- 209. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 00:37:58.33 0
- あれから土曜日までの数日間お昼休みになると給水塔へ向かった。
でも夏焼先輩は一度も現れなかった。
いないと確認する度になんだか切ないような悲しいような気持ちになった。
会って何を話すわけでもないのに。知り合いでもないのに。
勝手にこんな気持ちになってちょっと恥ずかしかった。
学校の中でも中等部と高等部じゃ生活範囲が全然違うから
見かけることもなかった。
愛理も先輩最近見ないねーと呟いていた。
もしかしたら休んでいるのかもしれなかったけれど
私に真相がわかるわけもなくて、無理に確かめようとも思わなくて
結局あれ以来先輩に会うことはなく、約束の土曜日がやってきた。
- 213. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 00:50:51.20 0
- 「みや、なんか顔色悪いよ」
ライブ会場の控え室でドラムの熊井ちゃんが声をかけてきた。
背が高くてキレイでモデルみたいな女の子。
学校は違うけど音楽を通して知り合った仲間の1人。
「そう?」
「うん」
「なんでもないよ。うち元気だし」
「ならいいけど・・・」
熊井ちゃんは怪訝そうな顔をしてうちの顔を覗き込んでくる。
「そんな顔しないでよ熊井ちゃん。今日もしっかり歌うよ」
心配をかけまいと笑いかけると笑い返してくれて安心する。
本当はここのところずっと寝不足だった。眠れなかった。
熊井ちゃんの指摘は正しくてうちはドキリとしていた。
理由ははっきりしない。
でも心当たりはある。
あの日の給水塔。
目を開けるといた少女。フランス人形みたいな顔の子。
名前なんだっけ・・・思い出せない。
どうしてこんなことで眠れなくなったんだろう。
うちはどうかしてる。
あんな子どもがなんだって言うんだろう。
自分の中にあるもやもやの正体がわからなかった。
けれど開演時間は刻一刻と近付いていた。
- 216. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 01:06:36.13 0
- 初めてのライブハウス
異様な熱気に戸惑うあたし
「なんか・・・すごいね・・・」
顔をこわばらせながら隣の愛理に話しかける
「りーちゃん、初めてだっけ?すぐ慣れるよ、大丈夫」
緊張しているあたしを見て軽く笑う愛理
愛理とライブハウスって全然結びつかないのにすごく慣れてるみたいでちょっと変な感じ
「愛理はよく来るの?」
「うん、最近は先輩が出るステージは全部見に来てる」
「へ、へーぇー。知らなかった・・・」
- 231. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 12:26:43.81 O
- ライブが終わって愛理と別れたけどまだ私は興奮が冷めなくて一人ファーストフードで紅茶を飲んでる
「手震えてる…」
自分の手が熱く震えてることに今になって気づくあたし
カバンから買ったばっかりのCDを取り出す
なぜか愛理に正直に言えなくてこっそり買った
「夏焼先輩…」
今日のライブの先輩の姿が鮮明に思い出される
甘く切ない声
誰もを引きつけるオーラ
クールなのにどこか影のある表情
ライブ中何回か目があった気がする…ってそれはファンなら誰でも思う勘違いだろうけど
ジャケットを見つめてどれくらいの時間が経っただろうか…
ふと隣から視線を感じて目をやると
「!!な、夏焼先輩!」
遠くに感じた先輩が隣の席に座っててあたしを真っ直ぐ見つめていた
- 235. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 16:35:30.93 0
- 「ねぇ、あなた名前なんだったっけ?忘れちゃって」
心臓がドキドキ言い出して止まらなくて聞こえるんじゃないかってほどで。
片手で頬杖をついたまま先輩は言った。
「へ、あ、えっと」
「中等部の子でしょ?たしか」
「あ、はい。えっと梨沙子、菅谷梨沙子です」
いつもみたいにちょっと早口でちゃんと言えたか自信がないけど
慌ててそう告げた。
「あぁ、そっか。梨沙子ちゃんか。ごめんね、忘れちゃって」
体勢を崩すことなく先輩は小さくそう呟く。
「ライブありがとね。見つけたよ左の方にいた」
目が合った気がしたのは勘違いじゃなかったのかな?
見ててくれた、なんだかそれは無性にうれしいことだった。
「あ、はい!えっと、かっこよかったです」
「そっか・・・。よかったらまた来てよ、それも聞いて」
先輩は私が持ったままのCDを指差してそういった。
「え、は、はい!」
今の先輩はライブでの先輩や
初めて会ったときとはちょっと違う様子に思えた。
何がだろうって考えてもよくわかんないけど
でも、何か違うように思えた。
- 241. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 21:46:46.82 O
- それから緊張しつつも一生懸命話した
バンドはいつからやってるのか、とか
今日のあの歌がすごくよかった、とか
あたしは面白い話なんてできないけど先輩は真剣に聞いてくれたし答えてくれた
何分くらい話してただろう、先輩のケータイが鳴った
「……」
画面を見てすぐにケータイを閉じる先輩
「あの、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ
でももうこんな時間だし梨沙子ちゃんのご両親心配しちゃうね」
そう言うと先輩は自分のとあたしの分のトレーまで持って捨ててくれた
お店を出ると先輩は自転車であたしは歩きだからここでお別れ…
「お家どこ?送っていくよ」
思いがけない先輩の言葉に思わず固まってしまうあたし
- 242. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 21:58:14.82 0
- ふと思うのは愛理のこと
送ってもらえたら嬉しい。でも愛理はどう思うんだろう
うらやましいって笑うかな
それとも・・・やっぱり悲しむかな
そればかりが頭をよぎってなかなか言葉が出ない
- 243. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 22:23:28.85 0
- 「えっと・・・えっと・・・」
俯いているあたしの顔を覗き込む先輩
「あ、もしかして知らない人には家教えちゃダメって言われてるとか?」
「そ、そんなことないです!えっと・・・いいんですか?」
顔を横にぶんぶん振って否定するあたし
「もう遅いし危ないよ」
「・・・じゃあお願いします」
心の中で愛理ごめん!って思ったけど今のこの時間を無駄にしたくなくて
あたしは先輩に思いっきり頭を下げた
- 244. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 22:26:30.30 0
- >>231
のちょっと前のお話
Buono!の出番が終了後、楽屋にて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いやー!今日の客マジノリよかったね!」
「ねー!ビックリした」
確かに今日の客の熱気はすごかった。
歌ってるこっちが圧倒されてしまうぐらいに。
でも、それ以上に気になっていたのが、あの子。
前に一度会ったことがある・・・けど名前が思い出せない。
「そういえばさ、今日最前列にすっごいきれいな子いなかった?」
「え?どんな子?」
「愛理ちゃんの横にいた子!」
熊井ちゃんとキャプの会話にドキっとした。
今まさに私はその子の事を考えていたから。
「じゃあ愛理ちゃん繋がりでみやのファンだ」
「そうだよね・・・みや、あの子知り合い?」
知り合い・・・といえば知り合いだけど、名前も知らないのに知り合いとは言えない。
「んっと、同じ学校だから顔は見たことあるけど、よく知らない」
「そうなんだ!じゃあさ・・・」
- 245. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 22:27:13.84 0
- >>244
さっきまで無邪気な笑顔だった熊井ちゃんの顔が急に殺し屋の目に変わる。
「あの子、うちがもらってもいい?」
「なっ・・・・」
「だって友達とかじゃないんでしょ?」
「そうだけど・・・あの子中学生だよ?」
「そんなの関係ないじゃんw」
この感じはマジだ。
別にあの子は私のものじゃないけど、熊井ちゃんに手出されるなんて嫌。
「はいはい!二人とも、くだらない話はその辺で、打ち上げどこにするか決めようよ」
「え〜!キャプはお堅いなぁ・・・」
「うるさい!いつものファミレスでいいよね?みや」
「え?・・・あ、私、今日はパス」
「え!?打ち上げパスって何それ!」
「ごめん!」
そう言い残すと、ギターを抱えて楽屋を飛び出した。
- 247. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 22:45:59.75 0
- >>245
なにやってんだろ。
名前も知らない子なのにむきになっちゃって・・・
ひとしきりの興奮が収まると、だんだんお腹がすいてきた。
打ち上げ行けばよかったかなぁ・・・
でもしょうがないから、どっかで食べて帰ろう。
そして見つけたファーストフード。
カウンターで軽食を頼んで席を探しに行こうとしたら、見覚えのある後姿があった。
「あの子・・・って」
今日のライブ中ずっと気になってた子。
名前だけがどうしても思い出せない・・・一度聞いたことは確かなのに。
“あの子、うちがもらってもいい?”
熊井ちゃんの言葉を思い出す。
熊井ちゃんは普段こそおとぼけキャラだけど、長身でキレイな顔をしている。
仮にあの子が私のファンだとしても、熊井ちゃんに口説かれたらきっと拒まない。
もしかしたらその日のうちに身体を・・・・・・なんてこともあり得る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえず彼女の横の席に座り、じっと見つめてみる。
手元には私たちのCD。
買ったのか、もしくは愛理ちゃんにもらったのかは分からないけど。
「夏焼先輩…」
彼女が私の名前をつぶやいた。
ビックリしたけど、嬉しかった。いや、それよりホッとしたって言う方が近いかな。
この子は熊井ちゃんのファンじゃなく、私のファン。
熊井ちゃんには渡したくない。
この感情、いわゆる独占欲というものは、私が初めて抱く種類の感情だった。
頼んだ料理を食べることもなく、じっと見つめていた。
すると、彼女の方がこっちに目をやって、目線ががっちり合った。
「!!な、夏焼先輩!」
勝負を決めるなら今夜だ。そう思った。
- 249. 名無し募集中。。。 2009/06/25(木) 22:54:55.93 0
- 先輩は自転車にまたがると後ろの荷台を指さす
「乗って?梨沙子ちゃん」
「あ、は、はい!!」
あばばばば・・・先輩の自転車に乗る日が来るなんて・・・
ちょこんと荷台に乗って両手を膝の上に置いて姿勢を正す
「ちゃんと掴まってないと落ちちゃうよ」
突然先輩があたしの両腕を掴んで腰に手を回すよう持ってくる
「!!!あ、あ、す、すみません」
「じゃあどこで曲がればいいか教えてね」
死にそうになるほどドキドキしているあたしをよそに
先輩は自転車を漕いでくれる
華奢で今にも壊れてしまいそうな背中
綺麗に染められた茶色の髪
そして先輩がつけてるであろう香水の匂い
あぁ・・・やっとわかった・・・このドキドキの正体・・・
恋だ・・・これが恋なんだ・・・
あたしは確実に先輩に恋してしまったんだ・・・
最終更新:2009年07月05日 17:29