「進化したい」 トレーナーのそばにきたゴーリキーがそう言い出す。 「なんでだ? 今のままでもいいだろ?」 「強くなりたいから」 最近の萌えもんバトルで、力不足でも感じたのだろか? たしかに相手の体力を削りきれず、反撃でやられるということが何度かあった。 「それにお前の夢が叶う手伝いには、力がたりないと思うし」 顔を赤くして、ごにょごにょと付け加える。声も小さかったので、トレーナーには何を言っているかわからなかった。 「よく聞こえなかった。もう一回頼む」 「っ!? なんでもない! とにかく今以上に強くなりたいんだ!」 顔は赤いまま、誤魔化すように大きな声を出す。 「ゴーリキー」 トレーナーが真剣な表情になる。 その自分よりも弱いはずの人間の気迫に、ゴーリキーは気圧される。 「な、なんだよ」 「たしかに進化すればお前は強くなる。それは間違いないだろう。 しかしそれは一時的な強さだ。このまま鍛え続けていけば、いずれその強さに達するし、超すこともできる。 そんな強さが本当の強さだろうか? 俺は違うと思う。強さとは、努力の積み重ね、得た経験、不屈の闘志が合わさったもののことを言うと思う。 ゴーリキー、俺はお前を信じている。誰にも負けないそんな強さを得ることができると。そのための努力を惜しまないと。 だから安易な強さを求めるのは、考え直してくれないか?」 その言葉を受けて、ゴーリキーはじっと考え込む。 「…………わかった。そこまで言うなら、進化はやめる。 ちょっと走ってくる」 信じていると言われて嬉しいゴーリキーだが、その嬉しさを表にはださず隠し続ける。 けれどいつまでも我慢はできないので、走るという名目でその場から離れた。 背を向けた瞬間、ゴーリキーの顔は嬉しそうな表情となっていた。 同じようにトレーナーの表情も、ほっとしたものへと変わる。 「上手く誤魔化せてよかった」 嘘と本当を混ぜた話術が成功して喜んでいる。 ゴーリキーもよく自分の仲間たちを見れば、進化を止められた本当の理由がわかったのかもしれない。 自分も含めて、ショートカットで成人姿のもえもんばかりだということに。 ゴーリキーが進化してカイリキーへとなれば、髪形が変わる。 トレーナーが進化を止めた理由は、ショートカットが好きだからだった。