433. 名無し募集中。。。:2009/09/17(木) 22:35:17.97 0

「ママ、あたしちょっと出かけてくる!」
「ちょ、梨沙子一人で危ないわよ!それに、部屋片付けなさい」
「ちょっとだけだから!すぐ戻ってくるって」
後ろからママの大きな声がしたけどそれを軽く流す

パパの転勤であたしは今日、この街にやってきた
ここに来る車の窓から見た都会だけど海も近くて綺麗な街
あたしは早くこの街のことが知りたくて引越しの片付けも後回しで家を飛び出した

中学3年の二学期からっていう微妙なタイミングでの転校にあたしはすごく不満だった
みんなと一緒に卒業したかったから・・・
だけどあたしだけ残るっていうわけにもいかなくて・・・
今度から通う学校は中高一貫の学校らしい
「らしい」っていうのはあたしはまだその学校に行ったこともないからママに聞いた情報

「せっかくだから今日のうちに一度行ってみようかな」
思い立ったあたしはゆっくりと歩きだした

434. 名無し募集中。。。:2009/09/17(木) 22:51:10.99 0

初めて踏み入れる新しい学校
今日まで夏休みだからか生徒も全然見かけることがない
私服姿だから目立つかなと思ったけどこれなら安心
そう思ってあたしは一人学校探索を始めた

ここが校舎・・・あ、プールは室内なんだ・・・さすが私立・・・
講堂・・・大きい!!・・・グランドも広いなぁ・・・
前までいた地元の中学に比べるとありとあらゆる施設が大きいし綺麗だしで
あたしは驚きの連続だった

一通り校内を歩き回ったところであたしはあえて最後に取っておいたある場所に向かう
一歩一歩近づいていくたびに高鳴る心臓
つい2週間まで部員のみんなで夏の最後の大会を目指して練習していた日々が蘇る

―――梨沙子、タオルお願い!
―――菅谷先輩、お水ありがとうございます!

「楽しかったなぁ・・・」
弱いけど一生懸命頑張った部員の顔を思い出してちょっと涙が出そうになった時、
大好きなあの音が体育館の中から聞こえてあたしは無意識に駈け出していた

435. 名無し募集中。。。:2009/09/17(木) 23:02:42.20 0

誰もいない体育館で一人練習・・・
全国制覇まであと一歩というところで自分の痛恨のミスで先輩たちの最後の夏が終わった

悔しかった・・・
エースなのに・・・最後に決めきれなかった・・・
なのに先輩は「ここまで来れたのはみやのおかげだよ」って口を揃えて言ってくれた
自分の未熟さを思い知って・・・もっと上手くなりたくて・・・強くなりたくて・・・

「よし、あと一本」
リストバンドで汗を拭ってシュートの構えをしたところで・・・


「へたくそ」

後ろからとんでもない声が聞こえてきた
456. 名無し募集中。。。:2009/09/18(金) 01:01:24.92 0

いきなりの声にびっくりしてボールを落とす
「あ・・・」

ボールが転がっていくのをボーっと目で追っていると
後ろから私服姿の女の子が颯爽とコートを横切ってボールを拾った

な、何?この子・・・なんで私服・・・?
頭の中が???で一杯になっているとその子は

「へたくそ」

って言ってこっちにボールをぽんっと投げてきた
460. 名無し募集中。。。:2009/09/18(金) 02:28:18.86 0

うちは慌ててそのボールを受け取った。

・・・何がなんだかわからなくて、
私服姿の女の子の方をじっと見てみる。
女の子もじっとこっちを見てくる。
そして

「ほら、そんなとこ突っ立ってないで早くシュート打ってよ。」

・・・女の子はうちにそう言った
別に好きでつったってたんじゃないのに。
誰かが、へたくそとか言ってくるからじゃん。
意味わか・・
「ねぇ、ほら、早く、、!」

「えっ・・・・
あ・・・・うん。」


結局反論もできずに、促されるまま
ボールを前にバウンドさせて、軽くミートしてシュートを打った。
492. 名無し募集中。。。:2009/09/19(土) 00:09:27.74 0

うちが放ったシュートはリングに綺麗に吸い込まれた
「よしっ!」
思わず小さくガッツポーズをして余韻に浸っていると・・・

「ふーん・・・結構うまいんだね」

な、け、結構・・・?あんなに完璧なシュートを決めたのに結構って・・・
何か言い返してやろうかと思ってさっきの女の子の方を振り向く
そして口を開こうとした瞬間

「フォーム、まだ全然出来上がってないじゃん、今、改造中なんでしょ?」
「へ・・・?」
その子の発した言葉に動きが止まる
確かにうちは今、基礎からやり直してフォームも改造中だ
それもこれもあの日の悔しさがあったから・・・もうあんな思いはしたくないから・・・
でもそれが何でわかるの・・・?さっき見ただけだよね・・・?

「あ、あ、あのさ・・・君・・・だれ・・・?」
「え・・・・・・」
「・・・いや、あ、ごめん、失礼だね、いきなり誰?だなんて・・・だけど見たことない顔だから」
「あー・・・そうだね・・・まあいいじゃん、あたし帰るね、練習邪魔しちゃってごめんね」
「え・・・ちょ、ちょっと!!」
うちの呼びかけを無視してそのまま走って体育館から出ていく女の子

「何だったんだろう・・・夢・・・なわけないか」

493. 名無し募集中。。。:2009/09/19(土) 00:23:46.89 0

やっちゃった・・・

ついバスケのことになると気になったところを指摘してしまういつもの癖
前の学校でも監督よりもあたしの指摘の方が怖いって言われてたっけ・・・
選手からは鬼マネージャーなんて呼ばれてたし

でも・・・

「さっきのはあまりにも失礼だったよね・・・」
同い年か、もしかしたら先輩に当たる人にあの口の利き方
あの人怒ってないかな・・・

強気な性格でどんな人に対しても物怖じしないってよく言われるけど
本当はいつも一人になって「あーなんであんなこと言っちゃったんだろう」って後悔と反省の繰り返し
今回も、もう既に後悔・・・

さっきのやりとりをもう一度思い出して肩を落として歩いていると
校舎からこちらに向かって駆けてくる女の子
「あ、まずい」
私服姿の自分を思い出して慌ててそばの木の陰に隠れる

その子は楽譜を抱えて決して速いとは言えないけど、でも嬉しそうで・・・
そのまま体育館の方に向かって走っていった

「なんか・・・すごいお嬢様って感じ・・・?」
すれ違ったその女の子の感想を独り言のように呟きながらあたしは学校を後にした
最終更新:2009年09月22日 16:49