《 サヴァイブでの特殊な情勢など 》
【 開放街道 】
南西部の<人族原理主義国家>から<融和国家>をつなぎ、そして<融和国家>から海岸沿いに東方へ伸びていた人族領域の生命線たる長大な街道です。この街道の東側は<蛮族領土>を南と東から包み込むように伸びており、やがて蛮族領域をも突き破って<融和国家>へと繋がるはずでした。しかし道は円となる事はなく、<蛮族領土>に阻まれたまま未完成で終わっており、その果てはエンドラインと呼ばれます。現在エンドラインは魔神領域の最奥に位置しており、<融和国家>から東方へ伸びる街道は国境の対魔神前線によって事実上封鎖されています。人族がエンドラインに再び到達し領土を取り戻した時、それは蛮族と魔神との戦いにおいて優勢にあるという証となるでしょう。人族が支配する開放街道の長さは、人族にとって勝利のバロメーターそのものなのです。
【 守りの剣 】
守りの剣は人族が安寧の日々を送るにあたって必要不可欠な魔剣です。しかし古代遺産であり量産技術が喪失している現代において守りの剣は圧倒的に不足しており、そのために守りの剣の安置所は厳選されます。その安置は円卓議会の採決によって戦略的重要性の高い集落を基本として決定されます。たとえば資源鉱山や有数の巨大市場、前線での要となる要塞などです。
都市にまで発展した集落は稀なので基本的に都市規模の集落には守りの剣が与えられますが、都市へ至る途中の町となればその判断は難しく、そのため守りの剣が存在する町とそうではない町が混在しています。村に至っては決して与えられる事はありません。
町に置かれる条件として、名声ある強力な武力集団が逗留している事があげられます。これは守りの剣の奪取が警戒されているためです。防備が薄い町に守りの剣を置く事はかえって破壊や簒奪を狙う強力な外敵を招くとし、そのため防備に回す余力の少ない町は守りの剣が与えられないという危機が乗算される日々を生き抜く事を求められます。皮肉にもその事が冒険者に仕事を供給し、結果的に「名声ある強力な武力集団」を要する町となっていくのですが。
【 食料と隊商 】
<融和国家>において人々の空腹を癒す食物は数多の小さな畑からの農作物と森表層での狩り、そして南西の<人族原理主義国家>から輸入されており、特に食品輸入によって<融和国家>は維持されています。。<融和国家>は蛮族と魔神との戦いのために人手と土地を奪われており、自給自足が困難なためです。比較的安全な後方で開拓団や難民が農園で働いていますが、一つ一つの規模はとても小さく、見渡す限りの大農園は存在しません。これは大規模農園を蛮族や妖魔、魔獣から保護できる兵士を融通できない事、また大規模な食料生産施設は空を飛んだり巨大だったりする魔獣や蛮族の獲物として目立ってしまうために、大規模化が阻まれているためです。
このために開拓村の一つ一つの人口規模は小さく、多くて100人、平均として50人程度となります。少ない人口では1人の損失が致死的な状況を招くために生存第一として開拓村は要塞化されており、畑なども要塞の内部に作られています。
開拓村と同様に町や都市も人口数は通常のラクシアよりも低めであり、その分、集落の数が増えています。これら多くの集落をめぐる隊商はより重要な意味を持っており、<融和国家>と<人族原理主義国家>を結ぶ街道は食品貿易で絶えず隊商が渡り歩いており、そしてそれら隊商の物資も狙われる事となり、護身のために隊商は目立たない少人数で活動し、冒険者や傭兵を雇用するなどして重武装しています。時に大規模なキャラバンが結成される事もありますが、これは国家の急務として国からの要請でなされるもので、前線への人員・物資輸送が主な内容となります。
【 近海と河川 】
物資の流通は陸地だけではなく水運と海運も重用されています。得に河川は流通だけでなく生活用水工業用水などの必需もあって人族の生命線であり、河川の維持は人族領域の死活問題に直結します。これら河川の維持に重要な役割を果たしているのがエルフ達です。水場に強いエルフ達は船を脅かす水棲の敵対生物に対して最良の種族だからです。
エルフ達は河川だけでなく近海貿易においても強力な守護者として活躍しています。海は河川以上に危険な敵対生物で溢れており、エルフの守護あっても近海を超えて外洋を航海できません。また近海であっても海を縄張りとする強力な魔神とも時に遭遇し、エルフもろとも貿易船が沈む事は珍しくありません。しかし近海の航海は短時間での大規模な輸送を実現可能なために廃れる事はありません。
こうしたエルフの護衛や頑丈な船を必要とする水運は資本に猶予のある大商人が行っており、水運は彼らの独占状態となっています。<融和国家>、<人族原理主義国家>ともに、商人が危険に萎縮するのを軽減するために沈没保険などの政策もとっており、独占状態故の腐敗もはびこっていますが、人族にとってなくてはならないために国も黙認する他ない状況となっています。
【 人族の空 】
魔導器文明の遺産であるマギテックエンジンを活用した飛行船は<人族原理主義国家>に試験品が一隻存在しますが、実用化はされておらず、空運は全く機能していません。ペガサスやピポグリフなどの飛行可能な騎獣を活用した小規模な輸送は存在しますが、それら騎獣の絶対数の問題で運送規模としては雀の涙です。さらにそれら騎獣も飛行時はとても目立ってしまうため、空飛ぶ蛮族や魔獣の餌食となる可能性が非常に高くなってしまいます。得に蛮族領域付近の空域はガルーダ達が制空権を握っており、一度人族の空中輸送隊を見つければどこまでもこれを追いかけて壊滅させてしまいます。このため、空を飛ぶ事は自殺行為としてみなされており、飛ぶにしても地形追随飛行が強く推奨されています。
<融和国家>はドラゴンと盟約を結んでいますがドラゴンライダーはペガサスライダー以上に希少であり、また盟約を結んでいるのはドラゴンのごく一部でありその大半は敵対状態のままとなっています。そのためドラゴンの支配する山岳はドラゴンライダーであっても非常な危険な空域なのです。
【 開拓村の発足 】
開拓村は当然ながら誰にも手入れされていない険しい大自然を切り開いて外敵を警戒しながら最低限の施設を建造してやっと村が発足します。最前線の〈融和国家〉ではいつ襲撃があるかわかったものではありません。平坦な大地をそのままに村を作った場合、畑などの生産施設を建設しやすくなり、経済としては豊かになれますが、防衛を塀だけに頼るために襲撃を受けると致命的な被害を蒙ります。
そのため、まず建造するのは防衛のための砦です。平地のままにしておかず、土塁を築いて柵を建て、内側に見張り台や迎撃のための櫓をたてる、その中央にまた土塁を築いて緊急避難施設もかねた簡素な出城を建設します。生産施設はその砦内部の空き地に用意する事となります。蛮族や魔神、山賊の襲撃に備えるために建設速度も大事になります。このため村建造には大量の資材や人手、それらを用意するための大量の現金、そして人夫を守るための護衛が必要になります。開拓村とは簡素な城を作るに等しい事業であり、村の拡張は塀を新たに外部に作っていく事で成されます。ラクシアにおける年輪王国の由来、それがこの世界では村単位で行われているのです。
しかしすべての村に出城を作れるほど余裕も時間も勇敢な人手も現実的にはありません。出城を作ったものの、災害によって失われ再建できずに放置されている村もあります。このようにどうしても城を作れない場合、土塁と櫓が建設されるに留まり、こうした「標準的」な村は常に襲撃の危機に苛まれ、砦の防衛力で蛮族達との力の差を埋めづらい村は低位の妖魔にも侮られ、こうした村であるほどにゴブリンや山賊などが付近に出現します。出城を有する村も、拡張していくと平野に施設が広がっていき、高さを活かした防衛が困難となっていきます。冒険者の庇護を必要とするのは、こうした防衛力に難を有する村であり、そしてそうした村が全体として大部分なのです。防衛施設のない村は人族の悲願で、それに近い姿は比較的安全な<人族原理主義国家>の後方でようやく見受けられます。
村の発足にはこうして莫大な資金を要し、国家として取り組んでいかねば大商人の財力といえどすべてを賄うなどできません。<融和国家>は不足する資金や食料を<人族原理主義国家>から借り入れています。この負債と必須の前線が、<融和国家>と<人族原理主義国家>を共存・共闘させる楔となっています。
【 民間人の武装と戦術 】
人族は蛮族よりも脆弱で、妖魔であればともかく上位蛮族相手ともなれば単純な肉体戦闘能力ではとても叶うものではありません。妖魔であっても虚弱な一般人にとっては恐ろしい存在です。そのため蛮族とも戦える冒険者や専業戦士の存在が常に必要となりますが、その数は全く不足しています。そうした中で強くなれない人々はその弱さを補うための武装を整える必要があります。
弱さを補う武器の筆頭は飛び道具です。狩人の弓は村の防衛にて重要な戦力となり、経験を重ねる事ができた狩人は英雄となり、騎士並の頼り強さを誇ります。次に長い柄をもった武器、槍です。集団でまとまった強固な槍衾はケンタウロスの襲撃を退け、土塁の柵から一方的に敵を突き刺せます。これらの欠点は攻める事に不向きであるという事ですが、そもそも打って出れる程に並の人族は強くありません。さらに損失を許容できるほど数に優れてもいません。防衛に専念し、直接武力で敵を倒せる英雄の到着を待つ、それが人族の基本戦術です。
もし英雄の到着前に門が破られた場合、彼らは直接その身で進撃を食い止めなけれればなりません。しかし一般職に従事する人々が専門的な長期訓練や高額な武具を用意などできません。そこで「安く用意でき、短い時間でも習得できる戦闘技術」が求められます。それが「フェンサー」による安く済む軽装で急所を狙う戦術なのです。「フェンサー」は民間人の戦闘技術として常に危険と隣り合わせの<融和国家>では習得が(特に村では)強く推奨されています。クロスボウは狩人ほど弓に熟練する時間を取れない民間人にとって打撃力を狩人と肩を並べられる頼もしい武器ですが、重量があるのが難点とされます。投石は弾薬に困らないというメリットから籠城時の強い味方としてスリング部隊は頻繁に見受けられます。
【 人族と人族の戦い 】
<融和国家>では常戦場の意識から、民間人であっても戦闘技術を有している存在は珍しくはありません。それが治安においては逆効果となっている一面もあります。強盗や山賊の多くは帰る場所を失った人々であり、その中には実戦経験者も多く存在します。物資に不足する犯罪者集団にとっても「安く済む」フェンサー技能は蔓延しており、これらの敵性人族に立ち向かう場合、金属鎧が重要になります。そのため、都市や町の治安を専業として担う警邏はフェンサー技能ではなくファイター技能を有するか、軽くて安い粗悪な金属鎧を装備しています。町中での金属鎧での着用は<融和国家>において、過剰な警戒ではないのです。人族に対する備えとしてのファイター技能は、町中に潜伏している変身能力をもった蛮族との戦いにおいて皮肉にも貢献しています。
【 ガメル貨幣とガメルメイカーについて 】
ガメル貨幣は人族の存在する地域であれば必ず存在し、それ以外の貨幣は存在しません。ガメル貨幣には金貨や銀貨、銅貨など取引に必要な単位が揃えられています。これらの貨幣は金や銀などの資源で作成されていますが、重要な事として、全ての貨幣には「ガメル鉱石」を含んでいます。このガメル鉱石は自然に存在しておらず、ではどのように得られるかというと、ガメル神から直接現世へと送られてきます。それも造幣済みの貨幣として。ガメル鉱石と希少資源で作られたガメル貨幣は、ガメル神の祭器「ガメルメイカー」を通じて生み出されます。
ガメルメイカーは現在<人族原理主義国家>の首都と<融和国家>の首都にて厳重に保管されています。<蛮族領土>に流通しているガメル貨幣は奴隷の資産を奪ったものや、略奪で奪われたものです。ガメルメイカーは所有者が随時貨幣を任意に生み出せるものではなく「インフレ」あるいは「デフレ」にならないように調整されて自動的に生み出されます。ガメル貨幣の偽貨幣はガメル鉱石を含んでいないためにガメル神の「ディテクト・トゥルーコイン」の魔法によって看破されます。ガメル貨幣はそれ自体が特殊なマジックアイテムであり、何かしらの理由で損壊・喪失した場合、代わりに新たな貨幣がガメルメイカーから生み出されます。
このガメルメイカーは古代神の召喚と引き換えに得られるもので、人族の両国家はガメルメイカーを得るためにガメル神の最高司祭を喪失しており、現在において再びガメル神の召喚を成せる程の徳を積んだ司祭を有していません。ガメルメイカーが存在しない国家は、ガメルメイカーを有する国家に隷従する事を強いられます。これ故に国家分裂は最小限に抑えられ、各国家は中央集権を成しています。ガメルメイカーを手に入れる事は独立国家としての保証を手に入れる事でもあり、そしてこれが奪われる事は国家が簒奪された事を意味するのです。そしてガメルメイカーもまた魔剣として迷宮を生み出す事があり、自らが簒奪されそうになると迷宮を生み出してこれを妨害します。噂ではガメルメイカーは人格を有しており、その人格はガメル神を召喚し破滅した大神官であるとの噂もありますが、民間人はそれを確認する術を持ちません。
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