Red Snow Mystery Page 4


そろそろ展開の整理が必要だぜ(



(語り手)赤雪一階の小さな部屋はとかく生活臭に溢れている。炬燵があり、その上には湯気がある。盆の上から、ゆら、ゆら、ゆらりとカップより湯気が立つ。その白い湯気が部屋の壁画をすぅ、となぞり、ヒヒ、それはなにか愛撫でもしているかのようだ。


(霜月)はい。追加のお茶が入りました。どうぞ、お二人とも。
(羽橋)ありがとうございます。ん、おいしい……。
(七瀬)ありがとう。はは、羽橋さんは凄くおいしそうに飲んでますね。
(羽橋)はい。とてもおいしいです。
(霜月)あらー。そんな褒められちゃ困りますよ。あ、もういっそのこと私の分も上げます。ほらほら私のお茶もどうぞ。はい。
(羽橋)いえ、そんな……。
(霜月)人の好意は遠慮するものじゃないっ、ってね。 それで、何の話だったんですか。七瀬さん。なにか話し込んでましたけど。
(七瀬)あぁ。なんか、霜月さんを大浴場へ連れてこいだってさ。困りますよね。人使いが荒いのはどうかと思います、俺は。
(霜月)へぇ、そうなんですか。ちゃんとエスコートしてくださいよ? ”私使い”が荒いのも困るってものです、ええ。あ、なんか炬燵の具合がいい感じ。ぬくぬくー。
(羽橋)あたたかいですね。眠くなってしまいそうです。
(七瀬)あそこのソファよりはましですがね。あれは、すごいものだったよ。なにかこう、猛烈な睡魔が。
(霜月)そんなに気持ちがよいのですか。へぇ。それは何かと役立ちそうですねー。

(羽橋)何か、とは?
(霜月)ふふ。そりゃあ決まってるじゃないですか。ちょっといい男の人が私や羽橋さんみたいな麗しい美人をソファに誘って……。七瀬さんいかがですか?
(七瀬)俺はソファじゃなくてお風呂の方ですよ。
(羽橋)不思議と、あそこは眠くなってしまいました。すこしばかり恥ずかしいです。人前で、眠るなんて。
(霜月)お疲れだったんですよ、きっと。あ、お茶のおかわりまだありますよー。
(羽橋)ご丁寧に……。ありがとうございます。
(七瀬)おいしいですね、ほんとうに。
(霜月)たんと疲れを癒してくださいね。効きますよー私のお茶。あ、なにも卑猥な意味じゃないですよ。
(羽橋)……。
(七瀬)霜月さん。その、女性はそういうことは言わない方がよいと思いますよ。
(霜月)あらら。もしかして七瀬さん想像、いえ妄想しちゃいました?
(七瀬)してないですよ。後が恐いですから。
(霜月)まぁ、恐いだなんて。これほどに優しい心を私は持っているというのに。ねぇ、羽橋さん。あ、でも羽橋さんは見るからに優しそう……。
(羽橋)どうでしょう。それほどでもないですよ。
(霜月)またまたぁ。そんな可愛い笑い方をしたりお茶がおいしいなんていう人はしとやかで凛としていて、とても優しいお人!って相場で決まってるんですよー?
(羽橋)ふふふ……。
(七瀬)なんか、二人とも恐いな。はは。


(語り手)周りの壁は愉快だ。白熊が夾竹桃(きょうちくとう)を抱いている。夾竹桃の花はひしゃげている。
その中は吹雪でもあるようで、一緒に咲く桜の花びらはびゅるりと吹き飛び、その吹き飛んだ先には、人だ。
其の画は墓のようだな。萩の花を添えていて、御前に佇むは数人のひとか。


(羽橋)大浴場へ、行くのでしたっけ。
(七瀬)うん。もしよければ羽橋さんが一緒に行きますか? 俺は此処に残りたいので。
(霜月)なんだ、つまらないですね。せっかく七瀬さんとお風呂できゃっきゃうふふできるかと思ったのに。
(七瀬)……霜月さん。その。
(霜月)分かってますって。私は恐い人ですから。あ、では羽橋さん……これじゃなんか硬いですね。鈴音さんとお呼びしても?
(羽橋)構いませんよ、霜月さん。
(七瀬)俺はこのままでいいかな。羽橋さん。うん、この響きもいいです。
(羽橋)もちろんです、七瀬さん。
(霜月)では鈴音さん。私をお風呂に誘ってくださいな。
(羽橋)分かりました。
(七瀬)わぁ。驚くほど決断が早い。晴子さんみたいだ。


(語り手)墓の前の者どもの周りには小さな鬼火が浮く。火の玉である。いくつ、あるか。 一か、十か? おろ、鳩が火の玉をくわえていった。くわえていってしまった。
飛んでいって、枯れたハイビスカスが装飾された風変わりな建物に颯(さっ)と入る。中は、視えないな。どうなってるのだろうな。どうなってるのだろうか。


(羽橋)ただ……。
(霜月)ただ?
(羽橋)そのまえにお二人に質問があるのですが、よろしいでしょうか。
(七瀬)ん、なにかな。
(霜月)なんですかー?
(語り手)鈍色とは美しいな。そんな色をした眼はいい。細く、切れ長のするどい眼だ。女剣客は云った。
(羽橋)お二人は、誰の味方なんでしょう。
(七瀬)なるほど。そのことですか。
(霜月)そのことでしたか。そんなの、問うまでもないですよ。
(語り手)男と女は云った。
(霜月)中立です。
(七瀬)中立かな。
(羽橋)やっぱり。お二人とも面白いです。
(語り手)外の様子はこの窓のない部屋では誰も知る由がない。
(羽橋)では、行きましょうか。
(霜月)はい。いやぁ、実に楽しみですねぇ。
(七瀬)頑張ってください。俺はここで待ってますので。
(語り手)処は転ず。


愛しのあの子に告白したいです。
皆さん、応援してください。
しっかしこの書き方やっぱ好きだ。会話させるのが好きなのかね。



「―――さて、どうしたものだろうね」

処は図書館。一人の少年。

「わざわざ君以外全員外に出したんだし、遠慮なくやってくれていいんだけど」

問う先。一人の少女。血を、流す。

「それとも、あれか。君の力はこの程度か。―――がっかりだよ、同じ時間に関係する者としては」

少女は、声も出ず。

ただ、考える。

(なんで……なんで、あいつには『時計』が見えないの!?)

「それにしても………確かに、こいつは魔的だ」

崩れた天井。床。少女の能力。

「―――じゃあ、殺さないとな」

少年、実に愉しそうに、嗤う。




◇◇◇




綾霧シノは、女性と共に四階を歩く。

「その……貴女は、どうしてここに?」

女性に問いかける。

「それは赤雪山旅館にという意味?それとも、四階にという意味?」

問い返される。

「えっと……両方です」

少し考え、そう答える。

「この旅館に来たのは、どうも血と、それと懐かしい匂いがしたから。四階に来たのは、血の匂いが強かったから。―――以上よ」

血の、香リ。微かに、感じる。

「画廊―――まだ、死体はあるかしら」

扉を開ける。血の香リ。

「っ……!」

少年、目を覆う。

「えーと、男と、女ね。……あら?こっちは何処かで見たような顔ね……うーん、どっかの世界で有名人か何かだったかしら?」

女性、観察する。

そこに。

「メリー様、これは……」

女性、二人。

「血の匂いが、酷い………!?誰!?」

少年と女性に、銃を向ける。

「……あら?メリーじゃないの。元気してた?」

臆する事無く、声をかける。

「……亘!?」

驚く女性。

「……えっと、知り合い?」

取り残された、少年。




◇◇◇




世界。セカイ。時計塔。

「何、なんなのよ、ここ……」

少年と少女。

「原初と終焉の時計塔(ラグナロク・クロックタワー)―――ようこそ終焉りへ。いや、原初りかな」

終焉。原初。溢れる。

「―――これにて人生(じょうえい)は終了で御座います。お帰りの際は、未練(おわすれもの)の無い様に……」

セカイが、逆転する。

時計は左廻り。覆水は盆に返り、死者は蘇り、昨日が明日になる。

―――少女は、消えた。

図書館。天井も床も、元通りになっている。

「っ!やっと入れた!大丈夫か?」

図書館へと入ってきたユウキが理志に話しかける。

「ああ―――僕はね。大丈夫だよ」

図書館へ入れなかったのは、この眼の前にいる少年の所為なのだが、ユウキや、他の全員は気づいていない。

あくまでも、理志は取り残されたように装ったのだ。

犯人と協力関係にあるだけではなく、それ以外にも危険な部分があるとはいえ、あまりこちらから仕掛けたイメージを持たれるのが嫌だったのだ。

―――基本的に、理志は自分勝手である。

「しかし、あいつが犯人の一人だった、ってことか?」

そう、ユウキが問う。

「そう、だね。多分だけど。―――それより、大浴場に向かおう。確か、次はあそこだ」

少年は言い、服を整え、歩き出す。

「――――ああ、そうだ。君の名前を知ってた理由。教えてあげようか」

唐突にそう言いだす。

「……教えてくれ」

結構気になっていたので、教えてもらう。

「実はさ―――学校同じなんだよね、君と」

「………え、マジでか、それは」

あまりにも簡単だった。

「……まあ僕は一つ上だしね。知らなくても、当然だろうけど」

「しかも年上かよ……」

意外な、事実。尤も、今この状況で、役に立つものでもないが。

実を言うと、ユウキに赤雪物語を読むように仕向けたのも理志である。

ユウキの机に、赤雪物語を入れておいたのだ。

ユウキは勿論持ち主を探したが、誰に訊いても自分のものでは無いと言い、図書室の物でもなかったので、とりあえず預かり、読み、今に至る。

何故彼を選んだのか―――それは、理志に訊かねばわからないだろうが。

「さて、大浴場か。数人ほど女性がいるけど、どうしようね」

舞台は始まったばかり。最後まで退場せずにいられるのは、誰か。



久し振り過ぎてよくわからんくなった。
地の文がおかしいのは謎。勢いの産物。
ぶっちゃけそろそろリレー用のネタがなくなってきてる。
ぶっちゃけ今回は理志のチート能力披露と確かに、こいつは(ryがやりたかっただけのような



七瀬彰は電話を鳴らしていた。
女性二人が大浴場へと向かい、一人その部屋に残っている。

「…あれ。どうしたんだ、又津」

電話口からあの煙草臭い声、
(って声なんだから匂わないか)
又津の声が聞こえてこない。彼は七瀬には、

「電話には必ず出る」

と云っていた。
(電波の状況でも悪いかな)
ふむ、と七瀬は一人思案する。手元のジャスミンティをず、と口に含んだ。
香い(におい)が鼻に広がり、それを受けて七瀬はうまそうに微笑み、

「よし、留守電に入れよう」
続けて、
「報告。霜月さんと羽橋さんの仲が良くなったみたいだ。やっぱりお茶がすごくおいしいからかな。俺も今飲んでるんだが、いや、これはほんとにうまい。彼女を召抱えてるらしいご主人が羨ましいね。どんな人なんだろうな。日本茶好きの晴子さんにも、きっとこれは合うと思う」

などということを言った。
それから携帯電話を耳より離し、
「ふぅ。そうだ、晴子さんからなんかメールが来てたな」
――ちなみに玄明晴子は七瀬と又津の関係は知らない。

 ///

「いま何時ですかねぇ」
「さぁ……」

処は大浴場の前。
霜月と羽橋の前には赤い暖簾が下がっており、「女」と書かれてある下に「lady」とある。
隣には青い暖簾の男湯。中から湯の音が聴こえている。

じゃぱ……。

そんな音と共に女二人は赤の方をくぐる。
転瞬、

「臭い。なんですかこれは」

あからさまに霜月は顔をしかめた。
腐った卵のような悪臭がしているのである。
羽橋もまた、

「変な、香いです」

そんなことを言いつつ、鼻を手で覆っている。

其処は、さほどは広くない脱衣所である。
横に広がる棚に籠がいくつか置いてあり、突き当りを曲がれば洗面所が続き、そのすぐに浴場への入り口がある。上から見ればくの字形である。
今はおそらくその浴場への戸が開いているのか、もう、と湯気が脱衣所を包む。

「温泉、なわけはないですか。てことは温泉の素でも使ってるんですかねー。いやぁそれにしてもくさい臭い」

履物を脱いで、二人は中へと上がる。
周りを羽橋はつい、と眺めて、
(あ、此処にも)
先まで居た部屋と同じくして、色彩を思い思いにぶちまけた壁画を見つけた。
顔のない人影や長い煙、葉っぱ……。

「霜月さん」
「はい?」
「聞いてなかったのですが、此処で何をするのですか?」
「あ。そういえば言ってませんでしたね」

霜月は棚の籠をいじりながら、

「入浴です」
「違いますよね」
「いや、そうなんです。違うんですよ、違うんです。えーっとですね」

垂れ込めた湯気を霜月は鬱陶しそうに手で払う。

「えっとですよ」


(語り手)処は風呂の間。湯気は白く霧のよう。ぐるりと眼を廻してみれば虹色の画がある。雑多に建物や植物や動く物らが幻めいた色合いで混濁している。並ぶ籠を横目に見つつ、霜月は話している。羽橋は凛と、それが常なのであろう、背筋を伸ばし聞いている。だが然しどことなくではあるが羽橋は厭そうな顔をしている。それはおそらく、湯気なり画なり香いなり、また風呂より鳴るじゃばじゃばといった水音のせいであろう。

女二人は会話をしている。ふうむ……。霜月は七瀬から此処で何をするのか聞いていなかった、などと云っているな。大して悪びれる風もなく云うのだからいや、たちが悪い。ヒヒ、まったくに困った女だ。前から思っていたが、この女はよく分らんな。見目形すらよく視えぬ。湯気のせいか。羽橋もこの湯気で周りがよく視えてはいまい。その羽橋は霜月のたわけた言を聞いて、人には分らぬ程度であるが、呆れたような顔をしている。だがそれは傍目に視ればただの苦笑だ。それは困りましたね、などと云っている。確かに困りものだ。ほんとに困りましたねー、と続けざまに聞こえてくる。

まぁいいじゃないですか鈴音さん。とりあえずはほら。入浴でもしません?こんなに湯気がもわもわしてるんですよ。こりゃきっと私達に風呂に入れと湯気さんが云っているんですよ。――いえ、霜月さん。その考えは素敵だとは思いますが、もしその最中に誰かに襲われる可能性もありますし……。――あ、それもそうですね。いやはや私としたことが。どうにも抜けていました。まったくこの変な香いのせいですよ。誰がここ管理してるんですかねー。温泉の素入れるのもいいですけど、もうちょっとこう限度というものを知るべきだと、私は思います。ねぇ鈴音さん。
ヒ、そのようなことを云っても羽橋鈴音は困るであろう。そう早口でまくしたてるな。ほら、みたことか。――と、云われましても霜月さん。ヒヒ、そのような答しか出来ていない。まぁ仕方があるまい。そもそも羽橋はあまり言葉は紡がず、しかも今は此の場だからな。湯のだばりだばりと云う音が絶えず鳴って五月蠅いから、口を開いてもその言は掻き消されてしまうであろう。

――これもしかして、戸が開いてるじゃないんですかね。だっておかしいですよこの湯気。おろ、霜月と羽橋は歩き出した。奥に向かって歩き出した。――かもしれませんね。閉めましょう。それに、臭いですし。――そうですね、閉めましょう。臭いしなんかじめじめというかほかほかもするしでもういたれりつくせりですよ! このシチュエーションは私には少し勿体無過ぎる……ん、ありゃ。なんかそこありません? ――え。あ、本当ですね。なにか、もの……? ――んー、ちょっと大きい感じですかね。誰かの忘れ物かしら。――いえこれは……人の…影……?


颯(さっ)と、羽橋鈴音は動いた。
――本当は、これほどの距離までに近づかなれば気が付かなかった自分に驚いていたのだが、それよりも今しがた感じた悪寒が身を動かさせたのである。

「なにがあります鈴音さん」

遅れて、後の方から霜月がすたすたと歩いてくる。
其処はちょうど、大浴場へと続く戸の前である。
戸はがらりと開ききっており、中からは腐った香いを孕んだ湯気が湧いている。

「……」

羽橋鈴音はしゃがみこみ、”それ”に指を触れてみる。
つ……。

「――嘘」

思わず、霜月はそんな声を漏らしてしまった。
羽橋の足元には吸いかけの煙草。
その脇には革のジャケットに包まれた何か。
そうしていると、それはもはや元から其処にあったかのような置き物にしか視えない。

――どう視ても、それは又津という男であった。

ぐたり、とうつ伏せに体を投げ出して倒れている。
羽橋鈴音は首筋に手を当てた後に、後ろの霜月の方を振り返り、

「息はあるみたいです。医術は心得ていないのでよくは分りませんが、命の方も大丈夫かと。気を失っているだけのようです」

霜月はそちらを興味津津に眺めている。眼はいつもの通りの色である。

「霜月さん、見知っている方ですか?」
「うーん、いえ。鈴音さんは?」
「同じく……」

すっ、と羽橋は立ち上がり、また一度倒れている男へと目を向け、それから霜月を視て、
(霜月さんはこの人を知っている)
すぐに看破した。
口振りと、霜月の雰囲気、後は剣客としての勘からである。

ただ、それについては特に羽橋鈴音は気にすることなく、
「どこか別の場所に、この方を運びましょう。手を貸していただけますか」
提案した。
浴場への戸の方は結局閉まることはなく、変わらず湯気が立ち上る。
ふわり、と脱衣所を取り巻き、さながら濃霧のよう。
「えー。そういうことは男の人に任せれば、って私達しかいませんね。はぁ」
「ふふ……。お願いしても、構いませんか? 私だけではどうにも」

ぶうたれる霜月に対し、柔らかく羽橋鈴音は微笑んだ。
いや、微笑もうとした。

それは、刹那のことである。
「危ないよ、君」
奇怪な壁画。白い湯気。鼻を刺す強い腐臭。湯の流れる大きな音。
それら全てに溶け込んでいるかのような、であってそれら全ての中において尚、その存在を主張する、

「―――え」

亡霊のような声が。

「鈴音さん。後ろ……あっ」


羽橋鈴音の背筋にゾクリ、と冷たく鳴った。


女二人がその亡霊を視認することは出来なかった。
何故なら、彼女たちは既に昏倒していたからである。
最後に、何かが鼻に押し当てられた感覚だけが羽橋鈴音には分った。

(どうして気が付けなかったのか)
この空間の。
眩暈がするくらいの極彩色の画たち。視界を遮断する白い湯気。
とかく不快な硫黄の香い。延々と鳴り響く濁流めいた水音。
その皆すべてが、此処を訪れた者――羽橋鈴音の注意を割くための巧妙な罠であったことに。

亡霊が何か云っていた。
彼女たちを隠伏するように、煙草の煙が燻り――、
「安心するといい。君達は傷つかない」

■                             ■

あたしという男は女性を殺さない。

レフより
 (あるメールより抜粋)



自分の小説キャラたちだけじゃ限界があったので。
というわけでこれから風呂入ってきます。



「まずいな、集団行動しようと決めてからそんなに経ってないってのに」
少年は、独りで居た。
「まいったね、しかし――――いきなり廊下が崩れるなんて、どうかしてるよ。丁度崩れた場所に誰も居なかったから良かったけど………居たらどっかの吸血鬼みたいな末路を辿る事になってただろうね」
少年の云う通り、二階の廊下は途中で崩れ落ちていた。
その距離は、おおよそ並の人間では飛び越えられないだろう。
事実、少年以外の誰も飛び越える事が出来なかったので彼一人しかここに居ないわけだが。
「あれくらいの距離を飛ぶことも出来ないようじゃ、師匠と旅してる途中で死んでるって……さて、ロープか何かを見つけないとな」
そう言いつつ、階段へと向かう。……その途中。
「ん……メール?」
ポケットに入っている携帯電話が震える。
しかしそれは彼の携帯ではなく、小日向彩菜が持っていた物。
ポケットから携帯を取り出し、ぱか、と開く。
メールを開くと、内容はこうだった。
件名:無題
差出人:又津
本文
少しばかり話がある。五階の管理人室に来てくれ。
「ふぅん……これはどうも、怪しいね」
又津、という人物を少年は知らない。しかし、この事件の黒幕か、それに準ずる者である事は容易に想像できた。
恐らくは、小日向彩菜に指示を出していたのはこの又津という人物なのだろう、ということも想像に難くない。
尤も―――状況が状況、本来なら、『又津』からメールが来るはずはないのだが。
流石にそんな事を見抜けるような力は少年には無い。
「これは―――行ってみようか」
少年は階段を昇る。
――――余談だが、彼の頭からロープを取ってくるということは抜け落ちている。




◇◇◇




「遅いな」
「遅い」
「遅いわね」
「遅い……」
「………」
「遅すぎるな」
「少し遅すぎやしないか?」
図書館前の廊下に取り残された計七名。
「誰かこう、都合よく縄梯子とか鈎縄とか持ってないものなのか?」
そう云うのは夜智冬瑠。
「忍者じゃあるまいし……図書館のカーテンでも使えばどうにかなるかとも思ったけど、カーテンじゃなくて障子だったんだよなぁ……」
そう呟くのは梶岡ユウキ。
「一階しか違わない割には、随分と高いわね。それに瓦礫の所為で着地する時に姿勢を崩しそうだし……飛び降りるのは止めといた方がよさそうね」
そう分析するは田原儚。
「なあ、妙案を思いついた。全員服を脱いで、それを結んでロープにするんだ。どうだ?」
「却下だ」
「却下ね」
「却下だな」
「却下する」
「却下」
「……嫌です」
「……そんなに全力で否定しなくてもいいじゃないか、なぁ……」
因みに、提案したのはサイである。
「ふうん、なかなか面白い案だな」
びく、と、その場に居た全員が震える。
それもその筈。その声は、この場に居る七人の誰の物でもなかったからである。
全員が、声のしたほうを振り返り、また、身構える。
「おいおい、そんなに警戒しなくても……仲良くしようぜ?」
そこに居たのは、一人の男。手には、ロープを持っている。
「折角必要としてるもんを持ってきてやったんだ。歓迎してくれてもいいだろう?……ああそうか、信用してもらうには自己紹介から、か」
七人とも、呆気にとられている。―――なんだ、こいつは。
「萩鷲、だ――――以後、見知り置いてくれ」



全部アドリブだよ!
どうしてこうなった



 ざあざあと無く嵐は、次第に宵の刻を迎える。
 それでも、それは屋外に誰も存在しないことを意味する訳ではない。

 喧しく鳴いて、烏達が飛び立つ中、一つだけ作為的な音が森に響く。
 そこに潜む黒い影は、雨に濡れながらその時が来るのを待つ。

 はあはあ、と。その息は緊張で激しく森に木霊する。
 それは、まるで狂者のように、枝にしがみつきながらただただ赤雪の旅館を見るだけ。
 その姿は、小柄故に遠くからは注視しなければ見ることが出来ない。

「まだかね…待ちくたびれたよ…」
 そして、ぼそりと一言。
 青色に光る刃は、嵐の中に埋もれて見えない。




 所は変わる。
「俺は寒いのが苦手なんだ…」
「いや、苦手どうこうでは無く、純粋に気温が低いだけだと思いますよ…」
 西洋風の少年、ガノンと女武士、紅桜の二人の姿が、混沌とした食堂の姿にあった。

「いくらなんでも、嵐の風がそのまま入って来ていたら、普通なら耐えられませんよ」
「…だな」
 片方は丁寧に。片方はぶっきらぼうに。

 外は、嵐のまま、だんだんと暗闇に包まれていっていた。
 赤雪旅館に人が来て、初めての夜。
「ふん…」
 紅桜は、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに鼻で笑い飛ばしたものの、ガノンは一抹の不安を感じていた。

 しかし、それは決して恐怖では無い。
 ガノンの切れる推理で、ある程度の事件の外見は把握できていた。末恐ろしい少年である。

「又津はどこかね…」
 二人は、先程まで行動していた、あの怪しげな男と再び合流する為に、旅館内をくまなく調査していた。
 それは、ガノンの推理。リュウサトウの殺害事件の鍵を握っている、と判断したのは、その小柄で内気な少年。

「リュウさんを殺害する、という事は、このクローズド・サークルの完成度を高めるためだったと思われます。ブレイクダークはもう使用することができませんから」
「ああ。そうだな」
「ならば、次は出口の封鎖に向かったと思われます。大きな窓から逃げられる可能性がある食堂に、又津さんがいないのなら、残りはエントランスではないでしょうか」

 なかなか、鋭い。
 紅桜は、その流れるような推理に、ふんふんと感心することしかできなかった。

「なら、次はエントランスホールだな。行くぞ」
「ええ」
 凸凹コンビは、中々に良い組み合わせの様である。




 ガノンの推理は、当たっていて、且つ外れていた。

「まずいですね…」
「くっ」
 近づく度に、強まっていく異臭。エントランスホールに入る前から、その環境に慣れないガノンは既に鼻を押さえていた。

 そう、エントランスホールでは、ガノンの読み通り、殺人事件が起きていた。
 しかし、ガノンの予想は、二つの個所で外れていたのである。

 一つは、倒れている人間を踏みつけている者は、革のジャケットにサングラスをかけた男では無く、全くその姿を黙視できない程、全身を黒色に染め上げた男だったこと。

 そして、もう一つ。

「ぬおおおおあああ!!!」
 殺人現場を見た瞬間に、紅桜がその男に向かって激情した。

 殺された男が、紅桜の知人であったこと。
 その少年は、赤渓郷流と言った。

 男は、颯爽とその場から離れる。紅桜は一心に追いかける。
 しかし、それでも、ガノンは冷静だった。それ故に、目に見える光景の違和感を早急に感知することが出来た。

「紅桜さん! 前方右斜めを!」
 全く、恐ろしい。
 紅桜は、理性を無くしていた。故に、その言葉を鵜呑みにしてその方向を見る。
 そして、

「あらあら、ばれちゃったわね」
 その方向には、ガノンが目視した通り、三人の女と一人の青年。
「まあ、でも紅桜ならいいんじゃない?」
 この惨状を見ても、女三人は平然、いや、むしろガノンよりも冷静だった。
 少年は、顔面蒼白だったのであることは、彼の名誉のために伏せておく。

 しかし、さらにガノンは予想外の事態に遭遇する。
 気が付けば、紅桜は犯人に対して驀進することを止めていた。
 そして、まじまじとその奇妙な一行を見つめる。
 ぽつり、と一言。

「あれ? メリー御一行じゃないか」
 その四人を見た途端、紅桜の理性が戻り、且つ驚きさえ浮かべたのである。

 六人の集団は、やがて少年の死体の周りで合流する。
 少年を殺した者は、知らぬ間に逃走に成功している。




「大集団か、これで6人かい…」
 未だに、草葉の壁に隠れて様子を見守る影。
 それは、壁越しにでもその様子を認識し、且つ分析するほどの能力を持っている。
 その目は、人の物ではない。機械音がぴりぴりとなることが、その証明だ。

 彼女の目には、全ての真実が見えている。
 赤雪の全てを目視できるのは、彼女だけ。一歩引いた所から状況を俯瞰しているのは、この場では彼女だけ。

 だが、彼女は失念している。
 外には、彼女以外に人が居る事を。

 この嵐に埋もれた闇の中、それでも外を歩いている人間が居た。
 この過酷な環境に歩みを進める程、度胸がある猛者が三人。

 それは、三河の上流武士、殺し屋闇之閃、女剣客。三人の刀使い。
 そして、その三人はここに何かを目論んでいる機械が居る事を知っている。

 混沌の渦は、赤雪の外までもを呑み込もうとしている。



皆スペック高すぎて、なかなか殺せない…



「ねえ、ミステリの反則って、何だと思う?」
問われる。
「さあな。犯人は実は人外か何かでした、とかか?」
「ふふ、それも面白いね。でもね、もっと反則的なことがある」
時戻り。覆水返り。
「死者を生き返らせる、って事さ」

或る友人との会話より

赤雪山旅館の外は、未だに嵐が吹き荒れている。
並の人間ならば立っている事すら困難であろう。

その外側に。
屋根の上に、彼は居た。
「全く、さ。歪んでいるね。ここも、僕―――俺も」
――――どうにもそれは、赤渓郷流という男だった。
「ったく、いってぇよな……殺すなら殺すでもっと楽に殺せっての」
体をさする。どこも異常はない。
「――――俺を、こんな程度で殺せるかっての」
因みに、彼の屍体は既に灰と化している。
「はは、本来『ミステリ』にいちゃいけないイレギュラーなんだよな、俺とトーヤ、メリーさんなんかは」
彼は言葉を紡ぐ。一つの事実を。
「俺だって―――神のはしくれ、だからな」
彼が『願う』と、その体は消えた。
「まあ丁度いいや……書き換えには『インク』がいる。生憎とこの事件を丸ごとどうこうできる力もないし―――」
屋根の上から、5階へと入り込む。
「暫くは、死んでみるかね。いつかみたいに」




◇◇◇




246号室。そこには、ユウキ、サイ、萩鷲、それと二人の少女が居た。
「あの……その二人は?」
「妹みたいなもんだ。あとは察しろ」
「は、はぁ……」
彼らがここにいる理由は――――なんてことはない。ただの休息である。
よくよく考えれば、すでに夜中。常人ならば眠くならない方がおかしい。
これ以外のメンバーは、部屋の広さの問題で向かいの部屋に居る。
因みに、この部屋は元から萩鷲と名乗った男が使っていたものらしい。曰く、
「信用ならんならぶっ殺してからこの部屋を使っても構わんぞ?」
とのことだが、ユウキは感情を読んでも特におかしな点はないので信用し、
サイはそもそも気にしていない。
「んじゃ、ちょいと用事があるから出かけてくる……部屋にあるもんは勝手に使っていいし食っていい」
そういい残し、萩鷲は部屋を出る。
「よし、そこのお前、こいつで対戦しようぜ!」
備え付けられたテレビの前に置かれているゲームをいつの間にか起動したサイが、そんな事を言い出す。
「よし来た。ゲームの腕前はそこそこ自信があるんだ」
ユウキが承諾し、サイと対戦を始める。
ショーリューケーン!とかタツマキセンプーキャク!とかハドーケン!とか聞こえてくるので、恐らく某格ゲーだろう。





萩鷲は懐から携帯を取り出す。
黒色で、先ほど部屋に居た少女のうちの片方のストラップが着いている。
開くと、待ち受けはもう片方の少女になっている。――――それは兎も角。
電話帳からとある人物を選択し。電話をかける。
「いつから道を違ったんだろうな、又津、レフ………」
そんな事を呟いている内に、目的の人物と電話が繋がる。
「………あー、もし。聞こえるか――――」



理志が攻撃に関するチートなら郷流は防御面でチートです。死なない。むしろ死ねない。
ちなみにメリーは空想具現化的なアレを持ってたり、ついでにそこにきて事実変更も出来たりします。
戦闘なら兎も角ミステリとしてなら理志より酷いかもしれない。理志も酷いけど。
紅桜さん?ああ彼女は頑張れば殺せます(
フラミリア?吸血鬼なんで銀の剣かなんかで滅多刺しにされれば死ぬかもね。
……あれ?俺のキャラって死ぬのか?
まず、ただ殺しただけで死ぬ奴いねぇし……常人の数十倍の勢いで殺さんと紅桜さんですら死なんし……
ミステリに不向きと言うか、そも、殺されることを想定してない戦闘能力の奴しかいないので(ry
むしろ殺されても生き返る(ry
チート乙。

携帯のくだりは実際にそんな外見と待ち受けです。

ああ、あと短いのは仕様。どうも長く書こうとすると詰まるので。




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最終更新:2011年02月05日 23:00