598. 名無し募集中。。。 2009/10/29(木) 16:55:09.55 O
茉麻先輩にお弁当を託して、あたしは一人で家路を歩いていた
部活はさぼっちゃった。今日はどうしても出る気分になれなかったから
でも、今になって後悔してる・・・
一人がこんなに切ないなら、部活に出て気晴らしでもすればよかったな・・・

「はぁ・・・苦しい・・・」

考えないようにしてもさっきのことを自然に思い出してしまう
拒絶された時のみやの顔と、突き飛ばされた感触
しばらくは忘れられそうにない
何かして気を紛らわせてないと、この悲しみに押しつぶされそうになる

あぁ・・・誰か、助けて・・・

「あれ?愛理?」
「・・・・・え?」

幻聴かと思って最初は振り向かなかった
だって、このタイミングで現れるなんてさ、どこのスーパーマン?

振り向いた先にいたのはスーパーマン・・・ではなかったけど
頼りになるあたしのお姉ちゃんだった

「えりかちゃん・・・」

637. 名無し募集中。。。 2009/10/31(土) 13:10:41.07 0
蟻の行列?でも追いかけてるみたいな。そんな子を、みつけた
ずーっと下を向いてトボトボ・・・ここが東尋坊なら、樹海なら
そのまま消えてしまいそうな・・・

「あれ、今日部活休み?」
「やす、み」
「そうなんだー」
「あたし、だけ」

サボリ、ってことかしら
そんなことより。いつもの愛理、じゃない
元気が無いとか、体調が悪いとか、そんなんじゃなくて
愛理特有のやわらかーい雰囲気、みたいなのもないし
何かに性器・・・生気を奪われてしまったような

「何か良いモンでも落ちてるの?」
「え?」
「下、ずっと見て歩いてたから。何か探してたんじゃないの?」
「・・・」

あら。黙っちゃった
何があったか知らないけど、重症患者のカッパを捕獲
このままじゃ、本当に事故にでもあってしまいそう

搬送します
638. 名無し募集中。。。 2009/10/31(土) 13:12:50.73 0
昨日みたいに、手を引かれて歩いた
ただ、昨日と少し違うのは、あたしに話を振るわけでもなく
何を聞くわけでもなく、ただ静かに手を引いて歩いてくれた

長い足、短いスカート
雑誌のモデルさんみたいな後姿をただ、ボーっと眺めて

「愛理」
「・・・」
「あ・い・り、ちゃんっ」
「うわぁっ」

気がついたらえりかちゃんの顔が目の前に

「そんな驚かないでよ。おうち、着いたよ」
「へ」

見慣れた、家がある
いつもはヒーヒー言って上る坂も、歩いてきた記憶が無い

「じゃ、またね」

笑顔のえりかちゃん。優しい顔のえりかちゃん
639. 名無し募集中。。。 2009/10/31(土) 13:15:09.66 0
手を引かなければ止まってしまいそうな歩み
このままじゃ、明日になっちゃう

昔は、負けず嫌いで気が強くて、ちょっと生意気ってのが愛理だったのに
今じゃすっかり丸くなって、可愛くなっちゃって、ふにゃふにゃしてて
もう「守ってあげたい女の子」って感じになったみたい

坂を上る。運動不足のあたしには大敵

「愛理」

もう、着いちゃったんだけどな
呼んでも、聞こえませーん、ってか?
・・・チューしちゃうぞっ

「あ・い・り、ちゃんっ」
「うわぁっ」

顔見てビックリするなんて、失礼な
でも、今日一番良い反応。ちょっと安心
姫をお城へ届けたことだし、あたいはこれで失敬するわよ
・・・と、思ったのに愛理が手を離さない

この子、こんなに力あったのかってくらい
640. 名無し募集中。。。 2009/10/31(土) 13:19:58.45 0
「ごめんね、わがまま言って」
「ぜんぜん。ってか、嬉しいし。愛理のお家好きだから」

日を改めてお邪魔します。なんてセリフを昨日言った気がする
ってか、言ったわ、間違いなく
さて、改めましたよっと

何年ぶりだろう、愛理の部屋

「お茶、入れてくる」
「いいよ、気ぃ使わないで」

うん、って頷いたのに
スリッパをパタパタさせながら一階へ降りて行った

聞いていいものか、聞かないであげたほうがいいのか
舞美や佐紀やももが悩んでたり落ち込んでたりしたら
すぐ、聞いてあげたり励ましたりするんだけど
今の愛理は、触れちゃいけない部分があるような気がして
昔と今のギャップをあたしの中で埋めきれなくて
ちょっと、いろいろ躊躇してしまう

あたしらしくない

まぁいいわ。部屋でも物色しよ
641. 名無し募集中。。。 2009/10/31(土) 13:20:58.08 0
ひとりじゃないってだけで、気持ちがラクになった
しかも、相手がえりかちゃん

トレイにカップをのせて、階段を上がる

零さないように慎重に一段一段。不安定だなぁ・・・
やっとこさ部屋の前まで着いた。トレイを片手で抱え込むように持って
空いたほうの手でドアを開ける

「・・・おまたせぇ〜・・・えぇぇ」

下着泥棒、かと思った
なぁ〜んだ、えりかちゃんかぁ・・・って

「何してんの、ダメダメダメ」
「えぇ、いいじゃない」
「よくないよぉ、恥ずかしい」

トレイをテーブルの上に置いて、急いでクローゼットへ直行
もぉ・・・ビックリしたなぁ

「はい、口に合うかわからないけど」
「ありがと」

ふぅ・・・やっと、落ち着いた
喉を通る紅茶が全身を温めてくれる気がした
681. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 20:54:53.10 0
写真を見ながらおしゃべりをした
アルバムをめくるたび、その時その時の事が頭をめぐる

「なぁんか愛理ダイブ身長伸びたね」
「中学校入ってから結構、ね」
「なんか複雑だわ、遠くに行っちゃいそうで  怖い」
「何それ」
「昔こんな歌を歌ってるグループが居たのよ。よく覚えてないけど」

身長かぁ。そう言えばホント伸びちゃったな、いつの間にか
今でもえりかちゃんとはダイブ差があるけど
昔に比べれば、顔の位置とか近くなった気がする

「ちょっとここらへんくると髪型とか、こってるね」
「雑誌とか読み始めたのかなぁ〜その頃」

ゆっくりとした時間が流れた
もう、すっかりガールズトーク〜、みたいな雰囲気だった

だけど・・・

「あら、可愛い。ラブラブね」

ちょうど、付き合い始めた頃の
682. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 20:55:47.03 0
特に変態ってゆーワケじゃないんだけど
いつの間にか愛理の下着を手に取っていた
・・・何これ、あたしにも負けないくらいの・・・
あらららら・・・今時の中学生は・・・

なんてことやってたら、怒られた
『ダメ!』とか言いながら頬っぺた膨らまして
あたしの手の中から下着を奪い取る愛理が、もう可愛いのなんのって

『お座り』を言い渡されたので、テーブルを挟んで、向き合う
愛理の入れてくれた紅茶の匂いが部屋に広る
・・・おいしい、程よい温かさ。こんな振る舞いが出来る子は
そうそう居ないと思うよ

そんな姫君の成長を、写真を見ながらしゃべった
こんなに愛理を成長させたのは、家庭環境はもちろん
この隣に写ってる子のおかげでも、あると思います

「へぇ。やっぱりキレイでカッコいいね」

何よりも、幸せそうな顔
少し照れたような顔が特に、そそるんだろうなぁ

「愛理もデレデレだねぇ。こんな顔見たこと無いよ」
683. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 20:56:51.93 0
・・・思い出してしまった
えりかちゃんが喋ってるんだけど、違うこと考えてた

・・・お弁当が、押し付けになってないかとか
食べてもらえなかったらとか
食べてもらえたとしても、口に合わなかったり
もしかしたら受け取ってさえ貰えなかったり
もう「好き」って言ってもらえないんじゃないか
抱きしめたり、キスしたり・・・

もう、このまま終わってしまうんじゃ・・・

好くない事、マイナスな事ばかりが頭によぎって・・・

ケンカなのかなぁ、これは・・・

今までは、あたしがワガママ言ったりしても、二つ返事で
何でも受け入れてくれたし、みやが怒って衝突するなんてことも
思い出す限りは無かった

こういう場合、どうすればいいのかな
時間が、解決してくれるものなの?

写真の中のふたりが、今は・・・
684. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 20:57:42.56 0
このページを開いた瞬間から、あたし一人で喋っている
今日の、愛理の抜け殻具合。原因が、わかってしまった・・・
こう云うのは、えっと・・・心ここに在らず、上の空

あら、あたし意外と言葉知ってる・・・って、場合じゃない

膝の上に両手をグーにして置いてる
軽く下唇を噛んで、目は空ろ
愛理がそんな顔してたら、こっちまで悲しくなる

写真の中の愛理と目の前の愛理
それはそれは同じ人に見えないくらい

この笑顔は、あたしには見せてくれないのかな
役不足なのかしら・・・なんだか、ちょっと悔しくなってきた

少しぬるくなった紅茶をいっきに飲んで
スカートのシワを伸ばす
痺れた足に目を細めながら、立ち上がる

愛理は今、何を見て何を思ってるの?

すっかり変わってしまったと思ってたけど
やっぱり変わらない部分はあるよね
ダメな時は、倒れそうになった時は、言わなきゃ

それとも、そんなにあたしが頼りないのかな?
685. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 20:58:34.50 0
気がついたら隣にえりかちゃんがいた
・・・すっぽりと、両の手に包まれていた
細いのに、やわらかい体。心地よい温かさ
大人で、やさしい、匂い

強張っていた体が、ゆっくりと解けていく

「ねぇ・・・えりかちゃん・・・」
「なぁに」

聞いて欲しいことや、言いたいことはたくさんあるのに
何から話せば良いのかわからない

鼻の奥が、ツーンとした
いつから、こんなに涙もろくなったんだろう・・・

「・・・ごめん・・・だめ・・・」
「うん」

今日何度目?
何回泣けば、ラクになる?
686. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 21:00:18.33 0
愛理の頬を、ゆっくり撫でた
その後、ギュッと胸に顔を抱き寄せて、背中を抱え込む

考えるより先に、体が動く
この行動は正解か、そうじゃないかなんてわからない
これは、本能なんだって思う

愛理の鼻を啜る音と時計の針の音だけが響く

どれくらい、愛理を抱いていたのかな
5分・10分・1時間・・・

「・・・ありがとう」

体を起して、泣き腫らしたその顔で一生懸命口を開く愛理

「あのさ・・・」
「・・・ん。どした?」
「なんか、すごい、不安なの・・・付き合ってるのに、片思いみたいなんだよ
好きって言ってくれるのに、わかんないの・・・
最低だよね、あたし。好きな人のこと、信じることも出来ない・・・」

上手く、言葉にならない。でも懸命に言葉を探して

「どうして、不安だって思うの?」
「優しすぎる、から・・・みんなに優しいんだよ・・・みや」

声が、震える
687. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 21:02:08.27 0
頬を伝う涙を、えりかちゃんは長い指で掬ってくれた

「全部、言いな」

すべてを受け入れてくれるような、その言葉で
あたしの中で張り詰めていたモノが、弾けた

肩に、顔を埋めて今日の事をイッキに話した
その間ずっと、何も言わず頭を撫でてくれた

きっと、みやにも普段から、イロイロ言えたら、良かったんだと思う

「・・・愛理、かわいいなぁ〜」
「え?」
「かわいいよ、愛理」

ビックリして顔を上げると、すぐ近くにえりかちゃんの顔があった

鼻と鼻が触れて、おでこがくっつく・・・

「みんな、そうなんだよ。不安じゃ無いなんて人、いないよ
ナツヤキさんも、不安だから、優しくするんだよ
愛理に優しくされたいから、優しくするんだよ
愛理が優しいから、優しくなれるんだよ」

「でも・・・もう・・・嫌われちゃったかも・・・」
688. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 21:03:05.44 0
熱を測るみたいに、くっつけたおでこ
このまま、もっと・・・近づいて・・・

「よいしょっ」

えっ・・・

「ちょーっ!!!」

気がついたら、えりかちゃんの両肩を勢いよく
突き飛ばしていた。反射的に
あたしが、みやにされたように

「イテテテテ・・・うめさん、たんこぶ出来ちゃうわよ・・・」

テーブルで頭を打ったらしい

「うわぁ、ごめんごめんごめんごめんごめん。だ、だいじょうぶ?」
「だいじょーぶ、大丈夫。・・・愛理?」
「ん?」
「ビックリしちゃったんだよ、ナツヤキさん
愛理に魅力が無かったら、付き合わないよ
朝迎えにきてくれたり、塾の帰り送ってってくれたり、しないよ
ちょっと、まだ、心の準備が出来てなかったんだよ」

わかってるんだよ。本当は
でも、確かめたくて・・・
689. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 21:04:04.75 0
見た目より、愛理の胸は小さかった。直で触らないと、やっぱね
見栄かわからないけど、ちょっとサイズの大きめのブラをしていたらしい

そう。やわらかいものがあることは確かだったけど、でも
“スカッ”っていう空気を掴んだ感触も・・・

したらば、ぶっ飛ばされた

「普段してないことされると、ビックリするでしょ?」
「そりゃ、きゅ、急に・・・触るんだもん・・・」

照れる愛理も、かわいいよ!!

うん。でも、良かったわ
ここで、あたしが急に触ったところで冷静になられたり
喘ぎ声出されたら、ちょっとショックだったもんね
まぁ、そうなったら、そうなったで、あたしが
『ナツヤキさん、ごめんね・・・』だっただろうけど

「愛理が、どうして欲しいとか、いくら拒否されても
出来るだけ言ったほうが良いと思うよ
溜めるのは、ストレスになっちゃって、爆発しちゃうから
もし、ダメだったら、そん時は、そん時・・・」
「うん・・・」
「ま、人のことだからこんだけ言えるんだけどね。ズルイでしょ?あたし」
「そんな・・・」

「でもね・・・いるから、あたしが」
690. 名無し募集中。。。 2009/11/02(月) 21:04:52.51 0
いるから・・・
目尻を下げて言われたら、嬉しくないわけない

いちいち、あたしのツボをついてくる
えりかちゃんは、本当に、すごいヒト

あと、突き飛ばしちゃったけど
嫌じゃ、なかった・・・

振り返ると、ドキドキする

あた、あた、あた、あたしの・・・む、むね・・・

「好きなんでしょ?ナツヤキさん」
「あっ・・・うん」
「大事にしな、その気持ち」
「うん・・・」

そう言って、まだ乾かない頬に・・・くちづけてくれた

「今日の授業は、ここまで」

耳元で、囁かれて、ぞくぞくした
最終更新:2009年11月03日 23:59