アットウィキロゴ
 

殺人喜劇




一面の、銀の世界だった。

そんなところに、僕は、独り。

手には、鈍く輝く、ナイフ。

血が、あかい、血が、付いていた。

おもいだせない。

何も、何があったかも、何一つ。

とても悲しいことがあった気がする。

とても、空しい事があった気がする。

そんな僕は、心も、体も、伽藍堂(がらんどう)。

何者なのか。何処から来たのか。何処へ行くのか。

何をしていたのか。何をしてきたのか。何をするのか。

―――ワカラナイ。

わからない。わからない。わからない。わからない。

分からない。判らない。解らない。ワカラナイ――――

―――嗚呼、今にも目の前が崩れそうだ。

そう思って、目の前の木の『黒』に触れてみる。

―――目の前に生えていた木が、一瞬にして朽ち果て、跡形も無くなってしまった。

なぜだろう?わからない。何も、ワカラナイ―――

「そんなところに突っ立ってると風邪ひくわよ?」

いつの間に、隣に女の人が立っていた。

「そんな物騒なもの持ってさ、一体どうしたのよ、貴方」

誰だろう。何故、僕に話しかけてくるのだろう。

―――この人を、このナイフで刺したら、どうなるだろう。

しんでしまうのかな。きえてしまうのかな。

そんなことを考えていたら、自然と体が動いていた。

女の人は、直ぐ反応して距離をとり、簡単によけた。

「……おっと、何かしら?通り魔?誰でもよかったって感じ?」

女の人は、わらっている。

ああ、何故だろうか。

何故、こうも笑っていられるのか。

何故、彼女はここに居るのか。

―――いや、そもそも、何故、僕はここに居るのか。

そして、何故、こうも―――この女性(ひと)を、殺したい。

「―――殺す」

手にはナイフ。目の前には人。

する事なんて、最初から一つしかない。

駆け出しながら、女性の心臓へ向けてナイフを構える。

「お、随分足が速いのね、貴方」

女性は焦る様子も無く、他人事のようにそう呟く。

気にせず、そのまま一気に、突き出す。

女性は、いとも簡単に避けて見せた。

「子供がそんなもの振り回しちゃ危ないわよ?それとも、きっつい御仕置をされたいのかしら?」

そう言いながら、女性は笑う。

ああ、どうも、僕は、これを、切り刻みたい。

避わされたナイフを逆手に持ち直し、そのまま女性が避けた方向へ切払う。

勿論、避けられる。でも、それでもナイフを振り続ける。

その速さ故、残像すら、見えないほどに、振り続ける。

でも、それでも、女性には当たらない。

すべて、避けている。

血が、出ていない。掠りすら、していない。

それはつまり、今の斬撃の速度を上回る速さで避け続けたということで――――

「―――そろそろ、反撃させてもらうわよ」

そう言い、女性は短い刀―――短刀を、取り出す。

「吾、汝、世界―――無へと還れ」

呪文、だろうか。彼女がそう言い終わるのと同時に、目の前が水で覆われた。

―――また、『黒』が見える。

その部分を、ナイフで突いてみると、水は一瞬にして消滅した。

「……あ、あれ?今のはさすがにお姉さんも吃驚したわよ?」

驚いている。―――隙が、出来た。

よく見れば、女性にも、『黒』が見える。

いや、それどころか、そこらじゅうに『黒』が漂っている。

「そう、か。所詮、眼にはこんなモノしか映らない―――」

消えれば、いい。 きえて、しまえ。

消えて、消えて、消え――――消えろ。

隙の出来た女性に近寄りつつ、ナイフを構える。

「―――っ!」

反応しきれていない。

―――殺(と)った。



―――はず、だった。

「え――」

―――僕の、体には、何時の間にか、槍が、刺さっていた。

「あーあ、使っちゃったか。――あんまり私に合わないから、負担結構掛かるんだけど、これ」

そんなことを、呟いている。

意識が、遠くなる――――



◇◇◇



よく、わからない。

目の前が、あかい。

―――わからない。

気がつけば、手に何かを持っている。

鈍く光るそれには、あかく、緋いモノが滴っていた。

血。

血。血。血、血血血血血血血血血――――

血が見える。血だ。

それを指で取って、口に含んでみる。

鉄の味が、口に広がる。

あは、あはは、は――――どうやら、僕は、狂ってしまったらしい。

それとも、元々狂っていたのか。そもそも、正常など存在しなかったのか。

狂い、狂り、狂いて、狂う―――――緋色のセカイ。視写(みえ)るのは、『黒』ばかり。

僕は、何も考えず、ただ目の前の『黒』を払う。

いつのまにか、周りに散らかった残骸(したい)が、増えている気がした。




◇◇◇




意識が、戻る。

目を開けてみる。

空に浮かぶ、月。星。

今夜は、綺麗月だ。

そして、それを彩る、星。

―――先程槍が刺さった場所には、痛みもなく、傷も残っていなかった。

「―――月が、綺麗ね。今夜は十五夜じゃあ、ないけれど」

隣に座った女性が呟く。

「そう、本当に綺麗。夜空をじっくり見上げたのなんて、いつ以来かしら」

そう呟く女性は、月の明りに照らされ、とても、美しく見えた。

さっきまでの殺人衝動も、狂気も、どこかへ消えていた。

「――あら、起きてたのね。……何見つめてるの?もしかして私に惚れちゃったり?」

「え?い、いや、その……」

顔が、熱くなる。

―――どうもそういう、からかうような言動は、苦手らしい。

「あはは、顔赤くしちゃって、可愛いわね。さっきまでとは別人みたいよ、あなた」

「そう、ですか……?」

実際、自分でも先ほどまでの自分とは違うとは思う。

目の前の女性を殺そうとも思わないし、そもそも何故殺そうと思ったのかすらわからない。

「……そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私は神流川亘。神様の神に、流れる川で神流川、縦に一日一と書いて亘。職業は、旅人兼魔法使いよ。……あなたは?」

自己紹介。名前を、名乗り返すべきなんだけど。

―――そういえば、僕の名前は、なんと言うんだっけ?

記憶を辿る。

在るのは、緋色の世界の記憶ばかり。

―――その中に、声を掛けられる記憶が、一つ、あった。

『まさし、お兄、ちゃん……?』

「―――記憶喪失で、殆ど自分のことが分からないんですが、名前は、『マサシ』という、みたいです。……漢字は、わかりません」

そう、答える。

―――記憶の中の、呼びかける声。『お兄ちゃん』ということは、妹……?

「ふーん、なるほどね、記憶喪失。……ふむふむ、それじゃあお姉さんが特別に苗字と漢字を決めてあげよう」

そんなことを言われた。

「決める、って、言われて、も。――そもそも、なんで」

「なんでって、あなたは今日から私の連れよ。どうせ、行く所ないんでしょう?私と一緒に来なさいな」

言われて、気づく。

僕には、行く所が無いのだ。

―――でも、この人、亘さんと一緒に、旅することになるらしい。

それは、とても面白そうなことだと、思った。

「―――空に浮かぶは綺麗月―――『十夜』月、そして『理』の魔法を打ち消す力を持つ、『志(こころ)』の壊れた少年、か。―――うん、決めた」

そして彼女はにこりと笑い、

「『十夜理志』、それが今日から、あなたの名前よ」

満面の笑みで、そう告げられた。



どうもアレだったので推敲的なアレをしました。
ほんのちょっとだけ文章を変えてみる。
因みにこっちも少しだけ続きは書いてあります。
いや少し過ぎるから載せてないんだけど。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年04月10日 00:37