298 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:00:28.44 0

    「もうすぐ、アレだね」
    12月も後半に差し掛かってきた、寒い日
    部活を終えて着替えているあの人へ投げかける

    「ほらぁ~。あの季節だよ」

    ツレナイ。本当に
    部室には二人しか居ないというのに
    視線の先のその人はただただ、静かに着替えを続ける

    「ねぇねぇ」
    だんまり決め込んだあの人
    そんな態度はたまに、いや、結構ある
    だから我慢するつもりだった
    でも・・・
    「ねぇってば!何で答えてくれないのさっ」
    「近い。近いよ」

    目の前5センチ
    息が掛かるくらいまで来ているのに
    冷静に、あしらわれてしまった

    「帰るよ」

    普通に。ごく普通にそう言うんだ
    もう、頷くしかなくって
    好きだから、好きすぎるから
    いつもはうるさいこの口も噤んで、ついて歩くだけ


299 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:01:31.16 0

    たまに、何でこの人なんだろうって思う
    冷たいし、人の事バカにするし
    付き合ってるのに、特別な感じがしないし

    「じゃ、おやすみ」

    いつもその一言を玄関の前で放るように言って帰って行く
    なんだかんだ、家まで送ってくれる

    期待とかプレッシャーとか責任とか
    色々背負った背中を見えなくなるまで見つめてるの、知ってるかな
    振り返らないから、知らないよね・・・


    あと、少し
    初めてのクリスマス
    幸せのクリスマス
    一人だけ・・・浮かれているみたい
    一緒に浮かれたいのに


    何も思ってくれないのかな


300 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:02:31.35 0

    いつもと同じように朝が来た
    12月25日、金曜日、平日
    予定?・・・いつもと同じ、部活だけ
    高校生ってそんなもんでしょ

    「いってきます」

    一人じゃないだけ、マシなのかもしれない
    幸い、好きな人も同じ空間に居るわけだし
    居るのにさ・・・
    朝から昼まで、挨拶程度しか交わさなかった
    午後の部活もきっと業務連絡みたいな会話しかないんだ

    「眠そうですね。昨日、遅かったんですか?」
    「そぉんなことないよぉ。だって、夜更かしはお肌に悪いからね」

    後輩の質問にちょっとドキっとした
    別に、何があったってわけじゃない
    ただ、昨日はあんまり眠れなかった
    自分でもビックリするくらい緊張して、寝付けなかった

    時計は18時を回ったところ
    練習も終えて、あとはダウンをするのみ

    「みや、シュート練していくけど、やる?」
    「はい。あ、でも・・・」

    みやは申し訳なさそうにこっちを見る
    自主練習をするのはいいこと。止める権利も、理由も無いんだ


301 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:03:18.82 0

    もぉの好きは揺ぎ無い
    けれど

    「なんで、もぉなんだ」

    佐紀ちゃんが、何で付き合ってくれているのかはわからない
    好きの気持ちがあるのかさえ、わからなくなる

    部室では騒がしく着替えとお喋りが・・・

    「あー。結局部活だけか~」
    「そんなこと言っても相手居ないんだからさぁ」
    「小春はいますよ!」

    どこか、浮かれているんだ
    相手が居ても居なくても、このくらいの年齢は、はしゃげるんだ

    「先輩も、行きます?」
    「もぉは・・・あ、ちょっと監督に頼まれた事があるからっ」
    「そうですか?じゃ、終わって気が向いたら来て下さい」

    みんなはゾロゾロとカラオケへ流れて行った
    もぉは・・・どうしよう

    ガラーンとした部室
    一人で過ごすのは元々嫌いじゃないけれど
    今日は、また別のお話で・・・


302 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:04:13.70 0

    虚しくなった
    広いなぁ、部室

    「どうしよ・・・」

    とってもとってもベタだけど
    プレゼントをいちおう用意したんだ、けど
    どうしよう。知っているのだろうか、今日は何の日か
    下を向くと涙が出そうだから、部室に掛かった賞状に視線を上げた
    いっぱいあるなぁ・・・
    過去のもの凄い成績とか背負っているんだ
    恋愛に現を抜かしている暇は無いのかもしれない

    けど、やっぱり、今日くらいは

    自然に体育館へ向かっていた
    邪魔になるから、気づかれないように影に隠れて二人を見ていた
    ・・・みやはズルイ
    もの凄い可愛がられてるし、目をかけられているし
    もぉより、一緒に居る時間が長いんじゃないかな

    嫉妬。ジェラシーだよ
    むかつくなぁ・・・こんな気持ちになっちゃう自分も、キャップも
    もう。好きにならなきゃ良かった・・・とまではいかないけど
    付き合わなきゃ良かった、って思っちゃう
    片想いの時の方が、ずっと楽しかった気がするんだ

    「帰ろ・・・」


303 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:05:18.26 0

    体育館から戻って、カバンを乱暴に持って部室を出た
    寂しい。一人は嫌だけど、このままの気持ちでみんながいるカラオケなんて行けない
    なんでかなぁ。泣きそうだけど、外じゃイヤだ
    でも、このまま家に帰りたくない

    ・・・誰か、もぉのことを奪い去ってくれないかな

    街はイルミネーションで輝いていた
    目の前をたくさんのカップルや、子供たちが通り過ぎる
    息を吸い込むと冷たい空気が胸の中に広がった
    自分だけが、独りだと思った
    期待はして無かったよ。けど、もしかしたらって思うじゃん

    いつの間にか、大きなツリーの下に来ていた
    ただの木じゃん。ちょっと電気でピカピカしてるだけだし
    こんなのさ

    「きれいだなぁ・・・」

    この景色がもっときれいに見える方法を知ってるんだけど・・・

    昔からクリスマスが好きでした
    今年はもっと好きになるはずでした
    今の今は、クリスマスが中止になればいいのにって思います

    こんなに可愛い子を
    こんな気持ちにするために
    イエス・キリストは生まれたの?


304 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:06:21.33 0

    呆然と立ち尽くしていた
    イルミネーションが滲んでいく気がした
    ダメ・・・泣きたくないのに
    涙が落ちないように、セーターの裾で目頭を押えた

    明日も部活がある
    こんなところにずっと居たら風邪引いちゃうなぁ
    でもいいや。そうすれば、部活へ行かなくていい
    逢わなくて済む
    逢いたいけど、逢いたくない
    明日じゃなくて、今日がいいんだ

    「ばか。ばか、ばか・・・」

    誰にも聞こえないように
    目の前にいない愛しい人へ呟いた

    なんでこんなに好きになっちゃったんだろう
    人通りも疎らな公園のベンチで、足をぶらぶらさせながら
    かじかんだ手に息を掛けた

    あぁ~、指短いな。なんて、違うことを考えてみた
    虚しい、切ない、寂しい
    二度三度、“ハァ~”っと息を吹きかけた


305 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:07:25.27 0


    「寒い?」

    声がした
    寒いに決まってる

    「冷えますねぇ」

    ・・・固まった
    心臓も止まったような気がする

    なんで、この場所がわかったんだろう
    いっつも、ギリギリのところで
    心の隙間に入ってくる


306 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:08:09.78 0

    静かにもぉの手は包まれる
    バスケットをやっているけれど、あんまり大きくない手に

    「冷たっ・・・」

    顔を上げたいけれど、何か悔しい

    「何してたの?こんなとこで」

    冷たいんだけれど、どこか優しい声
    悔しい。ムカツク
    だけれど、安心してしまうんだ
    キャップの・・・佐紀ちゃんの声を聞くと

    「風邪引くよ」

    そう言って、もぉの首に大きな白いマフラーを巻いてくれた

    「あげるよ、それ。しょうがないから」
    「・・・しょうがないは、余計」
    「じゃ、あげない」
    「ダメ!・・・もらう・・・」
    「ありがとうは?」
    「あり、がと・・・」

    好きになったら、負けなのかな・・・やっぱり


307 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 01:09:24.30 0

    隣に座ってくれた
    それだけなのに、ニヤけてしまいそうになる
    でも、ダメ。悔しい
    だから、下唇を噛んでみる

    言いたいことや、伝えたいことはたっくさんあったのに
    隣に居てくれるだけで、胸がいっぱいになってしまった

    冬は星がキレイに見える
    空気が澄んでいるから

    「ももは、何かくれないの?」

    一日、シカト決め込み?ってくらい言葉も交わさなかったのに
    いけしゃあしゃあと言ってのけた
    あげたいものはいっぱいあるよ
    ももを丸ごと、もって行って欲しい
    全部、ゼンブあげたい

    「・・・なんでさ。なんでキャップに何かあげなきゃいけないの?」

    素直じゃない、この口は
    “付き合ってるんだから”くれ、って言って欲しかったのかも

    「部室のゴミ箱にさ、キレイな紙袋が捨ててあったんだけどさ
    あれ、貰っていいと思う?」
    「・・・知らない」
    「普通さ、ゴミ箱の中のモノなんて拾わないよ
    でもさ、名前書いてあったら、しょうがないじゃん?」
    「捨てたの、あれは」


311 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 02:11:18.53 0

    未だに、目を見れずにいた
    何度も思う。悔しい・・・けど、好き

    「ごめんね」

    言いながら、もぉの膨れた頬っぺたをつっつく
    何で、このタイミングで謝るかな・・・

    「ごめん。なぁんも、してあげられなくて」
    「そんな・・・」

    許してしまいそうになる。いや、怒ってなんかいないんだけど
    ただ、こうやって一緒に居てくれる時間があれば

    「――――ねぇ、もぉのこと・・・好き?」

    我ながら、恥ずかしくなるようなことを聞いた
    けど、心の底から気になっていたこと

    「・・・風邪、ひくから帰ろ」

    今日、初めて視線が絡み合ったのに
    すぐに目をそらされてしまった

    ツレナイな。やっぱり


312 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 02:12:16.59 0

    手だって繋いでくれない
    でも、このままじゃ嫌だ
    帰りたくない

    だから、ちょっとだけ甘えるように
    佐紀ちゃんが歩く半歩後ろにくっついて
    制服の裾を引っ張って、ついていく
    けど、いつもと同じで、振り向かない
    前だけ見て歩く

    二人とも背はあんまり大きくない
    足だって、長くはない
    それに加えて、ゆっくり歩く
    だけど、あっという間に、家の前まで来てしまった

    独りの時間は早く過ぎて欲しいのに、なかなか過ぎてくれなくて
    ふたりの時間は誰かが幸せを妬むかのように、どこかへ持っていってしまう

    「じゃ・・・」

    おやすみ。でしょ?
    でも嫌だ
    まだ、夢を見る時間じゃない

    もぉは巻いてもらったマフラーに顔を埋めて
    涙を溜めて、無言で抗議した


313 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 02:13:57.21 0

    「イヤだ」

    佐紀ちゃんの右手を、両手で掴んだ
    振り返らないから、前へ回り込んで

    練習で疲れきったキャプテン
    何にも言わずに送ってくれるキャプテン
    その人を引き止めてしまうのは
    マネージャー・・・失格なのかな
    今、あんまり見せない、困った顔をしてる

    「マフラーだけじゃ、ダメだった?」
    「違う・・・そうじゃない。嬉しかったよ」

    いつも遅くまで練習だし
    買いに行く時間は凄く限られてたはず
    本当は、こうやって会える時間も限られているんだ

    「不満あるでしょ」
    「え?」
    「ほら、あたし、バスケ好きだからさ」
    「知ってる」
    「でも・・・」
    「でも?」
    「あ、いや・・・なんでも」

    もどかしい。ドキドキする
    何か言いたげな表情。言いにくそうな表情


314 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 02:15:06.12 0


    時間は過ぎる
    愛して・・・愛して・・・愛して・・・

    「足りないよね。もぉ、なんかじゃ」
    「そんなことないよ」
    「じゃ、どうすれば満足するの?」
    「してるよ。マネージャーもよくやってくれてるし」
    「キャップは?部活じゃなくってさ、佐紀ちゃんひとりにとっての、もぉはどうなの?」

    少し声が大きくなってしまった
    また、沈黙・・・

    「ごめん・・・うざいよね」
    「それがももじゃん」
    「否定してよ・・・」
    「でも、それ含めて好きだよ」
    「え?」
    「さて。帰りますね」
    「ダメ、聞こえなかった!もう一回」
    「またにしてくれたまえ」

    やっぱり視線は合わない
    でも、何かちょっとだけキャップの目が泳いでる気がした
    ・・・かわいい。好きだなぁ・・・むかつくくらい


315 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 02:16:22.48 0

    「手、離してくれないと帰れないんですけど」

    だって、帰したくないんだもん

    「時間を、ください」
    「時間?」
    「来年のクリスマスは、ずっと一緒に居るって
    来年の、クリスマスの時間をももに下さい」
    「バカじゃん」
    「ばかでいいもん」

    バカでもいい。どうにか、永く一緒に居られるように
    未来の事なんてわからないけど、くれ。佐紀ちゃんの時間を、くれ!

    「いいよ・・・って、言いたいけど、口じゃ何とでも言えるからね」
    「口約束でもいいの」
    「はいはい。じゃ、時間あげるよ。来年ね」
    「違うよ」

    違う。口約束って、ももにとってはそうじゃない


    「バカじゃん」
    「ばかだもん」


316 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 02:17:36.49 0

    はにかんだ笑顔の後、静かに目を閉じて、近づいた

    初めて恋人と過ごすクリスマス
    とても短い時間だったけれど、幸せが広がった
    なんだろう、さっきまで凍えてたのにな

    「佐紀ちゃんのくちびる、柔らかい」
    「うっさい」

    静かに、手を開放した

    「んじゃ、おやすみ」
    「・・・うん。おやすみ」

    いつも言えなかった、おやすみ
    今日は、ちょっとだけ素直になれたみたい

    遠ざかる背中、やっぱり振り返らない
    角を曲がるまで、見えなくなるまで

    いつも前だけ見ている
    振り返らない、あの人
    そんな人だから好きになったのかもしれない


317 :名無し募集中。。。:2009/12/27(日) 02:18:43.82 0

    玄関を開けようとして、ドアノブに手を掛けた時
    携帯が震えた

    メールなんてほとんど送ってきたこと無いのに・・・
    件名に“言い忘れた”って書いてあって
    本文は一言

    『メリークリスマス』

    だってさ

    なにそれ。ばかじゃん
    もっと好きになるじゃん
    むかつくなぁ~・・・って、思いつつ
    今、誰にも見せられないくらいだらしなくニヤけてるんだろうなぁ

    やっぱり、片想いじゃなくって
    付き合えてよかったです

    完全に、前言撤回です
    神様。いや、サンタさん


    来年、クリスマス中止にしないで下さい

最終更新:2010年01月03日 22:47