580. 名無し募集中。。。 2009/12/02(水) 22:48:22.08 0
今日は引退した先輩も交えて試合をしたりと、午前からかなり濃い内容
夏焼先輩は今日もいっぱい声を出して
チームを盛り上げて、率先してみんなを引っ張って
真剣な顔でずっとコートの中にいた

あたしは笑顔で、チームのはつらつとした様子を見ていた


「あっ・・・」

・・・と言った時には遅かった
ボールを追ってた夏焼先輩と矢島先輩がぶつかって、矢島先輩が結構豪快に転んだ

「いたた・・・」
「もう何やってんの舞美ー!」
「いやー、やっぱブランクあるときっついわあ」
「舞美ださーい!」

あたしは慌てて駆け寄ろうとしたけど、笑ってる先輩たちを見る限り大丈夫そうなので足を止めた
ママも、他の選手も、みんな、明るい先輩達のやり取りを笑顔で見ていた

だから誰も、顔面を真っ青にして立ちすくんでる夏焼先輩に気付かなかった
581. 名無し募集中。。。 2009/12/02(水) 23:47:21.67 0
矢島先輩にぶつかった瞬間うちはそこから動くことができなくなった

あの時とは全然当たり具合も違う・・・
それに矢島先輩は立ち上がってみんなと笑ってるじゃないか

だけど・・・

『ヤバイ!!救急車!!』
『村上!立てるか!?』

そして・・・
『わざとじゃないのー?』
『なんかフェアじゃないよねー』

思い出されるのはあの試合のあの瞬間―――

わざとじゃないんだ・・・
仕方なかったんだ・・・
583. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 02:20:03.26 0
朝からのハードな練習
先輩の動きはやっぱすごい。見習わなきゃ。
なんてことを考えながらも先輩との交流試合で自分の実力が少しずつあがってるのがなんとなくだけど実感できた

「ママ、ここお水置いとくね」
「うん。ありがと」

こんな些細な会話にも耳を傾けてしまうのは前と変わらないけど…

いけないいけない。と首を横に振り試合に戻ろうとしたときに豪快な音と共に
しりもちをついている矢島先輩とその場に立ちつくしているみやが目に飛び込んだ
一瞬なにが起きたのがわからなかったけど二人に駆け寄るみんなに釣られるようにあたしも2人に駆け寄った

「いたた・・・」
「もう何やってんの舞美ー!」
「いやー、やっぱブランクあるときっついわあ」
「舞美ださーい!」

そんな会話がもれる中、一人遠くでただそれを見てるだけのみやが視界に入ったけど
まぁの「熊井ちゃん、ちょっと氷持ってきて!」という声にそんなみやの姿は一瞬で視界から消えた
584. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 02:39:10.48 0
わざとじゃないのに…
なんで…

『なにもかもあんたのせいよ!』
『もうあんたの顔なんて見たくない』
冷たく悔しさに包まれたあの日の彼女の声が何度も頭の中でリピートされていく…

あたしのせい…
全部あたしの…

震えていた手にそっと包み込むように握られた優しい手
「夏焼先輩…?大丈夫ですか?」
あたしの顔を覗きこみ心配そうにした顔の梨沙子が目に入り
その握られた手からは暖かい温もりが感じられた
587. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 08:25:51.21 O
念のためママと一緒にコートに駆け寄ると、案の定たいしたケガはしてないみたいだった。
でも一応冷やした方がいいかな?って氷を持ってこようとした矢先に
ママが「氷とってきて」ってなぜか熊井先輩に言ってて、
そこは普通あたしに頼むでしょー!って場違いに口を尖らした。

そしたらふと、輪から少し離れた場所で立ちすくんでる夏焼先輩に気付いた。
ケガしたのかな?と心配になって
あたしは近づいて先輩の手をそっと握った。

「夏焼先輩…?大丈夫ですか?」

真っ青になってる先輩。
握った手はぐっしょり濡れていて、氷みたいに冷たくなっていた。
588. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 08:39:11.47 O
先輩はあたしに気付くとふらっと倒れるようにして頭をあたしの鎖骨らへんに預けてきた。
でもそれは一瞬の出来事で、先輩はすぐに顔をあげた。

「大丈夫、だよ」
「いや、でも・・・」

ふらふらしてるし、汗もぐっしょりかいてる・・・
どうみても大丈夫には見えない。

「ほんとに平気だから。戻りな?」

それでも笑顔を作ってあたしの頭を撫でる先輩。
だけどその手が微かに震えてるような気がして
あたしは先輩の言葉を無視してタオルで先輩の汗を拭った。
591. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 13:15:55.78 O
夏焼先輩は「大丈夫だから…」と何度か呟いたけどとても大丈夫には見えくて…
あたしの後ろにいつの間にか心配そうな顔した清水さんがいた。

「みや、顔色悪いよ…。
少し休みな」
「っ…大丈夫だよ…練習、続けよ」
清水さんに無理矢理作ったカラ元気な笑顔を見せる夏焼先輩…

平気ぶる先輩をあたしは見ていられなくて
「じゃ、ぶつかった夏焼先輩は罰として外を走って下さい」
この場に夏焼先輩をいさせたくなくて考えた苦肉の策。
あたしがこんなこと言う権限ないよね…

「何言ってんの。うちキャプテンだし…」
「それいいね!みや外周…そうだな浜辺走って足腰鍛えといで」
「キャプ…」
「あたしはまだみやのキャプテンでしょ?言うこと聞きな。
ズルしちゃいそうだから梨沙子ちゃんも一緒にお願い」
と清水さんにポンと肩を叩かれた。
すれ違い際にあたしにしか聞こえないくらいの小声で
「心配だから絶対に一人にさせないで」
と囁かれた。


夏焼先輩は納得いかない顔しながら外に向かって歩き出す。
あたしはその背中を見ながら追いかけた。
594. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 16:47:51.88 O
体育館から少し離れた宿舎のそばの浜辺につくと先輩は黙々と走り出した
あたしは宿舎から急いで自転車を借りてきて砂浜沿いの道を併走する

ただまっすぐ前を見て走る夏焼先輩
その姿を見ながら置いていかれないようにあたしも必死で自転車をこいだ
さっき言われた清水先輩の言葉
心配だから絶対目を離さないでってどういうことだろう?
確かに夏焼先輩の様子は普通じゃなかった
だけど清水先輩の対応はもっと・・・なんか・・・

色々考えていると先輩が走るのをやめて砂浜に座っていた
あたしはカゴの中からドリンクとタオルを持って先輩に駆け寄った
595. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 17:27:04.30 O
どれくらい時間が経ったのかわからないけど
先に口を開いたのは夏焼先輩だった。

「何で梨沙子も行けって言ったか、わかる?」
「え?」
「うちがサボったりズルするわけないじゃん?
仮にも今はうちバスケ部のキャプテンなんだから。」

夏焼先輩の顔からは何も読み取れなかった…
顔色は幾分良くなったけど、無表情で話す夏焼先輩はなんだか悲しく見える…。

「…キャプテンでもズルするかもしれないじゃん。
だからお目付役であたしがいるんですー!
はい!先輩全然飲んでないじゃないですか。
脱水症状起こされたらあたしが迷惑するから飲んで下さい」
こじつけの様に先輩にドリンクを押し付ける。
夏焼先輩はあっけに取られたような顔でドリンクを飲んだ後また頭を撫でてくれた。

「なんか、ありがとね色々」
いつもの笑顔であたしの頭をワシャワシャ撫でくり回す先輩。
少しは元気になったかな………
610. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 22:52:32.97 0
しばらくすると夏焼先輩は立ちあがってあたしに手を差し伸べて、

「帰ろう」

そう言って微笑んだ

だけど、どこか無理してるようなその明るさは逆に
何かに怯えているような、何かから逃げてるような、そんな風に思えてならなかった

先輩が何かを思いつめてるのは確かだと思う
だけど、深入りして話を聞くべきなのか
いつものように元気に振舞うべきなのか
どれが本当の優しさなのかあたしには分からなくて

あたしは複雑な思いで先輩の手を握った
612. 名無し募集中。。。 2009/12/03(木) 23:01:06.33 0
梨沙子の手はとても暖かった
その手を握っているとうちのことを待っていてくれている愛理を思い出した

あの時愛理はうちにこう言ったんだ

『他の世界中のみんながみやの敵になったとしても』


―――あたしだけはずっとみやの味方だから

それを言われた時、うちは初めて愛理の目の前で涙を流すことができたんだ
そして今度はうちが愛理を守るんだ
愛理のために強くなろう、そう決めたんだ・・・
623. 名無し募集中。。。 2009/12/04(金) 00:21:42.45 0
だけど・・・

うちの心はまだまだ弱いみたいで
体育館が見えてくるにつれて心臓が嫌ってほど暴れていく

――愛理、うち、出来るよね・・・?

目を瞑って愛理に問いかけた

大丈夫、うちはやれる
だってうちはキャプテンなんだから・・・
そう自分に言い聞かせて深呼吸した
624. 名無し募集中。。。 2009/12/04(金) 00:40:20.72 0
あたしは体育館に戻る間、先輩の背中を見つめ続けた

先輩のバカ・・・

あたしが前言ったこと覚えてないの?
弱音吐けなかったらあたしに言っていいって、そう言ったじゃん、バカ

先輩はいつも優しい
それにいつも元気でみんなへの気配りを忘れない

だけどあたし、マネージャーなんだよ?
だから、少しは頼ってほしいよ、先輩

あたしは先輩を心配する気持ちと自分のやるせない気持ちを抱えながら歩き続けた
625. 名無し募集中。。。 2009/12/04(金) 02:46:40.83 0
「おかえり。ちゃんと走った?」
体育館に入るとキャプテンがうちのほうに駆け寄ってきてそう聞いた

「もちろん!ね、梨沙子?」
「う、うん」
少し曖昧な梨沙子の返事にも関わらずキャプテンは「そっか。お疲れ様」とそれだけ呟いた

「うん…。ごめんね、キャプテン…うちもう…」
「ったく、キャプテンはみやでしょ。あたしはもうただの清水先輩」
キャプテン失格だよね…
そう言いかけたうちの言葉を察するかのように笑顔で答えたキャプテン
「キャプ…」
「ほら、今みんな休憩中だし水飲んできな。梨沙子ちゃんも」
うちの肩を2,3度優しくぽんぽんと叩いたキャプテンはもも達のほうへと歩いて行ってしまった
628. 名無し募集中。。。 2009/12/04(金) 10:29:14.24 O
その後再開した練習試合では、さっきよりも声出してチームをまとめてる夏焼先輩の姿があった。
でもそれはどこか無理してるようで…
楽しんでる、というよりは緊張してるような…
『がんばらなきゃいけない』という義務感だけで動いてるような、
そんな印象を受けた。


それと気になるのが……

先輩、いつもより全然攻めていかない…。
…なんて言うんだろ、相手との接触を避けてるっていうか…
とにかくいつものプレーと違う…。

なんか、部員に遠慮してる…?
631. 名無し募集中。。。 2009/12/04(金) 14:48:56.53 0
交代でコートから出てきた。
先輩にどこか痛いのか確認しよう。
もしかしたらさきの矢島先輩との接触でどこか痛めたのかも知れないし。

「先輩・・・」

一瞬声をかけるのをためらうくらい無表情な夏焼先輩・・・
綺麗な人形のような近寄りにくさがある。
あたしに気づくと軽く右手をあげ口の端だけ上げて笑顔を作る。
すっごく不自然。
なんだか悲しくなる、そんな顔されちゃ―――・・・・・・

結局、あたしは声をかけれず先輩はしゃがみ込んでコートを眺めていた。
最終更新:2009年12月11日 23:14