学術論文はここから。
山村高淑・岡本健・嘉幡貴至ほか、2009年、北海道大学 観光学高等研究センター
- 「聖地巡礼」がどのあたりから来ているのか、そのルーツと現在形を俯瞰するのに最適です。ちょっと長いけど読む価値はあり。『おねがい☆ティーチャー』『おねがい☆ツインズ』に端を発する「みずほプロジェクト2008 ~2017年の木崎湖も美しく~」が、『らき☆すた』と並び代表的事例として記されています。「みずほプロジェクト」は2011年現在も活動中。
山村高淑・岡本健編、2010年、北海道大学 観光学高等研究センター
- 前半は鷲宮町のまちづくりの担い手の人々の講演集。後半は論考集。熱心な語りから、鷲宮町が『らき☆すた』とともに、どのような姿勢でコンテンツを作り上げているかが分かります。
最初に結論めいたことを申し上げます。観光と言うと今まで、旅行商品やお土産を開発して売るということを、観光研究も観光業者も考えてきました。しかし、鷲宮町・幸手市の取り組みを見ていますと、単に商品を作って売っているだけではないんですよね。何をやっているのかと言いますと、交流のための仕掛けとか接点を作っている。そして、その結果として、経済的な利益が付いてきていると いうことですね。例えば入込客数をどうするのか、とか、儲けをどれくらい、というようなところからスタートしていない。ここは、非常に重要なポイントだと思います。<21ページ>
率直な感想です。ここに来れば何か面白いことがあるだろう、あそこに行けば誰かいるだろう、こんな企画もここなら出来そう、今回の「萌えフェス」もそうですけれども、実現してしまう、そう思わせる場所が、鷲宮・幸手なのかなと感じて います。<21ページ>
3人で角川書店の担当の方、広報の方とかと、ちょっと一杯飲ませていただいたんですけども、同じようなことをおっしゃっておられました。あちこちから、アニメやキャラクターを使えないのかというお話が来ていると。ただ、どこも全く的外れなんだそうです。単に、キャラクターをつければ良いんだろうと。その程度の認識しかないということで、全く連携する気にはなれないというお話をされていました。<32ページ>
そして、商工会として会員事業主さんの利益が平等になるためにはどうすれば良いんだろうかということで、ファンの方には大変迷惑な売り方かとも思いますが、ストラッ プにしても1店舗2つのみの販売にさせていただきました。その理由は、らき☆すたファンの方々になるべく鷲宮町を巡ってもらいたい。商店の方々には利益を分かち合ってもらいたい。そして、少しでも「らき☆すた」の事業に関わってもらいたいという気持ちから、こういう販売の方法をしています。ストラップについても、ストラップの絵馬自体は春日部の飯島桐箪笥さんが作ってくれていますけれども、あえて台紙は鷲宮町の 印刷会社さんにお願いしています。そして、それを包装するのは、鷲宮の内職のところということで、非常にこっちとしては手間がかかりますが、それでも少しでも鷲宮町の 業者にたくさん関わってもらいたいということで、そういう形でしております。<42ページ>
つまり、彼らのボランティア精神にあふれる姿勢の背景にあるのは、以前から憧れていた場所を訪れたことに満足しているだけでなく、さらに自分の活躍の場を見出したことにより、より満足度を高めているのではないか、ということです。
整理しますと、地域振興のために外から人を惹きつけるためには、入門編としては、 地域の魅力をまずは発信し、広く認識させていくことが大事です。そして次に発展編と しては、外から来た人びとをいかにその地域の内に巻き込むか、つまり地域の人びとと 関わらせていくか、という点を考慮する必要があるということです。<56ページ>
井手口彰典、2009年、鹿児島国際大学『地域総合研究』第37巻 第1号、pp.57-69(※PDF)
- 「萌えおこし」について、キャラクターを創出する主体がメディアか地域かにより、「メディア主導型」「地域主導型」として分類(図参照)、それぞれが「萌えおこし」に至る形態、また「萌えおこしに至らない結果」を例示。さらに、仕掛け手の視点から、萌えおこしにおけるこれから対処すべき問題を議論。
- 地域主導型として、地域が自主的・積極的な萌え付与を行うモデルに注目すべきと主張するが、これから生じる問題として、
・萌えに強い関心を寄せるコミュニティのなかに、萌える感情が冷めた後もリピーターとして地域に定着する人々がどれだけいるか
・萌える対象そのもの、あるいはその萌えに引き寄せられるオタク的な人々に対する嫌悪の眼差しにどう対処するか
・意外性があるからこそ受けている「萌えおこし」が、将来的に広く浸透し、社会全体が萌えに対して「慣れ」てしまう可能性
を挙げています。
たとえば白川郷観光協会は「ひぐらし」効果について,「長期的視野で見ると一時的な盛り上がりはマイナスに働く可能性が高い」と判断しており、マスコミの取材も断っているという。J-CAST ニュースによるオンライン記事「世界遺産の岐阜・白川村の神社:「ひぐらしのなく頃に」ファン大挙押しかける」(2008年10月14日)<63ページ>
コンテンツ創出のプロであるメディア産業が主導する場合とは異なり、地域振興の主体が狙い通り人々の萌えを喚起するのは決して容易ではない。事例としては顕在化しにくいが、主体の思惑に沿う反応が得られず話題にならないまま立ち消えになってしまうような場合も少なくないだろう。また,それまで全く萌えと無縁であった主体が安易に萌えを乱用するような場合、その「あざとさ」が反感や失笑を買う場合もある。<64ページ>
- 本文中で『らき☆すた』をメディア主導型と分類していますが、アニメ放送開始以降に鷲宮神社などを訪れる聖地巡礼者が自然発生的に生まれたことをきっかけに、「地元商工会が主体となって」イベントを行っています。
アルケミストがみなべ川森林組合に提案することで実現した『びんちょうタン』同じ扱いを受けていますが、展開の形態としては大きな違いがあり、分類の仕方には実はもう少し細分化、あるいは別の視点が必要ではないかと考えています。
前原正美、2008年、『東洋学園大学紀要』第16号、pp.131-150
深見聡、2009年、長崎大学「地域環境研究:環境教育研究マネジメントセンター年報」 vol.1、pp.57-64
中谷哲弥、2007年、奈良県立大学「研究季報」第18巻 1・2号、pp.41-56
玉井建也、2009年、「コンテンツ文化史研究」Vol.1、pp.22-34
最終更新:2011年10月25日 23:23