5スレ>>387

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5スレ>>387 - (2008/05/24 (土) 22:02:08) のソース

マスター、私、進化できました!

                     おめでとう! テッカニン!

はいっ、これからもマスターのために頑張ります!

           新化おめでとう~♪

    いいなぁ~、アタシも早く進化したぁい~!

                           私は進化しないから、成長するというのが羨ましいわ…





『…あの……』


進化したテッカニンを囲む1,2,3……6人の輪。

その輪から外れた場所に1人、宙に浮く萌えもんがいた。

あまりにも長い袖を垂らし、背中には6枚の羽根、頭には2つの鈴と大きなわっか。



『…私に…気付いてください……!』

彼女は必死に声をかける。しかし、誰も気付いてくれない。

気付くどころか、まるで無視するかのように、彼女がここに存在しないかのように、進化を喜びあっているのだ。



                       さぁ、疲れただろ、萌えもんセンターに戻ろう!

はいっ!
           りょ~かいっ♪
                         戻ったらおいしいものが食べたいわ…♪




『ま…ますたー…!』


必死に手を伸ばす。しかしそれは虚しく宙を掴み、彼女達のマスターは、森の入り口へと姿を消してしまった。


『おいて…かない……で……』



彼女はその名の通り、元の体からも、メンバーからも『抜け』てしまった。


『どうして……こんな姿に……なっちゃた……んだろ……』


一人切り株に座る少女。その姿に最早『生』はなかった。

ただずっと下を向き、ただずっと自分を見つめる。 いつしか目からは涙で溢れていた。


       ガサガサ……

揺れる叢の音に再び彼女に『生』が戻る。

「ふぅ…」

出てきたのは、1人の虫取り少年だった。あたりをキョロキョロと見回し、虫を探しているようだった。


『あの……!』


彼女は少年の前に出る。これなら、絶対に気づいてくれるだろうと。

しかし……

少年はキョロキョロしながら、彼女の体を通り過ぎてしまった。

彼女の顔に絶望の色が浮かぶ。


『すみません…! 気付いて……くださ……』


と、言いかけた時。

「ふぅ…ここらへんは虫さんいないなぁ~」

その言葉は彼女を『死』に追いやるのに十分すぎる言葉だった。


『いない……私は……いない……』

フラフラと切り株に腰を下ろす。


―― 他人に気付いてもらえない、そんなのどこぞの霊と同じ…

   いや、同じなわけじゃない。 自分が霊になってしまったのだ。

   私は進化したのではない…  死んだのだ。         ――


彼女はそう悟った。

光を失った目、止まらない涙、絶望の闇に囲まれた彼女にできることは何一つなかった。

『…神様……何故…私をここに留まらせるの……?』




――――――――
――――――
――――
――


いくらか日が流れた。

彼女は今日も、切り株に腰を下ろしている。

目は虚ろになり、涙は枯れ果て、体に生が感じられないその姿はまさに地縛霊そのものだった。

周りで音がしても気に留めず。風が体を撫でても感じようとしない。何かが触れてもそれに反応しようとしない。



『………………』


――――――――

―――――か?

――――大丈夫か?


『…………え…?』


いつの間にか、声をかけられていた。

いつの間にか、息を感じていた。

いつの間にか、肩を触れられていた。


彼女が視線を上げると、そこには1人の人間がいた。

『…私が………見える……の…?』

「もちろんさ、そんなやつれた顔して……大丈夫かい…?」

『…あ…あぁ…………』

彼女の目に再び光が戻った。

大粒の涙が溢れ、体を小刻みに震わせるその姿に既に『死』は存在しなかった。

「ど、どうしたんだい……?」

「う……うわぁぁぁぁあああんん!!」

彼女は人間に抱きつき、大声で泣き叫んだ。



―― 私に…気付いてくれた… 今までずっと、気付かれなかったのに…

   初めて…初めて……

   私は死んだのじゃなかったんだ…  ちゃんと、進化できたんだ…! ――


「うわっ!? いきなりどうしたんだ…!?」

「ひぐっ…えぐっ…」

泣き声は、しばらく止むことはなかった。



―― よかった… 私はちゃんと…… 生きてたんだ……!――
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