自分の振るった戟で人が倒れて死んでいく。
目の前が真っ赤に染まっていく。
そこには地獄が広がっていた。
「…布、呂布。どうしたの?」
呂布は優しい声で目を覚ました。
呂布「お母さん…。」
呂布の母
「嫌な夢でも見たの?うなされてたけど。」
呂布「うん…、戦場で沢山の人が死んでた…。」
母「…、忘れなさい。そんな夢。」
呂布の一族は旅商人を営んでいた。
西洋から漢へ、漢から西洋へ様々なものを輸送し、売り渡る。
母「あなた、呂布の事なんだけど…。」
父「うん?どうした?」
母「やっぱり呂布のためには一つの場所に留まった方がいいと思うの。まだ友達も出来てないし…。」
父「そうだな、いつまでもお前に付きっきりとはいかんからな。」
父「よし、今度、家に帰ったらしばらくゆっくりしようか。」
夕焼け空が広がっている。
呂布「ねぇ、お母さん、そのネックレスって何なの?」
母「これ?これは十字架よ。これで神様に祈りを捧げるの。」
呂布の母は美しい女だった。目が優しく、そして澄み切った空のように青い。
母「神様は素晴らしい方なのよ、祈りを捧げれば私達を守って下さる。幸せにして下さるのよ。」
呂布「じゃあ、僕も祈るよ、お母さんが幸せになりますように。」
母「ふふ、ありがとう。」
呂布は母親思いだった。父親が仕事で取引をする間、いつもいろんな事を教えてくれた。
母「じゃあ、この十字架を呂布にあげる。いつも祈りを忘れちゃダメよ。」
呂布「うん!わかったよ!」
その夜はいつもと違っていた。
純粋な呂布少年の人生を大きく変えた。
「大変だ!親方!夜襲だ!」
父「何ぃ!皆、焦らず陣形を整えよ!」
呂布「お母さん、こ、怖いよ!」
母「大丈夫よ、あなたは隠れてなさい。」
呂布「お母さんはっ!?」
母「大丈夫よ、私達には神様がついてるもの!!」
「ぐわぁ!だめだ!逃げろ~!」
血の匂いがする。
闇が世界を支配していく。
血の匂いがする。
目覚めると朝だった。
即席のゲルは、無残な形になっている。
呂布「お母さん…どこ…?」
焦げた瓦礫の下に呂布は見てしまった…。
母の変わり果てた姿を。
呂布「お母さん…、何で…。」
呂布は知らぬ間に涙を流していた。
濃度の濃い涙。
呂布は胸にぶら下がった十字架を握りしめた。
何度も投げつけようとして思い留まる。
呂布「何故…神様…。祈ったじゃないか!僕らを守ってくれって…。」
呂布「お母さん…、うわぁぁぁ!!」
そして呂布は鬼神となった。
「…布殿、呂布殿。どうされました?」
呂布「……陳宮…カ。」
陳宮「嫌な夢ですか?うなされておりましたが。」
呂布「アア、全テヲ失ッタ夢ヲ…。」
陳宮「忘れなされ、今は目の前に曹操軍が迫っておりますゆえ。」
カヒ城に冬がやってくる。
近代三国志外伝Ⅱ
夢のまた夢
終了
最終更新:2006年11月23日 22:15