篳篥


夕闇、虚空に驚嘆する。


辛巳の刻は、昼夜の輓近なる境に経過する事、鞏固たる意識の上階に存す。


城外、儚くも淡き、且つ瀟洒な残滓が由緒に去る事、人心の蠱惑を払うには満槽満ちれる価程に美し。


展望、斯く為るが炯々の色彩に在り、さりとて嬋娟と渾名するに與はず。


月景嫋嫋たる事僅かに過剰ぬ、尾の引くが如し。


一人の壮年、其の夕闇に篳篥を持ち、屋外にてその情を綢繆恋恋の旋律に暗喩せり。


長身白皙の紳士、と言ふ理想よりは遠隔の範疇に存ず。豈に倉廩実ちて礼節を知らんや。


その顔、立派なる両髭より何所か矻矻とした益有り。齢持ってして還暦の輪廻を舛馳したと捉ふる。


壮年、思い立ったが、善悪を二つながら呑噬して憚らず、道徳の標準彝倫は国民の常智常識なり、なりの徳育を趣味として止まず。


同時にして、篳篥の心得、邯鄲の夢の程度に紐解きを行ふ。


故に、篥の腕得てして凡愚より姚冶の面子に基づいて其れが兀然と抜本している能はず。


しかし、その熱、長閑なる凡人の心内に、宝匣なる溝洫に染み入る事断言の限りを尽くしようとも、その鹿渡決して超える事無し。


何ぞ凡人の欺く濫竽充数の所業、壮年が言動に示さんや。


鵙が、枯れ枝で譖毀する無しに喧しい声を張る。


しかし持ってして、小人の交わりは甘きこと醴の如し、故に枳棘は鸞鳥の棲む所に非ず。


今宵も、壮年の紡ぐ旋律が、門前の堰蹇たる松と戛然と響き合う…



俺の部屋の頭の文章をちゃんと修正いれてみた。

こんな硬い文章、続ける気ねぇから短編で勘弁。



鳥達の宴


 ――――パァン


「やったか、『鷹』」
「当然です」
 東京都心、午前1時15分前。
 大手町の駅前にて、上島外相、暗殺。


「なら、戻るか」
「ええ」
 彼の胸を貫いた銃弾の発砲者は、静かに現場から退避を始める。
 その肩には、大型狙撃銃。


 それが彼らの仕事。
 ――――狙撃手(スナイパー)






「これで10件目ね」
『鴎』は、掛けていた眼鏡を外すと、事後処理の書類を机の上に放り投げる。
 それに反応したかのように、既に点滅している蛍光灯が一段と暗くなり、また瞬時に明るくなる。


「それは、今月に入ってってことか?」
『鷹』と共に外相暗殺の現場に向かった『鷲』は、自分の狙撃銃の点検をしていた。
 キュッキュッと布で磨かれる音が、部屋に流れる音質の悪いジャズに紛れて部屋に響く。


「いや、今まで殺した歴代閣僚の数よ。外相は初めてだったかしら?」
『鷲』の問いに『鴎』がにやりと笑う。
 そこに、奥に繋がっている部屋から『鷹』が姿を現した。


「いいえ。大右前首相時の外相、瀬音氏を『鷲』が射殺しましたよ」
「あら、そうだったかしら」
 机の上に無造作に積まれた書類から、『鴎』が一部を取り出す。
 その上に載っていた書類が音を立てて崩れたが、『鴎』は気にした様子もない。


 そして、取り出した書類に目を通すと、口に手を当てた。
「あら、本当ね。記憶に無かったわ」
 そこには50代後半と見られる男性の顔写真と履歴が記されており、上から赤マジックで大きく×の印が書かれている。


「おい『鷹』。もう銃の調整は終わったのか?」
 銃から目線は上げず、『鷲』は問うた。
 『鷹』は、肩から提げた狙撃銃を見せることで肯定の意を示す。



「少し弾丸の発注をしてましてね。9mmパラ弾が底を尽きてましたよ」
 そう言って、『鴎』を非難がましい目で見る。
 『鴎』は掌を上に向けて、そのまま持ち上げて見せた。


「そうねぇ。あたしってそういう事にルーズだからね」
「おいおい、しっかりしてくれ。管理一切はお前の仕事だ」
「あらぁ~、一応仕事はしてるのよ?」


 バサリ、と書類の置かれる音。
 そこには、先程と同じように顔写真と履歴。
 しかし、そこには赤色の印は無い。



「またですか。今月はこれで8件目ですよ」
 『鷹』が、少し呆れたようにその書類を手に取った。
 そこに写されている顔は、ごく一般的な男。スーツにネクタイを締め、こちらを動かずに睨みつけている。
 だが、ベテランの狙撃手三人は、それがすぐに熟練の同族であることを悟る。


「名前は柳岡俊住。歴7年のスナイパーよ。コードネームは『雀』」
「雀の顔じゃねぇだろ」
「計算上、最も手ごわい相手。だけれども、それ相応の報酬よ」
 キャップをつけた赤いマジックの先で、柳岡の顔面をこつこつと叩く。


「場所は何処だ?」
「帝国ホテル502号室。油断してるわね。部屋に窓があるわ」
 机の元に戻り、またがさがさと書類を探し始める『鴎』。
 既にその机の上は整然とはかけ離れた状態。


「期限は?」
 『鷹』は、持っていた書類を『鴎』に返した。
 代わりに受け取ったのは、帝国ホテルのパンフレット。
 開いてみれば、そこには502号室の写真が大きく貼り付けられている。


「昨日仕事したばかりで悪いわね。今日一杯なの」
 時計の短針は、すでに9の数字を回っている。
 残された時間は、2時間余り。


「現場が狙える場所まで歩いて行ける事を考慮に入れても、なかなか厳しいですね」
 『鷹』の目が若干細められる。
「何とか出来るかしら? 一応キャンセルは出来るんだけど」
 『鴎』が指し示した書類の欄には、22時までキャンセル可と書かれている。
 キャンセルするかしないかの判断も、残り1時間を切っていた。


「報酬額にもよるだろ。結局いくらだ?」
 ガチリ、と『鷲』の手元で音が鳴る。
 それは狙撃銃のパーツがすべて組み合わさった印でもある。
 ソファから立ち上がり、『鷹』と同じように狙撃銃を肩に掛けた。


「驚かないでね。千を超えるわ」
 二人の男は、その言葉に思わず目を丸くする。
「依頼主は香港マフィアの主でね。任務が達成できたら懇意にしてくれるそうよ」
 『鴎』は、絶句する二人に駄目押しとばかりに、片目をつぶりながら言葉を続ける。


 二人は、すぐに動いた。
「行ってきます。書類を」
「やるしかないだろう」






「違和感を感じませんか?」
 現場から1km離れた廃墟ビルに潜んで間もなく、唐突に『鷹』が口を開いた。
 その目は既に標準スコープに当てられ、目標が居る部屋の窓をロックオンしている。


「違和感?」
 周囲の警戒を行っていた『鷲』が、すぐにその話題を拾う。
 まるで、答を濁させなくするかように。


「いえ、香港マフィア程の者が捕まえることが出来ない人間が、何故あんなにも浅慮な場所にいるのか」
「……ああ、そうだな」
 元々薄々感づいていたことだったが、お互いに確認しあうと、言い知れぬ不安が浮かび上がる。


「『鴎』から書類を見せて貰った時に、私達三人は全員彼がスナイパーだと勘付きました」
 7年の経験は、三人の中で上回る者が居ない。
 それが不安に拍車をかける。


「相当の実力者と踏んで問題無いです。周囲の警戒を怠らぬよう」
 そう言うと、『鷹』は意識を視線の一点に集中させた。
 ああ、という『鷲』の返事にも、返答しない。
 改めて『鷲』が周囲に注意を払った時だった。


「まずいですね」
 掠れるような声で、『鷹』が狙撃銃を構えたまま唸る。
 どうしたのか、と『鷲』が聞こうとした時、『鷹』の額に脂汗が浮かんでいるを見た。
 冷静な『鷹』が、ここまで焦るのは珍しい。初めてといっても過言ではない。
 本格的に深刻な状況が起きた、と直感的に悟る。


「どうしたんだ、おい」
 一度は飲み込んだ言葉を、今度は自分を落ち着けるようにゆっくりと発音しながら口にする。
 しかし、
「目標が携帯電話で連絡を取っています。スナイパーの仲間と連絡を取っているようなら、まずいです」
 『鷹』の言葉を聞いて、やはり呆然とせざるを得なくなる。


「一度引きましょう。囲まれたら危険です」
 そして、『鷹』が狙撃銃の構えを解いた時。


 ――――パァン、パァン




 Finito…



スナイパーの話、前から書きたかったんだZE。

戦闘系なら、狙撃手が一番好きだ。



告白



『卒業式に白いバラを渡すと、恋が叶う』

 私の学校でそんな噂が流れだしたのは、果たしていつの頃だったのだろうか。
 気が付いたら、流行に敏感な女の子が教室でそんな事を言っていた。

 私は、それを聞いた時は特別な感情を抱かなかった。
 恋愛なんて、私には似合わないとずっと思っていたから。
 それに、そんな物をしなくても、この社会を生き抜いていけると思っていた。

 それでも、私は青春の只中にいる女子高生。
 いつしか、その噂が脳裏に離れなくなってしまった。
 ある男の子の顔と共に。

 ――――時は、最後の高校生活の日。






 時刻は分からない。でも、夕焼けが辺りを優しく焦がしているから、今は夕方だと思う。
 卒業式は午前中に終わったから、もう他の子は帰っているだろう。

(はぁ……)
 かくいう私はというと、かなりがっかりした気持ちで教室に戻っていた。

 今日は、高校の卒業式であり、高校生活最後の日。決まった大学が違う彼とは最後の学校生活だった。
 私は、校内に流れる噂にのっとって彼に告白しようと決めていた。勿論、その為に一本の白いバラも用意していた。

 だけど、今日の彼には、何故かいつもにも増して人が寄って話をしていた。
 どさくさに紛れて後で会う約束をすれば良かったのかもしれないけど、私は自他共に認める引っ込み思案の持ち主だ。その集団に入り込む勇気は持ち合わせていない。

 結局、私は告白するタイミングを逃してしまっていた。
(なんでこんな性格になっちゃったんだろう……)
 自分の勇気の無さが、情けない。

 でも、偶然は起きるもの。
 凹んだ私が一人で教室に戻った時、私は驚きで目を見張った。

 彼が、窓際で空を見つめていた。
 教室は、淡いオレンジ色。

(……ッ!)
 いつからだろう。その顔を見るだけでこんなにも胸が苦しむようになったのは。
 その温和そうな顔。決してカッコいいとは言えないけれど、見る人を安心させてくれる笑み。

 彼は、教室の中ではそんなに目立たない方だった。
 自分から進んで話をするようなタイプじゃないし、さっきも言ったように顔もそこまで良いという訳じゃない。勉強は確かにそこそこ出来ていたけど、でもそれだけ。

 でも、それでも彼の周りにはいつも数人人がいた。
 話を聞く、というだけなら、クラスの中で一番上手かった。
 一緒にいるだけで、心が暖かくなる。それが、彼という人だった。

 そんな彼が、理由は分からないけれど、教室の中で一人でいた。
 胸の前で優しく握っていたその花を、私は咄嗟に背中の後ろに隠した。

 それでも、気持ちは前に向かっていた。
「あ、あのっ!」
 気が付いたら、勝手に声が出ていた。

 赤く染まった雲をぼうっと見ていた彼が、怪訝そうな顔を向けた。
 それだけで、一瞬で頭の中が真っ白になる。

「あれ? どうしたんだい、こんな時に」
 それでも、彼の声は本当に穏やかだった。
 いつもなら、それで心が落ち着くのに、今に限ってはそれは心に付いた火を強くする。

「え、えっと…」
 前前から考えていた台詞が、どうしても思いつかない。

 そんな私を見て、彼がくすりと優しく微笑んだ。
「まあ落ち着いて。こっちにきなよ」
 そう言われて、初めて自分がまだ教室の入り口にいる事に気付く。
 耳が熱くなるのを実感したまま、私は彼の目の前まで寄った。

「で、話があるんだろう?」
 にこにこした顔で見つめられて、どんどん鼓動が速くなっていくのを感じる。
「あ、あの、えっと…」

 ふと、一番付き合いの長い友達に、告白する事についての相談の時の会話を思い出した。
『あんたはホントに引っ込み思案だからねぇ…。でも、いざっていう時の勇気には、あたしも脱帽するよ』

 今ってその『いざ』に入るんだろうか。
 『いざ』を前もって国語辞典で調べておけばよかったかな…

「君はさ…」
 そんな時、彼が口を開いた。
「どうして、こんな時間までここに残ってたんだい?」

「…え?」
 私は、その質問の目的が分からない。彼が何を言いたいのかが、分からない。
 彼は、柔らかい笑顔を崩さないまま、さらに話を続けた。

「いや、だからさ。普通ならもう学校に残っていない時間じゃないか。なのに、君は残ってた。それは、何かいざっていう話があったからじゃないのかい?」

(……!)
 一瞬、心を読まれたんじゃないかと疑った。
 でも、それは彼の純粋な瞳を見てれば、徐々に薄まって行った。

 代わりに私の心に出てきたのは、確信。
(ああ、そうだ。これってやっぱり『いざ』なんだ…)
 そう思うと、自然に覚悟が出来てきた。
 後で、友達にはお礼を言わなくちゃいけない。

「あ、あのっ!」
 また心に戸惑いが生まれないうちに、私は彼に向って一本のバラを差し出した。

「わ…私、貴方の事が好きですっ!」





 Finito…




このネタは、この短編集でやるものじゃなかったな。
後半無理矢理感が…

なぜかネタ帳に入っていないものなんだけど、そこはスルーで。




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最終更新:2011年03月15日 20:01