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Red Snow Mystery Page 5


終わるの? これ…



 この旅館の真実を、ある程度分かっているのはたったの三人。

 その内の一人である晴子は、それを言う事は無い。彼女の性格は誠実で温厚故、口は重いのである。
 一人である七瀬の周りには、人間が居ない。それを話してもただの独り言になってしまうから、何も言えない。

 しかし、状況がある程度分かっていて尚、周りに人が居る状況に置かれた人間が、たった一人だけいた。

 ガノン・ティッポ。赤雪旅館の中で最も恐れるべきぞ脳を持った者の一人。

「やはりおかしい」
 ガノンは、郷流の屍が灰化していくのをじっと見つめながら、しかしはっきりとした違和感を感じていた。
 彼の予想が合っているのなら、恐ろしい。

「灰の飛散具合が、かしら」
 彼以上の鋭さを兼ね備えたメリーが、すかさずといった様子で聞き返す。
 もしかすると、薄々感づいているのかもしれない。

「ええ。それに、各人々の移動の仕方もおかしい」
 ガノンは、メリーの能力で又津の居場所を特定できた。
 しかし、その場所は大浴場。
 リュウサトウが殺されてから、その短時間で大浴場の、しかも奇妙な通り道を使用して向かう事など、不可能。

「端的に言いましょう」
 ガノンは、これまでに無い程、真剣にこう告げた。

「空間が、いじられている」

 しかし、彼の考えもここまで。所詮解決の糸口のほんの入り口に到達しただけ。

 そして、全てを分かっている物が居ない。



 ――――それは、あくまで、物語の話。



「ええ、間違い無いです」
 使い慣れない携帯電話に四苦八苦しながら、青年の男武士は、奇妙な少年に問いかける。

『そうかい。やはり、僕達の読みは大方当たっていたようだね』
 事件の違和感をいち早く察知し、答に辿り着いた者が二人。
 それは、生き残る為に連合を組んだ者同士。

 ――――稲垣重影と、十夜理志。

「恐らく、彼女は5階で見かけた女性と同一人物。そちらは?」
『ん? まだ何かを注視しているよ』
「ということは、やはり同じ人物が二人居ることになりますね」

 まだ重影を中心とする三人の存在に気が付いていない影に、最大限気を配りながら、重影は囁く。

『彼女――――えっと、板橋香奈、というのかな? も例に漏れなかった訳だ』
「予想が当たっていると仮定するのならば、これは旅館の外範囲幾分かにも影響を及ぼしているようです」

 その傍に立っている儚と冬瑠は、二人が何を話しているかを知らない。
 同様に、現在理志の傍にいる弦司も、その真相を知らない。

「それでは、同時に攻撃を仕掛ける、ということで。合図はお任せいたします」
 混乱している二人に見せつけるように、重影は空いている手で刀の柄をつかむ。
 聡明な二人は、すぐに気を引き締めて刀を構えた。

『せーの、でいこうか。さて、いくよ、弦司君』
 あ、お、おう、という慌てた返事は、電話の奥から。

『せぇ―――――』
 の、という音は、木が切られたバサリという音で遮られた。

 草の陰に隠れていた人影――――香奈は、三人の武士の姿を目視すると、一目散に逃げ出した。
 旅館の方角へ。
 それだけで、彼らの狙いは充分に果たされることとなる。

「多分、こっちの彼女は”原物”です」
 それを追うでもなく、重影はただ淡々と状況を説明するだけ。
『こっちは”複製”だね。少し抵抗した』
 対する理志も、声は単調。
 二人にとって、それは必然。

「どちらの方角へ?」
『外だ。読み通り』
 その読みが、何を根拠にして言われているのか、やはり周りの3人は知ることが出来ない。

 しかし、2人の間の考えは、もう確信できる物に変化していた。
「ならば、次の殺人は再び図書館ですね」
『ああ。急ごうか』
 ぷつり、と切られる電話。

「よく分からないが、夜達は図書館に行けばいいのか?」
 電話を切る直前の発言を元に、冬瑠が聞く。

「ああ、そうだ――――」
 重影は、冬瑠に頷いて背を向けようとしたが…
 その動きは、ぴたりと止められる。

「…いや、私達はここに残る。図書館に現れる犯人は、理志が片付けてくれるだろう」
 実は、重影にはその犯人すらも分かっていたが、それは黙る。
 それよりも、唐突に動きを止めた事に、二人は困惑する。
 そして、重影も内心困惑する。

「どうしてさ。早く旅館に戻らないと」
 慌てて抗議するは儚を、やんわりと手で制する重影。
「よく見てみてください」
 重影は、足を止める原因となった物――――いや、者を睨みつけながら、諭す。
 状況が分かっていない二人は、周りをぐるりと見回し、そして気づく。



 殺し屋、闇之閃でさえ若干足が竦むほどの殺気を放った少女が、嵐に騒ぐ森に忽然と経っていたのだ。



「こうなったからには、状況を説明しないといけないな」
 僅かに怯える二人に対して、重影は冷静そのもの。
 しかし、その目は深く深く、冷たかった。

「二人とも分かっている通り、赤雪旅館は、今この山奥の奥底に建てられています」
 こちらから仕掛けない限り、またはこちらが背を向けない限り、少女は攻撃を仕掛けない。

「そして、今このように嵐に巻き込まれる訳ですが、実は、今現在この空間からは脱出できません。それは、既に立証済みです」
「脱出…できない…?」
 冬瑠は、眉をひそめる。

「玄明殿が試したそうなのですが、先程、彼女は赤雪の旅館のエントランスから真正面に歩いて進んでみたそうです。もしかしたら、このまま脱出できるかもしれない、とね」
 温度が、急激に下がっていく。

「そうするら、なんと引き返したり、増してや右折左折した訳でもないのに、また赤雪の旅館の建物を目にしたそうです」
 余りの、違和感に、場が、凍る。

「それは、この空間が私達が生活していた空間とは違うものであるという証」
 重影は、語りながら、少女の目をじっと見つめる。
 明らかに様子がおかしい少女の姿は、つい先刻まで共に行動を共にした少女と同様であった。
 ――――狭霧、カヤ。

「だが、空間と言うのは、数多の平行世界で構成されている、という文献は西洋哲学では頻出の議題です。つまり、世界には無数の世界、というのが存在する」
 その少女は、手に大きなクナイ。両手という所が、怖い。パーカーにチェックのスカートの服装と、クナイ、という、ミスマッチな光景も、やはり怖い。
 何よりも、表情が無い顔が、怖い。

「つまり、今現在のこの空間を説明すると…」
「元々私達が居た世界と、ある世界が融合してしまっているってことね…」
 さすが女剣客。飲み込みが早い。

「ええ。そうなります。それが、十夜殿と私の予想」
 狭霧カヤは、死んだような目つきで、重影の瞳を凝視する。

「そして、さらに私達の予想は深い所へ言及されていきます」


 所は変わる。そこは図書館。
 そこは、細かい場所は照らし出されないほど暗い空間。
 そんな中、一人で行動していたフラミリアは、余りにも唐突な出来事に顔面を蒼白にして怯える。

 助けは、ない。


「いままでの事を端的に言うならば、私達の元居た世界――――”世界壱”と名付けようましょうか――――が、他の世界に合体したという事なのですが、まず前提として、当然”世界壱”と合体した”世界弐”にも、人はいたはずです」


 コツ、コツ、コツ。

 わざとらしい足跡で、一歩一歩、聞かせるように歩みながら、怯える吸血鬼に近寄るのは、同じ、吸血鬼。

 同じ顔、同じ服、同じ声、同じ肌、同じ身長、同じ体重、同じ胸、同じ足。
 違うのは、目つきが狂人のように笑っている事だけ。


「そして、今の所だと、”世界弐”には、私達と全く同じ人々がこの旅館にいた計算になります。つまり、この旅館には、同じ人物がそれぞれ二人ずついます。もう始末した”世界弐”の人物は除きますが」


 コツ、コツ、という音では無く、
 ダッ、ダッ、という音。

 理志と弦司は走る。
 理志は、この旅館に来て、初めて焦りの顔を浮かべていた。

 それは、気配だけで分かる。
 フラミリアが、全く同じ容姿をした狂人に襲われている事を恐れているから。
 そして、それがもうすでに起こってしまっているという事。


「仮に、”世界壱”の私達を”原物”、”世界弐”の私達を”複製”と呼ぶなら、今確認されている者だけで分析するなら、”複製”は、何故か皆並々ならぬ殺意を持っています」


 やがて、男2人はドアの前に辿り着く。

 弦司は、突き破るようにドアを開けた。
 幸い、血の匂いはしない。

 理志は、気配のする方へ駆ける。
 ただただ、間に合ってくれと願いながら。


「今の所、”世界壱”の死亡者は確認されていなせん。リュウ殿の殺人事件も、あれの犠牲になったのは”複製”です。どうやって又津殿が身を守ったかは、私の知る所ではありませんが」


 しかし、フラミリアにはまだ助けの手が差し伸べられない。

 フラミリアの形をした「何か」は、破壊力の極めて高い魔法発動呪文を唱える。
 その威力は、何よりも矛先として向けられたフラミリアが良く知っている。

 故に、怯える。


「つまり…」


 そして、魔法が解き放たれる――――

 ようやく辿り着いた理志が、フラミリアに手を差し出す――――


「私達は、このままだと、私達の形をした『何か』に殺されてしまうことになります。これが、現在の殺人事件の真相であり、小説『赤雪物語』の種です」


 狭霧カヤの”複製”を睨みつけながら、重影は語った。

 事件は、佳境に入る…



とりあえず、二人、同一の登場人物が登場するという伏線は回収成功。

今回足した設定は、練り直してから設定集に公開します。
これなら、皆殺せるよ!(ぉぃ

1日2回はきつい…



自分が自分だと言い切ることは出来ない。

或る哲学的な友人のメールより

「………始りは同じだった筈だ。何故、こうも違った」
電話の向こうの相手へと、萩鷲は問いかける。
「……それは君が受け入れなかったからだろう。あたしは受け入れ、君は逃げ、又津は拒絶した。それだけのことだ」
「……ああ、そうだな。確かに逃げたんだろう。そして戻ってきた。あの時みたいなことにはさせん」
そう答える萩鷲の表情は、先ほどまでとは別人のように真面目だった。
「好きにすればいいさ。あたしはあたしのやり方でいく。又津は……知らんがね」
「よく言う。又津を大浴場に誘い込んだのはお前じゃないのか?」
「いいや違うね。又津は自分の意思で来たし、気絶させたのもあたしじゃない」
「そうかい……まあいい。切るぜ。今度会ったら、敵かもな」
そう言い、携帯を閉じる。
「………管理人にはなれなかった。だからこそ、『私』は、この歪を取り除かなくてはいけないんだ」


◇◇◇


「間に合え……ッ!」
理志が手に持ったナイフを複製のフラミリアが放った魔術に当て、消し去る。
「ふ……ぇ……」
フラミリアまでの距離はほんの僅か。あと数秒でも遅れていたら、流石の彼女もただでは済まなかっただろう。
フラミリアは、その場にへたり込んでしまった。
「あーもう……安心しとけ、あいつは『俺』が殺してやるからさ」
フラミリアを下がらせ、ナイフを持ち直し、複製のフラミリアに向けて構える。
「さて、仕切りなおしだ――――我は過去を始点とし未来を終点と巣に張る蜘蛛、『時殺者(クロックマーダー)』………俺の中に、あんたが生きる未来は無い」
彼の殺しは狂気ではない。ただ―――衛る手段。


◇◇◇


「あー!くっそ、また負けた!」
「これで15戦15勝だ。まだ続けるか?」
サイとユウキは、ただゲームを楽しんでいた。
「くっそ……じゃあ今度はこっちにしようぜ」
そう言って取り出したのは、某ヒゲの配管工のレースゲーム。
「っふ、俺はレースゲームも得意なんだ。ぶっちぎってやるよ」
「わー、私も混ぜてー」
「私もー」
そこに入る二人の少女。
恐らく、この空間が、今赤雪山旅館で最も平和である。
―――補足として、ドアには萩鷲による結界が張られており、邪な意思で入ることが出来ない。


◇◇◇


理志に向かって、炎とも光線ともとれるような物が高速で飛来する。
「よっ……と!」
理志は屈んで右手を着いて避わし、さらに膝と肘をバネにし、低空を飛ぶことにより高速でフラミリアの複製に接近する。
「ッ!?」
とっさにフラミリアの複製は目の前に炎を出す。
その炎は熱く、厚い。炎の壁。――――しかし、そんなものは理志には関係ない。
「生きているなら――――例えそれが神様だろうと、殺してみせる―――」
炎の壁を消滅させ、フラミリアの複製の胸の辺りにナイフを突き立てる。
「………チェックメイト、だ」
複製はその場に倒れこみ、そしてそのまま消滅した。
「ふ、ぇ、怖かった、恐かったよぅ………えぐっ……」
フラミリアは理志に抱きつき、そして泣き出してしまった。
「………アリ、かもな……じゃなく!怪我はない?大丈夫?」
一瞬あっちの方向に行きかけたが、それは郷流の専売特許だった。
「うん……大丈夫……ありがとう、来てくれて」
(……護る力、か。……今度は、ちゃんと護れた)
泣きじゃくるフラミリアを、理志は優しく抱きしめる。
「……なあ、俺、邪魔か?」
近くに居た弦司が、何ともいえない微妙な表情で二人を見ている。
「あ……はは……さ、さて、次の場所に向かおうか!」
理志はどうも、一つのことを考えると他のことを忘れるらしく―――実際今も、弦司が居ることを忘れていた。


◇◇◇


「ただいま………ああ」
萩鷲が部屋に戻ると、四人とも既に眠ってしまっていた。
「まったく………テレビくらいしっかり消しとけ」
そう言いながら、テレビを消し、ついでに四人に布団をかけてやる。
「さて……此処には変な奴も入ってこれんし、寝るか……」
そして自分も、布団を敷いて眠りに就くのであった。



246号室はすごく平和です(
二人の少女、今更ながら勿論るみゃんとフランです。
登場人物というよりはオプション。
理志が魔術とかを消し去るのは、殺人喜劇の方でもちょこっとやってます。
因みに本編で影も形もないような設定が出たり、時系列的におかしいのは愛嬌。
赤雪山旅館はパラレルワールドなんですよきっと。
……というか、ぜんぜん世界観違うのに競演してる時点でどう考えてもパラレルか、うん。



 金属音の響く音は、キンと言う小気味のいい音では無く、ガキンと重量感のある音。
 まるで、その音は裏にずしりという擬態が隠れているのではないかと疑う。

 程なくして、その音が生まれた場所の付近にて、やはりカキンという音。それは確かに綺麗な音をたてたが、しかしそれは殺気を暗示する。

 その後、土の上を足が滑るくぐもった音。音は、時に場の緊張感を醸し出し、そして鮮明な臨場感を聞き手に与える。
 それは、沈黙で再び主張を始めた雨の音にも当てはまるのかもしれない。
 さらに、殺気。

「しぶとい…」
 そこに、凛とした声音の声。それは、女。
 冬瑠は、初めて手合いする、まるで自分のもう一つの姿、闇之閃の放つ様な殺意の塊に戸惑っていた。

「ちょっと、計算外だったわね」
 一時期こそは余裕を醸していた儚も、今では脂汗が止まらない。刀を持つ手は、震える。
 それは恐怖では無い。十分を超える手合いに、隠せない疲労を暗喩する。

 重影は、考える。故に、喋らない。
(カヤさんの”複製”…だけなら、まだ打開策はあったが…)
 事態は、悪化する。

 まさか、”複製”が”複製”を呼び寄せる事態が起こりうるなど、可能性として挙げておく余地は無かった。
 雨は、冷たい。

(誰だか分からないが…赤い布を首に巻き、黒い服に身を包んだ男と…)
 一人は、スーツ姿の男――――七瀬。赤のネクタイが見事なまでに似合っていないが、重影はネクタイという物を知らない。
 因みに、儚はカヤを、冬瑠は七瀬と対峙する。

 そして、重影は…
(私、か…)
 重影。

(私が考えうる事は、全て私の”複製”が虱潰ししてしまっている。逆も然りだが、圧倒的に不利な私達にとって、これはまずい…)
 考える。自分を見つめながら、重影は考える。
 だが、自分では到底放つ事の出来ない重影の”複製”の殺気に、情けない事に少し怯えていた。

「冬瑠」
 小声で、背中を合わせている冬瑠に声をかけた。

「なんだ」
「少し隙を作る。その間に冬瑠は私の”複製”の相手をしてくれ。相手を交換するんだ」
 普通の間柄なら、絶対に理解し得ないだろう無謀且つ簡単な提案。
 だが、冬瑠は頷いた。

 しかし、今度は待ってくれない。
 一度攻撃を始めた”複製”は、もう二度と攻撃の嵐を止めることを考えない。先程は待っていた、重影らの会話中でも、だ。
 距離を取るために引き下がって尚、重影の”複製”は重影に向かって刀を突きだした。

「ぐっ!?」 
 冷や汗を飛び散らせながら、重影は咄嗟に身を屈めてその斬撃をかわす。
 直ちに次の動作に向かう事は、出来ない。
 それを好機と見たか、”複製”はその口元に薄い笑みを浮かべた。
 それが、隙。

「せいやぁ!」
 しかし、重影は信じる。
 共に旅をしてきた女武士が、軽快に重影の身体を飛び越えて、重影の”複製”が突き出す剣を止めてくれると。
 そして、息はあった。

 ガキィィィィィィッッッッッ

 今までの打ち合いの中で最も激しい音を立てながら、冬瑠の刀の腹と重影の”複製”の刀の先が、火花を散らしてぶつかり合った。
 驀進していた刀のひっ先は、そして止まる。

「ふんっ!」
 それを確認してから、重影は、身を屈めた状態から、冬瑠の飛んできた方向に、低く刀でなぎ払った。
 それは、冬瑠を追いかけて来ていた男――――七瀬の足に向かって驀進した。

「っ!」
 顔色に少々の動揺を表して、咄嗟に七瀬の”複製”が距離を取る。
 それは、完璧に重影と冬瑠の誘導に乗っていた。

「甘い!」
 冬瑠を追いかけ、重影に攪乱された七瀬の視界から確実に離れていたであろう儚は、重影の思考をしっかり汲み取っていた。
 それを確認してから、さらに攻撃が重影の後ろから来る事を予測して掲げた重影の刀に、ずしりとカヤのクナイがぶつかった感触を感じる。

 カヤは、これで封じた。
 心の中で、少なくとも、七瀬は倒せるだろうと願った。

 だが、”複製”は強い。
 七瀬は、右太股から切り上げるように迫ってきた刃を、殆ど上半身だけ後ろに振り向かせているような無理な体勢を取りながら、

 バチチイイィィッッ

「なっ!」
 人差し指と中指の間で、派手な音を立てて止める。
 それは、真剣白刃取りの要領だった。
 困惑する儚に七瀬は背を向け、今度はそのまま、刀ごと儚を背負い投げの要領で投げようとする。

 咄嗟に、儚は柄から手を放した。
 抵抗する力が抜けて、体勢を崩した七瀬の懐に一気に踏み込んだのは良かったが…

「くぅあっ!」
 その声を上げたのは、なんと冬瑠。
 七瀬が体勢を崩し、そのまま刀だけ振り下げた場所に、偶然踏み込んでしまったのである。
 左の腕を浅く切られ、それでも痛みに体制が一瞬崩れた。

 当然、重影の”複製”が見逃す訳が無い。

「冬瑠!」
 今から重影が駆けつけても、充分間に合うだけの距離だったが、重い斬撃を繰り広げるカヤは、重影に冬瑠の救援に向かわせることを許さない。

 もう駄目だと思った時だった。



「オーライ。完璧に忘れてたね」
 そこに、何者かが介入した。

 それは、いや、彼女は、先程までずっと私達が監視をしていた対象人物。
 深緑色の長い髪をうなじで結わえた小柄な少女は、爽やかな笑みを浮かべてこう告げた。

「ああ、あたしは板橋香奈。少しあたしも暴れさせてもらうよ」






「本当はそのまま捨て去る所だけど、本当にしょうがないね。全くね、最近は小説も更新しないし、何を考えているのかさっぱり分からないね」
「申し訳ねぇ…」

 大浴場では、目を覚ました又津がレフに怒鳴り立てられていた所だった。
 若干又津が涙目になっているが、レフは容赦をしない。
 無慈悲な悪魔、という表現が実にしっくり来る。

「ただ…」
 タイルの上に正座をさせられ、限界が来るのをひしひしを感じていた又津は、目を横にそらす。
 そこには、ぐったりとして動かない女性二人。

「お前があれまで手荒な事をするたぁね」
 そこまで言って、失言を覚悟した又津だったが、レフは生返事をしただけだった。
 しかし、表情は真剣。

「もう刻々と時間は過ぎて来ている。連中は、果たして管理人が二人いる事に気が付いているだろうかねぇ。どう思うかい? 又津」
「ああ、一回で一気にまくし立てるな。ただ、重影は平行世界について気が付き始めていたようだったな」
 因みに、又津は理志の存在を知らない。

 そして、管理人――――レフと又津の二人が管理人だという関係を、理志と重影は、気が付いてはいない。
 勿論、
「まあ、もう少しゆっくりとやろうぜ。連中式に言うなら、”複製”さん」


 又津とレフが、”原物”と”複製”の関係であることも。


「止めてくれないか、そういう呼び方は。あたしはそんな殺意の塊みたいな性格をしていないよ。むしろ、あたしは誰も殺さずに済めばいいなとすら思っているよ」
「ほぉ…、その善人面がいつまで続くかね」
「わからないね。それより…」

 不意に、レフがコートから煙草を取り出し、火をつける。
「一服、どうかい?」
「煙草がねぇ。今持ってねぇんだ。貰えるか」
「そりゃあ勿論。認めたくないが、あたしと君は同じなんだ。煙草の好みも同じだよ」

 それは、好みどころではなく、喫煙をするということ自体が、”原物”と”複製”の関係を暗示しているのだが、レフは認めない。
 又津は、疲れたように、諦めたように煙草の煙を噴きだした。



 そして、彼らは油断していた。

(これはこれは…大変な事を聞いてしまいましたねー。さてさて、どうしましょうかー)
 その場にぐったりと倒れていた女性の内、メイドの方、つまり霜月は、気絶したふりをしていたに過ぎなかったという事を。



なんか、俺の回は無駄に長い気がする。
気にしたら負けか。



(狭霧)(炬燵の中で叫ぶ)ええ!? 鈴音が来てたの!?


(七瀬)うん。昨日の夜まで。大浴場に行ってからそれっきりだけど……何かあったのかな。霜月さんも一緒だったんだけど、そういや彼女も戻ってきてないね。
(狭霧)何かあったって、今この旅館は大変なことが起きてるってあなた知ってるかや?
(七瀬)うんまあ人並には。だからこうしてこの部屋で事が終わるまで待っておこうかなって。あれ、此処って何号室だっけ。

(豊島)112号室。…ねえカヤさん、この人馬鹿?
(七瀬)はは、手厳しいな。
(狭霧)駄目だよ麗魅ちゃん。人のこと悪く言うの、よくないよ? でも、あの七瀬さんだっけ?
(七瀬)うん。七瀬彰です。歳は二十七かな。

(狭霧)むぅ。(狭霧カヤは七瀬彰の方へと身を乗り出す)なんでそんなに落ち着いてるかや。本当にばか?
(七瀬)うーん。これでも、現状については人よりよく知ってるつもりだけどな。
(狭霧)人並ってさっき自分で言わなかったかや?
(七瀬)あれ。(首をかしげて宙をのほほんと視る)
(豊島)あー! 絶対馬鹿だこいつ! ふらふらってしてたからもしかしたらとは思ったけどよりによってぇ!
(七瀬)……これは、どうしたもんかな。


(語り手)もう間もなくして、一行は112号室より外に出た。




一時保存。
……と、思ったがバテました( 受験勉強さんで体力の方がちょいと((
とりあえず、どっかいった組が気になったので合流させた。
豊島さんのキャラがよく分ってないのでアドリブ全開。うっへい!



「ったく………こんな屋根一つ無い様な場所で嵐たぁ……ツイてないぜ」
「うう、さむーい」
「ああ、そうだな。しかし、こんなところに建物なんて………って、なんだ、ありゃ?」

ある人気のない山の中

「………夢、か」
結局、殆ど眠れなかった。実際、他のやつらは全員寝ているし、空も殆ど変わっていない。
「まあいいさ」
服を着替える。普段の出鱈目な格好ではなく、着流しを着る。
「やれやれ……さて、と。状況はあまり良くない。が、悪くもない」
理志はそろそろ、真実に辿り着けるはずだ。この場所の、真実。
「………さて、そろそろ、動く時かな?」
又津にしろ、レフにしろ、既に色々とやってくれている。
「……こいつは賭けみたいなもんだな。勝ってやるよ。そしていい加減終わらせないといけない」
この場所は、存在してはならないんだ。そもそも。
情けないことに直接何か出来る力はない。だが、あいつらなら、やれる筈だ――――
そう考えながら、246号室を出た。


◇◇◇


「さて、どうしたものかな」
どうも、孤立してしまった。
空間が弄られているのだろうか。図書館を出た途端、気づいたら五階に居た。
「さっきも、こんなことがあった気がするな」
さっきは、管理人室に向かおうとしたら、何故か外に居た。
まあ、そのお陰でフラミリアを助けることが出来たわけで、それについては幸運だったかもしれないが。
「そうだね、丁度いい。さっき行けなかった管理人室に入ってみようか」
管理人室の場所は、一階で見つけた見取り図に描いてあった。ここ、五階にある。
管理人室の前に行き、ドアを開ける。鍵は、かかっていない。
「遅かったね………と、君は、彩菜じゃないね。君は――――」
そこに居たのは。
「十夜理志。なるほど、僕か」
紛れもない、僕自身だった。



もう少し続けようと思ったけどなんかどうも気が乗らなかった。
いえね、なんか妙に新しい小説のネタだとか、或次亦日だとか、そのへんが気になって。
ネタがあって構想出来てても書けるのとはまた別。



管理人室の内部は、思いのほか簡素であった。
無機物っぽさを感じさせるステンレスのテーブルと、小さな丸椅子が一つ。どちらも一度も使われたことない新品のように、ひどく小奇麗だ。
テーブルの前には白い、清潔な光を醸す蛍光灯に照らされた、複数のモニター。
今は何も映っておらず、色のない液晶が並んでいるだけである。

常であるのならば、それにはこの旅館の各部屋の光景が事細かに映し出されているのだろう。

「うん。防犯カメラか」

”十夜理志”は呟く。
(管理人さんがいたら、僕らの様子を視てほくそ笑んでるんだろうね)

そんなことを楽しそうに、”原物”は”複製”を前にして思った。
もしかしたら複製の彼――目の前にゆらりと佇む彼――も同じことを思ったのかもしれない。

「――ふふ」

そう、笑っていたから。
無機質な黒い髪と揃いの色の眼鏡。
目の形から鼻の形、耳、口、首筋、上から下に至るまでの体全てが、不気味なくらいに”十夜理志”である。

違いがあるとすれば、

「ははは。僕のくせに君の眼は汚いな」

今度は、原物の彼が笑った。
同じ人間が同じ時間に同じ空間で同じくして笑う。
その矛盾が、楽しいと言わんばかりに。

原物の十夜理志は管理人室の戸を閉めがちゃり、と施錠をする。
複製の十夜理志はゆらり、と貌を変えずに立っている。
そしてその右腕がパーカーのポケットへと伸びる。
……この場合の”その”とは、どちらの十夜理志を差しているのか。


(これじゃなきゃ意味がないだろうな。なんといっても、僕が相手だ)


どちらともが魔的な、非常識な能力を有している。
だが、非常識とは常識(あいて)にないものであるからこそ意味を持つのだ。
今の状況は言ってみれば、どちらともが手の内を知り尽くしている状態。
それだけならまだ、救いがあったかもしれない。
しかしそのどちらともが――非常識に対しての死神となり得るのなら、話は別だ。

非常識が非常識に挑んだところで意味がない。
知られてしまっている非常識など、それではもはやただの常識だ。
ならば、択はひとつ――


「そうだよな、十夜理志」

両者の視線が、ぴたりとあった。


            十夜理志と十夜理志は相対する。
            原物は入り口に立ち、複製はモニターの前。出口はない。
            じわり、と。
            二人の瞳(め)に宿りだす。

            一人からは純粋な殺意が、
            一人からは狂った殺意が、

            じわり……
            じわり…………

            じわり―――――― 、


「さぁ。二度とは味わえない俺との戦いだ。だからさ。遠慮なく――殺し合おう」


そう云って、十夜理志と十夜理志はナイフを構えた。

  ∞∽

結果として。
十夜理志は三日三晩の間、管理人室から出てくることはなかった。
ゆえに、中で何が起こっていたかはその三日の間は誰も知らない。
それを言い換えると、少なくとも三日の間は十夜理志は生き残っていたことになる。



いえね、本当はレフさん動かしたいんですが、
奴のパート書くと長くなりそう=体力さん乙ww
の式が成り立ちそうなもんでして……。

しっかし三日三晩か。
それはつまり赤雪の中では三日は時間が流れると言うことか。
まだ一日も立っていない状況だが、はたしてどうなるのか。

ちなみに、十夜君缶詰め状態だと野郎テメーぶっ殺すって意見がもしかしたらあるかもしれませんが、そこはぬかりがなく。
最後の数行をよく読めばその辺りの方策が……。
でも出来れば三日缶詰を望m(レフィは幻想入りしました



目が、覚める。
―――知らない天井だ。
「ああ―――そうか。知ってるわけがないのか」
そう。今自分が居るのは、赤雪山旅館の一室。
自分の家ではないし、よく知った場所ですらない。
ふと、隣を見る。
すぐ隣で、死に神が寝息を立てていた。
「死に神って云っても、寝てりゃ普通の人間にしか見えないな」
黒いローブを脱ぎ、着ているのは女物のパーカー。
因みに言うと彼女のものではなく、この部屋の主―――萩鷲と名乗った男に渡されたものだ。
曰く、「そんな服装で大丈夫―――寝れるのか?」らしい。
恐らくは、この部屋に居る二人の少女のどちらかの物なのだろうが。
そんな彼女―――サイは、どこからどう見ても普通の少女にしか見えない。
「………」
ふと、魔が差した。
頬をつついてみる。
「………にゃ」
よくわからない声を出した。が、まだ寝ているようだ。
つん、つん、と、何度もつついてみる。
「……ふにゃ、にゃ、にゃ」
―――やべえ、面白い。
「――――なあ、面白いか?」
「ああ、面白―――――いッ!!?」
隣に部屋の主こと萩鷲と名乗った男が居ました。
「ふわぁ………なんだ?お前どうした?すごい焦った顔してるぞ?」
そして今の俺の大声で起きたであろうサイ。
そりゃ焦りますわ。今の状況は俺の人生の中でも五本の指に入るほどの焦りポイントですから。
親父が事故にあった時と同じくらい焦ってると言っても過言ではない。
「ああ、いやな。こいつがお前の胸を揉んでいる一部始終を目撃していてな」
「嘘つくな!!?」
何を言い出す!?そんなことはしてねぇですよ!?いやしてないって本当に!?
「そうか………」
「そしてお前は何故怒るでもなく顔を赤らめる!?そういうキャラだったか!?」
むしろ怒ってくれよ!?逆にやりづらいだろう!?
「ああそうか。そういえばそいつの胸は揉むほどないか。御免な。確かに嘘だ。胸を撫でてたんだろう?」
「違うからな!!?胸から離れてくれ!いや離れてくださいお願いします!」
何!?何なんだこいつは!?あれか!?俺を貶めるのが楽しいのか!?
「………別に胸くらい、いいんだが……」
あんたはあんたで何を言い出してくれてるんだよ!?
「よかったな、本人公認だ。さあ遠慮なくモミモミ、もといナデナデするがいい」
「しねぇよ!!?」
おい、誰かこいつぶっ飛ばせ。むしろぶっ飛ばす許可をくれ。
「そうか、俺の胸には興味ないのか………」
「何で残念そうな顔してんの!!?」
あーもう、こいつら面倒くせぇ。
………朝からこんな調子で、大丈夫なのか、俺。


◇◇◇


――――その頃、管理人室。
「―――やっぱり、疲れる……な。自分との戦いは、どうも」
「ああ、同意だ。『十夜理志』」
同じ少年が、二人。
どちらが原物であるかは、もはや傍目にはわからない。
何故なら、他の殆どの複製と違い、彼の複製には、少なくとも会話するだけの理性がある。
その所為で、どちらが原物だか見分けることが難しい。
「………愚かな提案があるんだけど、どうだろう。もしよければ、ティーブレイクと洒落込まないか」
そう言い、どこからか缶コーヒーを取り出す。
「それはいいな。自分との茶会とは、そう経験できるものでもないしな」
そして二人は一旦ナイフをしまい、十夜理志が十夜理志へ珈琲を手渡した。



246号室は今日も平和です(((
二人のキャラが崩壊してるとか気にしちゃいけないよマドモワゼル(何
うん、話の内容に全く関係のない部分だってあってもいいと思うんだ。
いやなんかさあ。気の向くままに書いたらこうなった。




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最終更新:2011年02月14日 21:41