554. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 00:49:46.28 0
みやの家を出て私はライブハウスまで来た
今日は練習はないけど、二人ならきっといると思ったから

「おいっすー」
「「おいっすー」」

スタジオに入ると、案の定佐紀と熊井ちゃんが楽器をいじっていた
軽く挨拶をしたっきり特に会話は弾まない
無言のまましばらく楽器の音だけが響いていた

「・・・あの二人大丈夫かなあ?」
「さあ?」
「分かんない」

しばらくして熊井ちゃんが意を決したように口を開いた
だけど私と佐紀の返事はそっけないもので
熊井ちゃんはちょっと拗ねた口調になって言葉を続けた

「二人とも冷たい・・・」
「だって分かんないじゃん」
「そうだけどさぁ・・・心配じゃないの?」
「心配しなくても、みやなら梨沙子ちゃんを選ぶでしょ」

佐紀が言い聞かせるように言った
確かに、佐紀たちからしてみればみやと桃がどんな風に過ごしてたかなんて知ったこっちゃないし
どちらかと言えば梨沙子ちゃんとみやの絆を信じたいんだろうと思う
佐紀も熊井ちゃんも、梨沙子ちゃんを妹みたいに可愛がっていたから
555. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 00:53:12.79 0
そんなことを話してるうちに時間はどんどん過ぎて
気付けば夕方近くなっていた
このままいても何もすることないし、ご飯でも行く?と3人で立ち上がると、
ちょうど愛理ちゃんがスタジオに入ってきた

「愛理ーどうした?」
「・・・」

なんか愛理ちゃんの様子がおかしくてみんなで歩み寄る
どうしたの?ともう一回聞くと、黙って携帯の画面を私たちに見せた

そこにはさっき受信したばかりの梨沙子ちゃんからのメール
本文には一言だけ
私たちが肩を落とすような内容が書かれていた


『別れた。』
556. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 00:59:49.00 0
マジで・・・と頭を抱える二人
愛理ちゃんは泣きそうなのを必死に我慢してる
私は・・・梨沙子ちゃんの泣き顔が頭に浮かんだ

みやがももを選んだのか、梨沙子ちゃんがみやを拒否したのか
ここにいる人には誰も分からないけど、とにかく悲しすぎる結末だった
ここにいるみんな、あのカップルが大好きだったから

みや、本当にこれでいいの?
梨沙子ちゃん、これが答えなの?
返事のこない問いかけを繰り返す


――みやがいれないなら、私が梨沙子ちゃんの側にいるよ

梨沙子ちゃんをほっとけなくて
支えたくて
私は後先考えずにそんなことを思った

よく分からないけど、側にいたいと思った
557. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 01:05:43.18 0
梨沙子ちゃんの家に向かいながら私は色んなことが頭の中に駆け巡っていた

―――ねぇ、梨沙子ちゃん、私ね梨沙子ちゃんにずっと隠していたことあるの・・・

ももがいなくなってどん底に落ちたみや
寂しくてどうする事も出来なかったみや
そして・・・それを慰めたくて・・・
うぅん・・・その隙に付け入りたくて・・・

―――私ね、ずっとみやのことが好きだったの

だから・・・あの日・・・私たちは初めての経験をした・・・
あの時のみやの顔は今でも鮮明に覚えている

泣きそうで・・・辛そうで・・・私を抱きしめながらずっと「もも」って口にしてた

隠しててごめんね?だけどね?だからこそ今の梨沙子ちゃんの気持ち誰よりもよくわかるから・・・

私はぎゅっと拳を握りながら走るスピードを上げた
565. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 13:23:05.24 O
肩で息をしながらなんとか梨沙子ちゃんの家の前に着いた
いきなり、なんて驚くよね…
でも今日愛理ちゃんは一緒にいないみたいだし


あの日、ももがみやの前から去った
あの日のようだな…なんて思う。
あたしはどうして決して叶わない相手を好きになるのかな?
梨沙子ちゃんのことはそういう…『恋』なんて感情じゃない。
でも今は独りにしたくないの。
梨沙子ちゃんに会うまでのみやみたいに、堕ちてほしくない。

勇気を出してあたしはインターフォンを押した。
570. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 17:50:32.21 O
お母さんに部屋に通してもらうと、梨沙子ちゃんはベッドでスヤスヤと眠っていた

「…疲れたんだよね」

そっと髪を撫でる
きっとたくさん泣いてたくさん考えたから、疲れちゃったんだね
頬に残る涙のあとがそれを物語ってる

「…ん…」
「んー?なぁにー?」

むにゃむにゃ寝言を言ってる梨沙子ちゃんの口元に耳を近付ける
場違いだと思うけど、なんか可愛いなって思っちゃった

「み……や」
「え…?」
「…みや」

はっきりみやと言った
そして、梨沙子ちゃんの目から一粒の涙が流れた

「梨沙子ちゃん…」

なんだか切なくて苦しくて
思わず布団ごと梨沙子ちゃんを抱きしめた
577. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 19:51:02.27 0
何か体に違和感を感じて目が覚めた

「・・・!!」

びっくりした
真野先輩が部屋にいたからだ
それもあたしを抱きしめてる

「・・・どうしたんですか?」
「えっあ、ごめんね・・・起しちゃったね・・・」

真野先輩はすぐにあたしから体を離した
・・・別にそんな慌てて離さなくてもよかったのに
嬉しくもないけど、別に嫌でもなかったから
というか、何も思わなかったから
あ、もしかして寝てる間に感情なくなっちゃったのかな?
よかった、これでもうつらい思いしなくて済む

「ごめんね、急に。大丈夫?」
「はい・・・あの、先輩・・・あたし・・・」
「うん。何も言わなくていいよ」

みやとのことを話そうとすると、先輩は分かってるよと言わんばかりの優しい目で
あたしの髪を撫でてくれた
その手つきがみやみたいで、ちょっとだけ彼女を思い出して悲しくなった

やっぱり感情はなくなってなかった
586. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 21:19:04.61 0
「起きれる?」

真野先輩はあたしの体を起こしてくれた
よく考えたら今日ほとんど横になってた気がする
おかげでもう頭痛や目まいはしない

「先輩、どうしたんですか?どうして・・・」
「うん、なんかね・・・側にいようかなって思って。迷惑だったかな?」
「いえ・・・ありがとうございます」

先輩の優しい言葉が胸に沁みた
愛理といい真野先輩といい、どうしてみんなあたしに優しくしてくれるんだろう
あたしなんかに・・・こんなあたしに・・・


―――梨沙子、おいで。


「・・・・・みや?」

587. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 21:20:36.13 0
みやがあたしを呼んだ気がして、枯れたはずの涙が溢れ出た

さっきまでは、目を瞑れば桃さんを抱きしめてるみやばかりが浮かんでいたのに
今はなぜか笑顔のみやが頭に浮かんでる
いつもみたいにあたしを呼んでる
そんなはずないのに・・・もう名前は呼んでもらえないのに・・・
あたしは何考えてるんだろう・・・
拭っても拭っても、あたしの涙は止まらなかった

「っく・・・うう・・・うっ」
「梨沙子ちゃん・・・」
「教えて・・・先輩」
「・・・ん?」
「・・・みやを、忘れる方法・・・教えてよっ・・・」

先輩は何も言わずにあたしを思い切り抱きしめた
だけど答えは言ってくれなかった
600. 名無し募集中。。。 2009/08/30(日) 23:58:35.35 0
みやを忘れる方法・・・
ごめんね、それだけは私も分からないんだ。
ずっとずっと考えてるんだけどね、それだけはどうしても答えが出ないんだ。

私は何も言えずにただ梨沙子ちゃんを抱きしめた。
思いっきり力を込めたけど、梨沙子ちゃんは抵抗しなかった。

「とりあえず、今日は思いっきり泣きな?」
「・・・・っく・・・うぅ」
「今日いっぱい泣けば、明日はきっと笑えるから」

私は根拠もない慰めを言葉にし続けた。
明日梨沙子ちゃんが笑ってるとは到底思えなかったけど。
それでも信じたかった。
我慢しないで泣いてほしかった。
657. 名無し募集中。。。 2009/08/31(月) 23:28:32.64 0
どれくらい泣いてたんだろう
昔からよく泣き虫って言われてたけど、
1日でこんなに泣いたのは生まれてはじめてかもしれない
泣いてホントに楽になるのかは分からなかったけど、
真野先輩がずっと背中を撫でてくれてたから思い切り泣けた

「泣きやみましたかー?」

真野先輩がまるで小さい子をあやすような口調で頭を撫でてきた
「子どもじゃないですー」って言ったら、「あたしより3つも下じゃん」って言われた

「りーちゃん」
「えっ?」
「りーちゃんって呼んでいい?愛理ちゃんの真似♪」
「別にいいですけど」
「やったぁ♪なんかさ、梨沙子ちゃんだとちょっと余所余所しい感じするなーってずっと思ってて」

だったら「梨沙子」でいいですよ?って言おうとしてやめた
梨沙子って呼ばれたらきっと彼女を連想しちゃうから
たぶん真野先輩も気を遣って「りーちゃん」の方にしてくれたんだと思う
やっぱり、真野先輩って年上だなって思った
701. 名無し募集中。。。 2009/09/01(火) 21:13:55.54 O
真野先輩は遅くまであたしと一緒にいてくれた。
一緒にご飯を食べたり、たわいのない話で盛り上がったり。
たくさん話して、たくさん笑った。
みや以外の人とこんな時間まで部屋にいたのは本当に久しぶりだった。

「ねぇりーちゃん、明日ひま?」
「はい、暇ですよ」
「じゃあさ、映画行かない?」

ハチ観ようよ!なんてはしゃぐ真野先輩はそれこそ犬みたいに可愛くて、
あたしはにっこり笑って頷いた。

「はい!行きましょう、ハチ♪」


明日楽しみだなって思うのと同時に、
あたしが他の人と遊んでるのを知ったらどう思うかな、なんて
少しだけ彼女のことを思い出した。
最終更新:2009年09月04日 23:42