彩音さんのIce Fairy聴いたら無性に書きたくなった。
東方二次創作です。



※キャラ崩壊注意!!


「金が欲しい」


青い暖簾の前で、博麗霊夢はそう云った。


処は一軒のバー。名を〔氷々亭〕という。
バーのマスターであるチルノはふう、と葉巻を吹かしている。
灰色の煙がゆらり、と尾を引いた。


「客ですか。冷やかしですか。うちは店ですよ、霊夢さんが金を落としてくれねぇと」
「あら、冷やすのはあなたの生業じゃない。客よ、客」

霊夢はしかめっ面をしつつ、店の框を踏み中へと入った。
この少女は某神社の巫女であり、装束は赤と白。それは霧雨魔理沙に云わせるところでは、

「おめでたい格好だな。あたまの方も」

とのことである。


「そうですか。まぁ、上がりなさい」
チルノは霊夢をカウンター席へと促す。
店内は光が差していないため仄暗く、しかしそれは不安を呼ぶような暗さとは違い、どこかほっとするような暗さである。
カウンターの他には樫製の丸テーブルと、揃いの丸椅子とがちらほら。
まだまだ朝っぱらなので霊夢以外に客は誰もいない。

「霊夢さんがそんな処に立ったまま、というのは困るもんでしてね。客が寄り付かなくなっちまいますよ」
「うるさいわねぇ。チルノ、あなたも退治するわよ?」
「それは勘弁。奢りますから」

霊夢はかたん、とカウンターの椅子に坐る。
チルノは慣れた手つきでコップを拭いていた。



冒頭変更のお知らせ。




――なにかお金が入るような面白い出来事でも起きないかしら。たとえば異変とか。
面白くも変わりがないのが幻想郷の日常ですよ。はいどうぞ、ジンジャエールです。
――――あらどうも。


■ ■ ■


湖の畔がにわかに騒がしい。
それは、
「ぱしゃん……」
と鮎が水面に跳ねる音であったり、
「そよそよ……」
と微風がさざめいて水面を揺らす音だったり、
「逃がすか!」
と威勢のいい少女の声だったり――。


少女は黒い帽子を被り、箒に乗ってぎゅん、と空を切り飛んでいる。


■ ■ ■



(霊夢)外の方が騒がしいわね。朝なんだから、ゆっくりすればいいのに。
(チルノ)外は晴れですから。みんな騒ぎたくなるのですよ。
(霊夢)晴れの日こそゆっくりするのよ。お日様を浴びながらお茶を一杯、なんてなかなかできない贅沢よ? あ、このジンジャエールいいわね。
(チルノ)どうも。霊夢さんの ”晴れの日こそゆっくり” のひとつとなっているのなら幸いです。

(霊夢)(ぐい、と冷たいジンジャエールを口に含む)ねえ、肴はなにかないの? 朝まだ食べてなくて。
(チルノ)蛙でいいのであれば、いくらでも厨房にありますよ。
(霊夢)じゃあ、丸焼きで頂こうかしら。……お代はあなた持ちだったわよね?

(チルノ)はいはい。(葉巻をゆっくりと吸って)ずいぶんと悪い人になられたもので。あぁ、然し云われてみれば今日は騒がしい日ですね。どこが騒がしいですかね。ふむ、後ろですね。後ろですか。後ろといえば厨房ですね。はい、厨房が騒がしい。蛙たちがぴょんぴょん飛び跳ねてるんでしょうか。まったくに困ったもんですよ。焼かれるのがいやなんでしょうか。おいしいものは食われてこそなんですがね。
(霊夢)憎たらしいまでに落ち着いてるわね。いまの結構派手な音だったわよ。どんどん、がらがらごっしゃあ! って感じ。
(チルノ)そうでしょうか。(たん、とカウンターに小皿を置いて)どうぞ、作り置きの丸焼きでよければ。
(霊夢)ん、ありがと。おいしそうね。

 ///

どんどん、がらがらごっしゃあ!!!


チルノと霊夢が雑談している最中。
先の霊夢の擬音の喩えは大変よく的を射てるもので、ほんとうにそんなすざまじい音が厨房の方から聴こえた。

「ふう。いい運動になった」

チルノが厨房に辿り着いた時には、すでになかなかの大惨事っぷりである。
この厨房はバーカウンターの奥にあり、客からは視えないつくりになっている。
そこからすぐに食材……湖周辺の蛙を持ち込めるようにと裏口も設けられており、そしてその裏口の戸は、

「あれあれ。派手にやっちまいましたね魔理沙さん」

ものの見事に粉砕していた。
ぷすぷすともの哀しい黒煙なども上がっている。

「さっき霊夢が入っていくのが視えたから自慢しようと思って。ほら、妖精捕まえたんだぜ」

この魔理沙と呼ばれた少女、髪は金髪、その風采は黒いスカートに白いエプロンで、片手にはひひいろかね製の ”マジックアイテム” が握られている。



蛙食ったことない。
というわけで、ためしに画像ググってみたらやたらとうまそうで困った……。

3/27 わりと改変


「壱. 霧雨魔理沙」


【なんかします】


「粋な看板ですね」

そうチルノがひとりごちた。隣にはその店の主の霧雨魔理沙の姿もある。
処は魔法の森。摩訶不思議な香い(におい)と湿った空気が漂う。
魔理沙はチルノをつれて、自宅――〔霧雨魔法店〕へと来ていた。

と、いうのも、

「なんだ。私は何も悪いことしてないぜ」
「ええ。悪いことはしてないですね」
「だろう? 私はたまたま大妖精を視つけて、そいつに見覚えがあったから捕まえようとして、マスタースパークでとっちめて、そしたらそこにたまたまチルノの店の扉があったわけだから、そう、つまりは扉が悪いんだ」
「ふむふむ」
「だからさ、ここは店に戻って一杯やるべきだと、私は思うんだ」
「なるほど。では代わりの扉、お願いします。あたいは暇なんで茸でも蒐めてますね」
「ぐぬぬ……」

先刻に氷々亭の扉を壊してしまったために魔理沙がその弁償をする、というわけである。
遠くの方で蛙の声がする。

「こういうのは河童に任せればいいのに」
店の扉を乱暴に開けつつ、魔理沙は云った。
しかしチルノの姿はもうなく、本当に茸の蒐集に行ったらしい。
一時、魔理沙は無言で森の方を視て、

「はぁ。こっちが相談に行ったんだけどな。どうして私がされてるんだ」
「魔理沙さんががさつだからじゃないですか」

ぎょっとして魔理沙は振り返る。店の中を視る。
そうしてすぐに、魔理沙はため息をついた。

(完全に私、こいつの手のひらの上で遊ばれてるな)

中に、ぱたぱたと愛らしい氷の羽で飛びながらチルノがいる。


負けず嫌いなこの少女には何も面白くない。何に負けたかは分らないが。

「……どっから入ったんだ」
店に入る直前に魔理沙は空を振り仰ぐ。木漏れ日が眩しい。
目のくらむような陽射しだ。
「屋根ですよ、もちろん。穴が開いてましたから」



穴があったら入りたいというやつです。
三妖精登場させたいけど、最大の壁は三月精を読んでないこと。ぐぬぬ。



〔霧雨魔法店〕のなかは、台風にでも遭ったかのようにごった返している。
魔理沙に整理をする癖はなく、それだけならまだしも蒐集癖まであるため、家のなかがまともになる日はおそらく来やしまい。
二人は今、唯一そこだけ確保されている円卓に向かい合わせで坐っている。

「店で霊夢は何してるかね」
「まぁ、大ちゃんもいますからね。おもてなしは大丈夫だと思いますよ。あ、吸います?」
大ちゃんとは先に魔理沙が捕まえてきた妖精の愛称である。チルノとは仲がいい。

「おっ、ありがたいぜ」
魔理沙は、葉巻を咥えたチルノからそれを受け取り、手持ちのマジックアイテム――ミニ八卦炉で火をつける。
口に咥えた後、
「んー……うまいぜ。それでチルノ、本題なんだが」

■ ■ ■

「あの、私この店の者じゃないんですけど」
「蛙」
「はい?」
「大妖精なんでしょう。じゃあ、私に奉仕しなさい。ほら焼いた焼いた」
「ええー……」

■ ■ ■

(チルノ)相談ってなんですか。

(魔理沙)よくぞ聞いてくれました。
(チルノ)はい。先をどうぞ。あたいもそんなに暇じゃあないですよ。さっさと済ませて、茸を蒐めたいんでね。うちの蛙のうまさはあれのおかげですから。
(魔理沙)おいおい、その茸のスープの秘伝のレシピを教えたのは私だぜ。もうちょっと尊敬してくれないと。

(チルノ)ご冗談を。ちょいと面白みに欠けますよ。だってねぇ。レシピを教えたというか、魔法実験の過程で偶然できただけでしたよね、あれ。偶然ならまだしも、「こいつに蛙をぶち込んでみろ。でなきゃ焼く」なんて脅されましたからねぇ。それにその ”こいつ” って煮込んだのを忘れ、挙句放置して腐ってしまったスープでしたねぇ。こいつぁ、あたいを使った人体、もとい妖精実験ですかい? あぁ、人が悪い、人が悪い。もう少し、魔理沙さんはいい人だとあたいは思ってました。まったくに、異変を先立って解決しようとする人々にはまともな方がいない。まぁ、異変には異変な人をぶつけるのが吉という世の理ですか。

(魔理沙)うん。分ったから、本題に入るぜ。おまえと話してると疲れるから、単刀直入に云う。
(チルノ)どうぞ。なんでしょうか。

(魔理沙)なにかでかいことをしたいと思わないか、チルノ?
(チルノ)思いますね。
(魔理沙)なんだ、「何をいきなり」とか云わないのか。
(チルノ)魔理沙さんのいきなりにはもう慣れましたよ。それで、具体的には?
(魔理沙)それはまだ決まってないんだ。というか、それを相談しに来た。
(チルノ)ほう……。(吸っていた葉巻を自らの氷で消し、また新たな葉巻に火をつける)

(魔理沙)せっかく私ってやつがこの世に生まれたんだからさ、やっぱりなにかでかいことをしたいんだ。平凡に終えちゃあつまらないぜ。私の心には野心が燻っているんだ。
(チルノ)野心、ですか。それはまた、ずいぶんと大きく出ましたね。
(魔理沙)ふふん。(得意げに鼻を鳴らす)それでさ、おまえの思うでかいことってのを聞きたい。私もあれこれ考えてみたが、どれもこれもしっくりこなかった。幻想郷を花で埋め尽くすとか、博麗神社をぶっ壊すとか、アリスに告白するとかあるけど、なんかどれも違う。

(チルノ)そうですかね。どれも魅力的じゃあないですか。可愛らしくて。
(魔理沙)可愛いから駄目なんだ。でかくないと困るぜ。もちろん、可愛いことも満たすべき条件として。女だからな。
(チルノ)ははあ。じゃあ、幻想郷をぶっ壊すなんてのはどうですか?

(魔理沙)なんだって?
(チルノ)いえ、ほんの冗談ですよ。忘れてください。
(魔理沙)そうか……。
(チルノ)あ、紫さんに頼んで外の人を幻想入りさせるなんてのはいかがでしょう。これもなかなか無茶なことですよ。
(魔理沙)幻想郷を…ぶっ壊すっ……。
(チルノ)魔理沙さん?
(魔理沙)幻想郷を…! ぶっ壊すっ……!!
(チルノ)ふうむ。さてさて。
(魔理沙)幻想郷を! ぶっ壊す!!

(チルノ)(まだ葉巻を咥えているにかかわらず、新たにもう一本口に咥える。ぼう、と二つの灰色の煙がゆっくりと立ち昇る)

(魔理沙)面白い! 最高に面白い! それだ、チルノ!! (ばたん、と椅子から立ち上がり、すぐさま箒を手に取る)これはいいぜ。昂奮してきた。ちょっと空飛んでくる!

 ///

チルノは流し目で、ばたばたと駆けていく魔理沙を見送った。
屋根に空いた穴から日の強い光が差し込む。

「……あぁ、まずった。やっちまいました」

霧雨魔理沙はぎゅーん、と流れ星より迅(はや)く空を翔け回っていた。



ギアス見返しました。血染めのユフィは何度見ても神回。


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最終更新:2011年04月11日 11:38
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