741. 名無し募集中。。。 2009/09/02(水) 22:52:49.54 0
映画なんて久しぶりだななんて思いながら家を出た。
ていうか梨沙子ちゃん・・・いや、りーちゃんと2人で遊ぶのが初めてだから
むしろそっちにワクワクしてたんだと思う。
集合時間より結構早めに着いちゃった。

「真野せんぱーい!」

着いてすぐぐらいの時、少し遠くからりーちゃんの声が聞こえた。
私は驚きながらも笑顔で手を振る。

「早くない?どうしたの」
「10分前集合は基本ですよー」

へえ、この子待つタイプなんだと感心していると、
りーちゃんはさっそく私の手をとって映画館へと歩きだした。
思ったより元気そうなりーちゃんを見るとこっちまで嬉しくなった。

でも、なんだかこうしてるとデートみたい。
他の人が見たらカップルに見えるのかな?

「よし!今日は何もかも忘れて遊ぶよりーちゃん!」
758. 名無し募集中。。。 2009/09/03(木) 15:04:42.33 0
先輩が見たいと言った映画は亡くなった飼い主を何年も待ち続ける犬の話だった。
悲しい結末だけどどこか温かくて愛があって、あたしは観ながら号泣してしまった。

「りーちゃん泣きすぎだって〜」
「真野先輩も泣いてたじゃないですか!」
「私はちょっとウルっとしただけ!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、帰る人の波が過ぎ去るまで席に座ったまま待つ。
ふとあたしは、映画の最中に気になったことを先輩に聞いた。

「ねえ先輩」
「んー?」
「ハチは、飼い主が帰ってくるって信じて待ってたのかな?
  それとも、帰って来ないって分かってて待ってたのかな?」

真野先輩は「え?」という表情を浮かべたあと、「うーん・・・」と考え始めた。
先輩はあたしがどんなにくだらない質問をしても、嫌な顔見せずに一緒に悩んで考えてくれる。
最近知ったことだ。
759. 名無し募集中。。。 2009/09/03(木) 15:08:34.86 0
「うーん・・・きっと待ちたいから待ってたんじゃない?納得するまで」
「・・・そっかぁ」
「分かんないけどね・・・。あ、そろそろ出ようか」
「あ、そうですね。パンフレットとか見に行きましょうよ」

あたし達は席を立って歩きだした。


ねえ先輩。
あたしはね、怖くて待てなかったよ。
逃げることしか出来なかった。
信じることが出来なかったんだ。

・・・もしもあたしがハチだったら
大好きな人を、ずっと待ってることが出来たかな。


雅目線



771. 名無し募集中。。。 2009/09/03(木) 21:23:43.66 0
「みや待ってー」
「もも遅い。着いてこないと置いてくからね」
「ひっどーい!混んでるのはもものせいじゃないもん!」

夏休みの終わりだからか人気の映画だからかは知らないけど
今日の映画館はいつもより混んでいた
今、うちらと同じ映画を観終わった人たちが長蛇の列となって出口に向かっている
うちらはそれに見事に揉まれていた

「もも、こんな所で迷子にならないでね」
「なりませんー!あ、ちょっ待ってみや!」
「もう・・・ほら」

人波に埋もれたももに手を差し出す
ももはちょっと考えたあと、黙ってうちの手を握った
まったく、これじゃどっちか年上か分かんない
世話が焼けるねーなんて意地悪を言って、ももが頬を膨らます
昔から変わらない、これがうちらのやり取りだ

「みや、グッズ見に行こう」
「混んでるから嫌だよ」
「いいじゃん!ちょっとだけ!」
「・・・仕方ないなあ」
772. 名無し募集中。。。 2009/09/03(木) 22:17:33.16 0
ももに無理やり連れて行かれたグッズ売り場前で、心臓が止まりそうになった。

そこに、パンフレットを手にした梨沙子と・・・真野先輩がいた。

2人もうちらに気がついて、真野先輩は狼狽しているようだった。
梨沙子は・・・大きく目を見開いていた。

うちとももの繋いだ手に視線が流れたのを見て思わず手を離した時には、
梨沙子は既に何の感情も見出せない顔になっていた。

いきなり足を止めて手を離したうちの視線を辿って、ももが叫んだ。

「真野ちゃん!? それに梨沙子ちゃんも!」

今度は本当に心臓が止まったんじゃないかと思った。
なんでももが梨沙子を知ってるの?!

真野先輩も2人が知り合いだなんて知らなかったみたいで、驚いた顔で2人の顔を交互に見てる。

「も・・・ピーチ姫さん!」
「えー、こんなところで会うなんて、ぐーぜーん!」
「ほんと・・・偶然ですね・・・」

梨沙子の笑顔が強張っていることに、ももは気付いてないようだった。
773. 名無し募集中。。。 2009/09/03(木) 22:19:51.28 0
ピーチ姫って? いやそんなことより・・・
固まってて言葉が出ないうちの疑問を、真野先輩が訊いてくれた。

「りーちゃん、もものこと知ってるの?」

りーちゃん?
真野先輩、梨沙子をそう呼んでるの?
2人はもう、そういう仲なの?

他の人にも聞こえそうなくらい、心臓がドクドク音をたてていた。
胸をバリバリと引きちぎられて、血が噴き出しているようで、
うちは立っているのが精一杯だった。
774. 名無し募集中。。。 2009/09/03(木) 22:25:58.34 0
「1ヶ月くらい前に学校で会ったんです」
「そうそう、もぉがちょっと忍び込んだ時にね、ぐーぜんね。もぉたち、偶然が多いよね♪」
「・・・ですね。からまれてたところを助けてもらって・・・」

梨沙子の視線は、ももと真野先輩の間だけを往復している。

うちの知らなかった、過去の別の嫌がらせの事実もショックだけど、
まるでうちはここにいないみたいな、今の梨沙子の態度の方によりショックを受けているうちに、
ももが追い討ちをかけた。

「そっかー、梨沙子ちゃんの恋人は真野ちゃんだったのかー」

梨沙子も真野先輩も、曖昧な笑いを浮かべている。
・・・ももにはわかってないだろうけど。

「じゃあ、お邪魔でしょうから、失礼しますね」
「そんなことないよー、って、あ、そっちが2人でいたいってことか。
そだね、お邪魔だね、もぉたち。じゃまたね、真野ちゃん、梨沙子ちゃん」
「はい・・・」

別れ際にチラっと見た、うちに向けた真野先輩の顔はひどく冷ややかで、身がすくんだ。

梨沙子の顔は、見れなかった・・・。
783. 名無し募集中。。。 2009/09/03(木) 23:45:38.58 0
「・・・や・・・みや・・・みや!!」
「え・・・」
「もーう!みや、ももの話聞いてなかったでしょー!
ずっと呼んでるのにボーとしちゃって」
さっきの出来事のせいでうちはしばらく呆然としていたからだろう
ももは頬を膨らませてうちの腕を引っ張った

「ご、ごめん・・・何?」
「だーかーらー!これ、可愛いよねって言ったの」
そう言って指差したものは犬のマスコットがついたストラップ
「うーん・・・まぁももには合ってるんじゃない?」
うちはあんまり趣味に合うものじゃないけどすごく物欲しげな顔をしているもも
「でしょ?ももに似て可愛いのー!」
「あー、はいはい」
ももを軽くあしらってからそのストラップを手にとってレジに向かう

「え・・・?みや?」
戸惑っているももを横目に会計を済ませてしまう

「あげる」
「え・・・な、なんで・・・?」
「あとでぎゃぁぎゃぁと言われるのも嫌だから」
うちはももの手を取って強引にそのストラップを握らせた
796. 名無し募集中。。。 2009/09/04(金) 07:28:07.10 0
抜け殻のような気分だった。

なす術もなく見送った、真野先輩と梨沙子の後姿を思い出す。

すごくイヤだった、梨沙子の隣に真野先輩がいるのが。
すごく辛かった、梨沙子がうちの隣にいないのが。

ももが隣にいるのにそう思った。
はっきりわかった。
うちが今好きなのは、欲しいのは・・・


そんなうちの想いに気付いてるのかいないのか、ももが明るい声で言った。

「ね? 今からみやの誕生日プレゼント買いに行こうよ?」
「え? ・・・いいよ、そんなの」
「良くないよ」

・・・プレゼント・・・。

そう言えば、梨沙子からのプレゼント、なんだったんだろう?
カードを見ただけで辛くなって泣いちゃって、開けることすらできなかったけど。
798. 名無し募集中。。。 2009/09/04(金) 07:30:34.96 0
すごく気になってきた。
梨沙子と本当に終わったんだと思ったら途端に、うちらの絆の証だったはずのそれに縋りたくなった。

「・・・みや?」

黙りこんでいるうちを、ももが呼ぶ。
「ごめん、もも」
「ん? なにが?」
「ごめん、うち、帰る」
「え、なんで!?」
「宿題、全然してないの、思い出したから」
「・・・何? 急に・・・」
「また、ちゃんと話すから・・・」
「・・・・・」

何かを察したのか、ももは黙った。

「ごめん・・・」

ほんとにごめん、もも。

ももの視線を振り切るように背を向けた。
最終更新:2009年09月04日 23:51