闇、夕暮れは太陽と月の入れ替わり時、だからちょうど世界がくるりとまわるわけだ。此の世とあの世が混じる頃合。うん、ということはだね。もしかしたらそれは貴女の魂ではないかもしれないね。魂がこちらからそちらへ向かおうとしているわけだからね。普通じゃ視えないモノが視えてしまうことだってある。……美しく艶やかな藍の娘さんが視た魂はひとつじゃなかったと思うよ? 違うかな。いや、うん。これはきっと当たってるね。
(藍の美女)ふふ……あたり。いっぱい、飛んでました。ふわ、ふわ、ふわり。
(橙の美女)いましたね、たくさん……。あれはきれい。とても「  」だから。ふふ、あの「  」は解らないけれど、なんだか視ていて不思議な心地でした。
(祈雨使)その魂の原色はきっと鮮血の色だったのでしょうな。ふ、そういうときにこそ雨ふらしが役に立つ。雨とは、厭なことも恐れも惨みも何も彼もすべて流してしまう。過去の出来事すらも綺麗に、さっぱりに・・・・・・。
(召使)くゝゝゝゝ。血を視るのは好きだ。だから私は幸運であった。とりようによっては、そういう風にもとれぬこともない。……とれればいいが、あの女は違った。ふと思い立ち。あの館。喉から手が出るほど欲しくなった。理由などない。ただの衝動だ。衝動とは痙攣。からだが震えていたな。本能の趣くままにだ。手には名刀があった。我が家は先祖代々の刀鍛冶。あくまで召す者であるから名前そのものは知れていないがな。名を売るのはあくまで主人の仕事。私らはその主人の刀を作るのみだ。
(犬神使)なるほど。刺すわけか。
(青の美女)あの人たち・・・・・・真っ赤な人たち。ばしゃり、って散った人たち。いまごろ、どうしているのでしょうか。
(召使)めった刺しだ。妥協はしていない。三尺の赫い、光り輝く真紅の刀でな。
(人形使)私は綺麗好きだ。だから人形というものに惹かれた。あれほどに人でなく人らしい、いきものでなくいきものらしいモノはあるまい。ただ有る容れ物に崇高な魂を込める。余計なものはなく、形と魂のみだ。それは綺麗というもの。そんなものを扱うのは……楽しい。
(緑の美女)あっ……。
美女の衆、ほろ、ほろ、ほろり、と泪を流す。
(橙の美女)えぐっ……。
(祈雨使)どれ、娘さん方。世は辛いもの。こんな老いぼれでよければ、胸を貸そう。これでも祈雨使。雨やそれに似る泪ならお手の物じゃ。
(赤の美女)よよよ……。
(紫の美女)ぐすっ……うぅぅ……。
(魔法使)うん、穢れを知らない綺麗な綺麗な女の子たちの泪とは、それはまた美しいね。いっぱい流していいよ。泪ってのは、流すためにあるのさ。我慢なんかしちゃあいけない。絶対にね。泪みたいな水とは神聖なものだから、それをこの地球に落としてやればね、水を受け草木は萌えて虫が育ち動物がそれを食べて、どんどんと際限なく循環していくから。それにさ……泪とは、いいもんなんだよ。
(外道使)泪とは分かりやすいものです。だって、それはひとつの感情が溢れたときにしか流れないものですから。色んな感情が入り混じって思わず泪が出る。色んな感情が入り混じるのならそれは元のひとつになっている、ということです。つまりは人の太極の心。愛、そして憎しみですね。必ず、泪はそのどちらかに帰属するのですよ。たとえば…たくさんの女性から文を貰ったときとかですね。あのときの私は、愛か、憎しみか、さてどっちだったのやら。…あぁ、愛と憎しみはおなじでしたか。逆もまた然りですからね。つまり、どちらも私である、と。
(青の美女)拭いて…だれかに、ぬぐってほしい……。
(藍の美女)……すん。
(黒の美女)ふふ……私ったら、ほんとうに……。
(犬神使)ははっ。皆たくさん悦んでるねぇ。愉悦の泪だぜ、そりゃあ。嬉しいよなぁ。
(七瀬)流す泪があるのは、幸運なことだよ。
(人形使)あぁ、幸運なことだ。今までの一生で流れたのはただの一度きりだ、私は。それはもうぼろぼろと零れたな。掃除をし、命を絶ち、三途へ送るあの綺麗にも叶わぬ綺麗が世にあると知ったとき。人形というヒトガタ、人を作るという神めいた所業をする綺麗でも及ばぬ綺麗なモノ。感に耐えずとは、ああいうときに使うものなのか。邯鄲(かんたん)の夢をも視た気分だ。いかに栄枯盛衰を極めようとも決して顕われぬ、それは実に儚く、人の世にはもう亡いその綺麗。たったその綺麗だけで、私の世は崩れ去った。……ふん、まったくに罪深い美女たちだ。あんな風を見せ付けられると、私の視ていた綺麗などなんとも馬鹿げていようものではないか。人の世にはもう亡い……綺麗な「女」というモノ。

秋山の 黄葉を茂み 惑ひぬる
妹を求めむ 山道知らずも

振袖を追い求め……。ひしひしと茂る鬱陶しい樹木どもを掻き分け、狂ったように貴女がたを捜し求めた。秋……一度、その紅葉の綺麗では到底叶わぬ影を視てしまったことが、人形(ワタシ)の始まりと終わりであったのだろうさ。人として生を受け、人として死んだ刹那だったのですよ。……ふん。
(赤の美女)大丈夫ですよ、あなた様。紅葉が茂ると、たしかに何も視えずあてどない不安にふと迷いそうになりますが、そうして私を美しいと云ってくれる殿方がいるのですから、ね。
(青の美女)山道を知らない? でしたら、この美貌を目印にどうぞ。決して、見失わないでしょう?
(緑の美女)綺麗を追い求めてふらふら、ふらふら、ふらふらふらりの徘徊劇。素敵。
(藍の美女)紅葉の散り際……。
(橙の美女)赤にだいだい、そして黄色。最後に枯色。いつみても綺麗です。それは年老いていっても尚も不変に美しい私の一生のよう。
(黒の美女)美しい私が美しい紅葉を拾う。それを片手に微笑めば……さぞ美しいこと。
(橙の美女)ぐすっ…もみぢで涙を拭いたい。だれか、拾って。ね、だれか。
(魔法使)はぁ…泪ねぇ。うーん。どうしたもんかな、こいつは。女の泪を拭うってのは、つまりそういういい人の特権だと思うんだがね。というわけでさ。ではではお集まりの皆様方。いったい誰がそのいい人になりたいか、挙手を願おうか。
(外道使)ぴしっ、とね。はい、挙手しました。
(狐使)……。私も、はい。
(黄の美女)ふぅ……。暑い暑い。お酒の、ひとつ、飲みたいな。
(七瀬)あれ、おかえりお二人さん。お酒なら其処にあるよ。
(黄の美女)貴方の飲みかけを、くださいな。 ふふっ。
(犬神使)させるか。七瀬の旦那にいいことをさせるわけにはいかねぇ。あぁ、僕も挙手ね。あぁ、黄色美人さん僕のを飲めばいいぜ。
(召使)歌々々々々。おまえの椀に既に酒はないだろうが。何を渡すというのだ? おまえの唾液か?
召使、云いつつゆっくり天井(うえ)に向け手を上げる。
(祈雨使)手を上げて…はい。むむ、いまだにこの歳にもなっていい人が居らぬというも恥ずかしいことですがな。いやはや情けない、情けない。
(人形使)唾とな……唾液……粘気の……それはゆかい愉快……ふふ。うむ、挙手。
(赤の美女)うん?(幼い子のようにゆるりと首を傾げる)これは競売(せり)?
(魔法使)無論、私も手を上げる、と。さぁてさて面白くなってきた。おっと、そういや七瀬クンは? どうするんだい?
(七瀬)え……あぁ。いや、俺は遠慮するよ。ちょっとね。
(青の美女)あらあら、謙虚なのですか。ふふ…そんな。遠慮なんて、なさらずに、いいのですよ?
(外道使)なんですか、これは。あぁ、そうそう。空気を読まないといけませんよ七瀬さん。読まないと後が少々厄介ですよ。というのもですねぇ、私には勿論、そんな面倒な経験があるのでして。空気を読まなかったから、ですよ。なにかって?
(犬神使)興味ないね。
(赤の美女)まぁまぁ。
(狐使)早く。私に、美女を、くれ。
(召使)同意だ。あんな主人とは違った女がほしい。あれは化け物だ。確かに、あの刀で何度も何度も殺したというのに。
(人形使)おい、媚薬ならばありますよ。忘れていた。うっかり、うっかり、だな。
(橙の美女)なんと。それは、卑猥な……。いやらしい、いやらしい。媚びる薬、なんて。……もう。
(外道使)空気を読んで、ちゃんと旅をするべきでしたね。少々、世から離れ過ぎた。世に居過ぎるのもよくないですが、えぇまぁ何事も「過ぎ」はよくないわけですよ、はい。そう、流行り病ですよ。その空気にのぼせてしまった。あぁ、もうお気づきでしょうけれどもこの場合の空気というのは何もその場の雰囲気の意ではなく、文字通りの空気の意、ですよ。
(藍の美女)甘い空気、苦い空気。そしておいしい空気。果物みたいな香いの空気。それがいま。それがむかし。むかしむかしのお人形殺し。あぁ、なんだかこの香いに酔ってしまいました。……ねぇ、みなさま?
藍の美女、ほろ、ほろ、ほろりと泪を流しながら云う。
(魔法使)うん。誰が此処に酒を流し込んだのやら。
(祈雨使)ふ、ふふ……。さて。儂は、その人と、その人と、その人がいい。
(犬神使)欲を張るとろくなことがないぜ?
(七瀬)たとえば死んでしまうとか?
(外道使)えぇ、そうそう。欲を張ると死にますよ。あれもこれも、と云ってる内に私も恋の病にかかりましたから。恋煩いですよ。好きなモノが多過ぎた。それに気付くのが遅過ぎた。おかげで失うのが怖くなった。だが後一週間もすれば文をくれた愛しの君達が集まってしまう。そうすれば何も彼も失う。それは厭だ。それは恐いことです。こわいこわい。ならどうしたかって? そりゃあいたって単純明快、お茶の子さいさいというものですよ。逃げたに決まっているじゃないですか。七日。七日過ぎれば私は失う。私を失う。全てなくなる。そんなものは御免です。七十五の美。それらをおしなべて失ってしまっても、零である私まで消えては意味がない。
(緑の美女)桜を、視ましょうか。
(黄の美女)梅を、視てみます。
(召使)……いや、湖だな。湖を視たい。波の流れは亡い。風が亡ければ水面は揺れぬ。在るのは静寂の音。虚空の音。じつにしずかな音。つまり死の音色だ。んゝゝゝゝ、なんと心地がよいものか。不死鳥じみたあの女からはまるで死の香いがしない。命の香いは在る。だが死が亡い。なんだ、アレは。いきものか、いやちがう。あれはおそらく物の気だ。『物』だ。それのなれの果てだ。あの館がいい証ではないか。世の理を無視して蔑ろにしたあの館。館に在るいきものは不死。どれもこれもだ。将又、常識に追放されている。水の逆流する水車の塔。斬っても斬っても幻を斬るかのようにまるで当たらぬ、ただ坐している夕べの長屋。イキモノケモノもおなじだ。斬っているのに死なず、その面妖な形相をいつまでも此方(こなた)に向ける。だまし絵に騙されたかのようだ。あの館で生きているモノは私だけ。死んでいるモノも私だけ。他のモノは偽の真理に従っている。怪々々々々、あれは気が狂う。狂ってしまう。うむ。云ってしまえば私が此の十一を冠する谷へ来たのは静養、のためだ。安息の地を求めてきたのだ。静養、安息の地、と云っても何も死を求めてきたわけではない。ただ……ふむ。要は、目の保養だ。ちゃんとした真理を、視たかったのだ。生きているモノや、死んでいるモノを視たかったのだ。動く死体でも生きた屍でもなくてな。
(青の美女)椛がいい。もみぢが視たい。
(赤の美女)桃を、視て。
(犬神使)ぐわああぁぁぁ、ぁ、ぁ、あ、あはははははっ! ははっ、死んでしまえ! どいつもこいつも!! なんだ、誰が悪い!? 僕か。君か。いや、全てか? あぁ、ぜんぶぜんぶ何も彼も喰い殺せ妬きコロセ! 知るもんか。構うもんか。まったくじつに馬鹿馬鹿しい。なんでこの僕が此処にいる。いや、そんなの簡単さ。その答は簡単さ。「好奇心につられて」に決まっているだろう!! そんな君らみたいな大層な理由があるか。どうせ死ぬつもりも生きるつもりもなかったんだよ! ……ふぅ。唯、ね。はぁ、なんだろうなぁ。なんでだろうか。泪が出てきたぜ。なぁなぁ肌の赫い少女さん方。こりゃすっかりあてられてたな。なぁ、ほら。誰か僕の泪を拭ってくれないか? 頼むよ。犬が舌で舐めてくれるみたいにさ。
(人形使)どうだ、こんな人形もあるぞ。活人形といってな、これがまた荒々しくも猛々しく、且つ美麗で繊細な、最も人に近い形であってな……。
(狐使)うっ。(ばくばくと筍を口に放り込む)喉に、つっかえた。ごほっ、ごほっ……。すこし、うん、水が、欲しい。
(外道使)袖と袖とを振り合った女性のうちのお一人が、私のことをこのように喩えていました。「あなたはさくら。美しく、そして大きな大きな枝垂桜。とても奇麗なのに、あの枝葉のようにしゅん、としょげていて何時もしょんぼりなさっている。だからきっと、あなたは女(わたし)達を引き寄せるのです。あなたの事を支えてあげなくては、と。枝垂桜もまた、ほかの草木花樹とちがって、ひとりでは太陽に伸びることすら出来ない存在。ずっと頭を垂れるだけの存在。それがあなた。あなたは誰かが支えてあげないと、その頭を地面に臥してしまう……」っふふふ。皮肉なものですねぇ、まったく。彼女の云うところでは、私は女性の皆々様に囲まれていなければ死んでしまう。なのに、私はその女性の皆々様に囲まれようとしているせいで死んでしまう。欲海に溺れて死んでしまうのです。どういうことだか解りますか? つまりですよ。愛情と憎悪はおなじ。私に一度に七十五の"愛"が押し寄せてくる。それほどの愛が萃まってしまえば……何事も過ぎてはならない、ということです。私の七十五は全て"憎"となる。器が、小さいのでしょうねぇ。七十五を愛しているくせに、それら全てを同時に受け入れられるほどの器が、私にはない。あぁ、惨めな気分です。
(祈雨使)いまじゃ、今こそ雨ふらしの刻。祈雨使と名乗りながらも一度も雨を降らせたことのないこの身ではあるが、ふ、ふ、今日は、やれそうじゃ。私は既に老いている身じゃからか、弟子の若いのは「雨乞いなど無駄。あんたのは徒労」などと儂を小ばかにする。いやはや最近の若いのときたら。祈り信仰の良さが分からぬとは、哀れなものですな。世も末とはよく云うもので。
(七瀬)ははは。いつぞやにサイも同じようなことを言っていたよ。信じてしまえばなんでもできるとか云々。俺はまぁ…その辺りは肯定も否定もしないかな。こんなこと言うとちょっと、卑怯だけどね。
(橙の美女)卑怯なのはそんなことを云ってもぴくりとも変わらぬあなたの御顔。えがお笑顔。いえ…もしかすると、本当は笑ってなんていない? ひとは仮面を被るのがお上手ですからね。ふふ……あぁ、そうだ。分らないときには眼を、視ればよいのですよね。貌で笑っていても、眼は笑わぬとか何とか。よし、あなたの御顔を拝見致します。ほら、よくみせて。(振袖をたたみに這わせ、ずず、と七瀬に寄る。雛芥子の香いをさせつつ)
(犬神使)はん。いやぁ、女に好かれる男はいいね。ま、男を好く女も莫迦ということか。まったく、こんなすぐ側に最高の見てくれをした男がいるというのにね。それに気がつかないとは、あまごいさんの言を借りて世も末だな。厭になる。仕方ねぇ、自棄酒だ! おい、そこの美女の皆さん酌を頼む。いや、違う。何もこれは頼んでいるわけじゃあない。そうだな、酌をしろ。……うん、これが的を射た云い方だ。しっくりくる。
(外道使)ふぅ。すこし多弁になりすぎた。後はもう語らず。聞き手の皆様にその後はお任せしましょう。さて、もしよろしければ私にも酌を。と、酌といっても酒じゃなくても構いませんがね。喋り過ぎで渇き切った唇にはどんな飲み物でもうまい。
(人形使)私にも頼む。酒を入れておかねば、良い人形は作れん。モノは何も考えずに作る方がいいのだ。
(魔法使)ふうむ。よし、便乗しようかな。盃は何処だ。おっと、手に持っていたか。あれ? 私はいつ注いだんだ? なんか水が浮いているよ。なんだこりゃ。変だねぇ。不思議だねぇ。ほんとう、不思議な話だ。自分のしたことを忘れるなんてさ。ま、よくあることさ。こう、気の向くままに今を生きているからね。ぶらりぶらり、時にはふらふら、ふらり。そんな心もちでいると、不意に自分が何をしているのか分らなくなるのさ。式神にでもなったような、でもやっぱり自分の心自身で動く式神。不思議だねぇ。ほんとう、不思議な話だ。さぁて、君達は此の僕の奇妙な話……どう受け止めるかな? うん、酒を飲もうか。
(狐使)ごほっ……う、喉から、筍が、取れない。さ、酒じゃなくても、水……。
(祈雨使)酒を雨で降らせれば良いのですがな。私にも、一杯。
(召使)頂こうか。
(黒の美女)もう。殿方の皆様と来たら。
(紫の美女)それほどに酔いたい、なんて……。いやらしい。
(藍の美女)何をなさろうとしているのでしょうね。ふふっ。
(青の美女)お酒とは聖水。聖水なんて何処に……あ、私にもあった。殿方の皆様にも。うふふ。なみだですか? あせですか? それとも?
(緑の美女)きゃあ、こわいこわい。十二単でも、持ってこさせようかしら。
(黄の美女)あぁ、なんだか暑くなってきました。ふふ、戸がひとりでに開いてくれたらいいのに。だって皆様、かなしばりにあってますもの、ね。私の美しさに……。
(橙の美女)戸の四景もざわざわ、ざわざわ。桜が散っている。桃が落ちている。椛が舞っている。梅が香ってる。私は、どうしてるのですかねぇ。
(赤の美女)……あれ? ひとり、まだ私を視ていない殿方がいる? ねぇ、七瀬さん?
(七瀬)うん?
(外道使)あら、七瀬さん。確かに貴方は愛を語っておりませんね。男たるもの、美しい花は愛でるものですよ。
(犬神使)何!七瀬君のメはきっと節穴なんだな。女が視えないとは。そんなんで人生楽しいのか?
(狐使)卑怯……。どの美女も、視ていないと云いつつ、ほんとうは、どの美女をも視ているから、そんなことを、云う……。
(魔法使)恋は魔法(マジック)さ。
(祈雨使)七瀬氏は若いようだが、若いなら愛は天まで叫ぶべきだ。
(人形使)ふん、喰らえ。(ぶぅん、と徳利を投げる。七瀬のすぐ脇の畳に落ち、砕ける。)ちぃっ、外した。
(召使)ひゝゝゝゝ。奇々々々々。怪々々々々。
美女たち、長き裾を翻しつつ、ふわりと立つ。
桜色の景色を背に赤と橙の美女。その透き過ぎた白い肌より桜の香が立ち昇る。
颯、と七瀬の前に流れるように坐り、
(赤の美女)ふふふふふ。
(橙の美女)ほぅら、御酒(みき)を。どれ、酔わせて差し上げる。
(犬神使)くく、人生楽しみ過ぎたな。だからこうなったんだろうなぁ。女が僕から離れていってさ。あーあ。
外道使が徳利片手に膝を立たす。そのまま、畳の上を這いずり桜の画の前にて腰を下ろす。ふぅ、と溜息が漏れる。
(外道使)どっこらせ、と。さてと、桜でも眺めますか。お酒も美味しいですからね。ん……ほっ。おお、喉を心地よく流れていく。うん、うまい。
(七瀬)えと。あまり、側に寄られるとなんだかむずかゆいな。できれば、離れてもらえると嬉しいかな、って。
口より紡がれる言葉を受け、黄と緑と青の美女たち、すかさず七瀬彰の背後に回る。
衣擦れの調べと共に流麗たる三つの動き。空気は冷やり。七瀬彰はぶるりと身を震わせる。
(七瀬)うわ。
(黄の美女)あれ、かわいい。
(緑の美女)あれ、おもしろい。
(青の美女)あれ、いやらしい、厭らしい。
(祈雨使)ほれ、七瀬殿。酒だ。貴方も飲んでみなされ。一度口にするも一興、ですな。
(人形使)さて、私の三つ人形も片付けるか。これはだいじなものだからな。視れただけ、幸運と思え。いや、悪運かもか。……ふん。
(七瀬)参ったね、これは。俺はどうしようか。
(魔法使)どうしたもこうしたも。やるべきことなんて決まってるさ。迷うなら、うん。顔を視ればいい。ほら。
きん、と耀く手鏡を出し、それを七瀬彰に魔法使は向ける。
鏡には、桃の実が映っている。
(狐使)あ、竹管が。また、私の、眼が。ぐぅ……、痛っ。流石に、やっぱり、出てしまった。
七瀬は眼をしかめつつ、酒をくい、と一口含む。酒は蛇のようにうねる。
澱んでいる。透いている。美女の、宝石めいた眼のような。
ごくり、と喉に嚥下する。
(七瀬)……。ふぅ。
(藍の美女)殿方らしき、よい、飲みですこと。貴方様の目は熱い。その瞳がいい。
りん。美女の衣裳の鈴に誘われ、藍色と背中合わせにあった椛の風景より一枚、葉が畳に散る。
七瀬彰が酒をからだに流しふと気付いてみると、膝には射干玉の絹の糸。細い、川の流れめいた黒髪。
膝にはあたま。とろん、と。花の蜜のような藍色の眼と、七瀬彰の双眸とが逅(あ)う。
つい、と七瀬の唇に砂糖を孕んだ雪の結晶が触れる。その人差し指は紫の美女より。
(紫の美女)あぁ、そうだ。ほぅら、これ。ね。
(召使)詠むか。
召使の背には、梅の画を視る。
(紫の美女)詠んでみましょうよ。ね。
紫の美女は七瀬の前に立っている。すらりと立っている。
肢体。なで肩。胸。
背後より、黒の影がもう一人。
暗夜の気配。

  ヒ、 ヒヒ、
                                ――――ヒ。

(黒の美女)歌を、詠んでくださいな。和の歌を、詠んでくださいな。ね。よい考えでしょう?
美女は、死の香い(におい)を引き連れて。
(七瀬)……和歌?
三日月形の口を、

∽∞∽

時移り。
「彰さんは、じつに馬鹿ですね」
「おまえはじつに馬鹿だな」
「止してくれ。それはちょっと、ひどいと思う」

∽∞∽

時戻り。

(七瀬)……うん、すまない。
分からないけど何でだか。俺は誰も愛せないんだ。


  ヒ、 ヒヒ、
                                ――――ヒ。


空 気 を 読 め 。


(一同)
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編集も何もせず、今まで溜めてたの一気に放出しました。
読みにくいわ! と思われるかもしれませぬが、どうせ一旦完結した後に修正作業が入るわけでして。
で、修正作業を終えた完全版の方をどこぞにうpするので、どうせならそれを読んで貰った方がよいかなーと思ったのでこうなったのであります。

しかし…やっとこの魔の会話を抜けたぜぃ!YAHOO!!!!!!!!!!!!


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最終更新:2010年11月21日 18:08