Red Snow Mystery Page 2
今回は皆堅実に展開してるな。
とかいうとすぐに超展開が起きるんだろうけど…
「わたしは狭霧カヤ。よろしくぅ!」
「……フラミリア・D・ツェペシュ」
リュウらと合流した二人が、それぞれ自己紹介をした。
「夜智冬瑠、と申す」
「俺はリュウサトウだ」
二人も、彼女らに習って名前を名乗った。
「まあ、立ち話もなんだ。そこら辺の座席にでも座ろう」
リュウの提案で、近くの座席に着席する四人。
「さて、二人はいかにしてこの場に?」
着席するや否や、そう切り出したのは冬瑠だった。
「私達かや? 多分君達と同じだよぅ」
「というと、例の小説を?」
「うん!」
そう言って胸元に一冊の本を掲げるカヤ。
その装丁は立派な牛革で綺麗に仕立て上げられており、本自体から手に取りがたい荘厳なオーラが放たれている。
表紙の上方に、金字で縫いつけられた「赤雪物語」という文字。
「これを読んで気になったんだ!」
まるで大切な宝物を自慢する子供のように、カヤは二人に笑顔を見せた。
リュウは、ふぅとため息をついた。
「まあ、当然か」
「他に妥当な理由は見当たらないからな」
「それで、どうして劇場にいたんだ?」
リュウが、次なる質問をカヤに投げかける。
「う~…説明すると長いんだけど、それでもいいかや?」
「構わん」
そう言うと、冬瑠は腕を組んで目を瞑った。カヤの話を聞く体勢に入った、ということだろう。
リュウも、膝に肘を置いて頬杖をついた。
「そうだね~…」
カヤは、頬に指を当てて小さく上を見ながら語り出した話は、以下のとおりである。
カヤは元々、彼女の隣にちょこんと座っているフラミリアと一緒に赤雪に来た訳では無く、もう一人違う連れと共にきたのだという。
この場所に訪れた理由は、前述の通り小説の後書きを一読したからだ。
しかし、例の山道を徒歩で歩いた彼女の連れは体力を消耗してしまい、カヤが肩を担いで赤雪の旅館に入り、その場にあったソファで連れを寝かせたのだそうだ。
冬瑠とリュウが顔を見合わせたのは言うまでもない。
連れを寝かせたソファは、他でも無くロビーに忽然と置かれ、リュウ達が目にした違和感だらけのそれそのものだからだ。
そして、カヤは眠る連れの傍にしばらくついていたが、やがて彼女の興味は連れの容体から赤雪の旅館へと移って行った。
聞いている二人もそれは体験済みだ。そうなってくる理由は、感覚的にカヤと共有できた。
なんとはなしに目の前に伸びていた道を進む事を決めた彼女が、最終的に着いた場所が…
「劇場、と?」
「うん。わたし、方角を知らなくて、適当に歩いてたんだよぅ」
冬瑠達は、見た目とは裏腹になかなか用意が良かった又津が持っていた方位磁針によって方角を認識したが、彼女はそういう類の物を所持していないのだろう。
彼女は劇場にたどり着いたのは、まさに偶然が生み出した状況だ。
「しかし、フラミリアとはいつ?」
座席にちょこんと座ったまま人形のように動かなかったフラミリアが、自分の名を呼ばれてピクリと眉を動かした。
「フラちゃんとは――――」
「馴れ馴れしく呼ばないで」
話を始めようとした所を過度な毒舌で止められ、その場に項垂れるカヤ。
「随分と手厳しいな…」
呆れたように首を振る冬瑠の気持ちは、さぞかし唖然としたものだっただろう。フラミリアはかなり冷徹な性格である事は、この一連の応酬で簡単に予測する事が出来た。
「まあ、そんなことよりも、フラミリアはどうしてここに?」
しかし、リュウはカヤの様子には目もくれずに、質問の対象をあっさりと切り替えた。
一見熱血漢かと思えば、意外とドライな一面も持っていることは、一目瞭然だ。
「…知らない人に連れてこられた」
「知らない人?」
「そう」
そう言ってぷいとそっぽを向く。それを見て、リュウが一つの疑問を抱いた。
「なあ? なんでその年でそんな子供っぽい態度とるんだ?」
「!」
「?」
リュウの発言に、フラミリアが顔をばっとリュウに向けた。冬瑠はといえば、フラミリアとは違いリュウの発言に疑問符を浮かべている。
「何を言ってるんだ、リュウは…。どこからどう見たとしても子供ではないか」
「あたしは…とっくに成人してる…」
「なにっ!?」
「ええっ!?」
フラミリアの発言に、今度は冬瑠と、今までずっと打ちひしがれていたカヤでさえ、奇抜な声を上げてフラミリアを凝視した。
「何をそんなに驚いているんだ?」
リュウは、フラミリアが自分の年を尋常ではない程に上回っている事を 既に知っていた為、二人の反応に逆に疑問を抱いていた。
しかし、誰よりも驚いていたのは、当の本人であるフラミリアだった。
「なんで分かったの?」
「いや、見た目で分かるだろ」
さらに、驚愕で見開かれていくフラミリアの目。
「…あたしの年をちゃんと分かったのは、あんたが初めて…」
「そうか? まあ、そんなもんなのか」
「…あんた、名前は?」
「さっき言っただろ。俺はリュウサトウだ」
「リュウ…リュウ…」
フラミリアは、少しばかり俯いてリュウの名前をぼそぼそと呟き始めた。
当然、リュウはそれに不安を感じざるを得ない。
「おい、おい」
軽くフラミリアの肩をつつくと、
「ねぇ、『リュウお兄ちゃん』って呼んでいい?」
顔の角度は俯かせたまま、上目遣いでリュウの様子を見ながら、フラミリアはそんな事を提案した。
「まあ、俺の呼び名なんて適当でいいよ」
断る理由も見つける事が出来なかったのでリュウがそう言うと、
「わぁ、ありがとう! リュウお兄ちゃん!」
果たして、先程までの不貞腐れた顔をした彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
あどけない顔に似合った純粋な笑顔を満面に浮かべながら、フラミリアはリュウに抱きついた。
「ええっ!? なんで!?」
「リュウの奴…羨ましすぎる…」
突然抱きつかれて慌てふためくリュウを、カヤは驚愕に満ちた目で、冬瑠は羨望に嫉妬を含んだ目で、それぞれ見つめていた。
「で、わたしにはさらに目的があるんだけど…」
二人から四人になったこのグループは、一度重影らと合流するためにロビーへ向かった。
しかし、重影と又津はその場にはおらず、カヤが急に三階へ行きたいと言い出したので、急遽三回の探索へ赴く事になった。
「さらなる目的?」
「そう! ねぇ、三階には何があるか、知ってるよね?」
リュウが、ウエストポーチの懐から赤雪の小説を取り出した。
「確か…おっと、あった。食堂とプレイルームがあるな」
「うん! で、食堂でなにかを思い出さないかや?」
「?」
元気よく先頭を歩くカヤの後ろで、リュウと冬瑠は顔を見合わせた。
因みに、フラミリアはリュウに肩車をされている。一度冬瑠が笑顔で話しかけたが、その途端ぷいとそっぽを向いたものだから、それ以降彼女は少しだけ落ち込んでいる。
「フラミリア。お前は分かるのか?」
「んー…わかんない」
「生憎、こういう状態だ」
リュウは、カヤに向かって肩をすくめて見せた。
「むぅ…まあ、仕方ないかなぁ。じゃあさ、ここの食堂の特徴って分かるかや?」
今度は、冬瑠が即答した。
「食堂の壁が、全面窓で構成されている事だろう? 小説の中でも、強盗殺人犯はその巨大な窓から屋敷内へ侵入した事が記述されていたな」
「そう!」
自分の問いに正しい答えが返ってきたのがさぞかし嬉しかったのだろう。カヤはさらに明るい笑顔を三人に向けた。
「わたし、その窓から見える景色がずっと気になってたのよぅ!」
「景色…」
リュウと冬瑠は、尋常では無く楽しみにしているカヤに水を差したくなかったが為に言わなかったが、赤雪旅館は森の中にぽつんと建てられた建物だ。いくら頑張っても木ばかりしか見えないだろう。
小説内に記述が無かったから、なんとも言えないのだが。
やがて、荘厳な扉の前に四人はたどり着いた。扉横のプレートには、『食堂』と書かれている。
「じゃあ、開けるよ!」
カヤが元気な掛け声と共に扉を開け、最初に上がったのは…
「寒っ!!」
「冷たいっ!!」
リュウと冬瑠の叫びだった。
カヤとフラミリアと言えば、その余りにも予想と外れた食堂の光景に、目を見開かざるを得なかった。リュウと冬瑠も、その叫びから立ち直った途端に二人と同じ境遇に立たされた。
食堂の壁は、確かに壁が一面の窓だった。
ただし、すべて割れていたが。
窓の近くには、無造作に投げ捨てられた一本のハンマー。
「誰かが……割った……?」
呆然と開かれた口から発せられたフラミリアの言葉が、状況の全てを堂々に語っていた。
そして、リュウと冬瑠が寒いといった理由。
「嵐だと…」
いつの間にか来ていた嵐が起こした雨が、割れた窓から入り込んで来ていたのが理由だ。
それも、およそ嵐という額縁に収まる範囲では無い。割れた窓の奥に見えるだけで、風によって折れた木々の枝が舞いあがり、それが新たな枝を舞い上がらせる。
地面に当たっては、至る所で地滑りが起きていた。
到底帰ることが出来る状況では無かった。
そう、これが。この状況こそが。
「……クローズド・サークル……」
最後の旅人が屋敷に入ったのをまるで見計らったかの様に、太陽はどす黒い雲に覆われ、たちまちの内にとてつもない嵐に旅館が巻き込まれた。
木々の枝は宙に舞い、地滑りは至る所で生じ、旅人達が歩んできた道は土にまみれて、とうとう消え去った。
そして、それこそが、この旅館で起きる不吉で不可解な事件の幕開けとなったのは、一部の鋭い旅人にはもう既に分かっていた。
(赤雪物語『序章』より)
さて、状況設定は整った。
君達、超展開の時間だよ(何
「……あーあ、『やっぱり』帰れなくなっちゃったか」
二階の図書室を歩く少年――理志がそう呟く。
いつの間にか、彼は眼鏡を外していた。
「……事件の起こるところに人が集まったか、人が集まったから事件が起きるのか。……はは、面白い。実に、面白いじゃないか」
郷流が今の彼を見たら精神科を薦めるか、もしくは良く似た別人だと思うだろう。それほど普段の彼とは違っていた。
「本当に、面白い……そう思わないか?そこの人」
そう、彼が本棚の方へ問う。
「…………」
「死んだ振りでもしてるのか?生憎と、俺は熊じゃないんでね、はは、バレバレだよ、君」
そう彼が言うと、本棚の影から一人の少年が姿を現した。
「……いつから、気づいてた?」
「そうだなぁ……入口の前に立ったあたり、かな?」
ふざけてるのか。いや、本当にそうなのか。
今の彼ほど、『つかみどころがない』という言葉が似合う人物はいないだろう。
「なんなら、君が何故こんな所にいるかも当ててみようか……そう、ここにはある人と二人で来る筈だった。―――そう、女だ」
ぴく、と、少年が反応する。
「でも、そこにもう一人―――知り合いが、来たみたいだね。それから―――あら、これはひどい」
「……お前、何者だよ」
少年が、そう問う。
「ただの魔法使いを師匠に持つ普通の男子高校生、のつもりだけど?……まあ、変な力があることは否定しないけどね………そういう君こそ何者だい?えーっと……『ユウキ』くん?」
「ッ……!」
気味が、悪い。
理志の能力は普通にチートなんですが、その副産物の一つが軽い未来予知と、過去再生。
前者はそのまま、後者は見たものが辿った過去を映像のように見れる能力。ただ、例外があったり、どちらも普段は使いたがらない。
彼は語らないし、もとより語るつもりもないですが、色々見えています。
彼の能力を二言で言うと「原初り(はじまり)」と「終焉り(おわり)」です。
わからん?ですよねー。
で、(参加していない)二代目リレー小説の主人公登場。
元より(キャラとか設定とかが)壊れやすいもの。夏の雪に……
つまりはキャラや設定崩壊など知ったことか、と。参加してないし。うん。
郷流放置プレイは仕様。
「一度状況を整理しましょう」
四人が食堂にて驚愕すべき光景を見た後のこと。
一階のロビーには七人の旅人が集まり、各々絨毯の上に座っていた。
その中心に座る青年――――重影が、話を仕切る体制になっっていた。
「私と又津さん、リュウさんと冬瑠の四名は、リュウさんの運転によってここ、赤雪の旅館に到着した」
「ああ、間違いねぇ」
ぷかりと煙草をふかしながら、又津がそれに同意する。
「そして一階の広間、つまりここですね。にて、私と又津さん、リュウさんと冬瑠の二つの班に分かれた。ここまでは私も既知の範囲にしている事です。他の御三方も問題ないですね?」
一度重影はここで話を区切り、後から入ってきたメンバーに確認を取る。
「大丈夫だよぅ!」
「…うん…」
「俺も大丈夫だ」
重影は、三人の反応を見て一つ頷き、さらに話を進めた。
「そして、紅桜さん。あなたはここまで一人で歩いて来た、と。そして、入口にて見かけた男性二名を追って赤雪に入った。相違ないですね」
「ああ。問題無い」
腕を組んで頷く彼女は、重影と又津の二人と合流した女武士だ。
彼女もまた、小説を読んでここに来た旅人の仲間だった。
冬瑠が先程から「性格や外見、設定まで被ってないか?」とぶつぶつ不平不満を漏らしている程、冬瑠との共通点が多々見受けられるが、決定的な違いが一人称にある。
冬瑠は自分を夜と呼び、紅桜は自分を俺と呼ぶ。
「で、俺以外の連中はどうなんだ?」
といったように。
重影は紅桜から視線をずらし、その隣にぺたんと座りこんでいたカヤを目を合わせた。
「では、次に狭霧さんの確認をしましょうか」
「うん!」
カヤは重影に大きく笑いかけた。
「狭霧さんは、フラミリアさんとは違う人と共にこの旅館に来た、と」
「そうだよ!」
「その連れが…」
そう言うと、重影は一本の髪の毛を手の平に乗せて、皆に見えるようにすっと差し出した。
それは、重影達が一階のロビーに入ってきた時に見つけた純色の髪の毛だった。
「この髪の持ち主である、と。相違ないですね」
「うん! 鈴音が山道で疲れ切っちゃったから、寝かせてあげたの」
「そして、その後周囲に興味を惹かれ、たまたま目に入った南の道を進んで行った結果、劇場に辿り着き、フラミリアさんと合流した」
カヤとフラミリアが同時に頷いた。
「続いて、フラミリアさんは正装をした会社員に連れられてここまで来た、と言っていましたが、その彼は?」
「ここではぐれた…」
「はぐれた、と?」
しかし、フラミリアはリュウの背中にぴったりとくっついたまま顔を上げなくなってしまった。
「おい、フラミリア。ちゃんと重影に情報を教えろ」
「むー…」
唯一フラミリアに懐かれているリュウでも、何故かフラミリアを宥める事は出来なかった。
「ふむ…」
重影は、フラミリアの子供の様な振る舞いに閉口せざるを得ない。
「まあ良いでしょう。そして、狭霧さんとフラミリアさんは冬瑠達と、紅桜さんは私達と合流し、冬瑠達は食堂の様子を見た、と」
「…ああ」
冬瑠が返事する間に間があったのは、返事をしようかどうかを迷った訳ではない事は、彼女の固い表情を見ればすぐに分かることだった。
「今は、それが問題です。食堂には、窓を割る為に使用されたと思われる鎚が放置されてあっただけでしたか?」
「うん、わたしが見たのはそれだけだったよぅ」
余りにも情報が少なすぎた。
重影は、推理自体は苦手では無くむしろ得意な方だった。彼と冬瑠は、日本を旅している序でにここに訪れた事は既に他に説明していたが、その中でも彼は何度も推理をしていた。
しかし、今回の場合に於いては余りにも手掛かりが少なすぎた。
だが、それでもある程度は状況は把握できていた。
「まあ、しかし大体の情勢は掴めたな…私達以外に、ここには少なくとも4名が居るのか」
紅桜が赤雪に入る直前に見かけた二人の男性、カヤが訪れる時に連れていた一人の女性、フラミリアが連れられていた一人の男性。
今、この旅館がクローズド・サークルの状態になった以上、彼らと早急に合流することを求められている事は、重影以外の人も分かっていた。
「早く合流するべきだな」
その冬瑠の言葉が、それを端的に語っていた。
それが、重影を次第に焦りへ向かわせていた。
そして、重影を焦りに追いやっている原因は、4名と合流することを早急にしようとしていることだけでは無い。
「食堂のそれか…」
重影のその言葉が、一同を一気に暗い気持ちにさせた。
常識的に考えれば、ハンマーで窓を叩き割ることの需要は無い。あるとすれば、それこそ…
「窓から侵入した、っつーことぐれーしか俺には分からん」
ぶっきらぼうに言った又津の言葉が、7つの頭脳が協力して推測したものの限界となっていた。
「やっぱり、情報が少ないよぅ」
やはり、ハンマーで割られた窓、だけでは真実に近づきたくとも近づけることが出来ない。
「また、班で別れるのか?」
「いや、冬瑠。確かにお前なら大丈夫かも知れんが、わざわざ侵入してきた者どもが、まともな精神をしているとは考えにくい。班で別れるのは危険だろう」
「そうか…」
「ここはやはり、大所帯にはなるものの、7人で行動する方が襲われた際のリスクが小さいでしょう。異論は御座いますか」
重影以外の6人は、首を横に振った。
「では、まずここにいる人々と合流することを目的としましょう。まずは一階からでいいですね」
その時、赤雪の五階にある広間では、窓を割って入ってきた犯人達が居た。
「ふふふ、やはり俺様みたいな死神は、こう派手に登場しないとな…」
そのうちの一人、黒いローブを着ながら肩に鎌を担いでいる女性の姿は死神そのものだった。
「うん! やっぱり派手なのはいいね! 私も楽しみになってきたよ」
その横ではしゃぐ少女の手には、見える人間にしか見えない時計を握っていた。
その中で一人だけ、
「おかしい…麗魅とここに来たはずなのに、なんでいつの間にこんな変人達と居るんだ…?」
こめかみを押さえながら、深いため息をついた少年が一人。
いや、気が付いたらキーボードを叩いていたんだ。うん。フライング過ぎて本当にごめん。
ところで、第一グループが膨大化し始めた件。あと、膨大の一発目の変換で厖大の方が出るっていうのはイレギュラーすぐる。
さて、サイは一代目リレー小説があるから設定が書けるが紅桜さんが書けない。無責任にキャラ出すのもうやめよう…
人が死んでいました。
筆はお化けのようにゆらり、ゆらり動く。
「大きな音がしましたね」
白熊が夾竹桃(きょうちくとう)を抱く奇妙な画の広がる天井をつい、と見上げながら羽橋鈴音は云う。
その他二名とともに、相も変わらず炬燵に入ったままである。
「え、したかな」
「しましたねー。上の方かしら。こう、パリンッという、言ってみれば窓ガラスが割れる音?」
「へえ」
「お二人とも……今朝隣人が転びましたと云うかのように」
異変が起きれば敏感に反応してしまう羽橋なので、
(困った……)
今にも動きたくてうずうずしている。
それならばさっさと動けばいいのに動かないのは、其処はやはり彼女なりの気遣いというものがある。
「あれ」
ぽつり、と呟いたのは七瀬である。
「どうしました、七瀬殿」
「いや。ちょっと」
そういって、特に何となしにスーツの内ポケットに手を突っ込み携帯端末を取り出す。バイブ音が幽かに響いた。
耳元には運ばずそのままぱか、と携帯を開いたところを見るに、誰かしらからメールが届いたらしい。
「ふーん。圏外かと思えばメールなんて届くんですね。あ、もしかして専用の回線なんか使ってたりしてるんですか? 七瀬さんからはお金のにおいが……しませんねぇ」
「はは、しがないサラリーマンですよ。さて、誰からかな」
羽橋鈴音はジャスミンティに口を付けながら、興味津々に七瀬の携帯を眺めている。
///
此処の蔵書数はいくらであろうか。
窓のひとつもない、豆電球に照らされるのみのこの空間には本棚が軍隊か何かのようにずらりと整列している。
広さとしては、
「雪を見て興奮した童子(こども)が無邪気に走り回れるくらいの広さね。うん、いい喩え」
田原儚(たはら はかな)が云うところでは、だそうである。
齢三十四、夫もすでにいる剣客で――彼女の昔の名である白然緋を知っている者なら田原という苗字に違和感を覚えるかもしれない――羽橋鈴音の剣の師である。
あたまには編み笠。そのせいで顔のつくりはよくは分らないが、小顔であることは見受けられる。
髪は射干玉。長さがあるようで、紐で括り背中の方にしゅっ、と流している。
上は黒いロングコート、下は白いジーンズにシンプルなエンジニアブーツ、腰には大小を提げた田原儚は図書館の一角にあったコーヒーメイカーから注いだコーヒーを飲んでいる。カップには耳の形の取っ手が三つついていた。
後は連れが一人。
「ねぇあなた。それ邪魔じゃないの?」
図書館に備えている椅子に坐りながら、云う。合わせてコーヒーの湯気が視界に靄をかける。
儚が眼を向けたのは、椅子に腰をかけている女である。正確には頭の方に眼を向けながら。
「シルクハットは……要るものなのです」
亡霊めいた声で、囀る様に女は云った。眼は大きく丸く黒々としている。頭にある純白のシルクハットのおかげで、貌には影がかかる。
「ふうん。似合ってるわね」
こういう台詞をすぐに云えるあたりに、田原儚の人柄が知れる。
「はい。有難うございます」
ゆっくりと、玄明晴子(くろあかり はるこ)はシルクハットを下げ礼をする。
衣は着物。漆黒に加えて、白い梅の文様が在る。髪は丁度肩の高さまでの長さ。後頭部の方で軽く結って、すぅっ、と垂らしているのは彼女なりの御洒落であろう。
いまは、せっせと何やらお札を書いている。玄明晴子は占い師である。
「あなたは、それは邪魔では……ないのですか」
「編み笠? 別に邪魔じゃないわよ。だって、こうしてる方が雰囲気あるでしょ」
剣客と占い師は会話をする。
儚の貌は笠のおかげで影がかかっている。
「雰囲気。それは、おもしろいです」
「あら、ありがとう。あなたこそ、そんな深い帽子に真っ黒の着物なんて、もっと雰囲気があるわ」
「はい。有難うございます」
またも、晴子はお辞儀をする。本の香い(におい)が幽かにしている。
ふふ、と儚は笑っている。光はなく図書館は小暗い。
「さて」
「はい」
晴子は札を書く筆を止める。儚はコーヒーを飲み終えたようである。
二人して、椅子からおもむろに立ち上がる。がた、と椅子を引く音が残響する。
「供養を、しますね」
「ええ、手短にね。人が来ると騒ぎになるわ」
視えるモノは紅。香いは腐った果実のような。
田原儚は、コートの内ポケットより小説を取り出す。
表題は赤雪物語。ぱらり、ぱらり、と頁をめくる。書いてあるのは、
「最初の死人が出るのは図書館。これは――波瀾ねぇ」
儚の大小が、ちき、と鍔鳴りの音を立てる。
晴子の懐には鈴があり、りん、と音が鳴る。いい音である。
美女屋敷ではあまり活躍してなかった晴子さんを出してみました。
ちなみに、今回の話において七瀬とサイ、晴子とサイは赤の他人ということでお願いします。昔のリレー小説サイと化けたくサイでは設定が違いすぎる。
そろそろ一部メンツ合流か?
図書館の一角。
「……と、『僕』は十夜理志だ。君は……なんて呼べばいいかな?」
いつの間にやら眼鏡をかけた理志は、普段どおりの人のよさそうな顔になっていた。
勿論、初対面が初対面だけにユウキは面食らったわけだが。
「……友人とかはカジキって呼ぶが、呼び捨てでもいい。好きにしてくれ」
「カジキ……なるほど、なかなか面白い渾名だね」
そう言って理志は笑う。ユウキは内心『こいつ本当にさっきまでの奴と同じ人間か?』と思っていたりした。
「ところで……たぶん、カジキ君もあの小説を読んでここに来たんだと思うんだけど……だとしたら、分かるよね?……ここが、最初の犠牲者が出た場所だ」
あの小説が真に誠ならば。ここで、最初の犠牲者が出た。
「……不気味、だな。ここで人が死んだってのか」
理志がどうかは謎だが、少なくとも普通の神経をしていれば人の殺された場所、というのはあまり気持ちのいい空間ではない。
「…ところで、君、珈琲持ってる?」
唐突に、理志がそう尋ねる?
「あ?持ってないが……どうした?」
「いや、さっきから珈琲の香りがするんだけど……ん、あっちかな」
そう言い、図書館の端のほうへと歩き出す。
「あ、ちょっと、おい、待ってくれよ」
ユウキも彼を追って同じ方向へと歩く。
彼は得体が知れなかったが、それでも、少なくとも自分を殺そうという気は感じられなかった。
少なくとも自分に危害を加える人物じゃない。―――だったら、一人より二人のほうが心強い。そう、ユウキは考えていた。
そんな頃と、同時刻。
大荒れの旅館の外に、二つの影が。
「……寒いです、馬鹿の間抜のってか従者労えよなメリー様」
「あら、これくらい我慢しなさいルミネス私だって苦労してるんだから贅沢言うな」
一人は、金の髪をし、ニット帽を被り、和服の上からトレンチコートを羽織った女性。
もう一人は、空色の髪にメイド服、その上からロングコートを羽織っている。
「へ……へっくし!」
メリーと呼ばれた金髪の女性の方がくしゃみをする。
「中、入りましょう、メリー様」
「……そうね」
そうして、二人は旅館の中へと入っていった。
ええ、そこに彼女が居たのです。丁度、図書館の中央の辺りで、血を流して倒れていました。
勿論声をかけてみましたが、反応がありません。しかし、近づいてみると、まだかすかに息があると判りました。
幸いな事に旅人の中にお医者様――そう、彼です――がいらっしゃったので、彼のところへ伝えに行ったのでございます。
彼の部屋に行き事を伝えると、すぐに包帯やら薬やらを持って出てきてくれました。
彼を連れ、図書館へ向かったのですが―――私は唖然とし、彼は首を傾げていました。
そこに彼女は居らず、血痕すらも無く、ただ、外で吹き荒れる嵐の音がするばかりだったのです。
(赤雪物語より抜粋)
メリーさん登場。ルミネスは=イグザムと思ってくれてかまいません。ってかそうだし。
図書室。うん、二人はもしかしなくてもあの二人と合流するでしょう。
でも次はメリーさんの方を書くと思うんだ。理志君動かすなら今!(
「こっちだよ! 急いで!」
「ちょ、待って!」
「待てないよ! もっと頑張って走って! ガノン君!」
ざあざあびゅうびゅうと窓の外で雨風が騒ぐ中。
赤雪の旅館、四階の廊下を駆け抜ける影が二つ。
「どうか…どうか!」
「間に合ってくれ! 頼む!」
女と男一人ずつの二人組は、そう願いながらある場所に向かって全力で走っていた。
「くっ!」
男はリュックサックを開けて、赤雪物語の本を取り出す。
「間違ってないよね! 麗魅さん!」
「あたしもそんな記憶が残ってるの! ああ、もうっ! 香奈ちゃんがいればもっと早く着いたのに!」
女は目的地に早く着くことで頭が一杯だった。
やがて、二人が目指していた扉に到着する。二人は何も考えずに目の前の扉に体当たりをして、それを開けた。
だが、彼らが望んでいた、そこに在るべき様々な名画が置かれた神聖な空間は存在しておらず、
「ぐっ!!」
鼻を貫き、噎せ返るような血の匂いのたまり場。
「ああ…」
女はそこに膝をつき、項垂れた。
「間に合わなかった…」
「まずは何処に向かうんだ?」
先頭を歩くリュウにそう聞いたのは紅桜だった。
「ん? まずは画廊に向かおうと思っているぜ」
「画廊? なぜ?」
他の者達も、皆一様に首を捻った。
赤雪は5階建て構造になっているが、その中で4階はあまり需要が無い施設が入っている。
なにせ、多目的ホールと画廊だ。
わざわざそこに初めに向かう理由が分からなかいのは当然。
「赤雪の最初の事件。お前らはもう忘れたのか?」
そう言うと、リュウは赤雪物語の本をウエストポーチから取り出した。
「最初に死人が出るのは図書館」
「そうだね~」
「だが、図書館の死体は目を離した隙に消えた、とも書かれてる。これじゃあ、行ってもあまりしょうがねぇだろ」
「まあ、な」
「あ! 分かった! リュウお兄ちゃんは、次に事件が起きる画廊に先回りしようとしてるんだ!」
フラミリアの答えが、リュウの思惑の全てを的確に捉えていた。
そう、赤雪で一番最初に死人が出るのは図書室。
しかし、記述通りならそこで見つけられた死体はすぐに消え去ってしまう。理屈は分からないが、証拠もろとも、だ。
死体や証拠が消え去った事故現場など無価値。
ならば、次に事件が起こる舞台となる画廊で待ち伏せをすればよいではないか、というのがリュウの考えだ。
頭の上に疑問符を浮かべていた他の人々も、そこまで来てようやく合天がいった様だった。
「だが…妙に嫌な予感がするぜ…」
隣を歩く又津は、何か言い知れぬ不安を覚えていた。
赤雪旅館は、外の日が落ち始めた事もあって、より一層不気味な雰囲気を醸し出している。
「それは俺も感じてんだ。刀が騒いでいる」
「むぅ~、そうかや? でも、言われるとそう感じるかも…」
「リュウお兄ちゃん、急がないとまずい気がするよ」
「…ああ」
次第に一同の脚は速くなり、いつしか走るまでになっていた。
そこで、
「? お、おい!」
四階の廊下で座り込んでいる少年と少女を見つけた。
「…?」
リュウの声に少女の方だけ反応して、ゆっくりとリュウの顔を見上げる。
「どうした、大丈夫か?」
一度その場にしゃがみこみ、リュウは彼女の肩を持った。
「う、うん…平気だよ…」
「おいおい、笑顔が弱弱しいじゃねぇか」
紅桜もリュウの傍に寄って来て、未だに俯いている少年の顔を上げた。
その顔は、蒼白と形容してなんら問題が無い。
「何かあったのか?」
ただならぬ不安を感じ始めるリュウら一同は、二人の答を待った。
しかし、麗魅は画廊の扉を指さして、ゆっくりと首を振っただけだった。
「…ちっ!」
それを見て、全力で扉に向かう又津。そのまま躊躇することなく扉の先で見たのは。
「っ!!!!」
地獄
彼らは気が付いていない。
もう赤雪の事件が開幕した事を。
そしてもう一つ、彼らは気が付いていない。
7人の軍団が、新たに2人と合流して、7人になっていることを…
「しかし、奇遇だな。重影」
「お前もな。冬瑠」
その頃、集団を抜け出した二人の武士が赤雪の二階、図書館を静かに歩いていた。
「怪しい。余りにも怪しい」
「ほう、前職の勘か?」
「そうとも言うな」
二人の会話は止まらないものの、緊張感は維持されたままだ。
「さて…」
そして、二人同時に刀を抜いた。
「尾行は得意か?」
「ふっ、ばれても負けん。腐っても日本最強だ」
そう言うと、冬瑠は刀を目の近くに掲げる。
「頼もしくて何よりだ」
重影は、もう一度ちらりと尾行目的に目を向けた。
「行くか、冬瑠」
「ふっ、当然」
そろそろと、音を立てぬよう尾行を開始する二人。
眼鏡を掛け、リュックサックを背負った少年と、それにつき従っている少年の後を。
えっと、理志君とガチ冬瑠が戦闘すると旅館吹き飛びかねないんで、戦闘だけはさせないでください。
更新速度がマジぱない件((
最終更新:2010年12月28日 14:40