―――リザードン かえんポケモン たかさ1.7m おもさ9(省略されました。全てを読むにはブラストバーンと書き込んでください ちじょう 1400メートル まで ハネを つかって とぶことができる。 こうねつの ほのおを はく。 もう幾度となくにらめっこした図鑑を閉じる。 萌えもん研究の権威であるオーキド博士が作成した物だ。データに狂いはないだろう。 カイリューにも引けをとらない体躯と迫力を備え、羽で飛び、炎を吐く。そんな男の浪漫たっぷりの萌え、いや燃えもん、リザードン。 オレがタケシやカスミといったジムリーダーとの対戦が不利になると分かっていながらもヒトカゲを選んだのは、偏にこのリザードンを 求めたからである。 オーキド博士の研究所でちらっと見かけたリザードンの写真に、オレは一目惚れしたのだ。 この萌えもんを一刻も早く手に入れる。その為に、ヒトカゲと二人きりで旅をしてやる。 その決心は、予想をはるかに上回る苦難を意味していた。 レベル14で覚えたメタルクローもタケシの岩イワークの堅さの前には無力だったし、カスミのスターミーにみずのはどうを喰らった時 はしっぽの炎が消えかけた。互角に戦えると思っていたマチスのライチュウにもまさかのなみのりに撃沈。エリカは流石に楽勝だったが、 ウツボットを下したその瞬間が、リザードのピークだったといえよう。無論、二度のサカキとの対決は共に相打ちが精々だった。 何度挫けそうになっただろうか。そだて屋にあずけてしまおうと思ったのも一度ではない。だがオレは諦めなかった。 考えうる限りの攻撃パターンを研究し、炎タイプなのにあなをほるやソーラービームを覚えさせ、ひたすら旅先のトレーナーに戦いを挑 んだ。メロメロを使ったリザードが 「マスター、何でわたし初対面の雄を誘惑しなきゃいけないんですかぁ? しかも天敵のカメールをぉ」 と訴えた時の涙目は今でも夢に見る。 意外にも愛らしいリザードと瞼に焼きついたリザードンの幻影がなければ、きっと耐えられなかっただろう。 だが、辛い日々は今終わりを迎えた。 オレの目の前に、あの日は平面でしか確認出来なかったリザードンがいる。 はるか上空を飛べるという羽、進化してより一層激しく燃えあがるしっぽの炎、引き締まった紅蓮の肉体。 その美しさに、本来ならこんなぐだぐだと思い出を振り返り独白を繰り返してる余裕もなく見惚れてると言い切れる。 では何故このような事を考えているのか? 理由は至極単純である。 そして、致命的だ。 「マスターダメです、飛べませんよぉ、高いところなんて怖い~っ」 うちのリザードンの性格はおくびょう。ツンデレパッチ当てるとなきむしです。 「ちょっと待ていリザード、ン! お前飛べなきゃ羽なんて飾りだぞ? 飛べないリザードンなんてただのリザードだぞ!?」 「いいですよリザードでー! わたしは進化なんてしたくなかったー!」 「何をぉ? お前ヒトカゲから進化した時は大喜びでヘソクリのちいさなキノコでお祝いしたじゃないか!」 「だってあんまり変わらないもんヒトカゲとリザードなんて。羽ないし」 「ええい何でもいいからそらをとぶを覚えろ! オレが鳥萌えもんを無視しまくったのはお前に飛んでもらおうと考えてたからなんだぞ!」 「そらをとぶなんてほのおタイプにはムリです~!」 それが出来るからこそのリザードンなんだろうがっ。 そう言ってもリザードンはやだやだと恐怖から身を守るために丸まってだだをこねる。 いやね、確かに気にならなかった訳ではないですよ? コイツ以外の萌えもんは気にせずメロメロやってたし、他のトレーナーのリザードに比べて随分ビクビクしてたし。 そういえばポケモンセンターのジョーイさんが「貴方のリザード『もうすぐ36になっちゃう~』って凄く震えてましたよ?」とか言っ てたっけか。あれ、思い返すとビックリする程フラグまみれじゃないか。 「大体マスターはひどいですよ! なんでバタフリーやマンキーが野生でいるのにわたしをイワークと戦わせるんですか。ハナダのジム戦 なんてあろうことかスターミーとガチンコやらせたじゃないですか。スターミーですよ? 水萌えもん中屈指のドSで有名な万能砲台です よ? あいつを打倒出来たらカメックスでもシャワーズでもドンと来いってなもんですよ」 ちなみにSはスピード超ヤバイのSらしい。 「覚えさせてくれる技だってめちゃくちゃなのばっかり。あなをほるなんて、しっぽの炎がいつ酸素不足で消えないか地面の中でひやひや もんですよ。わたしはひのことか、かえんほうしゃとか、だいもんじとか、もっとほのおタイプの王道を突っ走りたかったんです。挙句メ ロメロなんて、わたし種族に見境ない万年発情期女みたいじゃないですか~!」 自分の言葉に興奮してるのか、不満を吐くにつれ涙としっぽの炎が正比例の関係で増えていく。あつっ! 今足にかすったぞ! 火が! 「お、落ち着けリザードン。確かに采配や技に関してはオレが悪かった部分も多い。これからは気をつける」 「いいんですいいんです。どうせわたしは空も飛べないダメードンなんです。気をつけるも何もこれから使ってもらえないんです」 「そんな事あるか。お前はオレがトレーナーになる瞬間から憧れてた萌えもんなんだ。そんなお前を捨てるもんか」 それは本音だ。 どんなに臆病で泣き虫でも、こいつはオレの旅に最初から付き合ってくれた相棒だ。 イメージとはちょっと、いや大分、もしかしたら九分九厘は違ったが、それでも使わないなんて事はありえない。 しかしリザードンは分かってくれない。いやいやと首を振る。 「マスターはずーっとリザードンに憧れてたじゃないですか。カイリューにも伝説の萌えもんにも引けをとらない最強のかえん萌えもん。 わたしなんかじゃそんなマスターの求めてるリザードンにはなれません。空も飛べないって知って、マスター凄い怒ってる。 わたしはもっとちっちゃい体のままで、マスターと平和に旅を続けたかったのにぃ」 「リザードン…お前」 「あ、ごめんなさいごめんなさい! 言い過ぎました泣きすぎました、萌えもんの分際でごめんなさいぃ!」 ちょっと口答えしたと思ったらすぐこれだ。なだめるにもこれではまず言葉が届かない。 仕方ないか。 ひでんマシンを鞄に戻す。えーと、ボール系は確か右ポケットに…… 「え、マスター?」 「リザードン。空なんて飛ばなくていい。最強のかえん萌えもんにもならなくていい」 「そんな、見捨てるみたいな事言わないでくださいよぉ。頑張ります、わたし頑張って」 「てい」 弁解も聞かずにリュックの肥やしになっていた紫のボールを投げる。 どんなに泣いていようがオレの憧れだろうが萌えもんは萌えもん。リザードンはぱかんと開いたボールに問答無用で吸い込まれてしまった。 ボールはいつもの捕獲と同じように、揺れて、止まった。じんわりとこみ上げる後悔。 「これでシルフ救ったのパーか。せっかくフリーザーにでも使おうって思ってたのに」 だが今のリザードンが元のモンスターボールに戻ってくれるとも思えなかったし、貴重って意味では多分差はないだろう。 そう自分に言い聞かせてボールを拾う。今さっきまで大騒ぎしてた萌えもんが入ってるとは思えない程軽く、静かだ。 散々浴びた数多い不満は、日頃から溜めていた鬱憤だったのか、それとも進化して興奮した結果の暴走だったのか。 そして、あの言葉。 ―――マスターと二人で平和に旅を続けたかったのにぃ。 ボールをホルダーにはめて、思いっきり伸びをした。 それで足の火傷とか憧れがぶち壊れた心傷とかがなくなってくれればいい、と考えるぐらい思いっきりに。もちろん、そんな事はありえ ない。 だから、後悔もなくならない。 「そんなの当たり前の事じゃないか。難しいもんだな、全く」 今日の寝床に足を運ぶ。リザードンがこれでは先に進むのは絶対に無理だし。 まずは旅の始めから考えていた『リザードン無双で四天王打破プロジェクト』をまっさらにしよう。 それからやり直そうな、と聞いているはずもない、泣き虫なかえん萌えもんに呼びかけた。 リザードンが進化してから性格が臆病だと気づいたのは実話だったりする。 そして臆病なリザードンを妄想したら大変萌えましたというお話。