52 名前:(1/5) 投稿日:2007/04/22(日) 16:50:55.19 MbHRRBN2

ここは精錬の泉。投げ込んだものを精錬し、新たなものに作り変えることがで
きる泉である。だが、投げ込んだものが必ずしも精錬できるとは限らない。精
錬に失敗すれば投げ込んだものは二度と戻らないのだ。お金さえかければ戻る
可能性もあるにはあるが、なぜお金を入れれば戻るのか、なぜ投げ込んだもの
は必ずしも精錬されるとは限らないのか、長くこの泉を見守っている私だが、
他人には絶対にいえないことがひとつだけある。

それはとある暑い日、錬金の森が登場し泉に人が寄らなくなって久しい頃であ
ろう。その泉の元に1人のエルモニーの娘がやってきた。背中に刀や鎧などを
ごったに入っているダンボールを背負いながら。

「ふう・・・ふう・・・やっとついたもに」

そのもに子には若葉マークがついていた、旅人だ。そんな彼女がダンボールの
中にある鋭利な刀や重厚な鎧を買えるはずが無い。どうやって入手したかは聞
くまでも無い。

「さあ、そこのコグニートのお姉ちゃん!ここにモノを入れれば精錬されて強い武器になる泉はここであっているもにね!?」

「・・・ええ、そうよ」

「よし!だったらさっそく投げ込むもに!」

「まって、まだ説明が」

説明も聞かずにもに子はダンボールの中から銀色に輝く刀を取り出した。コダ
チ、しかもよりにもよってマスターグレードだ。どのように入手したかは見て
いないが、少なくとも刀を作った生産者は、あのもに子にいいように騙される
なり脅されるなりして取られたのであろう。でなければ若葉のもに子が刀を手
に入れられる道理は、おそらく無い。


53 名前:(2/5) 投稿日:2007/04/22(日) 16:51:30.54 MbHRRBN2


ザッパーーーーーーン!

泉の水しぶきの音が私の思考をとめた。もに子がコダチを投げ込んだのだ。波
線を立てて泉が揺らぎ、黒い水が噴出していく。

「さあ、はやく出てくるもに!」




シュルルルルル・・・・・

黒い水が収束し、底にまで沈んでいく。どうやら精錬に失敗したようだ。

「あ・・・ああああ・・・」

「残念だけど・・・失敗したようだわ」

最初に述べたように、ここの泉に投げ込めば、必ずしも成功するとは限らない
。がっくりと肩を落とすもに子に声をかけたが、それだけだ。別に同情しての
言葉ではない。かつてこのもに子のように失敗して肩を落とした者などいくら
でもいるのだ、一人一人に肩入れしてはこちらのみが持たないし、いちいち気
にかけていたらこちらの身が持たないのだから。

「だけど安心して、ここに・・・」

「ぐぎぎ・・・・!お前がいけないモニ!」

もに子が復活の説明をさえぎった。その罵声は私を少なからず脅かしたが、そ
れすら無視するかのようにもに子の罵声が続く。

「お前の説明が悪いから失敗したもに!もっとしっかり説明しろもに!だいたい失敗したら無くなるなんて知らないのにお前が説明をしなかったからいけないモニ!謝罪と賠償を要求するもに!」

「そ、そんな」

説明を聞かないで勝手に始める彼女のほうに非があるというのにこの言い様は
何なのか。だいいち、私はここの泉を管理しているわけではないし、失敗した
ときの保障もしているわけではない。

「精神的苦痛を受けたもに!お前がこのドブ沼に入ってコダチ拾ってくるもに!」

「な、何言っているの!?離して!」

もに子が私の身体を泉に突き飛ばそうとつかみかかってきた。とはいえ彼女は
所詮若葉。筋力から見ても私のほうに分があったのだが・・・あれは事故だっ
たのだと思う。服をつかむもに子を私は「離して!」と押しのけたその瞬間、
もに子の身体が宙に舞った。

「も、もにいいいいいいいい!」

私はもに子を泉のほうに突き飛ばしてしまったのだ。





54 名前:(3/5) 投稿日:2007/04/22(日) 16:51:58.20 MbHRRBN2


ドッボォオオオオオオオオン!

悲鳴もあげる間もなく、もに子の身体は水中へと沈んだ。水しぶきの音が終わ
り静寂が戻ると、泉が黒くうねり始めたのだ。

「ま、まさか・・・」

この泉は物を投げ入れて精錬することができることは周知だが、なぜ精錬でき
て、そして失敗することもあるのかについてのメカニズムは私も理解すること
ができなかったし、まさか人間を投げ入れても同様の効果があるとは知らなか
ったのだ。過去に精錬失敗したプレートアーマーを拾おうと泉にもぐろうとし
たヒューマンの男もいたこともあったが、私は「戻れなくなったらどうします
か」との警告を聞いてくれたお陰で実行には移っていない。

ゴボゴボゴボゴボ・・・・・・ザッパアアアアアアアアン!

泉の黒いうねりが消え、泉から白い光が飛び出した。

「・・・!」

光が収束して現れたのは、髪の毛が真っ白で肌も白く、一部でレアとされてい
るホムンクルスのもに子であった。

「あ・・・ああ・・・」

この時の私は声を上げることもままならなかったが、やがて目を合わせたその
ホムンクルスもに子は立ち上がり、こう言った。

「・・・私が間違えていた。レアアイテムばかり追い求めていて、大切なことを見失っていた。これから私は罪を償うために生産職をはじめたいと思う、だがその前にパンデモスの方々から騙し取っていたあれを返しに行きたいと思う。」

エルモニー特有のもに口調が消え去り、清純でかつ信頼に足りる言葉だった。
さっきまでの強欲の塊とはまるで正反対だ。

「そ、そう。が、がんばってね・・・」

「あなたに迷惑をおかけして申し訳ありませんが、この事は他言無用でお願い
いたします。では私はこれで失礼します」

そういって、ホムンクルスの格好をしたもに子は、アイテム満載の段ボール箱
を背中に背負い、その場を後にした。




55 名前:(4/5) 投稿日:2007/04/22(日) 16:52:28.27 MbHRRBN2


まさか泉にこんな効果があるとは。

物はおろか人間すらも精錬させるこの泉は確かに魅力的かもしれないが、あの
ホムンクルスもに子が言うようにこのことが世間に広がったら、おそらく泉に
突き飛ばす事件が多発するに違いない。確かに人間を精錬させれば、かのホム
ンクルスもに子のような立派なエルモニーが出てきて社会的にプラスになりう
るであろうが、人格が明らかに違いすぎているし、逆の意味で人間性を失って
いる。

とにかくこの事は言わないことにしよう。そう思って私は家に帰ろうとしたその瞬間――――――



「も、もにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

泉が波をたてて、エルモニー方言の叫び声がしたのだ。

「!?」

泉にはどす黒い「何か」が暴れていたのだ。これまで見たことの無い生き物だ
が、可能な限り形容してみれば、汚い泥がまるで意思を持っているかのようだ
。固形のゴーレムとは違ってその泥は文字通り「泥」であり具体的な形を作っ
ておらず、強いて言えば子供がお化けで遊ぶのにシーツをかぶっているかのよ
うな姿だった。

「た、助けておねえちゃあああああん!も、もに子、水泳ゼロだからおよげないもにいいいいいい!」

その言葉もかわいらしいものではなく、魔物すらも逃げ出してしまうような、
この世のものとは思えない、深く恐ろしげな声色だった。気がつけばあたりに
いた鳥たちが逃げていく。水しぶきに驚いたのではなく、このなぞの叫び声を
恐れてのことだろう。私も逃げたくなったが、恐怖の余りに腰が抜けてしまい
、助けることはおろか逃げることすらもできない。

「そ。それに!なんか知らないけど勝手にこの水に引き込まれて・・・・もにいいいいいいいいいいいいい!」

シュルルルルルルルルルル・・・・・

泉がどす黒い泥の塊を沈め、あたりは再び静寂が戻った。




56 名前:(5/5) 投稿日:2007/04/22(日) 16:52:59.26 MbHRRBN2


この時私はこの泉の真の意味を知った。

この泉は、「負の感情」を糧として飲み込むのだ。嫉妬やねたみ、怒りや悲し
み、ストレスなどといったこれら負の感情が物にこめられる。それらがこもっ
た物を泉に投げ込むことで、泉が負の感情を吸い取り、吸い取りきれなかった
ものについては泉から吐き出される形で、「精錬」される。

負の感情が少なくなった物は確かに「精錬」されるが、「物」として構成する
要素が欠けるために性質が変化し、再び投げ込んだりすると成功率が下がるの
は「物」が負の感情を吸い尽くして形を構成しきれなくなるからかもしれない
。1回目で失敗するのは、最初からその「物」が強欲で作られているために泉

吸い尽くされ、形状を保てなくなるのであろう。その物の構成要素を取り戻す
手段として、博愛などのRMが必要になっているのかもしれない。

では人間の場合はどうか。かのホムンクルスもに子のような事例は今回が初め
てだったが、上記の仮説が打ち出せたのはまさに彼女のケースがあって初めて
成り立っていると思う。先ほどのホムンクルスもに子は確かに精錬され、そし
て精錬されるために吐き出された負の感情が、あの「泥の塊」だったのだろう

それまで意思を持っていない「物」が投げられていたが別にどうということはな
かったが、意思を持った物体が投げ込まれるとあのような怪物ができるのであ
ろうか。

しかしなぜ「負の感情」を吸い尽くしてしまうのか。なぜ、誰が、どうしてこ
のような物を作り出したのか。私はいくらか考えて、この泉を使うことのメリ
ットを見出せる人間を把握することができた。


Igo…


その者の英名が浮かび上がった瞬間、私はなんともいえぬ恐怖に襲われた。こ
の泉の真相の一部(おそらく仮説であると信じたい)を知ってしまったがため
に消されるかもしれない。だが、このことはあのホムンクルスもに子とこの私
しかしらず、あのホムンクルスもに子も他言無用と言い切っている以上、当人
も他人に口にすることは無いであろう。

私はこのことだけについては、他人に絶対に口出ししないでいる。このことを
言うことができるようになるのは、「あの人物」が倒されてからの話になるで
あろう。



<<完>>





以上です。お目汚し失礼いたしました。前スレでマオツェンをマオウェンと誤記していたバカです。
本当はマオツェンネタ第2弾を予定としていましたが、予想以上に完成が遅れた上に、アニメ最終話でマオツェンがもに子に釣られるという大失態だったので泣く泣くボツになってしまいましたorz
本当なら「ピュアエルモニーミート」でもよかったのですが、あえて「きれいなジャイアン」ならぬ「きれいなもに子」を取らせてもらいましたがどうでしょうか。


精錬の泉はSPをがんがん使いますよね。
ブラムストーカーローブ+9に失敗した腹いせではありません。ええ、そうですとも・・・orz



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最終更新:2007年08月14日 19:48