Red Snow Mystery Page 3


止まらない、この怒涛の勢い!





「……なるほど、これはいかにも、ミステリの舞台って感じの場所ね」

旅館内に入ったメリーが呟く。

「しかし、良いんですか?我々は郷流様より管理を任されている身、勝手にこのようなところに……」

そう、ルミネスが尋ねる。

「……大丈夫よ、ルミネス。ここには、郷流の頼みで来たんだから」




◇◇




数十分ほど前の話になる。

「あー……誰もいねえな畜生」

運が悪いというかなんと言うか、郷流は誰とも出会うことなく一階を彷徨っていた。

「仕方ない、理志を追っかけて二階に行くか……」

そう思い、ロビーへと向かう。が。

「……あ、やっと見つけたぜコノヤロー」

突然、声を掛けられる。

「その声は……桜、何でここにいるんだ」

声の主は、紅桜だった。

「あ?多分お前と同じような理由だと思うが……しかしよ、さっきから探してたのになかなか見つからないのな、お前。……もう一人は、どうした?」

「あいつは二階に行った。今から行こうと思うんだが、ひょっとしてついてくる?」

「ったりめーよ。さ、行くぜ」

そう言い、紅桜はロビーへと歩く。

(……甘い、な。俺の観察眼もなめられたもんだ)

郷流は気づいていた。目の前に居るのは、紅桜本人ではないと。

(小説にも、そんな場面があった気がするな)

今ここで逃げるなり刀でも出してみるなりしてみるのもいい。だが、一体自分に何をする気なのか、それが気になる。

(……そう、だな。俺に万が一何かあったときに為に、メリーさん辺りに連絡しておくか)

そう思い、郷流はメリーにメールを送る。目の前に居る紅桜に気づかれないように。

郷流は、あることに気づいていた。

ここで起こった事件が小説に記されている。

即ち、当時この旅館に居た者が書いた、ということになる。第三者が書いたにしては、あまりにも詳しすぎる。

そこから考えれば、面白く、とんでもない事実が分かる。

(あの小説では犯人は分からず終いで迷宮入り、尚且つ全員が行方不明か死亡、生存者は居なかった。なのに、あそこまで詳細に記録されている。つまりは、そういうことだ)

あの小説を執筆したのは―――事件の、犯人なのだ。そして―――

(きっと、犯人は、あの小説で、ここに人が集まることを、望んでいた―――)

事件は繰り返す。舞台は、再演する。

この予想が当たっていれば、自分は、自分たちは、とりかえしのつかないことに足を踏み入れているのだろう。


◇◇


「なるほど、郷流様からメールが来た、と」

「ええ。自分の代わりに、ここに来て、調べてくれってね。赤雪物語の、真相を」

そう言って、メリーは一冊の小説を取り出す。勿論、赤雪物語である。

「……郷流様は、これを見越して事前に私たちにその小説を薦めたのでしょうか?」

そう。郷流達がここに来る数日前に、二人は郷流の薦めでこの小説を読んでいたのだ。

「さあ、どうかしらね。それよりも、行きましょう。―――犠牲は、最小限にしないといけない」

そう言って、メリーは奥へと向かい、ルミネスもそれに従って歩き出した。


ありえない。素直にそう思った。
彼女とは、先程別れた。彼とは、今合流した。
探索していた場所は、離れている。
だというのに、彼も先程まで彼女と一緒に居たと云うのだ。
同じ人物が二人いた、そうとしか思えない状況だった。
或いは、どちらかが、偽者―――或いは。
(赤雪物語)



毎回ぱっと思いついたものをぱっと書いてるので、たまに自分で書いた部分とすら矛盾してるかもしれなくて心配



「さて、話を変えよう、カジキ君」
 ローマ帝国がどのようにして地中海沿岸に勢力を広めていったのか、専門学者ですら裸足で逃げ出して行ってしまうのではないかと思われる程の内容の濃さでびっしりと書かれた本を読みながら、唐突に奇怪な男子は話を切り出す。
 博識深い男子の喋りと先刻の狂気に満ちた表情に、連れの男子は不気味さを感じる。



「なんだよ、急に」
 そんな言い知れない心情を抱きながら、横で赤雪小説を読み返していた男子が顔を上げる。
 その目には、奇怪な男子の胸に浮ぶ時計が映っている。
 その時計の刻面に、奇怪な男子が堂々と気を緩めている有様が現れているのを確認した連れの男子は、ほっと胸を撫で降ろす。
 当然、周りに見えないよう。



「君は、ミステリーの定義を知っているかい?」
「定義、だと?」
「そう、定義。本来ミステリーとは、英語でもmysteryという名詞が意味する通り、不可思議な事態を意味する」


 カタリ、と何かと何か同士がぶつかり合う音が、虚空と形容するに相応しい、空しい図書室の空間に木霊する。
 それが何かの予兆だと主張するかのように。


「そして、この舞台、そしてこれから繰り広げられる様々な事象は、全て結末に意外性が持たされていないといけない。何故だか分かるかい?」
「…あくまで、赤雪物語は小説だ。小説は、整然とした設定の上に、みんなが興味を魅かれるような展開を敷いていかないと売れない。そういうことか?」
「素晴らしい。満点だ」


 外は、嵐。びゅうびゅうと風が吹く。
 カタリ、とまた音がした。


「じゃあ、結末が持つとしたら、必要不可欠な事項は何だろう?」
「…済まないが、分からん」


 連れの男子の瞳に映る奇怪な男子の時計は、実に愉快そうに時を刻む。
 本当に、この謎な建物と状況を愉しんでいるかのよう。
 少しばかり、怖い。


「それは…」


 そして、カタリ、という不気味な音ではなく、
 ――――ガシャアアン
 誰もが驚きの余り胸を痛めるような音。


「発端に不可思議性を持たせることだよ」


 奇怪な男子は嗤う。
 獰猛に。そして、狡猾に。






「むっ」
「しまった。はずしたか」


 そして、その音を聞いて焦燥に胸を冷やす武士(もののふ)が二人。
 彼らが注意を払って監視していた人間は、何もせず、ただ不可思議に笑うだけ。


 奇天烈な男子学生を第一に疑っていた彼らにとっては、この物音は余りにも意外なる結果。
 それは、まるでミステリーという妖精が嘲いながら悪戯をしているかのよう。


 女武士の刀を持つ手に、若干の力が淹れられる。
 一方的に弄んでくる、奇妙にトリックが隠蔽された事件に対し、多少なりとも苛立ちを覚えるのは至極当然。
 それはもはや、冷静に状況を分析する隣の男武士の方が、例外に分類されるやもしれない。


「重影、時は一刻を争う」
「ああ、行くぞ。冬瑠」
 二人は手に握る刀を構え直し、その場から逆――――奇妙な男子学生達が本を読んでいる場所とは反対方向に迅速に駆け出す。


 カタリ、と再度音が木霊する音は、二人が思い切り踏み込んだ床が奇妙に鳴らすぎいぃぃという音に消されて、聞こえる事は遂に無かった。






「うわぁっ!」
「…何事、でしょうか?」


 そして、女剣客と占い師の耳にも、怖気立つほど騒々しい物音は聞こえていた。
 珈琲を飲んで落ち着いていた彼女らには、あの物音は当然の如く想定外。
 思わず女剣客がカップから珈琲を零しそうになった程。


「何かが…割れる音?」
 図書館と云う閉鎖空間の中に於いて、唯一冷静に物音を聞くことができた占い師が、シルクハットを手で押さえながら怪訝そうに問う。
 その目は、僅かではあるが驚愕に見開かれている。対照に口元は緊張からか締められている。
 カタリ、と占い師の手に持たれていた珈琲カップがソーサーに当たる音が、図書館に響き渡る。


「恐らく、窓だわ。幾らか頭が悪い人みたいね」
 カタリ、また一つ硝子の音が生まれて、消えていく。
 彼女は女剣客。その腰には一振りの刀。
 切れ長の目が細められた時、それは本物の刀使いと様子を変貌させる。


「先に行くわ。後から来て頂戴」
「了解しました」
 顔面に影を落とす二人の女は、互いの様子を見ることも無くそれぞれの行動に当たった。






「止まれ!」
「止まるがいい!」
「止まるのよ!」
 図書館の扉を開けず、わざわざ嵌められた硝子を破って姿を現した三人の前に、同じく三人の武士――――冬瑠、重影、儚が刀を前に構えた。


「うおぉっ!」
 黒いローブを身に纏い、肩に身長を優に超える大鎌を担いだ死神が、その光景に身を竦めたのは無理もない。
 いきなり眼前に三人の武士が凶器をかざして来たら、大抵の者は怯む。


 死神――――サイの持つその鎌の先端には、図書館の扉に嵌められていた硝子が突き刺さっていた。
 扉を破り入った犯人である証拠を露骨に現す女死神は、相当の自信家か、はたまた阿呆か。


「え? うぇ? あたし達何かした?」
 死神の横にいる少女が、サイ同様に口元に手を当てて慌てふためく。
 その手には、掌と同大の懐中時計が握られ、動くたびにじゃらりと鎖の音が生まれる。


「ねぇ弦司君、心当たりある?」
 彩菜は、パニックの余りもう一人の人間に問いかけた。
「いや、分からん」
 死神と反対側の隣にいる少年――――秦弦司も、怪訝に三本の刀を見つめる。
「面倒なことになっちまったな…」


「何故わざわざ硝子を割ったのか、聞かせてもらおうか」
 三武士の中、重影がサイに一歩近づいた。
 彼の纏う緊張感は、一般人では中々出す事が出来ない威圧感を醸し出ている。
「何故って…」
 対照的に、そこに人がいると思っていなかったのか、サイは大きな鎌を構えることすら忘れるほど焦っていた。


「答えようによっては、少々手荒な事をすることになるぞ」
 依然三武士の放つ殺気に、新たなる訪問者は戸惑わざるを得なくなった時。


「彼らは、この物語の犯人ではないよ」
「ええ…占いの結果、白と出ました」
 そこにふらりと遅れて現れる、一人の女占い師と二人の男子学生。


「何?」
「何だと?」
「えっ?」
 三武士は、彼らの背後から掛けられた二つの言葉に動揺を隠せなかった。


 図書館の人間は全員揃った。
 しかし、また、
 カタリ
 その中では無い誰かが産んだ、図書館の中で物音が木霊するのだった。




著者は又津です

いや、一気に4グループを合流させてみたんだよ。
意外と面白いです。
暴挙? 聞こえないよ、そんな単語(ぇ



「……そろそろ、最初の犠牲者が出たかしら」

階段を上りながら、ふと、そう呟いてみる。

「最初……小説通りだとすれば、図書館、ですか」

手に持った赤雪物語を読みながら、隣に居るルミネスが応える。

足元見ずに階段上って、躓かないのだろうか。などと思うが、生憎とこの従者にそんなドジっ子属性は無い。

「違うわルミネス。画廊よ」

そんなことを考えつつ、従者の言葉を否定する。

「画廊……そこは、二番目の犠牲者が出た場所ではないのですか?確かに、図書館の死体は消えてしまった、とありますが……」

ああ、やっぱり。こいつは何もわかっていない。

「いい、ルミネス?そもそもね―――図書館で、死人なんて出ていないのよ



◇◇◇


目が覚めると、そこに居ました。

「……え?」

突然のことに驚く、というよりは拍子抜けしてしまった。

「えっと……ここは、どこ?」

最後にある記憶は、赤雪物語という小説を読んでいた記憶。そして―――

「ああそうだ。僕は死んだんだっけ。じゃあ、ここは死後の世界かな?」

記憶通りなら、僕は死んだ。

―――自分でもびっくりするほどあっさりしてるな、僕。

「お生憎様。あなたが死んでいるかはともかく、ここは死後の世界ではないわよ」

「う、うわっ!?」

人が居ました。すぐ隣に。

「ここは赤雪山旅館。人里離れた山の奥に在る廃墟。で、私は神流川亘。はいじゃあ質問タイム」

すっごい早口でそう言われた。

「え、えっと……赤雪山旅館って、赤雪物語の……?」

記憶に間違いが無ければ、赤雪物語の舞台になった場所は赤雪山旅館という場所の筈だ。

「その通り。はいじゃあ質問タイム終了。あなたの名前を教えてくれるかしら?」

なんというか、自分勝手な人だ、と思った。……すごく美人なんだけど。

「えっと………シノ、です。綾霧、シノ」




◇◇◇



「図書館で死人が出ていない?それは、どういう……」

この調子だとルミネスには探偵役は無理だな、なんて思う。

「そもそも、図書館で犠牲者が出たという根拠は発見者……赤雪旅館の従業員の証言だけ。彼が嘘をついているかもしれない」

そう。彼がもし、嘘をついているなら。最初から、血を流して倒れている女性など居なかったとすれば。

「しかし、書いてあることは全て誠のはず。嘘が書いてあるわけが……」

やっぱり、騙されてる。意外と騙されやすいのね、ルミネス。

「いい?あれはあくまで彼の『証言』なの。彼が、当時そう言っていたという事実に嘘は無いでしょう。しかし、本当に彼女がそこで殺された、という事実は、地の文等で肯定している箇所は、どこにも無い」

「――――」

なんというか、間違い探しでやっと間違いを見つけた人のような、そんな顔をしている。

「――ここで問題なのは、何故、彼は嘘をつく必要があったのか。彼女はどこへ消えたのか。……答えは、一つ」





「彼と彼女が、事件の犯人なのよ」



私の考えはあくまでも一つの可能性に過ぎない。
これは推理ではなくただの推測だ。それでいいなら、語ろう。


しばらくPCが使えませんでした。諸事情で。
亘って誰かって?理志に勝った人。
シノ?うん、あれです。初代リレーの人。
ぶっちゃけ出せる人が居なかった結果です。



 7人のグループが、画廊前にてバラバラに分かれた後の事故現場。
 そこに、また新たな犠牲者が現れる。
 ぶしゅり、と刃物が肉を突き刺す音が部屋に響く。


 悲鳴は、上がらない。


 代わりに、満足そうな男の声。 
「楽なもんだぜ」
 血なまぐさい臭いが立ち込める画廊にて、一人の男が嗤う。


 にゅちゅりと音を立てて、男が手に持つ包丁を殺した別の人間から抜きとる。
 また新しく鮮血が吹き出すが、それすらも気にしない。


「さて、画廊での殺人は、前半終了と。次はバルコニーだな」
 男は、徐に小説を手に取り、ページを開く。
「1人…簡単な仕事になるが、まあいいだろう。そろそろあいつが来る頃だ」
 バサリ、と男が小説を地面に投げ捨てた。
 一つ一つの髪が赤い液体を吸いこみ、間もなく文字が見えなくなる。


「彩菜が仕事をしたみたいだしな。いいだろう」
 革のジャケットから取り出した携帯には、気が付かない間にメールが届いていた。
 そこには、『任務完了~、次待ちだっ!』という文字郡。
 くっくっくと笑い声が画廊に響き渡る。


「連中、見事に俺の言う事を信じ切りやがって。うまい具合に分散させられたぜ」
 画廊の手前にいた7人は、彼の言葉をすっかり信じ込んで、3つの班に分かれて居なくなった冬瑠、重影のペアを探している。
「あの武士二人も馬鹿だな。犯人は俺なのによ」
 状況は、男の中のシチュエーション通りに運ばれていた。誤算さえ、それは想定内。


 ガサガサと、男がポーチから煙草の箱を取り出した。おもむろにそれを口に咥え、先に点火する。
「だが…冬瑠、理志、メリー、晴子、儚、麗魅。この六人には手を焼きそうだな」
 ぼそり、とそう呟いた男には、赤雪での状況がすべて分かっている。


「まあ、じっくりと殺してやろう。何せ、俺は…」
 画廊に転がっている二つの死体。
 その内古い方の死体を蹴りとばした。


「ここの管理人なんだからな」


 くっくっくと、また喉から発せられる男。
 その右手の携帯が、ぶるぶると震えだした。
 右手に持っていた携帯を再度開き、今度はそれを耳にあてる。


『又津、失礼するよ』
「む、七瀬か。驚かせるな」
 その通話口からは、中々出来そうなサラリーマン、といった声が聞こえる。
 はぁというため息をつくと、すぐにその表情を固くする。
 しかし、男がかけているサングラスのせいで周りからはその表情の変化は見てとれない。


『悪いね。ちょっと話があって』
 通話相手は、どこか飄々とした雰囲気でそう切り出した。
「なんだ。お前が動くのはまだだ。霜月とうまい具合に連携をとれ」
 男の声に苛立ちの色が見えてくる。


『そうじゃないよ。今どれくらい仕事が進んだのか聞きたくてね』
 仕事、と言った所から、周りにこれを聞かせてはならない人間が近くにいる事を男は悟った。


「ああ、彩菜がうまい具合にダミーを利かせた。しかし、メリーにはもう勘付かれている。まあ、予想内の語算だ。それに、重影がこの状況に勘づいてないというのは大きい」
『さすがだね。そこまで考えてるというのは』
「どうも」


 又津は、右手に携帯を握りながら、左手で煙草を吹かす。
 その音が、携帯越しに通話相手に聞こえたようだった。


『また吸っているのかい? 困った人だね』
「それが面白い。んで、他だったか?」
『ああ。状況がつかめないと何も言えないからね』
 ん? ああ、同じ会社の同僚からの電話だよ。と遠くで通話相手と同じ声がする。
 それに続き、そうなんですかー、という間延びした声。


「あとで霜月に電話をさせるよう、伝えて置いてくれ」
『彼女へなら、僕がメールで伝えておくけれども?』
 ふぅう~、と又津が大きく煙を吐いた。
「ならば、それで頼む」
(どうせ後で殺すんだ。問題無いか)
 男の頭の中では、既に自分だけが生還できるシチュエーションしかない。


「彩菜は図書館でのダミーに成功。フラミリアは画廊での仕事、及びリュウサトウの誘惑に成功。んで、たった今俺が画廊第二任務に成功した。スーザンは化けて赤渓郷流と行動中」
『少しペースが速いね。もうそろそろ僕も純色の彼女を?』
「いや、まだ早い。バルコニーと大浴場の次だ。今はそこで霜月と待機していろ。鈴音はまだ殺すな」
 へぇ、と本当に感心したような声を上げる通話相手。


「なんだよ」
 そういう反応のされ方に慣れていない又津は、ついぶっきらぼうな反応をしてしまう。
『本当に小説通りにさせるんだ、と思ってね』
「ああ、当然。でなきゃ面白くない」


 今度は、通話相手がため息をついた。
「どうした」
『いや、韋駄天の彼女――――香奈はいつ来るんだろうか、と』
 男は、腕に付けた時計の盤を半ば睨みつけるように見る。


「予定なら1時間後。バルコニーで人が現れた瞬間にそこから飛びのってそのまま殺る」
『記述されていない所は派手だね。サイ一派を登場させるシチュエーションも衝撃狙いかな』
「褒め言葉だな?」
 ハハハハハ、と呑気に通話相手が笑った。


『じゃあ、僕と霜月はここで彼女を足止めしておけばいいんだね』
「いや、霜月はそろそろ大浴場に行かせろ。あそこでの罠は作るのに時間がかかる」
『ん、そうかい? 僕はその罠についてはあまり分からないから、彼女に変わろうか?』
「そうか、頼む」


 携帯電話の奥から、ガサガサと物音が経つ。
 暫くして、プツリ、と携帯電話が音を立てた。


『又津さんですかー、お世話になりますー』
 間延びする声。鬱陶しさを感じずにはいられない。
「その口調、どうにからならねぇのか?」
『無理ですー』
 ケッ、と男が不機嫌そうに唾を吐いた。


「まあいい。お前は大浴場だ」
『了解ですよー。お気をつけて』
 それは俺のセリフだ、と男がいう前に、
 呑気な女は電話をプツリと切ってしまった。
 フン、と鼻を鳴らし、しかし捨てることは無く革のジャケットのポケットに携帯をしまう男。


「さて…」
 男は、他の人間にばれないよう、他のグループに慌ててたった今殺した男が消えた事を報告する演技の準備をした。
 最後に、つい10分前に息を止め、今は死体となり動かなくなった男に手を上げる。


「ここまで連れて来てありがとうよ、リュウさん」



 こうして、また新たな犠牲者が出た訳だが、彼は気が付いていない。


 次の犠牲者は、バルコニーでは無くて大浴場でも無くて、廊下あった事に。


 また、彼は気付いていない。可能性として考えてもいない。


「ぐっ…」
「いい加減飽きたんだよ。偽物だって分かってるしな。さっさとくたばれ」
 画廊にて怪しく笑っていた男が挙げた名前の一人が、無情にも胸を刺されて死亡する。


「鬱陶しいな。纏わりついてくるな」
 腹を押さえうずくまる、女武士の格好をした刺客を蹴りとばす男。
 その格好は、犯行をする人間とは思えない程常識をなぞった物だった。


「さて、そろそろ動く時か? メリーさんも来たことだし…」
 男は、笑う。ごく普通に。当たり前の声を発して。
 それが、怖い。


「管理人さんよ。お前の通りにはさせねぇぜ。もう理志とカヤ、それに重影と冬瑠が動いてる」
 倒れ込んだ女から、携帯を取り出した。
 それは、管理人からの情報を聞きとるために、必要なツール。


「俺達は、全滅しねぇ。生きて帰るんだ」
 彼らは、狂気で殺しをする訳ではない。
 全滅というシナリオに、牙を剥けて立ち向かう。


「又津、覚悟しろ。次は、霜月と七瀬だ。鈴音は強いぜ」
 そして、血まみれになった1階廊下から、男は立ち去る。
 残ったのは、新たに生まれた地獄。


 殺しをしたのは、彼らだけでは無いという事に、画廊の男は気付いていない。




誰も超展開しないので、超展開しました(馬鹿

と、同時に、赤雪キャラで初めての犠牲者。
どっちも俺の小説だし、別にいいよ…ね?


一気に第二グループが修羅場に…



図書館。

その一角に置かれたテーブルの周りの椅子に、八人の男女が座っている。

「……つまりは、彼女たちは犯人じゃない。もし犯人だとすれば、あんな馬鹿な行動はしないだろう。犯人はとても頭の良い奴だ」

その中の一人、眼鏡をかけた少年――理志が言う。

「……それは、なんだ。つまりは俺が馬鹿と?そう言うかお前は」

大きな鎌を背負った死神――サイが応える。

「うん、馬鹿。すごく馬鹿。もし君らが犯人だったら警察に突き出す前に僕直々に十七分割でもしてるところだよ」

理志が笑いながら答える。

その笑みは、狂気の感じぬ実に楽しそうな笑みで、それが余計に恐怖を誘った。

「……そうね、確かに彼の言う通り。彼女たちは、ただ単に面白可笑しい行動を取っていただけみたい」

女剣客、田原儚も同意する。

「………」

梶岡ユウキは、それぞれの『時計』を見ていた。

全員、特におかしな点は無い。

気になるのは、理志の時計が若干見えにくくなっていることだが――まあ、彼なら大丈夫だろう。

……それはそれとして、ここに来る前にはぐれた、小日向彩菜と再開したのには驚いた。

彼女も自分と再会したことには驚いたらしい。

「とにかく、ここはお互い協力するのが最善でしょうね。―――生きて、帰る為にも」

稲垣重影がそう提案する。

確かに、ここは協力する外無いだろう。信用が、置けないのは、確かだけれども。

「……私も、それが、良いと思います」

玄明晴子が同意する。

「……あまり気は進まんが、確かに人数は多いほうがいいな。それに、もしこの中に犯人がいたとしても、その時は直々に成敗するだけだ」

夜智冬瑠も基本的に賛成のようだ。

「じゃあ、決まりだね。これから私たちはお仲間さん、ってことで」

小日向彩菜もこの意見に賛成のようだ。

「……俺はあまり気乗りしないんだが、だからと言って一人になる気も無い、しな……わーったよ、俺も一緒に行く」

秦弦司も、同意した。

「全員賛成、ってことでいいかな?じゃあ、これからの行動を説明するね―――」

そして、理志が今後の行動に関する説明を始めた。

―――彼は気づいていた。自分たちは、此処に居れば、近いうちに殺されると。

そして、狂気の彼の、真の志(こころ)を、他の七人は、知らない。

(まずは、そうだな。サイは、まあほっておいてもいいだろう。弦司は、本当にただ巻き込まれただけ。……彩菜は、危険、だな)

理志は彩菜の方を見る。無邪気そうな、笑みを浮かべている。

無邪気な、邪気。無邪気さゆえの、凶悪さ。郷流の妹分―――フラミィに似ている、と思った。

(でもあいつは郷流の言うことは絶対に聞く。だから、問題を起こすことは無いだろうが―――そういえば、あいつの家に行った時、一緒に着いてこようとしたのを止めたっけ)

彼らと一緒に赤雪山旅館に来ようとしたフラミィを止めた。―――なぜ、なら。

(僕たちはただ興味本位で来たんじゃない。最初から、協力し、惨劇を止める為に―――来たんだ)

郷流は紅桜の知り合いだという女剣客とその友人と、これまた紅桜の知り合いの武士二人と、事前に連絡を取っていた。

自分は―――ユウキを此処に来るよう、仕向けておいた。

(まるでアーネンエルベだな。出会うはずの無い人が、出会う)

説明をしつつ、頭の中で念入りに計画を練る。

(僕の目の前で、死んでいいのは、僕が殺した人だけだ―――)

それは彼なりの、歪んだ正義なのだろう。




同時刻。

「勝手に来ちゃって、大丈夫だったかな……?でも、お兄ちゃんとその友達が心配だし……ここ、怖いよ……」

新たな来訪者は、小さな吸血鬼。

無邪気な邪気。悪しき邪気。

―――彼女は、元居た彼女は、果たしてどちらか。



とりあえず本人確証が無い人は偽者の可能性あるよね
―――あれ?郷流と理志以外本人確認できなくね?
まあ、郷流の場合知り合いは本人確認できるけど。勘で。
理志も本人確認できないことも無い。
あと、ユウキ君は時計見えてるし本人だと思います。
此処まで俺の推察
とりあえず紅桜さんの交友関係(剣客関係)は広かったみたい。
いやほら、あの、世界行ったり来たり出来ますし彼女。




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最終更新:2011年02月05日 18:18