コイイロノユメ




その少女は、星のようで。
その魔法は、花のように。
それは、とても美しく。
―――――とても、儚い。

或る日、次の日、亦昨日

リリミィが居た館を離れた後、暫くは同じセカイを旅していたのだが、
紅桜さんが探していたものが見つからなかったとかで、その後、別のセカイに移る事になった。
セカイを移る、と言っても、特別何かをする訳ではなく、紅桜さんの能力によって、別のセカイにワープするのだ。
想像していたよりずっと呆気無く、気づけば、景色が変わり――――
――――巨大な怪物が、目の前にいた。
「って、ちょ、え!?」
これは、流石に、ちょいとばかしマズい状況だ。いや、ちょいとでは無いかもしれない。
見た感じ、目の前にいる怪物は、ファンタジー系のゲームにでも出てきそうな雰囲気の、一言で言えば、竜。
大きさは、喩えるなら大型トラック程。とは言え、象より少し大きい程度だが、翼や鱗の威圧感により、数倍大きく感じる。
「ああ、ここの原生生物だろうな。成程、見るからに凶暴そうだ」
隣のこの状況を生み出した張本には、冷静に分析している。
――いや、そんなのいいからどうにかしてよコレ。自分の身は自分で護るとは言ったが、これは流石に。
「わー、かっこいいー!」
リリミィ、お前は喜ぶな。目を輝かせるな。確かに、格好いいんだけども。
と、そんな事を考えている内に、竜が前足を構えた。
まずいな、これは。とりあえず、なんとか防御だけでも――
「そこの御三方。ちっと、離れてな」
「え?」
上空から、声。
「その花言葉は『恋』と『呪い』、恋に焦がれた少女は恋に恋をし、その幻想は歪んだ愛を生む」
声のする方を見ると、上空に、箒に乗った、少女――
「その歪んだ愛が奏でる恋歌は、ある種美しくもあり――」
少女は、ドラゴンに向けて、手を、構え。
「花魔法『黒百合の恋歌(ブラックリリー・ラブソング)』ッ!!」
そして、竜を、光が包む。
「ギャ!?ガ、ガ――」
声にならないような悲鳴をあげる、その竜は。
光が収束した頃には、消えていた。
僅か、数秒。
生半可な攻撃では、怯みすらしそうに無い程の、巨体と、鱗。
それを、少女は、一撃で消し去った。
「っと、大丈夫か、あんたら」
少女が、目の前に降りてきた。
格好は、白いリボンの付いた黒い三角帽子に、へその上辺りまでしか無い黒に星柄の入ったホルタートップ、短めの青がかった黒のスカート。背中に、剣らしき物を背負っている。髪は少し短めだが、前髪は長く、右目を隠している。
見た感じ、俺よりいくつか年下に見える。大体、中学生くらいか。
尤も、外見と年齢が一致していない奴がすぐ隣にいるので、どうなのかは分からないが。
「あの程度、ほっといてくれても俺が倒したんだがな。まあ、礼は言っとく」
「へえ、こりゃ随分と腕に自信がお有りのようで」
紅桜さんの言っている事は、負け惜しみの類に聞こえなくもないが、事実だろう。
尤も、この少女のように、一撃で倒すことが出来たかは分からないが。
ついでに言えば、リリミィでも、実力的には十分だろうが、今は昼で、曇ってもいない。この状況下では、少々分が悪いだろう。
それでも、俺よりはずっと強いのだが。
「ねえ、さっきの、魔法だよね?随分と、凄い威力だったけど――私でも、使えない位の」
そういえば、リリミィは魔法を使えるんだった。
尤も、ロクに修行してないとかで、単純な攻撃魔法しか使えないらしいが。
それでも、吸血鬼の血が入っているだけあり、かなりの魔力を持っているらしい。俺には、よく分からないが。
そのリリミィが、使えないほどの威力がある、というのは、かなり凄い事なんじゃないだろうか?
「ん、なんだ、お前も魔法を使うのか?さっきのは、私オリジナルの魔法で、花魔法、っていうんだ。魔力自体は、そんなに使わないんだがな」
花魔法。
そういえば、さっきそんな事を呟いていたような。
詠唱、という奴なのだろうか。
「オリジナルの魔法、かぁ」
リリミィは、感心したような顔をしている。
魔法なんてもんは欠片も使えない俺にとっては、魔法を使えるだけで凄い事だと思うんだが。
因みに、俺にも使えるようにならないかと思い、紅桜さんに訊いてみたが、『そっちは専門外』との事。
リリミィにも訊いてみたが、『ロクに勉強してないから教えられない』らしい。
「ところで、あんたら、旅人か?」
「ああ、旅人だが」
少女は、そうか、と一言呟き、
「何処に行くつもりなんだ?」
と、質問を続けた。
「いや、別に、何処かを目指してるわけじゃない」
紅桜さんが答えたことは、半分本当で、半分嘘だ。
確かに、このセカイで、どこか目的地があるわけではない。
が、紅桜さんは、旅の目的を訊いた時、あるセカイを目指していると言っていた。
まあ、セカイが如何とかの件は、無闇に話しても説明が面倒、かつ信じて貰えない可能性や、妙な事に巻き込まれる可能性があるので、言わないのだが。
因みに、セカイを移ってすぐに他のセカイに行かないのは、探している物があるからだとか。
「そうか、それなら都合がいい」
その答えを聞いた少女は、乗っていた箒を器用に手で回転させて、肩に乗せ、
「私も旅人でな。ちょいと、付き合っちゃくれないか?」
そう、言った。
「まあ、いいだろう。どうせ当ても無いし、着いていくのは構わねえ。むしろ、有難いくらいだ」
確かに、当てもなく、かつ来たばかりで何処に何があるかすら分からないこの状況、この辺りに詳しいであろう同行者が加わる、というのは有難いかもしれない。
「よし、決まりだな。じゃあ、これから暫く、よろしく頼む――っと、おお、そう言えば自己紹介しとかないとな」
しかし、なんというか、随分と活発な印象を受ける少女だ。
って、そういえば、リリミィも会ってすぐは兎も角、今は随分と活発――無邪気とも言う――だし、紅桜さんも、活発と言えば活発。
ついでに、友人である之絵も、下手な同年代の男子を上回る活発さがあるし、他にも母さんも男勝りで活発な方だし、確か昔の担任の教師も――
結局、俺の知り合いにお淑やかで大人しい女性は居ないのであった。何故だ。
「来縞 未天(きりしま みそら)、だ。よろしくな」
そう名乗り、紅桜さんに向けて手を差し出す。
「……紅桜、だ」
それを握り返しながら、紅桜さんも名乗った。
「で、あたしはリリミール。よろしくね」
「あ、俺は、赤渓郷流です」
リリミィも名乗った手前、俺も名乗らない訳にもいかないので、名乗っておいた。
「しかし、まあ、あれだな。そこの、郷流って言ったか」
「……はい?」
未天と名乗った少女に、話しかけられる。
なんだろうか。何か――
「両手に花に、更にプラスで、もはやハーレムだな」
あ。
そういえば、この四人の中、俺だけ、男だ。
「――――っ~!!」
「べ、紅桜さん?」
なんだろう、物凄い赤面している。
別に、男が俺一人しか居ないことを指摘されただけなのに―――
「こ、こいつはそのただの道連れ世は情けであって決してわたしとかリリミールとかとそういう関係にあるわけではなくてそのっ!」
「ちょ、落ち着いて、落ち着いて下さい!」
紅桜さんが今までに見たこともない、普段からは想像出来ないような焦った表情をしている。
声からは普段の冷静っぽい感じが消え、少し高めになっており、
ついでに一人称は俺ではなくわたしになっている―――まあ、とにかく。とてつもなく焦っている事はよく伝わる。
「なんだよ。私はただハーレム状態だって言っただけで、別にそこに何か、色々あるだなんて言ってないぜ?」
「……え?」
あ、止まった。
「それとも、あれか。そこまで否定するってことは、実はもしかして――」
「黙れ」
何かを言いかけた未天の目の前に、紅桜さんが音もしない程の速さで刀を抜き、突き付けた。
その表情は、かなり威圧感がある。ぶっちゃけ怖い。
「忘れろ」
「了解致しました」
そりゃ、まあ、その状況じゃそれ以外に選択肢はないだろう。あの目は本気で殺されかねない。
「……処で、郷流にリリミール。お前ら何か見たか?」
「あ、俺ちょっと意識飛んでたかなー」
「え、何かあったの?ちょっと記憶にないんだけど」
なんだこれ。さっきの化物と遭遇したときの数十倍は威圧感と命の危機を感じるんですけど。汗が止まらない。
さすがのリリミィもかなり冷や汗を掻いているように見える。
「よろしい。じゃ、行くぞ、案内しろ」
やっと表情が元に戻った紅桜さんは、鞘に刀を納めると、あまりの威圧感からか崩れ落ちていた沙雨へと声をかける。
「……なあ、あいつって何時もあんなんなのか?」
立ち上がった後、未天は、こちらに近寄って少し怯えたような顔で訊いてくる。
まあ、あんな事されたら、暫くは震えが止まらないのも当然だが。
「いや、あんなのは初めて見た」
未天は、それならいい、と言って、紅桜さんの方へと歩いて行った。
いや、あんなのが普段からだったら、身が持ちませんって。
まあ、紅桜さんの普段見れないような部分が見れたのは、中々貴重な体験だった。
もしそれを掘り起こすようなことを言えば、間違いなく酷い目にあうだろうが。
それにしても、紅桜さんなら、あんなの気にする事すら無いかと思ったんだが。
それに、殆ど、というか、完全に自爆していたし。
意外と早とちりしやすい性格なのかな、紅桜さんは。
「別に、郷流お兄ちゃんだったら、いいんだけどなぁ」
「待て、何がいいんだ。あと、お兄ちゃんってお前――」
いいって何だ。何がどういいってんだ。というか、お兄ちゃんって、お前の方が年上だろうに。
「だって、見た目的には、私の方が年下だしさ。でも、年齢的にはちゃんと成人――あ、でも、近頃は実年齢だけじゃなく外見だけでも問題になるって言うし、どうなんだろ」
「いや、いやいやいや」
何を言ってるんだこの娘は。いや、何を言ってるって、そりゃ、何を――って!
「おい、置いてくぞ?」
「あ、今行きます!」
助かった。これ以上続けてたら俺の精神が持ちそうに無い。
「本当に、郷流お兄ちゃんだったら、いいんだけど、なぁ」
後ろから何か聞こえてきたが、聞こえないことにする。
とりあえず、頭の中に一瞬浮かんだ邪な想像を排除しつつ、紅桜さんと未天の方へと向かう。
「よし、じゃ、出発するか――と、その前に」
ふいに、紅桜さんが未天に眼を向けた。
「未天、だったか。お前は何処へ向かうつもりなんだ」
そういえばそうだ。同行する以上、目的地くらいは聞いておきたい。
「ああ、そういえば言ってなかったな……聞きたいか?」
「聞きたくなかったら訊いてねえよ」
「そりゃそうだな」
未天は少し慣れたらしく、軽く笑いながら応え、答える。

――そして、それが、此度の噺の幕開けとなる。

「魔王を、倒しにいくんだよ」



きちんと構想も練ったし、ちゃんと書きたいところ。



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最終更新:2012年07月09日 22:24