- 173. 名無し募集中。。。 2009/11/17(火) 19:18:12.92 0
- 帰り道、あたしは先輩の背中を、先輩は星を見ながらゆっくり歩いてた。
お互い何も話さなかった。ただ静かな時間が流れていた。
――梨沙子ちゃんのこと好きだから
さっきの言葉を思い出すと顔が熱くなる。
あたし、告白されたんだ・・・熊井先輩に・・・
びっくりした。だって先輩があたしを好きなんて夢にも思ってなかったから・・・
「ねえ梨沙子ちゃん」
「はい・・・」
「・・・手、繋がない?」
「あ、はい・・・」
そっと手を繋いだ。
大きくて綺麗な手。あったかくて、優しい手。
熊井先輩は、あたしが夏焼先輩を好きなのを知ってたんだね。
なのに追いかけてきてくれた。好きって言ってくれた。応援するって言ってくれた。
この人を選ばなかったあたしはバカなのかな?
「あのさ、告っといてこんなこと言うのアレなんだけど・・・」
「なんですか?」
「その・・・うちのことは何も気にしなくていいから。普通に話しかけてきてくれていいし、いやむしろそうしてほしいし・・・
みやともさ、今まで通りはしゃいだりしていいから・・・」
「・・・・」
「うちには何も気遣わなくていいから・・・。だから、今まで通り、いや今まで以上に、よき仲間としてこれからもよろしくね」
- 174. 名無し募集中。。。 2009/11/17(火) 19:38:47.41 0
- 鼻の奥がツンとした。
なんでこんなに優しくしてくれるんだろう・・・あたしは先輩を断ったのに・・・
思わず泣きそうになって、「ありがとうございます・・・」
それを言うのがやっとだった。
宿舎に入ると案の定、夏焼先輩とママに怒られた。
それもそのはず、21時以降外出する時はキャプテンの許可を得るようにってさっきのミーティングで言われたばっかりだもん・・・
あたしは夏焼先輩とママに思いっきり頭を下げた。
「ごめんなさいっ!!あた「うちのせいです。うちが、梨沙子ちゃんを連れ出しました」
・・・え???
「そうなの?熊井ちゃん」
「はい」
「理由は?」
「蛍がいっぱいいる所を見つけて、梨沙子ちゃんに見せたくて、無理やり連れ出しました。すいませんでした」
深々と頭を下げる熊井先輩。
先輩、何言ってんの・・・?なんで・・・?あたしが勝手に逃げ出しただけなのに・・・なんでかばうの?
- 175. 名無し募集中。。。 2009/11/17(火) 20:02:32.49 0
- 「熊井せん・・・」
「いいから」
小さな声でそう遮られた。
そして熊井先輩はもう一回「すいませんでした」と夏焼先輩に頭を下げた。
「・・・分かった。もういいから、部屋戻りな。先生に見つかっちゃう」
夏焼先輩がそう言うと、熊井先輩はペコっと頭を下げて中に入って行った。
そしてあたしの方をチラっと見て小さく微笑んだ。
ママは熊井先輩についていった。
「ほら、梨沙子も」
腕を掴まれて中に入る。その瞬間フリーズしてた時間が動き出した。
「せ、せんぱいっ!違うんです!熊井先輩は悪くないんです!あたしが・・・」
「分かってるよ」
「え・・・」
「熊井ちゃんは誰かを無理やり連れ出すような子じゃない。そんぐらい分かってるよ。
んで梨沙子も、理由もなしに規則破るような子じゃないってのは分かってる」
「・・・」
「ただね、うちらすんごい心配したんだよ?部屋見に行ったら梨沙子いないし、熊井ちゃんも消えてるし」
「ごめんなさい・・・」
- 176. 名無し募集中。。。 2009/11/17(火) 20:12:40.53 0
- 夏焼先輩はあたしのほっぺをむぎゅーっと掴むと、怒ったような拗ねたような顔で言った。
「何があったか知らないけど、ちゃんとキャプテンの言うこと聞かなきゃダメでしょ?」
「・・・ほめんなはい」
「まあでも無事でよかったよ。梨沙子も熊井ちゃんも。これからは、何かあったらまずはうちのとこおいで。分かった?」
ほっぺを離すといつもの笑顔で頭を撫でてくれた。
あたしは頷いたけど・・・複雑な気持ちだった。
先輩が愛理ちゃんの話ししてるから、悲しくなって逃げました。
そんなこと言えるわけないじゃん・・・
- 193. 名無し募集中。。。 2009/11/18(水) 00:09:17.23 0
- 思わず下を向いたあたしに向かって先輩が手を差し出してくる
「え・・・?」
「梨沙子、おいで」
そう言って先輩に手をひかれてやってきたのは宿舎のロビー
先輩は自販機の前に立つと
「今日だけは特別だからね」
と言ってカップラーメンの自販機で味噌ラーメンを買ってくれた
「梨沙子、今日あんまり夕飯食べてなかったでしょ?
本当は夜中に選手じゃなくても食事はダメなんだけどね」
先輩・・・気づいてたんだ・・・
ずっと久住先輩と徳永先輩とはしゃいでるだけだと思ってたのに・・・
でもどうしよう?先輩、今日だけ特別って言ったよね?
あたし、日数分カップめん持ってきちゃった・・・
明日はばれないように食べなきゃ!
- 198. 名無し募集中。。。 2009/11/18(水) 08:33:12.89 O
- 美味しそうに食べる梨沙子を見てたらうちまでお腹空いてきた。
一口ちょーだいっ♪と貰うと、うわやばい超美味しい。
こりゃやみつきになっちゃうね。
あ、そういえば・・・
「梨沙子さぁ」
「なんですかぁ?」
「うちのこと、陰ではみやって呼んでるでしょ」
「ゴホッ!!」
急にラーメンを噴き出した梨沙子。
だ、だいじょうぶ?
「よ、呼んでませんよ!なんでですか!」
「だってさっき」
「さっき?」
さっき寝言で・・・
そこまで言葉が出かかった時、寝呆けて抱きしめられたことを思い出した。
途端に顔が熱くなっていくのを感じた。
- 199. 名無し募集中。。。 2009/11/18(水) 08:37:00.74 O
- 「さっきなんですか?」
「えっ?な、なんでもない!」
「え〜気になる」
「いいの!」
「よくなーいー」
しつこく聞いてくる梨沙子。
うちはごまかすため、咄嗟に憎まれ口を叩いた。
「てゆーかー。梨沙子探してたおかげで今日愛理に電話出来なかったんだからね!」
そう言い放った瞬間、梨沙子の顔色が変わったのが分かった。
ラーメンを食べる箸まで止まってしまった。
あ、あれ??どうしたんだろ?
うち、きつく言い過ぎた?
- 200. 名無し募集中。。。 2009/11/18(水) 08:42:39.17 O
- 「・・・なーんてね。冗談・・・」
「電話、今から掛ければいいじゃないですか」
下を向いてるから表情はよく見えないけど、
梨沙子はそれだけ言って、またラーメンをズルズル食べはじめた。
「いや、もう寝てるよ。愛理寝るの早いから」
「起きてるかもしれないじゃないですか」
「寝てるよ絶対。出ないって」
「それでもかけた方がいいですって」
「なんで?」
「だって、朝起きて先輩からの着信があるのとないのでは、全然違うと思うから・・・」
- 203. 名無し募集中。。。 2009/11/18(水) 12:20:48.71 0
- 「そっかな・・・あ〜・・でも、メールにしとく」
「・・・・・」
「もし寝てたら起こすの悪いし・・・あ!梨沙子」
「な、何ですか?」
「もう一口ちょーだいっ!!」
「え〜?それよりメール・・・あぁっ!!」
夏焼先輩は涼しい顔であたしからカップラーメンを奪い取る。
それはまるで相手のドリブルをカットするような
鮮やかな手つきだった。
「ちょっ!それ一口じゃないですからぁーっっ!!」
汁まで飲み干しそうな勢いの先輩を半ば本気で怒りながら止める。
あたしにそんなにかまわないで・・・
嬉しいけど期待、持たせないでほしい。
矛盾だらけな心と
ラーメンを全て食べられまいと制するあたしは、間違いなく滑稽だ。
- 279. 名無し募集中。。。 2009/11/21(土) 09:55:15.48 O
- 愛理にメールを送って、ラーメンも食べ終わって、
「そろそろ寝ようか」とうちらは部屋に向かって歩きだした。
梨沙子を部屋の前まで送る。
うちは欠伸を堪えながら「じゃ、おやすみ」と自分の部屋に行こうとした。
「………」
「…梨沙子?」
返事がないので梨沙子の方を振り向くと、ドアを少し開けてこっそり中を伺ってる梨沙子。
自分の部屋なのに何で入らないんだろうとうちも中を覗くと、
「あっ」
中にはまぁと熊井ちゃんがいた。
- 310. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 10:18:17.98 0
- なんだ、熊井ちゃん来てたのか
まぁと熊井ちゃんって実は幼馴染かなんかだって前に言ってた気がする
二人でなんか話してるのかなって部屋を覗きながら思っていると
前にいる梨沙子がそっとドアを閉める
「え?どうしたの、梨沙子。部屋入らないの?」
「・・・」
なぜか下を向いて黙り込む梨沙子
「いや、でももうそろそろ寝ないと明日しんどいよ?」
「・・・」
そんなうちの問いかけにもうつむいたままの梨沙子
困っちゃったな・・・うちから熊井ちゃんに出て行くように言う?
でも梨沙子の様子からしてそういうことするのが正しい気もしないし・・・
うーん・・・うちの部屋、小春もう寝てるだろうしな
よし、一人増えても何も変わんないか
「梨沙子とりあえずこっちおいで」
うつむいている梨沙子の手を取ってうちは自分の部屋に向かった
- 318. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 16:04:00.06 0
- 部屋に入ろうとしたら中から微かに声が聞こえた
そうっと覗くとそこにいたのは―――
泣いている熊井先輩と、隣で背中を撫でているママだった・・・
――よき仲間としてこれからもよろしくね
さっき、そう言って笑ってくれた熊井先輩
あたしをかばって夏焼先輩に怒られた時ですら、笑顔を向けてくれた熊井先輩
その熊井先輩が今泣いてる・・・
先輩、無理して笑ってくれてたんだ・・・
そんな当たり前のことに今さら気付いた
そして自分がどれだけ先輩を傷付けたかを、今になって知った
夏焼先輩が何か言ってたけど、答えることはできなかった
- 319. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 16:10:08.76 0
- 「梨沙子、梨沙子ってば!」
「・・・・え?」
「え?じゃなくて。部屋着いたよ」
「え?」
「うちの部屋。小春と一緒なんだけど、もう寝てると思うから静かにね」
「え、え、で、でも」
「いいから、おいで」
ボケっとしたままの梨沙子。
でも廊下にいるわけにもいかないから、部屋へと連れ込んだ。
案の定部屋は真っ暗で、小春は小さな寝息を立てていた。
入り口付近の暗めの照明だけを点けて、
梨沙子に向かって人差し指を唇に当てて「シー」って言う。
梨沙子はとぼけた様な顔をしながらも、
うんうんって何度も頷いた。
- 321. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 16:24:03.80 0
- え?え?ちょ、ちょっと待って!状況が分からない
なんであたし、先輩の部屋に?
なに?ど、どうしたらいいの??
うなずいた後にはっと我に返ってあたふたするあたし
そんなあたしをよそに当の先輩は「歯磨きしなきゃー」とか「明日起きれるかなー」とか
のんきにそんなことを言っています・・・
いやいやいや、この状況・・・まずいよー!
だってベッドも一つしか・・・
ってことはあたし、先輩と一緒に寝るってこと!?
- 322. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 16:36:14.37 0
- 暗い中、とりあえずベッドに横になると、小さい声で梨沙子を呼んだ
「何つっ立ってんの。早くおいで」
「・・・どこに?」
「ここ」
「・・・どこ?」
「だからここ!」
うちは掛け布団をめくって、隣の空いたスペースをポンポン叩いた
梨沙子は遠慮してるのか分からないけどモジモジしててなかなか来ないから
「早くしないと怒るよ!」って言ったらやっとトコトコ歩いてきて、
「おじゃまします・・・」とそっと布団に入ってきた
うん、ちょっと狭いけど、まあ大丈夫だよね
- 323. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 16:43:59.66 0
- みなさん、こんばんは。菅谷梨沙子、中学3年生です。
今、かなりピンチに立たされています。
それはなぜかというと・・・
片想いの先輩と同じベッド(しかもシングル!!)で一緒に寝ているからです!!
こ、こんなこと耐えられる人っていますか!?
しかも先輩は彼女持ちであたしは完全な片想いの身
やばいよ・・・心臓が・・・心臓が壊れそうだよぉ・・・
と、とにかく目をつむって早く寝よう
寝たらすぐに朝が来るから、うん・・・
って寝れるわけないじゃん!!ど、どうしよう
- 326. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 17:02:55.30 0
- うちは携帯を取り出すとまあにメールした
【梨沙子はうちが預かるから、熊井ちゃんそこで寝かせて大丈夫だよ】
さっき梨沙子がすぐ閉めちゃったからよく見えなかったけど、なんか大事な話してるっぽい雰囲気だったような気もするし
きっと梨沙子もそれを感じて部屋に入れなかったんだよね
うん、気遣えてイイ子だ
・・・あ、いやもしかすると――
「梨沙子さあ。もしかしてまあを熊井ちゃんにとられたと思って悲しくなっちゃったの?w」
結構コイツ甘えん坊だし、案外そうゆう理由かもしんないと思ってわき腹をツンツン突いた
梨沙子は一瞬沈黙すると、曖昧に笑って布団に深くもぐった
あ、逃げたな
「ま、梨沙子にはうちがいるじゃん」
うちという、素晴らしい先輩がさ
ちょこんと見えてる頭をグリグリと撫でた
- 329. 名無し募集中。。。 2009/11/22(日) 17:47:43.81 O
- やっぱり先輩は超鈍感だ!
梨沙子にはうちがいる、なんてそんなこと言われちゃったら・・・
勘違いだってしちゃうんだよ?先輩
なのに先輩はあたしの頭を今も優しく撫でてくれてて
あたしはそんな先輩の手を振り払うことは出来なくて
あぁ・・・ホントあたしってゲンキンだよね
そうやってちょっとの間先輩の感触に浸っていると急に暖かさがなくなった
あれ?ってこっそり布団の隙間から様子を伺うと
先輩はベッドから抜け出して携帯を手にして部屋の隅に座り込んだ
- 350. 名無し募集中。。。 2009/11/23(月) 15:48:43.35 0
- しばらく梨沙子の頭を撫でていた
なんかもうこれが癖みたいになってる自分にちょっとウケる
(そういえば、愛理から返信来てるかな?)
隣で携帯カチカチいじってたら起こしちゃうかもしれないから、うちはそっとベッドを抜けて部屋の隅にいった
新着メール問い合わせ…はぁ、やっぱ来てないか…
やっぱもう寝てるのかなあ…明日はもっと早い時間に電話かメールしなきゃ…
ねえ愛理、今日何して過ごした?
うちのこと、少しは考えてくれてた?
寂しい思いしてない?
「…うちも早く寝なきゃ」
ぼそっと独り言を呟いてベッドに戻った
- 370. 名無し募集中。。。 2009/11/23(月) 22:14:05.65 0
- 夏焼先輩がベッドに戻ってくる
あたしは咄嗟に寝たフリをして様子をうかがう
先輩は手に持っていた携帯の待ち受け画面をじーっと眺めると
「おやすみ、愛理」って
今まで聞いたことがないすごく優しい声で囁いた
愛理ちゃん、いつもこうやって先輩に優しくされてるんだ・・・
すごく大事にされてるんだ・・・
あたしには勝ち目なんてないよね
あたしは涙がこぼれそうになるのを堪えるようにギュッと目をとじた
最終更新:2009年11月27日 23:45