- 84. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 01:53:49.42 0
- 「やっほう」
「あれ、清水先輩」
「ひとり?」
「あ、いえ、さっきまで愛理もいたんですけど・・・どっか行っちゃいました」
少し困ったように笑う梨沙子ちゃん。その笑顔が可愛くて、思わず私も笑顔になる。
「二人はいつも一緒にいて仲いいね」
「・・・やっぱ、愛理の存在は大きいですから」
そう呟く梨沙子ちゃんはどこか嬉しそうで、少し自慢げで、あぁ仲直りできたんだと確信する。
どんなことがあってもお互いを大事にする二人がなんだか大人に思えた。
なんでこんなに絆固いんだろうなーなんて少し二人を羨ましく思う。
「うちのバンドのメンバーも、梨沙子ちゃんと愛理ちゃんを見習ってほしいよ・・・」
「え?」
「みんな素直なんだか素直じゃないんだか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「みやとか特に不器用だからさ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「本当は臆病で繊細だったりするんだよ・・・ってごめんね、こんな話。」
急に黙ってしまった梨沙子ちゃんを見て、ちょっと悪かったなと頭を掻く。
そういえばコンビニから戻る途中だったと逃げるように思い出して、じゃあそろそろ戻るねと立ち上がった。
その瞬間、俯いていた梨沙子ちゃんが思いつめたように口を開いた。
「あ、あの!」
「えっ?」
「・・・夏焼先輩って、なんであんなに寂しそうなんですか・・・?」
- 85. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 02:11:15.11 0
- 「・・・みや、寂しそうに見える?」
「・・・はい」
そう言っている梨沙子ちゃんもなんだか寂しそうで。
そんな風にみやを見ている梨沙子ちゃんは、やっぱりそこらへんの子とは違うと思った。
人の心に敏感な子なんだろうと思う。
それ故に自分を責めやすいし、人の痛みも感じやすい。
優しい子なんだと思う。
「みやは、ちょっと複雑だからさ」
「昔、何かあったんですか?」
「あたしからはなんとも言えないな」
「そうですよね・・・すいません」
また俯いてしまった梨沙子ちゃん。
あたしは確信した。みやの孤独を埋めれるのはこの子だ。
みやを変えれるのもきっとこの子だ。
この子なら、いつまでも立ち止まってるみやを救うことが出来ると思う。
「ねえ梨沙子ちゃん」
「はい?」
「みやを、見捨てないであげてね」
それだけ言うと、梨沙子ちゃんの返事を聞かずにスタジオまで走った。
- 96. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 03:42:42.64 0
- 「みやを見捨てないであげてね」
頭から離れない・・・
しばらくぼーっとしてると突然電話がなった
もしかして夏焼先輩!?いや、そんなはずない・・・
淡い期待を寄せて携帯を開くと電話はお母さんからだった
「もしもし」
「梨沙子!あんた今どこにいるの!?」
「あぁごめんさい」
「買い物は済ませての?さっさと帰ってきなさい!」
「はーい」
ゆっくりとベンチから腰をあげる
家に帰っても怒られるし帰る気がしない
先輩は今どこにいるんだろう・・・
- 97. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 04:02:16.47 0
- 家に帰ったら怒られると思うとそれでなくても遠い道のり、
歩くスピードもどんどん遅くなる
そして少し歩くとあのライブの日、先輩のことが好きだと自覚したあの日の
お店が見えて目の前で足を止める
あの日、たくさん話をしてホテルで先輩に抱きしめられた・・・
色々思い出しているとあるものが目に入る
「これ・・・夏焼先輩の自転車!!」
はっとしてお店の中に目をやると夏焼先輩が一人コーヒーを飲んでいる姿があった
- 100. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 04:18:19.52 0
- 気づいたらあたしはお店に入り先輩の座る席に足を進めていた
きっと無意識だったと思う
スーパーの袋を持ってるし、お母さんは家で待ってるし
そんなことはわかってたけど
でも、どうしても先輩に会いたいって言う気持ちがあたしをこうさせたんだ
先輩の後ろに立って一つ深呼吸する
そして・・・
「夏焼先輩・・・」
勇気を出してあたしは後ろから声をかけた
- 106. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 11:14:57.79 0
- 夏焼先輩は一瞬ビクっと肩を揺らした後、ゆっくりと振り返った。
その綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
もう周りのものは視界に入ってなかった。
雑音も聞こえなかった。
まるで世界に二人だけかのように、二人は見つめ合っていた。
「・・・・」
「・・・・」
はぁ・・・あたしは何やってるんだろう。
他人に戻ろうって言ったのはあたしなのに。
先輩を置き去りにして逃げてきたのに。
なのに話しかけて。今更だけど自分の行動の意味が分からない。
きっと先輩もそう思っているんだろう、先輩は何も言わなかった。
あたしも何も言えなかった。
だんだんと罪悪感と後悔が襲ってくる。
「あ、あの。すいませんでした・・・それじゃ・・・」
その場に居にくくなって店を後にしようとした。
逃げるように早足で出口に向かう。だがそれは出来なかった。
なぜなら先輩に腕を掴まれていたから。
「せ、先輩・・・?」
「・・・行かないで」
「え、あの・・・」
「行かないで!!」
周りのお客さんが一斉にこっちを見る。
あたしは完全にテンパッていた。
- 107. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 11:23:24.53 0
- 周りの目が気になる
だけどそれでも目の前の先輩に見つめられると動けない
そのまましばらく先輩に腕を掴まれたまま見つめ合う
すると先輩は立ち上がりお店を出る
先輩はお店を出るまでずっと無言で・・・
あたしは先輩に腕を掴まれてるから逃げ出すことも出来なくて・・・
気づいたらあの日と同じように先輩の自転車の荷台に乗っていた
- 114. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 12:27:07.95 0
- 薄暗い道を自転車はどんどん進む。一体どこに向かってるんだろうか。
勝手にあんなことを言ったから、他人になろうなんて言ったから、きっと先輩は怒ってるんだと思う。
熊井さんとのことももしかしたら知っているのかも知れない。
「うちのものでいて」と言われた頷いたあたし。なのに裏切った。先輩は絶対怒ってる。
何も言わずに自転車を漕ぎ続ける先輩の背中が怖かった。
もし、こないだみたいなことになったら。
ホテルに連れていかれたら。
あたしはどうすればいいんだろう。
また過ちを繰り返すのか。ひっぱたいてでも逃げた方がいいのか。
どちらにしろ後悔は残るんだと思う。
どうしよう、どうすればいいんだろう。
分からないよ・・・愛理・・・
「もう着くよ」
- 115. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 12:27:54.36 0
- そう言われて顔を上げると、そこは見覚えのある道だった。
あれ?ここって・・・。あたしがいつも使ってる道。
家までの道だ。
「先輩・・・」
「ここでいい?」
もうすぐそこは家だという所で先輩は降ろしてくれた。
想像してなかった展開に驚きを隠せない。
「あの日も、こうすればよかったんだよね」
「先輩・・・」
「こんなことしたって、あの日には戻れないけど・・・うぅ・・・グス」
「みや・・・?」
思わずみや、と呟いた。なんだかすごい久しぶりに呼んだような気がした。
気付けばあたしは、みやを抱きしめていた。
「うぅ・・・りさこぉ・・・」
「みや、泣かないで・・・」
「うち、もうどうしたらいいか分かんないよぉ・・・」
「・・・・」
「全部なかったことにして、もう一度梨沙子と出会いたい・・・」
「・・・・」
「りさこぉ・・・グス・・・側にいてよぉ・・・」
みやは泣き続けた。壊れたように何度も「側にいて」と言い続けた。
こうして抱き合っていると、みやの心の痛みが体を通して伝わってくるようで、
あたしは全てを忘れてひたすらみやの背中を撫でていた。
あたしの頬は、みやの涙なのかあたしの涙なのか分からないほど濡れていた。
- 119. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 12:54:19.33 0
- しばらく抱き合った後、みやはそっとあたしから離れた
「梨沙子を困らせてごめん・・・傷つけてごめん」
「・・・そんなことない・・・」
「おやすみ、梨沙子」
そっとあたしの頭を撫でるみや
そうだ・・・あたしはこの感触が好きで・・・
そうしていいる間にみやは自転車に乗って帰ろうとする
だからあたしは無意識にこう叫んでいた
「みや、待って!今日はあたしがみやの家まで送っていく!!」
少しでもみやと一緒にいたかった・・・
- 127. 名無し募集中。。。 2009/07/04(土) 16:17:48.36 0
- みやは自転車を押しながらゆっくり歩いていた。
あたしはその一歩後ろを着いて行く。
時々さりげなく振り返って気にしてくれるのが嬉しかった。
もうだいぶ暗くなった夜道。
月明かりに見えるみやの横顔はすごく綺麗で切なくて、つい見惚れそうになる。
ここ何日かで、あたしはみやの色んな顔を見た。
笑った顔、怒った顔、自信満々な顔、色っぽい顔、寂しそうな顔、泣き顔。
コロコロ表情は変わるし、急に怒ったり優しくなったり忙しいけど、
きっとどれも本当のみやだから。
どれが本当のみやなんだろう?って分からなくなることもあるけど、
今はまだ悩んだり不安になったりもするけれど、
いつか、どんなみやも受け止められる強いあたしになれたらなぁ、なんて。かっこつけて思ってみた。
「みやって一人暮らしなの?」
「うん、一人。一人だと広すぎるんだよねーあの部屋」
あ、もしかして一人暮らしだから寂しがりやなのかな?なんて思っていると、もうすぐ着くよと教えてくれた。
最終更新:2009年07月05日 16:30