我々、他民族からなる満洲國の国民は、国際社会のうちの民主主義の占める役割を高く評価し、民主主義の思想を根幹とした憲法を確定する。
国家の基礎は国民にあり、国家の運営は国民の代表者によって行われ、国家の福利は国民全体がこれを享受するという民主主義の根幹に基づいた憲法を我らの国家は遵守すべき事を厳粛に宣言する。
更に満洲國国民は、この憲法の規定は、国家と国民という対立概念に留まらず、基本的人権の尊重は、いかなる場合も尊重しなければならず、自国の国民間のみならず、他国の国民との間にも、国家の基礎を揺るがさざる限り、他国民もこの憲法の規定の利益を享受するよう努力する。
第一条 満洲国は、五族協和を基本的理念とする他民族国家であり、国家の意思決定は国民の意思に基づいて行われる民主主義国家である。
第一章 国民の基本的権利
第二条 人間の尊厳は不可侵である。これを尊重し、および保護することは、すべての国家権力の義務である。
第三条 全ての人間は法律の前に平等である。
二項 男女は、平等の権利を有する。国家は、男女の平等が実際に実現するように促進し、現在ある不平等の除去に向けて努力する。
三項 何人も、その性別、門地、人種、言語、出身地および血統、信仰または宗教的もしくは政治的意見のために、差別され、または優遇されてはならない。何人も、障害を理由として差別されてはならない
第四条 何人も、生命に対する権利および身体を害されない権利を有する。人身の自由は不可侵である。
第五条 信仰および良心の自由は、不可侵である。
二項 宗教的活動の自由は、保障される。
第六条 何人も、言語、文書および図画をもって、その意見を自由に発表し、および流布し、ならびに一般に入手できる情報源から妨げられることなく知る権利を有する。出版の自由ならびに放送および放映の自由は、保障する。
二項 これらの権利は、一般法律の規定、少年保護のための法律上の規定および個人的名誉権によって、制限される。
三項 学問及び研究ならびにその教授は、自由である。
第七条 信書の秘密ならびに郵便および電気通信の秘密は、不可侵である。
第八条 国民は、集会する権利を有する。
二項 屋外の集会については、法律によって、または法律の根拠に基づいて、これを制限することができる。
第九条 国民は、団体および組合を結成する権利を有する。
第十条 国民は、職業・職場及び職業教育の場を自由に選択する権利を有する。
第十一条 住居は不可侵である。
二項 捜索は、裁判官のみが、危険急迫のときは法律で定める他の国家機関も、命ずることができ、かつ法律の定める形式によってのみ行うことができる。
三項 一定の事実によって、法律が個別に定める特に重大な犯罪行為をある者が犯したという嫌疑が根拠づけられるとき、他の方法によっては事態の捜索が著しく困難になりあるいは見込みがなくなる場合には、裁判官の命令により、被疑者がおそらく滞在している住居の音声を監視するための技術的手段を講じることが許される。
四項 とりわけ共通の危険や生命の危険のような、公共の安全に対する急迫の危険を防ぐため、裁判官の命令によってのみ、住居を監視するための技術的手段を講じることができる。危険が急迫しているときは、法律が定める他の機関によっても、この措置を命じることができる。
第十二条 所有権および相続権は、これを保障する。内容および制限は、法律で定める。
二項 所有権は、義務をともなう。その行使は、同時に公共の福祉に役立つべきものでなければならない。
三項 公用収用は、公共の福祉のためにのみ許される。
第十三条 何人も、個人で、または他人と共同して、書面で、管轄の検閲および国民代表機関に対して、請願または苦情の申立てを行う権利を有する。
第十四条 全ての国民は、健康で文化的な生活を営む権利を有す。
第十五条 国民は教育を受ける権利を有する。
二項 国民は法律の定むる所によりその保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。
第十六条 自由で民主的な基本秩序を攻撃するために、本章に定める規定を濫用する者は、その限度においてこれらの基本的人権を喪失もしくは制限される。
第二章 大君
第十七条 満洲國の元首は大君とする。但し、大君は満洲國に対する国際法上の代表権を有しない。
第十八条 大君の地位は、代々
大日本帝國天皇の皇統に伝える。
第三章 満洲國のための大君の枢密院並びに満洲國執政
第十九条 満洲國のための大君の枢密院と呼ばれる顧問機関が、満洲國政府に設置される。枢密院の顧問官は、満洲国に居住する国民の中より任命される。
第二十条 枢密院の顧問官は、満洲國大君の統治権の行使に関する全ての事項について大君、立法院及び国務院の諮問に答える。
第二十一条 枢密顧問官の長を執政として、満洲國大君の満洲國の統治権を代行させる。
第二十二条 執政は、以下の者を任命する。
一 国務院総理
二 国務院総理の指名する国務院閣僚
三 国務院の指名した最高法院裁判長及び裁判官
四 親任官とされる文武官
五 各省長官
第二十三条 執政は立法院を召集し、其の開会、閉会、停会、会期の延長及び立法院の解散を命ず。
二項 執政は立法院にて議決されたる法律を裁可し、其の公布及び執行を命ず。
第二十四条 執政は満洲國陸海空軍及び海上警察部隊を統帥す。
第二十五条 執政は左の外交行為を行ふ。
一 戦を宣し、和を講し、及び諸般の条約を締結すること。
二 外交使節に対し、其の外交行為を全権委任すること。
三 大使及び公使に対する信任を行ふこと。
四 外國大使及び公使の信任状を受理すること。
五 國賓を迎接すること。
第二十六条 執政は戒厳を宣告す。
二項 戒厳の要件及び効力は法律を以て之を定む。
第二十七条 執政は勲章及び其の他の栄典を授与す。
第二十八条 執政は大赦、特赦、減刑及び復権を命ず。
第二十九条 執政は元号を定む。
第三十条 執政に事故あるときは、枢密院の顧問官のうちの次席が執政の職務を代行する。
第四章 立法院
第三十一条 満洲國立法院議員は、普通、直接、自由、平等、秘密の選挙により選出される。議員は、国民全体の代表者であって、委任および指示に拘束されず、かつ自己の良心にのみ従う。
二項 満20歳に達した者は、選挙権を有し、満25歳に達した者は、被選挙権を有する。
第三十二条 立法院議員は現行犯罪を除く外、会期中に院の許諾なくして逮捕されない。会期前に逮捕された議員は、釈放されなければならない。
第三十三条 立法院議員は議院に於て発言したる意見及び表決に付き、院外に於て責任を負わない。但し、議員自ら其の言論を演説、刊行、筆記又は其の他の方法を以て公布したるときは一般の法律に依り責任を負うことがある。
第三十四条 立法院は毎年一月召集する。
第三十五条 国務院は臨時緊急の必要ある場合に於て、又は各々其の総議員の四分の一以上の要求がある場合に於ては、臨時會を召集すべし。
第三十六条 立法院が解散を命ぜられたるときは、三十日以内に新に議員を選挙せしめ、その選挙の日から十日以内に之を召集すべし。
第三十七条 立法院は、議長及び副議長を選挙する。立法院は、議事規則を定める。
二項 議長は、立法院の建物内における施設管理権および警察権を行使する。議長の許諾がなければ、立法院の構内において、いかなる捜索、押収もしてはならない。
第三十八条 立法院の会議は公開す。但し、政府の要求又は院の決議に依り秘密会とすることができる。
第三十九条 立法院は其の議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を要す。
第四十条 立法院は法律又は其の他の事件に付き、各々其の意見を政府に建議することができる。但し、政府が其の採納を行わなかったものについては同会期中に於て再び建議することはできない。
第四十一条 国務院総理及び國務院閣僚は何時たりとも議院に出席し、及び発言することができる。又答弁又は説明のため議院出席を求められたるときは出席しなければならない。
第五章 国務院
第四十二条 国務院内閣は、国務院総理及び国務院閣僚をもって組織する。
第四十三条 国務院総理は、立法院によって選挙され、執政によって任命および罷免される。
二項 執政は、選挙された人物についてこの憲法の規定を遵守する人物であるか審査のため枢密院の議に附す。
三項 前項の規定の結果、立法院によって選挙された人物が、枢密院の審査に会わない人物であるときは、立法院は再度の選挙を行う。
第四十四条 国務院閣僚は、国務院総理の推薦に基づき、執政によって任命および罷免される。
第四十五条 立法院は、その議員の過半数をもって国務院総理の後任者を選挙し、かつ、執政に国務院総理を罷免すべきことを要請することによってのみ、国務院総理に対する不信任を表明することができる。
二項 執政は、この要請にしたがい、選挙された者について第四十三条の審議に従いこの人物を任命しなければならない。
第四十六条 自己に信任を表明すべき旨の国務院総理の動議が、立法院議員の過半数の同意を得られなかったときは、執政は国務院総理の申立てに基づいて、21日以内に、立法院を解散することができる。本条に基づく解散権は、立法院が議員の過半数をもって、別の国務院総理を選挙したときは、直ちに消滅する。
第四十七条 国務院総理は、政治の方針を決定し、かつその責任を負う。この方針の範囲内において、各国務院閣僚は、独立してかつ自己の責任において、所管の事務を指揮する。
第四十八条 国務院は他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 命令を制定すること。
二 法律を誠実に執行し、國務を総理すること。
三 外交関係を処理すること。
四 満洲國軍隊に関する統帥権を行使すること。
五 條約を締結すること。但し、事前に又は事後に枢密院及び立法院の承認を経ること。
六 法律の定むる基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
七 予算を作成し、立法院に提出すること。
八 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
第四十九条 国務院総理及び各国務院閣僚は其の在任中に訴追されない。但しこの規定は訴追の権利について全面的に害する規定ではない。
第六章 司法
第五十条 司法権は、裁判官に委ねられる。司法権は、最高法院及び法律にて定められた下級裁判所によって行使される。
第五十一条 最高法院は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項についての規則を定むる権限を有する。
二項 検察官は最高法院の定める規則に従わなければならない。
三項 最高法院は下級裁判所に関する規則を定むる権限を下級裁判所に委任することができる。
第五十二条 最高法院は、最高法院院長及び法律の定める員数の其の他の裁判官で之を構成すす。
二項 最高法院裁判官は法律の定むる年齢に達した時に退官する。
第五十三条 下級裁判所の裁判官は、最高法院の指名した者の名簿によって国務院が任命する。其の裁判官は任期を十年とし再任されることができる。
二項 下級裁判所の裁判官は法律に定むる年齢に達した時に退官する。
第五十四条 検察官は法律に定めるところにより独立して検察権を行使する。
第五十五条 裁判官は法律に定めた資格を具ふる者が任命されなければならない。
二項 裁判官は刑法の宣告又は懲戒の処分に由るの外、其の職を免ぜられない。
三項 懲戒の條規は法律を以て之を定める。
第五十六条 裁判の対審、判決は公開する。但し、安寧秩序又は風俗を害するの虞あるときは法律に依り、又は裁判所の決議を以て対審の公開を停むることができる。
第五十七条 最高法院及び法律にて定められたる下級裁判所は、訴訟上において、一切の法律、命令、規則又は処分が此の憲法に適合するか否かを決定する権限を有す。
第七章 会計
第五十八条 國家の歳出、歳入は毎年予算を以て立法院の議決を経なければならない。
二項 予算超過、又は予算外支出あるときは後日、立法院の承認を得なければならない。
第五十九条 新に租税を課し及び税率を変更するは法律を以て之を定むべし。
二項 但し、報償に属する行政上の手数料及び其の他の収納金は前項の限りに在らず。
第六十条 国債を起し及び予算に定めたるものを除く外國庫の負担となるべき契約を締結する際は、立法院の議決を経なければならない。
第六十一条 公共の安全を保持する為、緊急の需要ある場合に於て内外の情形に因り、政府は立法院を召集すること能はざるときは命令によって財政上必要の処分を為すことができる。
二項 前項の場合に於ては次の会期に於て立法院に提出し、其の承諾を求むなければならない。
第六十二条 国家の歳出、歳入の決算は会計検査院が検査確定し、国務院は其の検査報告とともに立法院に提出すべし。
二項 會計検査院の組織及び職権は法律を以て之を定む。
第八章 地方自治に関する規定
第六十三条 満洲國の地方自治制度は、市町村、県、省並びに特別市によって組織される。全ての国土は以上の組織に属する。
第六十四条 満洲國における最小の地域単位として市町村を設置する。
第六十五条 市町村の議決機関として、議会を設置する。
二項 市町村の議会の定員は、少なくとも10名以上としなければならない。
第六十六条 市町村の執行機関として、役所を設置する。
二項 役所の機構に関しては、法律の定めるところによる。市町村役所の長は公選とする。
第六十七条 満洲國における最大の地域単位として省を設置する。
第六十八条 省に議決機関としての議会を設置する。
二項 議会の定員は、人口に基づいて、少なくとも40名以上としなければならない。
第六十九条 省の執行機関として、役所を設置する。
二項 役所の機構に関しては、法律の定めるところによる。省の長官は省議会の推薦に基づいて決定される。
第七十条 一つの市町村だけでは、処理しきれない広域事業を処理するために県がおかれる。県は、その事業を担当する市町村の人民の意思に基づいて必要な支出をすることが出来る。
第七十一条 極めて重要であり、かつ人口多数の地域に特別市を設置することができる。特別市は、省の事務を処理することができる。特別市には、省に関する規定を準用する。
第七十二条 満洲國の首都である新京を特別市とする。
第七十三条 市町村、県、省及び特別市は法律の定めるところにより其の財産を管理し、公共事務を処理し、及び行政を執行する機能を有し、法律に基き地方議会の議決を以て其の地域に限定された条例を制定することができる。
第七十四条 条例の規定を実際に適用するために、また市町村、県、省及び特別市の事務を遂行するためにその長は規則を制定することができる。
第九章 改正
第七十五条 この憲法を改正するためには、立法院議員及び国務院の提案並びに国民の請願による憲法改正案を立法院に提出しその決議を経なければならない。この提案に対する決議は、立法院の総議員の三分の二以上の賛成決議をもって成立する。
第七十六条 枢密院は、この憲法の改正案に対して、改正案上程の当時に存在する全ての国法に関する学者の意見、民間識者の意見及び各国の憲法に関する知見などを参考にして、立法院に対して意見を述べなければならない。
第七十七条 第七十五条に基づく賛成決議案を得た憲法改正案は、決議から30日以内に執政が公布する。
最終更新:2009年02月21日 20:04