519. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 10:49:18.26 O
気付けばうたた寝していた。
起きた時にはもう夕方になっていた。
真っ先に携帯を見る。
だけど梨沙子からの連絡は何もなかった。

「会いに行こうかな…」

自然にそう思った。
今まで毎日会ってたから、会わない方が不自然に感じた。
会う資格がないとか、かける言葉がないとか、
足を止める理由はたくさんあるけど。
そんなこと言ってたらキリがない。
うちらはいつも、会う理由がなくても会ってたんだから…

それに、このままじゃ梨沙子が何を考えてるかも分からない。
このままじゃ…ほんとに…終わるかもしれない。

ほとんど寝起きの勢いだった。
うちは家を飛び出した。
523. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 12:25:54.75 O
うちは愛車のキラーソーに跨り
梨沙子の家を目指して走った
こんなに遠かったっけ?

グングンとスピードを上げ、うちは梨沙子の家の前に着いた。
とりあえず会わなきゃ始まらない!
自分に言い聞かせてインターフォンを押した

『はい』
「あ…みやびです、梨沙子いますか?」
『みやびちゃん?今ちょうど愛理ちゃんもお見舞いに来てくれるのよ、ちょっと待ってて』

お見舞い?
梨沙子のママは確かにそう言った…よね?
梨沙子……何かあったのかな…

すぐにドアが開いて梨沙子ママが招き入れてくれた。
「元々そんなに丈夫じゃないけど熱中症なんてね〜」
「!……熱中症」

うちはバカだ。
曖昧な態度を見せて…梨沙子が熱中症になったのもうちのせいだ…。
524. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 12:34:17.70 O
梨沙子の部屋から愛理ちゃんと話してるような声が聞こえてた
「梨沙子〜みやびちゃんがお見舞い来てくれたわよ」
梨沙子のママがうちを部屋に通す


瞬間


部屋の空気が凍るのがわかった

「っ!………」
泣きはらした顔の梨沙子が胸に痛い…
何か言おうとして口を開いたが梨沙子は何も言わなかった。

梨沙子ママは「じゃあごゆっくり」とすぐ去ったその後
愛理ちゃんが昨日と同じようにうちを睨みつけていた。

「何しに…来たんですか?」
「うち、は…梨沙子に会いに……」
「昨日の人は誰なんですか?」
愛理ちゃんは責め立てるように言葉を投げかけてきた。

「愛理!いいよ…もう、あたしまだダルいから休むね…」
梨沙子は愛理ちゃんを宥め、うちを見ずに布団を頭からかぶった…

528. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 13:01:19.05 O
布団をかぶった梨沙子と立ちすくむうちを交互に見て、
愛理ちゃんはしばらく考えたあと「また来るね」と言って部屋を出ていった。

二人きりの部屋をきまずい空気が流れる。

「梨沙子…」
「……」
「顔、見せてよ…」

ゆっくりとベッドに近づく。
何を言っても梨沙子は何も言ってくれなかった。

「梨沙子…お願いだから…」
「……」

無言のままどれくらいの時間が経ったのだろうか。
突然梨沙子はバッと布団をめくって、うちを無視してベッドから起き上がった。

梨沙子はカバンの中から合鍵を取り出すと、うちに渡した。
529. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 13:25:08.69 O
「え…?」

意味が分からなくて戸惑っていると、
梨沙子はうちの手をとって無理矢理それを握らせた。

「鍵返す…」
「えっ…なんでよ!」
「それ必要な人、他にいるでしょ…?」

それだけ言うと梨沙子はまた布団に潜ってしまった。

「梨沙子!待って、違うの…」
「もういい!!」
「えっ…」
「もう……疲れたよ」
530. 名無し募集中。。。B 2009/08/29(土) 13:40:18.91 0
「話を聞いてよ、梨沙子!」
「良かったじゃん、ももさん戻って来て」
「まだ戻って来てないし!」
「・・・まだ?」
「あ・・」

みやから「しまった」って雰囲気を感じる。

「・・まだって・・?」
「・・・あ、あの、来年の春には日本に戻ってくるって・・・」
531. 名無し募集中。。。B 2009/08/29(土) 13:41:56.75 0
あぁ・・・。
最後通告、ってこういうのを言うんだろうな。
本当はまだどこかに残っているって自覚していた希望の火が、静かに消えて行くのを感じた。

自嘲的な笑いが出る。

「良かったね・・・」
強がりじゃなくて言葉が出た。
これで、みやも、あたしも楽になれるよ。

「帰って」
「梨沙子!」

コトン。

布団をめくろうとしたみやの手から、鍵が落ちる音がした。

あたしにはとっても重かった鍵が立てた、軽い音。

すごく小さな音、悲しいくらいに。
なんだかあたしの存在みたい。

また朦朧としてきた意識の中で、そんなことをぼんやり考えた。
534. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 15:20:54.70 0
梨沙子はそれ以上何も言わなかった。

そのあとのことはあまり覚えてない。
気付けば自分の家の玄関にいて、そのままソファーに倒れ込んだ。

喉が渇いたけど冷蔵庫を開ければケーキがある。
ベッドに移動したいけど布団には梨沙子の匂いが残ってる。
部屋中に溢れてる梨沙子の思い出に触れるのがつらくて、
しばらくそこから動けなかった。

まさかあそこまで拒否られるなんて思ってなかったな・・・
ひどいよ梨沙子・・・ずっと一緒にいるって約束したのに・・・

「いや・・・ひどいのは、うちか・・・」

誰もいない部屋に呟いた。
思い返せば、梨沙子がいるのにもものことで泣いたり
そのことで散々不安にさせて泣かせたり
挙句の果てに梨沙子の前でももを抱きしめた。
梨沙子を大事にするって誓ったのにね・・・・
梨沙子が心を閉ざすのも当然かもしれないな・・・
うち最低だ・・・ほんとに・・・

つらくて、悲しくて、寂しくて悔しくて、自分がどうにかなりそうだった。

「・・・・もも」

うちは涙を流しながらももの連絡先が書かれたメモをそっと手に取った。
539. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 17:17:54.86 O
何分、いや何十分メモを見ていたのだろう?
うちはメモを引き出しにしまった。

深呼吸をして頭の中で整理をする。
昨日…うちの誕生日だったよね?
それもフェスでオープニングも飾って…
終わった後は……


うちは冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫にはバースデーケーキ………

「はっ……はは……は……くっ…うっ…っうぅ…」

乾いた笑い後に込み上げてくる涙をそのままに
うちは丁寧にバースデーケーキを取り出した。

「…っ……ハッピー…バースデー…」

言葉にして思う。
全然ハッピーじゃないよ。
どうしてかな?
うちハッピーバースデーじゃないよ!

ケーキは切らずにそのままフォークで食べた。
ケーキは甘くてしょっぱく。
独りで食べるには多かった。
540. 名無し募集中。。。 2009/08/29(土) 17:23:25.82 O
多いのは当たり前だ。
梨沙子は二人で食べようって……
そう、思ってたハズだ………。


でも…ももが目の前に現れた時、うちは過去に戻ったかと思うくらい驚いたし
嬉しかったのも事実だ。

春から……ももが、帰ってくる………


複雑な思いのまま完食したケーキの味をうちは忘れないと思った。
最終更新:2009年09月01日 00:08