72 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 21:20:09.66 0

「ん・・・」

目を開けると外はもう明るかった
小鳥のさえずり、通学してる子どもの声
窓の外から聞こえる音があたしに朝だと教えてくれる

「・・・今、なんじ?」

目を擦りながら習慣のように携帯を開く
あ、メール・・・あれ、夏焼先輩からだ・・・ん?ママからも来てる・・・

『りさこー。まだ来ないのー?』
『梨沙子、もう朝練始まるよ!』

半分夢の中にいた頭がだんだんと目覚めてくる
そして次の瞬間、現実を理解した

「っ!!!ちこくだーーー!!!」

73 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 21:21:09.74 0

結局部室に着いた頃にはもう朝練は終わっていた
練習試合前だというのに寝坊なんて・・・あたし最悪・・・
朝は強い方なのになんで寝坊したか自分でも分からない
遅くまで考え事してたから・・・なんて言い訳が通じるワケもなく
ママには呆れたように頭を叩かれて、
夏焼先輩にはほっぺたつねられた
うー・・・

教室に行ってからも困った
焦って家を出たから教科書をほとんど忘れた・・・
あたしなんで今日学校来たんだろう・・・そんな疑問すら浮かぶ
あーどうしようどうしよう・・・
誰かに見せてもらいたいけど隣の席は・・・

74 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 21:28:47.26 0

ちらっと横を見ると目が合った
愛理ちゃんはあたしの殺風景な机の上を見ると
無表情のまま呟いた

「教科書、ないの?」
「えっ!あ、うん・・・忘れちゃった・・・ほとんど・・・」
「ふぅん」

愛理ちゃんはそれだけ言うと突然自分の机をあたしの机にくっつけた
そして教科書をあたしにも見えるように真ん中に置いてくれた
びっくりしすぎてお礼を言うまで時間がかかった

「あ、ありがと」
「うん」

こんな短い会話ですら久しぶりな気がした
こんな近くに愛理ちゃんがいるのも・・・・
一緒に教科書を見てるだけなのにドキドキした

75 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 21:40:57.95 0

授業中、無意識に愛理ちゃんの横顔をちら見してしまう

真面目に授業聞いてるなぁ・・・
頭いいんだよね・・・
なんか横顔大人っぽいなぁ・・・

ずーっとぼーっと愛理ちゃんを見ていたら、隣で彼女が何やら教科書に書きだした

何を書いているんだろうと覗きこむと一言

『さっきからなんでこっち見てるの?』
それを見た瞬間慌てて愛理ちゃんの方を見る
だけど愛理ちゃんは前をしっかり見ていて・・・

あたしはその下に小さく

『ごめん。お昼休み話したい』

と書きたした

76 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 21:55:53.69 0

そのすぐあと先生に指されて慌てて立ち上がった
英語なんて(というか5教科は)苦手だし嫌いだけど
愛理ちゃんがしっかり予習してくれてたおかげで
Dogすら危ういこのあたしがすんなり英文を訳すことができた
たぶん先生びっくりしたと思う

申し訳なかったので教科書に『ごめんね、助かった』って書こうとしたら、
さっきの返事が書かれていた

『いいよ』

そしてもう一言


『あたしも話したい』

77 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 22:06:45.51 0

その言葉を見た瞬間息が止まりそうになるほど驚いた
だけど愛理ちゃんの顔はさっきと全く変わらない

あたしはその下に一言

『ありがとう』

とだけ書き加えて、それからは授業に集中しようと必死でノートを取った

といっても頭には全然入ってこなかったけど・・・

79 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 22:40:54.94 0

昼休み、天気がいいということで二人で屋上に来た
こうやって一緒にお弁当を持って寄り添うのは本当に久しぶりだった
思えば、転校した日最初に話しかけてきてくれたのは愛理ちゃんだったんだよね
お昼一緒に食べよ?って笑ってくれた
学校を案内してくれたのだって愛理ちゃんだ
クラスに馴染めたのだって、愛理ちゃんがいてくれたからだと思う

・・・愛理ちゃんは変わってない
出会った頃も今も、ずっと優しい子だったんだ
気まずいままじゃ嫌だ。あたしは愛理ちゃんと友達でいたい
今日から本当の友達になりたい
上辺の付き合いとかじゃなくて、ちゃんと向き合える友達に

先輩も勇気を出したんだから
あたしも勇気を出さなきゃ

80 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 22:53:15.53 0

「・・・」
「・・・」

決心はしたものの、どう切り出したらいいかわかんない
あぁ、あたしの意気地なし!!うぅ・・・

なんてお弁当の中身をお箸でイジイジしていると突然隣から言葉をかけられた

「おいしそうだね、梨沙子ちゃんのお弁当」
「へ・・・?あ、そ、そうかな!でもでも愛理ちゃんのもおいしそう!!」
「そう?ありがとう」
あたしの言葉に愛理ちゃんはにこっと笑ってくれた

今なら言える・・・勇気出すんだ!梨沙・・・「みや、どうしてる?」

子・・・って・・・へ?

81 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 23:11:10.26 0

「なっ、夏焼先輩?」
「うん。元気してる?」
「あーうん・・・元気だよ」
「そっか」

その表情からは感情は読み取れなかった
ただ黙々とお弁当を食べていた

「千聖に聞いたけど・・・今度の試合・・・やるんだよね?朝比奈と」

愛理ちゃんは途切れ途切れにそう言った
そしてあたしは察した
愛理ちゃんはきっと・・・いや絶対めぐさんのことを知ってるから・・・
夏焼先輩を心配してるんだ・・・別れた今でも・・・

82 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 23:22:07.44 0

「あ、うん・・・今週末」
「そっか・・・今週なんだ、朝比奈との試合」

愛理ちゃんは手を止めてぼーっと空を見上げる

「頑張ってほしいな・・・」
「愛理ちゃん・・・」

そう呟いた愛理ちゃはん寂しそうだったけどすごく優しい表情に見えた

「ねぇ、愛理ちゃん?」
「ん?」
「夏焼先輩のこと・・・今でも・・・好き?」
「・・・好きだよ・・・きっとずっと好きなんだと思う・・・」
「・・・そっか」

やっぱりそうだよね・・・あんなに好き合ってたんだもん・・・



「梨沙子ちゃんは?」

83 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 23:43:01.47 0

愛理ちゃんは優しい表情のままあたしに尋ねた
あたしは・・・あたしの答えは決まってる
ずっと前から気持ちは一つだった
ふぅと大きく深呼吸をして、愛理ちゃんをまっすぐ見て言った

―――がんばれ、梨沙子
先輩の声が聞こえた気がした


「・・・すきだよ」

「ずっと、すきだった」

震えるかと思ってた声は思ったよりすんなりと出た
長い間隠し続けてた言葉を
あたしの心の声を
今、愛理ちゃんに伝えた

「そっか」

愛理ちゃんは驚いた様子もなく小さく笑って頷いた

「あたしのこと、憎んでるよね・・・?」

84 :名無し募集中。。。:2010/05/09(日) 23:53:44.53 0

あたしの言葉に愛理ちゃんは首を横に振った

「初めはそうだったかな・・・」
「・・・ん」
「梨沙子ちゃんが転校してきてからみやは一緒にいても梨沙子ちゃんの話ばっかりで」

そ、そうだったんだ・・・

「なんで?あたしと一緒にいるのにって思ってた」

「だけど・・・色々話し合って別れて・・・少し時間が経った今は思ってないよ」
「ほんと・・・?」
「うん、きっとみやのこと、前よりも大事な存在になったんだと思う
だから・・・みやが幸せになってくれればって思えるようになった」
「愛理ちゃん・・・」

「そして・・・

それがあたしの大事な親友の梨沙子ちゃんが相手だったらいいなって思ってる」

85 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 00:11:47.93 0

「ははっ。ごめん調子乗って親友とか言ってみた」
「・・・愛理ちゃん・・・」
「でもね、梨沙子ちゃんがみやの相手だったらいいなって思ってるのは本当だし、
親友になれたらいいなって思ってるのも本当だよ。
親友なんて、口に出してなるものじゃないけどさ」

愛理ちゃんは少し照れくさそうに笑って下を向いた
あたしは・・・嬉しすぎて言葉が出なかった
だって、ずっと嫌われてると思ってたから・・・

何か言わなきゃと言葉を探してるうちに
愛理ちゃんが真剣な眼差しで顔を上げた
まっすぐな目であたしを見つめる

「ごめん」
「え?」
「梨沙子ちゃんは悪くないのに、酷いこと言っちゃったし、叩いちゃったし
全部梨沙子ちゃんのせいにしてた。本当にごめん」

そう言って頭を下げる愛理ちゃん
なんで・・・なんでよ・・・謝らなきゃいけないのはあたしなのに・・・
思わず視界が揺れた

86 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 00:24:04.77 0

そう思ったら体が勝手に動いてて…
あたしは愛理ちゃんにぎゅっと抱きついていた
「ごめん…ごめんなさい…ごめ…」
上手く言葉にできなくてごめんと言って謝り続けるあたしの頭をそっと愛理ちゃんは撫でた

その手の温もりと優しさがどことなく夏焼先輩に似てて
あたしは余計に涙を止められなかった…
「もうなんで梨沙子ちゃんが泣くのー」
「だって…あたし…」
「ほら…梨沙子ちゃんが泣いてたらあたしまで泣けてくるじゃん…」
お互いに抱きしめあって声を出し泣いているあたし達を
周りの人は不思議そうに見ていくけど
そんな視線も気にならないくらいあたしは今すっごくすっごく幸せだった

87 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 00:27:50.10 0

「あたし・・・うぅ・・・好き・・・・グスッ・・・先輩が好きだよぉ・・・」
「うん」
「どうしようもなく好きだよぉ・・・」
「うん」
こんなこと言ったら愛理ちゃんを困らせるってわかってたけど止まらなかった

すると愛理ちゃんはあたしの頭をポンポンと叩いてにこっと笑った

「あたしのこと、もう気にしなくていいから
りーちゃんはみやのことちゃんと好きになっていいんだからね」

96 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 14:18:01.57 0

愛理ちゃんのその言葉にまた涙が溢れた
好きになっていい・・・そこだけじゃなくて
りーちゃんって呼んでくれたことも嬉しかった

「うぅっ・・・ありっがと・・・」

そっと体を離して見つめ合う
涙でぐしゃぐしゃになった顔を見合わせて二人で笑った


それから吐き出せなかった今までのことをたくさん話した
愛理ちゃんと付き合ってるって知ってても先輩から離れられなかったこと
側にいれるだけでいいと思っていたこと

愛理ちゃんも、不安でしょうがなくて感情をコントロール出来なくなっていたこと
そんな自分が嫌だったこと
夏焼先輩を認めることも、自分に自信を持つこともできなかったこと
色んなことを話してくれた

97 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 14:20:00.15 0

「お互い、羨ましかったんだね」

あたしは愛理ちゃんが、愛理ちゃんはあたしが
お互いにないものを持っていて、羨ましくてしょうがなくて
それですれ違ってしまったんだと
だからもう謝るのはよそう?そう言って指切りをした

「ていうかとっくに授業始ってるよね」
「いいよ。もうさぼっちゃお。あたしどうせ教科書ないし」
「りーちゃんって結構やんちゃだよね」

笑いながら二人で寝転がって空を見上げる
もう秋になるなぁなんておばあちゃんみたいなことを思った

98 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 15:39:52.71 0

「ねぇ愛理ー」
「なーにー?」
「さっきさぁ」
「ん?ちょっと待って。今なんて言った?」
「さっきさぁ・・・」
「違う。その前」
「えー忘れちゃった」
「うそだぁ。・・・ねぇ、もっかい呼んで?」
「えー恥ずかしい」

とかなんとか言いつつもう一回愛理って呼んだら
頬をだらしなく緩ませてなーにー?と顔を覗き込んできた
さっきの大人っぽい表情とは大違い
思わず吹き出した

「さっきさ、試合のこと気にしてたじゃん?」
「あーうん」
「よかったら、見に来ない?」
「え!?」

101 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 19:36:26.27 0

あたしの言葉に驚く愛理

「・・・・・行けないよ」
「どうして?」
「あたしから振ったのに、応援に行くなんて無神経でしょ」
「・・・・」
「みやは言わないと思うけど、あたしの顔なんて内心見たくないと思う」

そう言って寂しそう笑って俯く
確かに、試合に来ない?なんてセリフ、あたしの方こそ無神経だったかもしれない

でもね。あたし、バカだけど、軽々しく言ったんじゃないよ
なんとなくだけどね、先輩、愛理が応援してくれたら喜ぶと思うんだ

顔見たくないなんて・・・先輩はそんな風に考える人じゃないから・・・

108 :名無し募集中。。。:2010/05/10(月) 23:39:20.72 0

「ねぇ、愛理?」
「ん?」
「あたし、見ちゃったんだ」
「何を・・・?」
「愛理の手帳。さっき授業中開いてたでしょ?今月の予定のところに」
「あ・・・」

そう・・・授業中ちらっと見てしまった愛理の手帳
さっき愛理は今週が試合ってこと知らなかったように話してたけど、
ばっちり土曜日の欄に

“みやの試合”

って書きこまれているのをあたしは見逃さなかった

ずっとずっと気にかけてたんだよね?
先輩だってきっと愛理に頑張ってるところ、見てほしいと思うよ?

162 :名無し募集中。。。:2010/05/15(土) 02:41:47.34 0

「でも…」
行きたいよ…行きたいけど…
あたしなんかが行ける立場でもないし
行ったってきっとみやに迷惑をかけるだけ…

「ねぇ、愛理?」
「…ん?」
「愛理の特等席って先輩の自転車の後ろだった?」
「え…、急になに…?」
いきなりの質問に戸惑っているあたしを見てりーちゃんは
切なそうに微笑んだ
「この前先輩…自転車の後ろにあたし乗せてくれなかったんだ。
その時は別に気にしてなかったけど、後々考えてみたら愛理よく先輩の自転車の後ろに乗って登校してたなぁって…」

あたしはふと思い出してた…
この後ろは愛理だけだよって言ってくれたみやのこと…
「あたし…」
「先輩きっと迷惑だなんて思わないよ。きっと観てほしいって思ってる。
だから、観に来て。先輩絶対喜ぶよ」
そう言ってあたしの手を取りニコニコ笑ってるりーちゃんに小さくこくんと頷いた

187 :名無し募集中。。。:2010/05/17(月) 01:26:20.79 0

愛理が試合に来てくれると言ってくれて凄く嬉しかった

だけど・・・

やっぱり先輩の自転車の後ろの座席は愛理の特等席だったんだ

あんなに優しいのに、絶対自転車だけは乗せてくれない先輩
少し遠いところでもあたしと一緒の時は自転車を押していた先輩
もしかしてとは思っていたけど、実際そうだと聞くと凹む

「いいな・・・」
あたしは思わず口に出してそう呟いてしまっていた

188 :名無し募集中。。。:2010/05/17(月) 01:34:12.98 0

「あー・・・ついに今週だねぇ・・・朝比奈との試合」
「チョー緊張なんだけ ど!!」

屋上で小春と千奈美と過ごす昼休み
愛理と別れてからはこうやって3人でお昼を取ることが日課になった

「勝 てるかなぁ・・・」
「朝比奈、強いからね」
「・・・勝てるよ」
「みや・・・」
こんな風に少し弱気になっている二人に一言

「勝 たないとダメなんだよ、うちらは」
じゃないと・・・めぐに顔向けできないんだ

それに・・・

ねぇ、愛理?
う ちらが付き合ってた時に今度の試合、絶対見に来てっていう約束

・・・まだ有効かな?

189 :名無し募集中。。。:2010/05/17(月) 02:17:02.48 0

そ んなことを考えてると千奈美が屋上のフェンスのほうを指さした
「ねぇ、あれって愛理ちゃんと梨沙子ちゃんじゃない?」
「え!?」
「あ、 ほんとだ。梨沙子ちゃー…!っふが」
大声を出して名前を呼ぼうとした小春の口をうちは咄嗟に塞いでいた

「ば、バカ!」
「な んでよぉ…。梨沙子ちゃんと話したかったのに」
「ま、まぁまぁ。放課後話せるじゃん。それよかもうチャイム鳴るし行こっ!」
千奈美はぶつ ぶつ文句垂れてる小春の腕を取るとうちのほうを振り返り
アイコンタクトを送った
「ちぃ…」
「あれ?みやは?」
「いいの! ほら小春行くよ」
「え、ちょっみやさぼるならあたしもさぼる~」
二人の背中を見送ったと同時にチャイムが鳴り他のみんなも慌てて教室に 戻って行く
そんな中まだお弁当を広げたまま話をしている二人

190 :名無し募集中。。。:2010/05/17(月) 02:36:55.11 0

「何がいいな。なの?」
「え・・・あー・・・いやぁー・・・」
あたしの呟いた言葉にきょとんとした顔で尋ねてくる愛理

「あたし・・・愛理が羨ましいなって思っちゃって」
「羨ましい?」
「ん・・・先輩・・・今でも自転車の後ろ・・・誰も乗せないから・・・」
「・・・ぁー・・・」
愛理は少し苦しそうな表情をして遠くを見つめる

「約束・・・したから・・・あたし以外乗せないって・・・」
「うん・・・」

「でも・・・もう・・・その約束・・・期限切れなのにね」
ふっと愛理は切なく笑ってみせた

191 :名無し募集中。。。:2010/05/17(月) 02:57:18.73 0

「そうかな…」
「え…」
前を見据えたままそう呟いた梨沙子ちゃん
その顔はどこか切なそうでとても苦しそう…

「きっと先輩の中ではその約束…期限切れてないんだよ…」
「りーちゃん…」
「はぁー、やっぱ愛理には敵わないやぁ」
前へ向けていた顔を今度は空を見上げるようにあげりーちゃんは笑った

「あたしはりーちゃんに敵わないよ…。素直に気持ち言える強さも、みやを思う気持ちも、
りーちゃんには敵わない…」
つられるようにあたしも真っ青な空を見上げた
みや…あの約束…
もう忘れていいよ…

199 :名無し募集中。。。:2010/05/17(月) 22:59:04.10 0

うちはパックのストローをくわえながら屋上の柵越しに梨沙子と愛理をぼーっと見降ろしていた
あの二人、割と仲いいんだ・・・
もうチャイム鳴っているのに何話してるんだろ?

久しぶりに見る愛理は何だかすごく遠く感じた
それに・・・何だかとても綺麗になったように思うのは
もううちが手に届かない存在になったから?

それとも・・・

あの人に恋をしているから?

なんてね、もううちには関係のないことだ・・・

だけどさ、こんな偶然ってあまりないことだし、おもいきって声をかけてみるか

「愛理!梨沙子!!チャイム鳴ってるぞー!!」

200 :名無し募集中。。。:2010/05/17(月) 23:46:20.38 0

「やばっ!」
あたしと愛理は慌てて弁当をしまうと
屋上の出入り口へと走った

「…え」
「ん?どうしたの?りーちゃん」
「う、ううん」
気のせいかな…
今確かに夏焼先輩の匂いがしたような気がしたのに

「りーちゃん早く!」
「うん!」
慌てて階段を駆け下りて踊り場の角を曲がったとき愛理が誰かにぶつかり軽く吹っ飛んだ
「愛理!」

「いててて…」
「愛理ちゃん!?ごめん!大丈夫!?」
倒れた愛理に駆け寄ったのはママだった
「ママ。なんで?授業中じゃないの?」
「あー、今の授業千奈美とかのクラスと一緒なんだけど、みやがいないから探してこいって先生に頼まれてさ」
「先輩が…?」
じゃあやっぱりさっきの…
あたしは元来た道を戻るように階段を駆け上がった
やっぱりさっき先輩あそこにいたんだ…

202 :名無し募集中。。。:2010/05/18(火) 00:09:11.20 0

あたしは迷わず屋上に続く扉を開く

ぎぃーっという小さな音がした後目の前に広がるのは真っ青な空
その空の先に大好きな背中があった

そっと近づいていくけど、先輩は全然気づかない
柵から少し身を乗り出してぼーっとストローをくわえて遠くを見つめている

「先輩?」
あたしが小さく声をかけるとゆっくり先輩は振り返った

「ん?」
そう返事した先輩の表情がすごく優しくて、あたしはなぜだか涙をこぼしていた

203 :名無し募集中。。。:2010/05/18(火) 00:17:59.03 0

「なんで泣いてんのさ」
先輩はあたしのほうへ歩いてくると優しく頭を撫でた

「…いよ…」
ずるいよ先輩…
こんな時にまで優しくするなんてずるいよ…

「先輩…?」
「ん?」
「愛理のこと…まだ好きですか…?」
あたしの急な質問に先輩は戸惑った顔見せて少し笑い背を向けるとまた柵のほうへ歩き出した

「急にどうした?そんな質問」

204 :名無し募集中。。。:2010/05/18(火) 00:29:15.45 0

「それは・・・」
先輩の質問がえしに言葉が詰まる

えっと・・・どうしよう・・・急ってわけじゃなくて、ずっと思ってたことで・・・
だから・・・その・・・うぅ・・・

あたしはどう返したらいいかわからなくて心の中であたふたしていると

「好きだよ」

え・・・?

「愛理のこと・・・まだ好き・・・」
「先輩・・・」
そういって先輩は柵に背中を預けてこっちを向いた

「愛理と仲良くなったんだね」
「え?」
「名前。愛理って呼び捨てになってる」
「あ・・・」

「嬉しいな。愛理に梨沙子みたいな優しい友達ができて・・・」
先輩は本当にうれしそうにあたしににこっと笑いかけた

205 :名無し募集中。。。:2010/05/18(火) 00:48:41.16 0

「梨沙子は愛理のこと好き?」
その先輩の問いにあたしは俯いた

「好きですよ…」
先輩のことが…
そう最後に言いたかったけど
そんな勇気はなくて…あたしはただ俯いた…

「そっか。良かった。愛理って昔から友達多いほうじゃなかったから
梨沙子みたいな友達が出来て安心した」
先輩は嬉しそうに微笑むと空に向かって伸びをした

「梨沙子、ありがとね」
先輩の優しい言葉、優しい笑顔
すべてが愛しくて、苦しくて、涙をこらえるのが精いっぱいだった

206 :名無し募集中。。。:2010/05/18(火) 01:13:48.24 0

ダメだ・・・もう・・・好きだよ・・・
好きが溢れてどうしたらいいかわかんないよ・・・

俯いて涙をこらえていたら急に体が温かくなった

先輩に抱きしめられているのに気付いたのは
いつもの優しい手つきで髪をそっと触られた時だった

「せん・・・ぱい・・・?」
「ごめん・・・なんか・・・よくわかんないけど・・・
急に梨沙子を抱きしめたくなっちゃった」
先輩はそう言ってからまたきつくあたしを抱き寄せた

「なんか・・・梨沙子あったかい」
「え・・・あ、・・・そ、そうですか?」
「うん、なんかねぇ・・・こうしてると安心する・・・」
って言いながら抱きしめるけど、あたしはこんなこと慣れてなくて
ただ先輩の言葉に相槌を打つことしかできなかった

208 :名無し募集中。。。:2010/05/18(火) 01:54:41.09 0

「梨沙子…うちね…」
真っすぐにあたしを見つめる先輩と至近距離で目が合い
まるで時間が止まったかのように周りが静かになった
「うち…」

「…ちょっ、押さない…わああ!」
先輩の言いかけた言葉をさえぎり聞こえてきた悲鳴に
あたしと先輩はびっくりして慌てて離れると悲鳴が聞こえたほうへ顔を向けた
「いてて…あ、いや、見るつもりはね、なかったんだけど」
余所余所しそうに立っている徳永先輩と久住先輩とママと…
後ろには愛理もいた…

「…ちょっ!もう!何誤解してるんですかみんなして~。
今のはなんていうかその…おしくらまんじゅう的なあれですよ!ね、先輩?」
「え…?あ…う、うん」
「ほら、もう戻りましょう」
あたしは無理に作った笑顔で先輩達の背中を押し屋上から出すと
愛理の背中をぽんっと押した

「りーちゃん?」
「先輩にちゃんと試合観に行くこと伝えるんだよ」

212 :名無し募集中。。。:2010/05/18(火) 14:27:04.99 0

あたしは先輩と愛理を屋上に残したまま屋上のドアを閉めた
これで…これでいいんだよね…
先輩もきっと話したいこといっぱいあるだろうし
愛理にもちゃんと先輩と向き合ってほしいから…だから…

そう心の中では思うのに体はやっぱり正直で
溢れだした涙が止まらなかった
先輩はまだ愛理のことが好き…
もし寄りを戻せたらあたしも嬉しい
なのに心の片隅では先輩行かないでってずるいこと思ってる…
あたし…最低だ…

「梨沙子」
そばにいたママが泣いてるあたしをそっと抱き寄せる
「泣きたいときは思いっきり泣きな、梨沙子。こうしてれば誰にも見られないから」
ママのその言葉に溜まっていたものがすべてはきだされたかのように
あたしは大声をあげて泣いていた
そんなあたしをぎゅっと抱きしめ頭を撫でたママは「頑張ったね」と囁いてくれた

253 :名無し募集中。。。:2010/05/20(木) 22:41:52.63 0

ママと話しながら寄り添って階段に座ってたら屋上の扉が開いた
振り向くと楽しそうに笑って出てくる二人
もしかして・・・寄り戻ったのかな?って思ったけど
あたしを見る二人の目がなんていうか・・・凄く優しくて
一瞬思考が止まった

「りーちゃん、教室もどろ」
「え、う、うん」
「てゆか梨沙子、目真っ赤だけど。どうしたのさ」

うしろから抱きついてくる愛理
さっきも泣いてたよねーって心配そうにあたしの顔を覗く先輩
梨沙子は泣き虫だからって笑うママ
みんなバラバラで思わず吹き出した

「先輩には教えないっ」

いたずらっぽくべーって舌を出して愛理の手を握った

254 :名無し募集中。。。:2010/05/20(木) 22:48:22.65 0

「なっ!先輩に向かって生意気だぞ!!」
「いたいっ!いたいっ!」
先輩はあたしのポニーテールをぎゅっとつかんで引っ張ってくる

「あはは、りーちゃん、顔真っ赤ー!」
「な、何言ってんの?愛理!」
「もっと引っ張ってやる!!」
「あーもー!先輩、やめてー!!」
あたしは愛理の手を思わず離して一人急いで階段を駆け下りる

「あ、こら!待て!バカ梨沙子!」
先輩が後ろから追いかけてくるのがわかってあたしはにやけそうになる顔を我慢しながら逃げ回った

255 :名無し募集中。。。:2010/05/20(木) 22:58:51.86 0

中学の校舎まで追いかけてこようところでまあに後ろから首根っこをつかまれた
「あんたはこっちでしょ」
「ちょっ、まだ話は終わって…!」
愛理と梨沙子はべーっておちょくると急いで教室へ走って行ってしまった

「あ~もう」
「ったく、いつまで子供なのかね~みやは」
「何それ」
うちはムっとして頬を膨らませた
そんなうちにまあは呆れたように笑うと高校の校舎のほうへ歩きだした

「みやのそういう一途なとこは良いところだけど、本当に大事なものって案外近くにあったりするもんじゃない?」
「急になんの話」
「う~ん?ただみやは大人になるのはまだまだだな~って」
「なにそれ!まあまでそうやってうちのことバカにしてー!」
笑いながら逃げるまあをうちも笑いながら追いかけた

258 :名無し募集中。。。:2010/05/20(木) 23:09:31.93 0

授業さぼっちゃったねなんて話しながら二人で静かに廊下を歩いた

「りーちゃん、ありがとね」
「何?急に」
「んふふ、みやとね、ちゃんと話せたから・・・
それに、試合も見に来てって言ってくれた」
「そっか・・・」

やっぱり先輩、愛理に見てほしかったんだ・・・
そりゃそうだよね、愛理のこと大好きなんだもんね

「それでね?みや、頑張るって」
「え・・・?何を?バスケ?」
「うん、それもだけど・・・恋」
「へ?」
「恋・・・ちゃんと頑張るって言ってた・・・」

259 :名無し募集中。。。:2010/05/20(木) 23:17:12.39 0

「そうなんだ・・・」
「うん」
「その頑張った先にあたしがいるといいんだけどなぁ・・・」
「きっといるよ」

そう言って微笑んでくれる愛理

「いや、でもあの人完全にあたしを妹としてしか見てないから・・・」
「特別なことには変わりないじゃん」
「そうなのかな・・・」

とりあえず、側にいて一緒に笑ったりふざけたりして
同じ時間を刻みたいなとは思った

260 :名無し募集中。。。:2010/05/20(木) 23:23:50.59 0

「ふふふ、ほんとりーちゃんってみやのこと大好きなんだね」
「わ、悪い!?」
「うぅん、全然。りーちゃん見てるとホント恋してるんだなって思うよ」
愛理はニコニコしながらそんな恥ずかしいことを言ってくる

「うぅ・・・そんなことないもん・・・」
「あたしも次の恋、頑張ろうって思えるもん」
「愛理はうまくいってるんでしょ?あたしはまだまだだもん」
「まぁまぁ、そんな落ち込まないで」
へらへらとあたしの肩をたたく愛理にプッと思わず笑ってしまう

「あー・・・あたしも先輩と恋人になりたいなぁー・・・」

4 :名無し募集中。。。:2010/05/22(土) 02:55:31.97 0

「恋人って表現ってさ、ただの肩書にすぎないと思わない?」
「え?」
愛理の急な言葉にあたしは進めていた足を止めた
それに気付いた愛理も足を止めあたしのほうへ振りかえった

「なんていうかよくわかんないけど…、恋人になったり、紙切れ1枚で一生を共にするより、
きっともっと大事なのはお互いの気持ちなんだと思うんだ…」
困ったように笑った愛理はもう一度止めていた足を動き出し
あたしもそれに続いた
「あたしは今回でそのことがわかった気がする」
「愛理」
「なんてね。ちょっと大人ぶってみた」
クスクスって笑いながらあたしを見た愛理はみやと同じように
あたしの頭をそっと撫でた

「りーちゃんの気持ちきっとみやに届くよ」

25 :名無し募集中。。。:2010/05/23(日) 01:51:11.08 0

「愛理…」
「ほら、笑って。りーちゃんは笑顔が一番可愛いだから」
そう言って笑う愛理にあたしも自然と笑みがこぼれた

「よし!今日は友達記念日だから二人でパァーっとさぼろうか!」
「ふふ、なにそれ。愛理らしくない」
からかうように笑ってみせると愛理はあたしの腕を引き
「いいのいいの。とりあえず図書室で勉強会!」
と歩きだした

「え~そういう時は遊びに行こう!じゃないの?普通」
「何言ってんのりーちゃん!あたしたちこれでも一応受験生なんだからね」
「さぼってるくせに良く言うよ~」
愛理とくだらないこと言い合って笑いあってるうちに
あたしの中で先輩への想いに何か決心がついたような気がした
バスケでいうと第4クォーターの残り10秒
あたしの気持ちはこの恋の勝利への気持ちだけ
先輩がめぐさんに会いに行ったようにあたしも先輩とちゃんと向き合いたい、話したい
先輩がめぐさんとの試合に勝ったら…あたしは…

最終更新:2010年06月05日 04:05