ツェペシュの幼き末裔


imageプラグインエラー : ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (titleそれでも、ただ、彼女を助けたかった)



中は、妙に広くなっていた。
その広さは、並みの家の敷地ほどは有るように思える。
しかし、その空間に在るのは、闇と、静寂と、それと。
「……誰よ、あんた」
一人の、少女。
桃色のパーカーのような服を着ており、見た目は、小学生くらいにしか見えない。
しかし、恐らくは、俺よりもずっと年上なのだろう。
「赤渓郷流。ただの旅人、だよ」
そういえば、名乗るのは、今日で二回目だ。
しかも、旅人という肩書きも同じ。
如何でも良い事だが、何故か、とても可笑しく感じた。
「……あんた、一体、何の用よ」
その声には、恨みや、憎しみ、怒り、悲しみ、そういったものが、沢山籠められているように感じた。
「いや、実は、倒れていたところを、沙耶さんに助けられてね……そして、君の事を聞いた」
「――――――」
少女の表情は、パーカーのフードで見えない。
「……笑ってくれて構わないけど、さ。俺は、君を――助けたい」
俺は、なんで、そんな事を思ったか、自分でも分からない、
しかし、自分の素直な想いを、告げる。
「……馬鹿じゃないの、あんた」
ああ。
俺も、そう思う。
「助ける?あたしを?……あんたなんかに、助けてもらう事なんて無い。そう――――ニンゲン、なんかに」
ニンゲン。
その言い方には、明確な敵意を感じた。
そう――敵意。彼女から、俺への。
「でも、俺は――――ッ!」
助けたい。
その言葉は、痛みで、口に出せなかった。
痛みの原因は、すぐに分かった。
「帰って。帰らないなら、壊(ころ)すわよ」
少女の手には、何時の間にか槍が握られており、その槍に、俺の肩が、貫かれていた。
――痛い。
しかし。
月並みだが、そんな台詞は柄じゃあないが。
――――この痛みより、彼女の痛みの方が、何倍、何十倍と上の筈だ。
「人間が憎いのは、分かる。恨むのも、尤もだ。君は、悪くない」
彼女の痛みは、分からないけれど。
辛かっただろう事は。
悲しかっただろう事は。
――そして、今も辛いだろう事は。
痛いほど、分かる。
「知った様な事を、言わないで――っ!」
槍を持った手と逆の手が、俺の腹に、刺さった。
「ぐっ!」
俺が吹き飛ぶと同時に、少女が手を前に構える。
少し、間を置いた後、構えた手からレーザー光線の様な物が発射された。
――ああ、これが、魔法って奴なのかな。
そんな、人事のような感想を俺に持たせたその光線は、
俺の身体を掠め、後ろの壁へと衝突し、爆発した。
直撃しなかったのは、ただの偶然か。
――――或は、彼女に躊躇いがあったのか。
「そう、憎い。人間が、ニンゲンが、憎い、憎い!」
徐々に、声を荒げ、もはや叫びとなった少女の言葉。
その言葉は、もはや俺に向けられた物では無く、このセカイ、世界その物に向けられた物の様にも感じた。
「お父様も、お母様も、みんなも、何も悪くないのに!私だって、何も――!」
少女が、槍を構え此方へと跳ぶ。
恐らくは、落下の勢いを利用した、攻撃だろう。
――――それが、なんだ。
「え……?」
振り下ろされた槍は、俺の身体に届かず、
がつん、と言う音を立て、弾かれ、飛ばされた。
「……憎むのは、分かる。恨むのも、分かる。寂しいのも。――でも、さ」
唖然としている少女に、歩み寄る。
――――ああ、今、分かった。
なんでこんな馬鹿なことを考えたか。
やっと。
――――そうか。
「憎みあうより、恨みあうより、殺しあうより。――――仲良くなっちまったほうが、ずっと、楽しいし、そうすれば、寂しく、ないだろ?」
俺がこの子を救わないと、いけないんだ。
俺じゃなくても、出来るのかもしれない。
でも、俺じゃないと、しようと想わない。
――――そんな、コト。
「そんな、勝手な事、勝手に――!」
少女の感情の昂りは、先程までとは、別の物になっていた。
今の彼女は――哀しみ。
「誰が、ニンゲンなんかと、仲良く、なんて――」
声が、震えている。
「そんな事、しなくても、寂しくなんて、ない、寂しく――え?」
涙を堪えた、その声に。
殆ど無意識のうちに、俺は、その少女を、抱きしめていた。
「――俺は、君のお父さんにも、お母さんにもなれないし、代わりになんて、ならないだろうけど、さ」
ああ。
やっぱり、俺は、馬鹿だ。
「それでも、君の家族になる事は、出来ると思う」
――――本当に、何を言ってるんだ、おれは。
「駄目かな、それじゃ」
そんな、馬鹿げた問いに対して、彼女は。
「――――本当に、馬鹿じゃ、ない、の――」
もはや、その言葉には、憎みも、恨みも、軽蔑すらも無く。
彼女は、ただ、俺にしがみ付つきながら、泣いた。
「そういえば、名前。君の、名前は?」
今更ながらに、名前を訊く。
「……リリミール。リリミール・D・ミリア」
しがみ付いたまま、少女が答える。
「そうか、リリミール、か。なんて呼べば、いいかな」
その問いに対し、多少悩んだような間の後。
「……リリミィ。お父様や、お母様が、そう、呼んでくれてたから」
「そうか。リリミィ、ね」
その、両親が呼んでいたという名前で呼ばせるということは、
きっと、俺を家族として認めてくれた、という事で良いのだろう。
――――時進み。
「じゃあ、そろそろ出発するぞ、郷流」
「あ、はい……でも、もう少し、待って下さい」
あの後。
崖から落ちた俺を探していた紅桜さんが、この館に辿り着き、
また、無事に旅を続けられることになった。
……そして。
「よろしくね、その……紅しょうがさん?」
「紅桜、だ。それは牛丼に乗ってるやつだろうが」
「ああ、そうだった、紅鮭さん」
「てめえ、それワザとやってないか?」
リリミィも、旅に同行することになった。
まあ、あんな事言ってしまった以上、一緒にいないわけにもいかないし、だからといって、帰らないといけないし。
外に出て、日光に当たって死なないか、とか、そんな事も思ったが、
純粋な吸血鬼ではなく、吸血鬼と人間のハーフの為、日光に当たっても、あまり力が出せなくなるだけで死ぬことはないらしい。
血に関しても、ハーフ故、血を吸う必要がなく、血を吸いたいとい衝動も特別無いとか。
尤も、一度吸ってしまえば、その後どうなるかは分からないらしいが。
「それにしても、沙耶さん、本当に、一緒に来ないんですか?」
使用人である沙耶さんは、館に残るという。
「ええ。貴方が居る以上、私は、必要ありませんし」
そう言った沙耶さんの顔は、笑顔だったが、どこか、哀しそうだった。
「そうですか……ところで。一つ、質問をさせてください」
今回の一連の話で、少し、気になることがあった。
「なんでしょうか。私に分かる事なら、お答えしますが」
そう。
沙耶さんにしか、分からないこと。
「紅桜さんによれば、吸血鬼狩りがあったのは、百年程前の事らしいです」
「――――――」
そもそも。
違和感は、感じていたが。
「吸血鬼狩りの際に生き延びたことも含めて。貴方は、一体、何者ですか?」
この、沙耶という人物は。
本当に、ただの使用人なのか?
「……別に。私は、私ですよ」
沙耶さんは、ただ、笑顔のまま、そう、答えた。
「そうですか――まあ、いいです。それじゃあ、暫くお嬢様を、預かりますよ」
結局、何も、分からなかったが。
沙耶さんに背を向けた時。確かに、その言葉を、聞いた。
「……あの娘を、お願いしますね」
まるで、母親が子供を預けるような、言い方だと思った。
「おい、まだか?」
「あ、はい、今行きます――」
最後に、もう一度沙耶さんに挨拶をしようと思ったが。
振り返ったときには、もう、誰も居なかった。



それは、愚かなことかもしれない。
それは、間違ったことかもしれない。
しかし、私には、それしか出来ない。
―――願わくば、彼女に幸福を。

或る日、次の日、亦昨日



え、一話書き終わったんだけど、えっ
何気に初戦闘描写だよね、今回



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最終更新:2012年07月09日 22:22
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