- 176 :名無し募集中。。。:2010/03/18(木)
13:04:33.74 0
「んー・・・」
カーテンからこぼれる陽ざしで目が覚めた
やけに重く感じる瞼を無理やり開いて体を起こす
どうやら泣き疲れて眠っていたみたいだ
瞼が重いのは、きっと目が腫れてるせいだろう
なんとなく鏡は見たくない気分
・・・なーんて言ってらんないか
顔洗ってこよ。ていうかシャワー浴びよ。
まだ寝惚けている体でフラフラと部屋を出る
一階に降りてリビングに行くと、ちょうどお母さんが洗濯物をたたんでいるところだった
「あ。りー、おはよう。きのうの子は大丈夫?」
「あー・・・先輩なら、朝早く帰った・・・」
「あらっ!若い子の回復力は凄いわね~!」
違うよお母さん・・・
夏焼先輩は元気になったから出てったんじゃなくて
好きな人に会うために熱あるのに出て行ったんだよ・・・
- 177 :名無し募集中。。。:2010/03/18(木)
13:06:03.61 0
「りー、これ」
「なに?」
「あの子の服よ。ビショビショだったから洗濯したでしょう?乾燥機に入れといたから、もう乾いてるわよ」
「あっ・・・」
そうだ、忘れてた・・・
夏焼先輩、あたしのジャージ着たまま愛理ちゃんとこ行っちゃったんだ・・・
「あと、これも。帰ったんなら、届けてあげなさいね」
そう言って渡されたのはあたしが先輩にあげたリストバンドだった
濡れてたからこれも洗ってくれたみたい
「ありがとう、お母さん・・・」
それだけ呟くとシャワーを浴びることも忘れて部屋に戻った
綺麗にたたまれた先輩の服をぎゅっと抱きしめた
- 187 :名無し募集中。。。:2010/03/18(木)
18:39:51.40 0
-
すると突然携帯が鳴った
びっくりしてとび跳ねた体とバクバクいってる心臓
もしかして先輩!?
慌てて携帯を見るとママから
こんな時間なんだろう?
「もしもし?」
「梨沙子? ママだけど」
「うん。どうしたんですか?」
「いや、あのさー、みやがどうしてるか知ってるかなーって」
え…?
「夏焼先輩、どうしたんですか・・・?」
「それがわかんないからかけたのよ。
矢島先輩から電話あったの。みやになんかあったらしくて心配してるって。
矢島先輩も友達から聞いたらしいんだけど、
その友達、詳しく説明しなかったみたいで、状況がよくわかってないらしいのね?
でまぁ、梨沙子なら知ってるかなって・・・・」
あたしはママの話を最後まで聞かず電話を切ると
夏焼先輩に電話をかけた
- 205 :名無し募集中。。。:2010/03/19(金)
15:55:02.96 0
「出ない・・・」
乱暴に携帯を閉じる
あー!もうっ!
何が起きたのか全然わかんないけど、とりあえず居ても立ってもいられなくて
抱えたままだった洗濯物を袋に入れて急いで部屋を飛び出した
「・・・・・」
だけど、玄関まで行ったところで頭の中の冷静な自分が足を止める
あたしは今から、どこに、何をしに行く気なんだろう
先輩に何があったかはさっぱり分からない
考えられるのは、体調が悪化して苦しんでるんじゃないかってことだけど・・・
だとしたら看病してあげたいけど・・・
でも、先輩が側にいて欲しいのは
先輩の側にいるべきなのは・・・
あたしじゃない・・・
- 206 :名無し募集中。。。:2010/03/19(金)
16:01:02.11 0
それに今は二人でいるはずだし、あたしが現れたら絶対にお邪魔虫だ
あーもう・・・どうしよう・・・
どうすればいいんだろう・・・
やっぱりあたしには何も出来ることはないのかな・・・
けど、愛理ちゃんちに行く途中で倒れたとか・・・
ないと思うけど愛理ちゃんとうまくいかなくて・・・それで・・・どっか行っちゃったとか・・・
だとしたら部屋でじっとなんてしてらんない
結局感情のまま家を飛び出した
先輩んちにとりあえず行ってみよう
愛理ちゃんちに行ったのは朝早くだったし、もう家に帰ってるかもしれない
愛理ちゃんと一緒にいて邪魔だったら、洗濯した服届けにきましたって言ってすぐに帰ればいい
先輩が一人ぼっちじゃなければひとまず安心できる
先輩の家に行ったことはないけど、近所だってことは知っていた
前に先輩に聞いた道順を頼りに道を進んでいく
確か・・・この角を曲がって、坂を下りて・・・
夏焼って名字は珍しいから行けば分かるはず・・・
- 207 :名無し募集中。。。:2010/03/19(金)
16:15:05.70 0
「ハァ・・・あった・・・ここだ」
少し迷ったけどなんとか『夏焼』さん宅を見つけた
コンビニの近くだよーって言ってたし、ここで間違いないはず
上がった息を整えて、深呼吸してインターホンを押した
心臓は壊れるんじゃないかってぐらいにバクバクいっていた
ピンポーン
ピンポーン
2、3回押してみたけど誰も出て来ない
家の中に誰かがいる気配すら感じない
はぁ・・・先輩、どうしちゃったんだよぅ・・・
壁に寄り掛かってずるずると座り込む
やっぱりまだ愛理ちゃんの家にいるのかな・・・?
- 226 :名無し募集中。。。:2010/03/21(日)
02:25:30.25 0
朝早い公園
いつもの子供たちで賑わう声はなくただゆっくりと時間が流れていく
うちはその愛理との出会いを思い返してた
雨の日だけ乗るバスでいつも見てた女の子
憂鬱だった雨の日がいつのしか楽しみな日に変わってたっけ
初めて二人で行ったカラオケも今でも覚えてる
あの日確信したんだ
愛理のこと好きなんだって…
どうして気持ちは離れて行っちゃったんだろう…
答えの見えない自問を繰り返し溢れそうになる涙を堪えるために空を見上げた
「すごい…」
空は今のうちには似合わないくらい綺麗な青い色をしていた…
- 244 :名無し募集中。。。:2010/03/22(月)
01:52:13.73 0
先輩の家の壁にもたれこんであたしは携帯を取り出した
やっぱり先輩からの返信はないことにため息をつくと
今度は『夏焼先輩』フォルダを開けて先輩の画像を眺める
画面に映る先輩の屈託のない笑顔
この笑顔をあたしだけに向けてくれたら・・・って何度思ったことだろう・・・
ねぇ、先輩?今どこにいるの?そして何を思っているの?
あたし、先輩に会いたいよ・・・
- 271 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
01:51:55.33 0
家の前でまち続けて結構な時間が経っている
「やっぱこんなとこに居ても迷惑なだけだよね…」
きっと先輩は愛理ちゃんの家に居て
ママの電話はきっと勘違い
そう自分に言い聞かせて自分の家に帰ろうとしたとき
「り…さこ?」
確かにそう聞こえて
あたしは慌てて声のするほうへ振りかえった
「先輩…?」
そこには今にも倒れそうな体を引きずるようにして歩く夏焼先輩がいた
「先輩!?」
「やっぱ梨沙子だ」
「なんでこんな体で…、愛理ちゃん!愛理ちゃんはどうしたんですか!?」
いつもだったら笑顔で答える愛理ちゃんの話題に
先輩は作ったような笑顔を見せると
「…もうダメなのかな…」って笑った…
あたしは無意識に先輩を力強く抱きしめていた
- 273 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
02:11:20.76 0
しばらく先輩を抱きしめていたあたし
「先輩、無理しないで・・・」
「・・・ありがと、梨沙子・・・でもうちは大丈夫だからさ」
先輩はそっとあたしの体を離してつらそうな笑顔を見せた
全然大丈夫じゃないじゃん・・・
先輩の笑顔ってもっと・・・もっと・・・
あたしは何もできない自分がもどかしくて俯いて拳を握りしめた
- 274 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
02:30:23.91 0
「とりあえず中入って「あたしの!」」
「あたしの前では…無理に笑わないでください…」
それしか言葉が出てこなかった…
先輩が愛理ちゃんと何があったのかはわからないけど
先輩が辛いならあたしは都合のいい女でも、愚痴を聞くだけの女でもいい、
恋人になれなくてもいい…
ただ…ただ先輩には笑顔でいてほしい…
「梨沙子…」
- 275 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
02:44:39.49 0
しばらくの沈黙の後、先輩はあたしをまっすぐ見つめて口を開いた
「今から付き合ってほしいところがあるんだけど、いいかな?」
付き合ってほしいところ?
「はい」
「ありがと」
それから先輩は来た方向に歩いていく
あたしは慌てて追いかけて先輩の隣を並んで歩いた
歩いている間、お互い何も話すことはなかった
あたしは何か話さなきゃって思ったけど、先輩の表情を見ると何も言えなかった
どれくらい歩いただろう?
先輩はある場所に着くとその前で立ち止った
「バスケットコート・・・?」
あたしが首をかしげている間に先輩は無言で中に入っていく
先輩はコートの隅に転がっているボールをおもむろに拾うと軽くボールを突いた後、シュートを放つ
綺麗な放物線を描いたボールは綺麗にゴールに吸い込まれた
「キレイ・・・」
あたしはその完璧なシュートに思わず声を上げた
すると先輩はあたしに背を向けたまま話し始めた
「ここで、愛理に告白したんだ・・・愛理のことが好きですって」
- 276 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
03:00:07.88 0
「え…」
「そしたら愛理もずっと好きだったって言ってくれて…、その時のこと今でもたまに思い出すんだ」
先輩はもう一度シュートを放つ
そのボールはゴールに弾かれ地面で大きなバウンドを繰り返す
「何度好きだって言っても気持ちが届かないときってあるんだよね…」
転がったボールを手に取り先輩はもう一度あたしに背を向けた
その背中はあたしの知ってる先輩とは違うとてもとても小さな背中だった
「って…うち梨沙子に何言ってんだろうね」
そう言って振りかえった先輩の笑顔
それはさっきと同じ作った笑顔…
「はい、梨沙子」
バウンドをつけて優しくパスをくれた先輩のボールはあたしの体に当たり転がった
「梨沙子?」
「届くよ…」
「えー?なにー?」
「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだーって思ってる気持ちはいつか相手に届くよ!
…ママが言ってた。バスケは気持ちだって。どんなに技術があっても、どんなに負けられない相手でも
勝ちたいって気持ちがあればいつか心が相手に勝って本当の勝利が来るんだって。だから…だから届くよ!」
- 277 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
03:15:55.19 0
あたしの必死な言葉に先輩はびっくりしたような顔をしている
「そうだね・・・いつか届く・・・か」
「・・・うん」
「じゃあさ、梨沙子もきっと届くよ」
「へ・・・?」
「梨沙子の好きな人に。好きだ―って思っていれば届くんでしょ?」
そう言って先輩はいつものように優しく頭を撫でてくれる
「・・・うん」
「梨沙子の気持ちも届きますように・・・」
- 278 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
03:44:34.93 0
目を瞑って祈るようにあたしの頭をそっと撫でる先輩
先輩…
あたしの気持ち…少しでも届いてますか…?
そしてあたしも同じように先輩の頭を撫で
「先輩の気持ちがたっくさんたっくさん届きますように。そして…いつも笑顔でいてほしいです…」
そう呟いた
「梨沙子?最後なんて言ったの?」
「秘密です」
「なにそれ!教えてよ!」
「おしえませーん」
あたしは先輩にあっかんべーをすると逃げ回るようにコートを走った
そのあとを追いかけて笑顔になる先輩にあたしもついつい笑顔になった
- 280 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
10:16:56.67 0
子どものようにはしゃぎまわるあたしたち
でもね、本当は気付いてたよ
時々先輩の目が潤んでたこと
切なそうに顔を歪ませてたこと
本当はね、気付いてたんだよ?
「あっ」
ちょうど振り返った時、先輩の体が一瞬よろめいた
慌てて駆け寄って支える
「先輩、大丈夫!?」
「はは、なんかフラっとしちゃった」
「笑い事じゃないんですけど!」
そろそろ帰りましょう?
出来るだけ優しく微笑んだら先輩もいつもより切ない笑顔で頷いた
- 281 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
10:49:45.89 0
「ねぇそういえばどうして梨沙子うちの前にいたの?」
少し歩き出したところで先輩が不思議そうに言う
思わず「えっ!」って言っちゃったけど、そうだよね・・・先輩が疑問に思うのは当たり前だよね・・・
「・・・それはぁ」
先輩のことが心配だったから・・・
先輩に何かあったんだと思うと居ても立ってもいられなかったから・・・
先輩に会いたかったから・・・
そんなの言えるわけない・・・
「梨沙子?」
「・・・・・・これっ。届けにきた」
「え?」
先輩に洗濯物が入った袋を無理やり押し付ける
先輩は中を見てしばらくポカンとしたあと、事情が理解できたようで急に慌てだした
- 282 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
10:51:49.95 0
「ああああーマジごめんどうしよ!うち、お世話になったのに梨沙子のお母さんにお礼も言わずに出てきちゃった!
ホントごめんっ!今度梨沙子んちにお礼言いに行くから!」
「い、いいですよそんなことしなくて!」
「ダメだよ~!あ、梨沙子もごめんね?この服も梨沙子のだよね・・・」
自分の着てるものを見つめてシュンとする先輩
先輩には悪いけど、あたしはそんな先輩が可愛くて仕方なくて思わず吹き出しちゃった
「いいですって。先輩だってあたしがジャージない時貸してくれたし」
「・・・そうだけどさぁ」
「いっぱい優しくしてもらったから、恩返し」
そう言ったところでちょうど先輩の家についた
家誰もいないんですか?って横を見て、思わずドキっとする
なぜなら先輩があたしをじっと見つめていたから
「え、なんですか?」
「あのさ・・・」
「はい」
「・・・うちってほんとに優しい?」
- 283 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
11:09:19.14 0
梨沙子ってばわざわざ洗濯物届けてくれたんだ
いい子だなぁ・・・
梨沙子んちにも本当に一回お礼言いに行かないと・・・
「いっぱい優しくしてもらったから、恩返し」
そんなことを考えてると放たれた言葉
梨沙子のその言葉に心臓がドキっと跳ねる
何かを思い出したように心がどんどん痛くなっていく
―――あんたのは、優しさじゃない、周りの人や愛理を傷付けて、自分が傷つくのが怖いだけ
―――・・・みやは、優しいけど優しくない・・・
思わず立ち止まって梨沙子を見つめた
梨沙子はうちの視線に気がついたのかこっちを振り返る
「え、なんですか?」
「あのさ・・・」
「はい」
「・・・うちってほんとに優しい?」
- 284 :名無し募集中。。。:2010/03/23(火)
14:11:35.51 0
「え?どうしたんですか急に」
「いや・・・ちょっと、ね」
どこか顔が曇ってる先輩を見つめる
なんでそんなこと聞くんだろう
「先輩は・・・「あーごめん変なこと聞いて!
うち熱でおかしくなっちゃたのかな」
「先輩っ」
「ちょっと上がってかない?お礼に飲み物出すよ」
「ちょ、先輩っ・・・」
あたしの言葉を最後まで聞かずにドアを開ける先輩
あたしは手を引かれて玄関まで入るけど
このまま図々しく上がっちゃっていいのか悩む
体調悪い先輩のことは心配だけど・・・
あたしがいたら余計に眠れないんじゃ・・・?
- 306 :名無し募集中。。。:2010/03/24(水)
20:10:03.59 0
「何してんの?ほら」
「・・・あたし帰るんで先輩はちゃんと寝てくださいよ」
「えー・・・じゃあ寝るからさ、お粥作って?マネさん」
帰りそうだった梨沙子を無理やり引きとめる
だってこのまま帰すのは悪いと思ったし・・・
こうでも言わないとあがってくれそうになかったから
「先輩の甘えっ子~」
「いいじゃん、うち病人だし」
「じゃ、ちょっとだけおじゃまします」
その言葉にほっとした自分がいた
今思えばあの部屋に一人でいたくなかったのかもしれない
無意識に、梨沙子に助けを求めていたのかもしれない
- 324 :名無し募集中。。。:2010/03/25(木)
22:30:31.94 0
初めて入る夏焼先輩の部屋に胸が高鳴る
「どうぞ」
「は、はい!」
扉を開くと目の前いっぱいに広がる先輩の空間
物がいっぱいあるけどそれが綺麗に整頓されていて
一言で言うと「オシャレ」な部屋
「なーにキョロキョロしてんの?」
「いや、その、だって」
「そこ、座ってて?飲み物持ってくる」
「あ!そ、そんな!構わないでください!ていうかあたしがします!
お粥作りに来たわけだし!!」
「まぁそれはちょっと休憩してからでいいからさ」
そう言って先輩はあたしを制すると部屋を出ていった
「あたし・・・ダメじゃん・・・先輩体調悪いのに・・・」
はぁっと肩を落として床にペタンと座り込んだ
- 328 :名無し募集中。。。:2010/03/26(金)
02:29:01.33 0
タンスの上にはバスケ関連のものとか可愛い小物
机には何冊かの教科書とか本が置いてあった
そして勉強机の横の壁にはコルクボードがかかっていた
そこにはたくさんの写真と数枚の雑誌の切り抜きが貼ってあって
あたしは思わず立ち上がりその写真達を覗き込んだ
「うわ、先輩若い」
中学生の頃の写真と思われる今とは違う顔した先輩の写真についつい笑みがこぼれた
部員のみんなの写真もあってみんな全然変わってなくて面影があった
「みんな変わってないなぁ。んふふ、ママ可愛い」
コルクボードをひとしきり見終わり勉強机の上に目を向けると何枚かプリクラが貼ってあった
「また先輩達とのかな」
興味本位で見たそのプリクラは楽しいのにしてる先輩と愛理ちゃんの姿
頬をくっつけあってたり、先輩が愛理ちゃんの頬にキスをしているプリクラもあった
「梨沙子?」
急に名前を呼ばれあたしは慌てて元の場所に戻ると急いで座った
「何してたの?」
「な、なんでもないです」
首をかしげながらあたしが居た場所、机の上のプリクラを見つめた先輩
「あぁ…これ?」
- 329 :名無し募集中。。。:2010/03/26(金)
02:44:25.23 0
「いっぱい撮ったなぁ・・・」
そう言って二人のプリクラをそっと撫でる先輩
「練習で忙しかったからよく部活終わった後に二人でゲーセン行って撮ったんだよね」
「そう・・・なんだ・・・」
「ははは、もう・・・こうやって撮ることないのかな」
先輩はさびしそうにため息をつくとベッドにどさっと寝転んだ
「あー・・・わかんないよ・・・」
「・・・先輩・・・?」
「別れよって言われて・・・うち、どうしたらいいかわかんないよ・・・」
先輩は顔を片手で覆って辛そうに言葉を発する
「愛理が全部初めてだから・・・こんなときどうしたらいいかなんて・・・
わかんなすぎるよ・・・」
- 331 :名無し募集中。。。:2010/03/26(金)
02:56:35.71 0
先輩のその言葉にあたしはかける言葉が見つからない…
ただ心の中にあるのは愛理ちゃんへの疑問
なんで別れるなんて言ったの?
こんなに良い人なのに
優しいのに
それだけが心の中で繰り返されていく
「ごめん…梨沙子にこんなこと言っても、梨沙子のほうがわかんないよね…。
さっ、お茶でも飲んで」
先輩はベッドから起き上がりテーブルに置いたお茶を一つあたしに差し出した
「梨沙子?」
差し出されたお茶を受け取らず俯いているあたしの顔を心配そうに先輩は覗き込んだ
「先輩は…どうしたいんですか?」
「え?」
「愛理ちゃんと…どうしたいんですか?このまま別れてもいいんですか?」
「そりゃ嫌だけど…」
「じゃあ答えはわかってるじゃないですか。別れたくない…それが先輩の気持ちです」
あたしの顔を見つめ微動だにしない先輩
- 332 :名無し募集中。。。:2010/03/26(金)
03:06:02.20 0
「なんか梨沙子って・・・すごいよね」
「すごい・・・?」
「うん・・・梨沙子はすごい・・・自分の意見っていうか・・・
そういうのしっかり持ってて・・・」
そんなことないよ、先輩・・・
あたし、そんなんじゃないんだよ・・・
ただあたしは先輩に笑顔になってほしくて必死なだけなんだよ・・・
「梨沙子の言ってることっていっつも正しいと思う」
「先輩・・・」
「愛理と別れたくない・・・愛理のことが好き・・・これは本当のうちの気持ち・・・だけど」
「だけど・・・?」
「うち、愛理を幸せにできる自信がないんだ・・・
愛理の笑顔が好きなのに・・・愛理を笑顔にしてあげられる自信がもう・・・ないんだ・・・」
- 333 :名無し募集中。。。:2010/03/26(金)
03:31:50.08 0
「そんなの…そんなの先輩の勝手ですよ…」
「え?」
「幸せにできないとか…笑顔にできないとか…それはしようとしてするものじゃないです…。
好きな人となら一緒にいるだけで幸せで笑顔になるんです」
「でも…今のうちといる愛理は笑ってない…。つらそうな顔ばかりしてる…」
先輩の震える手をあたしは無意識にぎゅっと握った
そしてあたしは先輩をそっと抱き寄せた
「先輩これ知ってます?人はね、はははって笑うでしょ?だから8×8で64、そして悲しいときはしくしくって泣くでしょ?
だから4×9で36、64+36は足して100になるの。一生が100なら、はははって笑うことは64回もあって、しくしくって泣くことは36回。
だから…人は笑ってることのほうが多いんですよ…」
「梨沙子…」
「愛理ちゃんが今辛い理由はあたしにはわかりません…。でも一度好きになった人を簡単に諦めるなんてできないんですよ…。
愛理ちゃんもきっと後悔してると思います…。先輩…?」
「ん?」
「あたしは…笑顔でいてほしい…それが先輩への気持ちです」
- 14 :名無し募集中。。。:2010/03/28(日)
16:52:07.64 0
「・・・梨沙子ありがと・・・っ、でも――・・・っく!・・・グス・・・」
先輩は笑顔を作ってみせたけどそれは一瞬で崩れた。
嗚咽で言葉の続きが言えない先輩・・・
その続きはきっと「今は笑えない」かな?
「先輩・・・今じゃなくて、すぐじゃなくていいんです。
あたしは、先輩の無理して作った笑顔じゃなくて
本当の・・・心から楽しそうな笑顔が見たいから。
泣きたい時は泣いちゃっていいと思うし・・・
そりゃあ・・・先輩の泣き顔なんか見たくないですけど
泣いたらスッキリすると思うんです。
それにそんなすぐに解決できそうなコトじゃないし。
先輩のペースで、考えて答えを見つければ
時間がかかっても・・・愛理ちゃんにも伝わる。
そんな気がするんです・・・」
綺麗な目から落ちる涙を拭いもせず
先輩はただ、あたしの言葉を聞いてくれた。
少し驚いたような顔をしていた気もするけど
これが今のあたしの気持ちだよ、先輩。
あたし、先輩が幸せじゃなきゃヤなんです。
先輩が大好きだから・・・
- 16 :名無し募集中。。。:2010/03/28(日)
17:21:40.71 0
体調が万全じゃないのと、泣いちゃったので
先輩はその後、ベッドに寝転んだまま静かに眠りだした
あたしはそっと先輩に布団をかけると、部屋を出てキッチンに向かった
勝手に使っちゃっていいのかなって戸惑ったけど、
一応先輩の頼みだしと自分で納得させてお粥の準備
お鍋を中を見ながらあたしはさっきの先輩の様子を思い出していた
愛理ちゃんのことが大好きな先輩・・・
「先輩、あたしがいるよ?あたしなら・・・先輩を泣かさないのに・・・」
- 42 :名無し募集中。。。:2010/03/30(火)
02:13:52.89 0
おかゆを作り終え部屋に戻ると先輩はまだ眠っていた
起こさないように机の上のメモ帳を1枚とると
『おかゆ作っておいたので食べてください』
と書いてテーブルの上に置いた
そして先輩のほうに近づきそっと前髪に触れた
寝顔が可愛かっかたらとっさに出た行動
「…ん」
やばいっと思って慌てて手を引っ込めると先輩はうっすらと目を開け
こっちを見つめ頬えんだ
「あい…り?」
その言葉に胸がズキンと音を立てた
「あいり…?おはよう…」
嬉しそうに笑いまた寝息を立て眠り始めた先輩
- 11 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
00:50:17.70 0
先輩の口から出た「愛理」という言葉
先輩の気持ちは痛いほどよくわかってたつもりなのに
「やっぱりきついよ・・・」
こんなに好きな人が近くにいるのに・・・
なのにその人は自分じゃない他の誰かを見ていて・・・
あたしは無意識に先輩の布団の裾をぎゅっと掴んでいた
「んー・・・?あれ・・・梨沙子、どうした・・・?」
気がつくと先輩はぼーっとあたしを見ていた
「へ?あ・・・な、なんでもないです」
「そう?ってあ、いい匂いがすると思ったらお粥だ・・・」
- 13 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
02:19:10.98 0
「あ…、食べます?」
「うん」
子供みたいに頷き微笑んだ先輩
「じゃあ持ってきますね」
「あ、待って。いいよ、うちが行く」
「ダメです。先輩は寝ててください」
起き上がろうとした先輩の肩を持ちベッドに再び寝かせ
離そうとした手を先輩に握られた
「え…」
数センチの距離で目が合い石造のように動けなくなった
まるで先輩の綺麗な目に吸い込まれるように…
「ありがとうね梨沙子」
そう言ってほほ笑んだ先輩はあたしの頭をいつものように優しく撫でた
「…あ…今持ってきますね!」
「梨沙子?」
それを避けるようにあたしは慌てて部屋を出ると力が抜けたようにドアに寄っかかった
「危ない…。泣きそうになるのところだった…」
溜まった涙が溢れださないようにあたしは上を向いた
- 14 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
03:03:40.41 0
部屋を出ていく時にちらっと見えた梨沙子の顔
なんか・・・元気がなかったような・・・
もしかしてうちの風邪がうつった・・・?
ちょっと、いや、かなり心配で様子を見に行こうとするけど
体が上手く動いてくれなくて、そのままベッドに沈み込む
「あー・・・明日から学校始まるのにうち、大丈夫かな」
- 15 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
03:07:09.75 0
部屋に戻ると先輩がベッドに沈み込んでぼーっと天井を見上げていた
「先輩?」
「ん?あー、ごめんごめん。梨沙子大丈夫?」
「え?」
「いや、さっきちょっと様子が変だったから。体、しんどい?」
「そ、そんなことないですよ!ほら!先輩」
先輩に心配されると胸が苦しくてあたしはお粥の入ったお椀を強引に押し付ける
「え?自分で食べるの?」
「は?」
先輩はきょとんとしてあたしの顔を見つめる
「うち、病人なんだからさ、ほら、あーんってやつ、してよ」
- 16 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
03:13:44.93 0
「な、何言ってるんですか!自分で食べてください。子供じゃないんですから」
そう言って突っぱねると先輩は頬を膨らませ顔を逸らした
「じゃあ食べない」
「え!」
「食べさせてくれなきゃ食べないからね!」
子供みたいにスネて年下のあたしに甘える先輩がなんだか可愛くて
ついつい笑みがこぼれる
「しょうがないなぁ。高いですよ」
「え!?」
「冗談です」
先輩からお椀を取るとあたしはスプーンでお粥をすくいフーフーと息を吹きかけた
それを物欲しそうに見つめてる先輩
「はい、あーん」
- 17 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
03:27:49.70 0
「あーん」
先輩は嬉しそうに声を出して口を開ける
それを見てあたしはにやっと笑うと先輩の口に入る寸前で手を引っ込めて自分で食べた
「あ゛ーーー!!」
あたしがもぐもぐと食べるのを恨めしそうに見てくる先輩
いひぃいいい、こんなのお約束でしょ、先輩?
- 18 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
03:41:49.68 0
「ちょっと!それうちのでしょ!」
「あたしが作ったんですー」
からかうようにお椀を上にあげると先輩は必死でそれを取ろうと手を伸ばす
「ちょっと梨沙子!」
「いひひひ」
必死に手を伸ばす先輩は不意にバランスを崩しベッドからあたしに覆いかぶさるように落ちてきた
「いったぁ…。先輩、だいじょう…」
言いかけた言葉が止まったのはあまりにもすごい状況になっていたから…
だって先輩の顔が目の前にあって…それで…なんかこれって押し倒されてるみたいな状態…?
- 21 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
12:55:24.87 0
あれ?これ、前にも一回あったような・・・。
あ。そうだ、合宿の時だ。
あの時は確か、先輩が躓いて二人でベッドに倒れ込んで・・・。
ハハ、何度経験しても慣れないや・・・心臓が壊れそう。
こんだけ密着してたらきっと先輩にもあたしの鼓動が聞こえてるんだろうな。
「ははっ・・・なんでかなぁ」
「・・・え?」
無意識に乾いた笑いが出た。
あたしは、なんとか溢さずに持っていたお椀を側に置いて
先輩の背中にぎゅっと腕を回した。
「こんなに・・・近くにいるのに」
「・・・・・梨沙子?」
「こんなに・・・」
こんなに大好きなのに―――
鼻の奥がツンとして、視界が揺れた。
- 24 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
16:18:50.56 0
「なんて…ははっ、何やってんだろあたし…」
先輩から離れ背中を向けると溢れてきた涙をバレないように拭った
「梨沙子?泣いてる?」
「泣いてないですよ、なにいってるんですかもう」
背中を向けたままあたしにちょっと怒り口調で
「じゃあこっち向いて」と囁いた
「いやです…」
「どうして?」
「だって…泣き顔先輩に見られ…」
言いかけた顔をさえぎるように先輩はあたしの肩を持ち自分ほうへ向かせると
そっとあたしを抱きしめた
先輩の優しい匂いと温もりにまた涙が溢れて止まらない…
「梨沙子のうそつき…。泣いてんじゃん…」
「泣いて…ない!」
「はいはい」
子供を宥めるように頭を優しくぽんぽん叩き泣き顔を見ないようにそっと抱きしめてくれている先輩
好きになっちゃいけない人なのに…
諦めなきゃいけない人なのに…
どうしてそうやって優しくするの…
- 25 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
17:08:43.01 0
「梨沙子も何かあったんだね」
「・・・・・・別に」
「じゃあ何で泣いてんのよ。さっきも元気なかったし・・・何か辛いことあったんだよね?
なのにうち、いつも自分のことばっかりで・・・ごめんね」
あたしは首を振るのが精一杯で、なんて言えばいいのか分からないまま
先輩にぎゅっとされて動けない。
ただ鼻水をすする音だけが部屋に響いていた。
先輩・・・助けてよ。
もう、好きすぎて、どうしていいのか分からないよ・・・。
諦めたいけど、好きだから諦められない。
付き合いたいけど、先輩が好きなのはあたしじゃない。
告白したら・・・きっと先輩は離れて行くよね・・・
- 39 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
21:14:30.82 0
苦しそうに涙を流す梨沙子が自分と重なって思わず抱きしめた。
ごめんね、うち、自分のことばっかりで・・・。
梨沙子に頼りっぱなしで心配かけて・・・
うち梨沙子に負担かけてたのかな・・・
「先輩」
「・・・うん?」
「恋愛って難しいね」
「・・・ふふっ。そうだねえ」
「ねぇ先輩、変なこと聞いてもいい・・・?」
「なに?」
「もしね、大好きな人が違う誰かを大好きだとして・・・その恋を先輩は応援できる・・・?」
- 40 :名無し募集中。。。:2010/03/31(水)
21:17:09.09 0
大好きな人が違う誰かを大好きに・・・?
それってつまり・・・
「うーん・・・今はあんまり考えたくないなぁ」
「そっそうですよね!ごめんなさい!変なこと聞いちゃって・・・」
「いや、平気平気。うーんそうだなぁ・・・応援してあげれたらカッコいいけど・・・
でもどうだろうね。何が正しい答えなんだろうね。梨沙子はどう思う?」
そっと梨沙子の背中をさすって尋ねる。
梨沙子は少しの沈黙のあと、ポツリと口を開いた。
「・・・あたしも分かんないです」
- 45 :名無し募集中。。。:2010/04/01(木)
04:11:09.39 0
「ははっ、なにそれー。それじゃあ全然答え出ないよ」
「…そうですね」
うちの胸に埋めていた顔をあげた梨沙子と目が合う
その綺麗で力強い目にうちは視線を奪われた
「本当は答えなんてないのかもしれないですね…」
「…どうして?」
「ただ好きな人には幸せになってもらいたい…。笑顔で居てほしい…。どうか泣かないで…って、
そう思うことしかきっとできないから…」
梨沙子は切なそうに微笑むとうちから離れ立ち上がった
「梨沙子?」
「それじゃあ…あたしそろそろ帰りますね」
「え…、あ、ちょっと待って送って…」
「大丈夫です。それより先輩は寝てなきゃ」
立ち上がったうちの肩を持ち無理矢理ベッドに寝かしつけると
梨沙子はうちと一度も目を合わせずに部屋を出て行った
「答えなんてない…か…」
- 56 :名無し募集中。。。:2010/04/02(金)
01:56:02.75 0
家を飛び出したところで下から先輩の部屋を見上げた
まだあたしの体に残る先輩のぬくもり
あのぬくもりが欲しいのに・・・
それは全部愛理ちゃんのものなんだよね
「こんなに好きなのに・・・」
あたしはあふれそうな涙をこらえてぎゅっと目をつむると今度は振り返らず、家へと駆けだした
最終更新:2010年06月05日 02:58