ミーリム罠アルター→ゾンビの餌食




567 名前:名無しオンライン 投稿日:2007/01/27(土) 23:12:52.20 yMVqhbr0

 ――ミーリム海岸。
 ダイアロスに訪れた若者が、初めての冒険記を刻む地。
 初心の者から熟練した戦士まで、幅広い層の冒険者が訪れる地でもある。
 その海岸には古い船の残骸が打ち上げられていた。
 いつ、何処からその船が旅立ち、どのようにしてこの地に漂着したかは解らない。
 気付いた時にはもう、その船はそこにあった。
 自分が死んだことに気付かないのか、または同類を求めているのか、夜な夜な生ける屍が辺りを徘徊しては、近くの旅人を襲い、食らい殺し、屈強な冒険者に倒されていた。



568 名前:続き 投稿日:2007/01/27(土) 23:24:40.02 yMVqhbr0

 日も暮れ、空の色が深い闇に染まった頃、二人組のパーティがその難破船へと訪れた。
「やっとついたもに! 此処にはお宝が隠されているときいたもに!早速探すもに!」
 二人組の一人、もにこが相方を急き立てるように言う。
「やっぱり危ないよう……ここはゾンビが出てくるって噂だし、やめよう?」
 にゅたこが夜の難破船の不気味さにびくびくしながらもにこに言った。
「何言ってるもに! もに達は十分修業したもに! ゾンビくらい一捻りもに!」
 自信たっぷりにもにこは手に持った剣をかざす。
 しかし手にしている剣はショートソード。身に纏うものはクロースの服。
 にゅたこも同様であり、凶悪なゾンビ達と相対するには些か修業不足でもあった。


569 名前:続き 投稿日:2007/01/27(土) 23:35:31.28 yMVqhbr0

「さあ! もにが後ろから援護するもに! にゅたこは前に進むもに」
 怯えるにゅたこを盾に、ぐんぐんと奥へ進む。
 財宝があると噂される甲板まで、何故か一度もゾンビに遭遇することはなかった。
「……あ。もにこちゃん、あれ!」
 喜びが混じったにゅたこの視線の先には、古ぼけた、しかし大きく、荘厳な感のある宝箱。
 これが「私」の求めていたものに違いない!
 にゅたこを押し退け、宝箱ふ飛び付くもにこ。
「これは私の物もに!」
 エルモニーと言う種族の特質故か、目の前の財宝を独り占めするもにこ。
「ひどい! 一緒に此処まで来たのに!」
 にゅたこは涙目になる。
「うるさいもに! なんと言われようとこれは全部もにこのもに! あんたなんかゾンビにピーされて食われて殺されれば良いもに!」
 聞くに堪えない罵倒。
 それを聞いたにゅたこの顔からは涙は消え、代わりに氷のような表情が浮かんでいた。
 宝箱を開けるのに夢中なもにこはそれに気付いていない。
「そう、そういう事を言うのね……残念だわ」



570 名前:続き 投稿日:2007/01/27(土) 23:46:42.74 yMVqhbr0

 にゅたこの言葉など耳に入らず、必死に鍵を開けようとする。
 業を煮やしたのか、持っていたショートソードを振りかぶって鍵を斬り付けた。
 鍵が外れ、少しずつ箱が開く。
 喜びを噛み締めながらその様子を見守るもにこだったが、やがて笑みは消え、落胆となり、恐怖へと移り変わっていった。
 宝箱の中に入っていたものは、死体。
 何体もの死体が折り重なり箱の中に詰め込まれていたのだ。
 不意にその死体の目が開く。
 ゆっくりと、不確かな動きで立ち上がる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
 もにこは尻餅をつき、後ずさった。
 見回してみると其処には生ける死体の群れ。
 財宝などない。ゾンビ達の腐った脳に刻み付けた唯一つの作戦であった。
 腐乱したてが二人組に襲い掛かる。
 が、もにこに近づいた一体が声にならない悲鳴を上げ、その場に崩れ去る。
 そこにはにゅたこが居た。



571 名前:続き 投稿日:2007/01/28(日) 00:05:00.14 yf/6Lp23

 その手に握られているのは、ショートソードではなく白銀に光る刀。
 左手に脇差しを構え、ハイキャスターローブを身に纏っている。
「しょうがない。逃げるしかないわね」
 包囲の薄い所へ突撃し、多少の空間を確保する。
 ゾンビ達が怖気づいてるのを横目で確認しつつ、リコールアルターの呪文を唱える。
「もにぃぃぃぃ! お願いもに! にゅたこ様! もなも一緒に逃げさせてもに!」
 恐怖でズボンを濡らしながら、情けない格好ではいはいをしてにゅたこに近づく。
「あら? 私は要らないんじゃなかったの?」
 乾いた笑みを浮かべてもにこを侮蔑の表情で見る。
「あ、あれは軽い冗談もに! もう二度とあんなことはしないから許してもに!」
「“もう二度と”……? じゃあ許してあげる。アルターを呼ぶから、少し待ってなさい」
 これで命の危険は去った。
 そう安堵したもにこはにゅたこに対して憎しみを持ち出した。
《もにに恥を掻かせたもに! いつかもに以上の恥を掻かせてやるもに!》
 心のなかでそう決意するのと同時に、アルターが目の前に現れる。
「早くアルターに触れなさい。死体共が襲い掛か


572 名前:続き 投稿日:2007/01/28(日) 00:15:12.84 yf/6Lp23

って来るわよ」
 にゅたこが言うより先にアルターに触れる。
 次の瞬間には船の上、ゾンビ達が決して上がってこれない所まで避難していた。
 わらわらと集まるゾンビ達を眼下に、もにこはただ立ち尽くしていた。
 あんなに一杯のゾンビが……。もしにゅたこが居なければ死んでいたであろう。
 茫然とゾンビの大群を見下ろすもにこの背後ににゅたこは立つ。
「ごめんね。これも仕事だから」
 そっともにこの背中を押した。
「もにぃぃぃぃぃぃ!?」
 ゾンビの群れのど真ん中に落下するもにこ。
「さっきの言葉、貴女にそのままお返しするわ」
 もにこに嘲笑を浴びせかけた後、にゅたこはテレポートで姿を消した。



573 名前:続き 投稿日:2007/01/28(日) 00:23:30.99 yf/6Lp23

 本能のままに動くゾンビ。
 卸したてのクロースは引き裂かれ、貧相な躯が剥き出しにされる。
「い゛や゛ぁあ゛ぁあ゛あ゛ぁ!」
 もにこの手に、足に、腐った牙が突き立てられる。
 想像を絶する痛みと恐怖に、もにこは聞くものも恐れるような悲鳴をあげる。「あ゛あ゛あ゛だずげでえ゛ぇ゛!! っ……」
 その悲鳴は一晩中続き、遥か東のビスクにまで届いたという。




 ミーリム海岸にある朽ち果てた船、其処では今夜もエルモニーの生ける死体が獲物を求め彷徨っている……



名前:
コメント:
最終更新:2007年07月29日 21:48