352. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:46:06.89 0
千奈美のメールに返信していて気がついた
今日は7月7日、七夕だって

広いマンションの一室、いるのは私だけ
もう七夕だからって何かをする年齢ではない……けれど

机の引き出しをあけると、奥に赤い画用紙で作った短冊
表には『みやが朝学に受かりますように!!  もも』と書かれている

その裏にも文字が書かれており、それを口の端にのせると声が震えてしまう

ったく……もものバカ

353. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:46:56.15 0
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中三の7月、期末テストも終わってバスケ部のみんなで学校に残れる限界まで練習をしていた
当直の先生にさっさと帰れとどやされ、みんなで急いで片づけをして帰り支度をして体育館を出た
残っているのはうちらだけかと思いきや、野球部、ソフトボール部、テニス部、サッカー部……
もろもろの運動部が同じようにぞろぞろと片づけをしていた

そっか、みんな夏の大会、三年にとって最後の大会にむけて頑張ってるんだもんね
これが終わったら受験にむけてひたすら机に向かう日々

……受験かぁ
これまで先延ばしにしてきてしまったけれど、本当にどうしよう
去年ももがヒーヒー言ってるのを遠いことに思えていたけれど、もう現実はすぐそこ

354. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:47:45.11 0
ちょっとブルーになっていると、校門の脇の街灯にひとつの影を見つけた
白いYシャツに赤いリボン、赤と黒のチェックのスカートに紺のソックスにローファー

あれ、朝学の高校生だ
街でこの制服が見られるようになるともうすぐ夏かなーと感じる、
うちのなかでの初夏の風物詩だった

その小柄な女子生徒は誰かを待っているようで、腕時計を気にしていた
なんかももに似てる……って、ももじゃん!!

夏服のももは初めて見る
こうなんだか……大人っぽくて別人みたい

「どしたのもも、こんなところで」

「あ、みやぁ。やっほー」

「やっほーじゃなくて。どうしたのこんなところにこんな時間まで」

「練習が珍しく早く終わったんでみやを待ってたんだ、はい」

そう言って、コンビニの袋からコーラを取り出し手渡される
ぬるくなっているところから、けっこうな時間待っていたのかな

355. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:48:34.57 0
「……ももがタダでジュースくれるなんて怪しい」

と言いながらもキャップを開け一口飲む
部活帰りのももからおごられるコーラ、ちょっと懐かしい

半分くらい飲み、ももに渡す
こうやって回しのみするの、けっこう久しぶりかも

「えっ!?  べつにたいしたことじゃないよ。ちょっと付き合ってほしいことがあって」

「ほら、やっぱり」

「いいじゃんもー。ところで今日はチャリ?歩き?」

うちは両手をあげ、チャリじゃないことをアピールした

「しかたないなー、ももが特別にみやを乗せていってあげる」

「……だったら別に行かなくていいや」

「あー、もうみやー!」


356. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:50:04.49 0
結局ももの漕ぐチャリの後ろに乗っている

「ねぇ、もぉ汗臭くない?」

「別に」

うちと同じ制汗剤の匂い、それにかすかに混じるももの匂い
制汗剤はお互い一緒にいることが多くて別々のものを使っていると……
混ざってなんとも言えない匂いになるため気がついたらもものほうが合わせてくれていた
それとはまた違うももの匂い……うち、嫌いじゃない
髪も前に比べてサラサラだった
ストレートパーマでもかけたかな?

「あれ、そういえば朝学ってシャワー室あるじゃん。使わないの?」

いちばん広くて設備が整っている朝学が地区大会の会場になることが多く、
お手洗いの隣にシャワー室があるのをみたことがある

「あるんだけど、もぉ一年でしょ。あれは基本的に上級生が使うもので……。
それに『外様』だし」

357. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:51:22.42 0
ももの言う「外様」とは外部進学者のことを指す
高等部と中等部、いちおう分かれているとはいえ同じ体育館で練習していて合同練習も少なくない
だから内部進学の高校一年生は「四年生」みたいな雰囲気があり馴染むのに苦労する、とももが話す

いけない、この手の話題になるとももは決まって落ち込む
話題をかえなきゃ

「もも、透けブラしてる今日はピンkうぁあ!!」

全部言い切る前に自転車がふら付き危うく地面に叩き落されそうになった

「みやこそいつも黒ばっかりでないものをごまかそうぎゃあああ!!」

ひどいことを言い返されたんで背中の肉を思いっきりつまんだらまた自転車がふらついた

358. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:51:54.12 0
ももの部屋にお邪魔すると、床に広がる笹、折り紙、画用紙、新聞広告、マジックペン、その他もろもろの工作道具

弟さんとの相部屋だけど、いまは他の部屋に行ってもらっているみたい

「……ゴキブリ退治じゃないよね」

「ちがうって。今日は七夕だからね、みやと一緒に短冊つくりたいと思って」

……おのれは小学生か、とツッコミたくなった

「弟がね、行事であまった笹をもらってきてくれたんだ
  去年も同じことがあって、『朝学に合格しますように』って短冊に吊るしてお願いしたてみたら合格して、
縁起がいいから今年もやろうかなって思ったんだよ。ほら、みやも今年受験だし」

なんか、ももは高校生になってもやっぱりももだ
ちょっと安心した

「じゃあみやは画用紙切って短冊つくってー。もぉは飾りつけやるから、切り終わったら手伝ってね」

359. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:52:21.49 0
30分後。

クリスマスツリーばりにデコられた笹と、8枚の短冊

「みやさ、短冊多くない?」

「ももさ、てっぺんに金色の星を載せるのどうかと思うよ。クリスマスじゃないんだし」

互いに不満の残る結果となった。

「まぁいいや。もぉは短冊7枚書くから」

「え、ちょ、ちょっと」

数が多いと文句を言ったくせに、ももはスラスラと短冊を書いていく
うちも短冊に願い事を書く
それはもちろん――

「なになに、『打倒朝学!!  夏焼雅』。……現役朝学生としてはちょっと複雑かも」

「勝手に読まない!!」

「ごめんごめん、いま飲み物持って来るねー」

笑顔でももが部屋を後にする。

360. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:53:17.86 0
「ったく、ももは……」

そう言いながらももの短冊を見る

『レギュラーがとれますように  もも』
『小遣いUP!!……大作戦  もも』
『数学のテストが赤点じゃありませんように  もも』
『あと古文のテストも赤点じゃありませんように  もも』
『身長あと5?欲しいです  でも10?はいりません  もも』
『もっと美人になれますように  もも』
『みやが朝学に受かりますように!!  もも』

こんなに七夕は我がままを叶えてくれるイベントだったっけ?
それにテストの結果なんてもうどうしようもないし
なぜかうちのことまで……

呆れながら短冊を元の位置に戻そうとすると、
『みやが朝学に〜』の裏に小さく何かが書いてあるのに気がついた


――  そしてみやとずっとずっといっしょにいられますように  もも  ――



361. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:53:50.78 0
「お待たせー麦茶だよー。……って、みやどうしたのそんなに慌てて?
  顔も赤いし」

「な、な、なんでもないよ、まったく」

「??  まぁいいけど。短冊飾っちゃおうか」

ももが入ってきた瞬間、さっきまで見ていた短冊を慌てて制服のスカートのポケットに突っ込んだ
いけない、心臓がドキドキしておかしくなりそう
麦茶を一気飲みしてなんとか誤魔化そうとする

「あれ、短冊ひとつ足りないような。みや知らない?」

「知らないよ」

嘘をついたけど、声が震えたのですぐにばれてしまいそう

「まぁいっか。去年もまったく同じの書いたから」

ももにそれ以上追求されず、短冊をつけ笹をベランダに出す
残念ながら曇天、というか七夕の日に晴れていた記憶はない

362. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:54:18.18 0
ももはそんな曇り空を見上げながら質問してきた

「みやさ、彦星さまと織姫さまって一年に一度しか会えないんだよね。
お互いに好き同士なのに。みやはそういうの耐えられる?」

「どうかな。やっぱり好きな人はそばにいて欲しいな。
  うちがその人のことがたまらなく好きで、その人もうちのことが好きでも
  そばにいてくれないんだったら他の人に気持ちが移っちゃうかもしれない
待つのは苦手だし。そういうももはどうなの?」
  
「もぉは……長期間会えなくても、ずっとその人のことを想っていそう
  その人と会えなくなっても、もぉのことを好きでいてくれると信じてる
だって、その人のことをすごく好きだし、好きで待っていてもらいたいから
もちろん、ずっとずっといっしょにいるのが一番なんだけれど」

「……そっか」

「……うん」

そこで会話が途切れ、二人でしばらく曇り空を見上げる

363. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:55:45.87 0
「ねぇ、七夕の歌うたおうよ。そのほうが願いがかないそうな気がするし」

ももが突然提案してきた。歌詞を忘れたといったら弟の歌集を借りてきてくれた

「あの……手をつなぎながら歌わない?」

ももはうちの提案に目を丸くして驚いた

「みや、大丈夫?」

「……大丈夫だって。いいじゃん、たまには甘えても」

ももとすごく久しぶりに手をつないだ
うちの手はももに初めて手を握られたときのように汗をかいていた

『せーの』


――  ささのはさらさら    のきばにゆれる
      おほしさまきらきら  きんぎんすなご  ――


364. 名無し募集中。。。 2009/07/08(水) 03:56:46.46 0
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「きんぎんすなご……」

ギターを弾きながら一人で歌っても楽しくないし、侘しさが増すばかり

短冊をにらみつける
まったく「ずっとずっといっしょにいられますように」と
書いた本人のほうからいなくなるなってルール違反もいいところ
待つのは本当に苦手なのに
ため息をつき、雨戸を開けてベランダにでる

驚いた
家に帰ってきたときはどんよりとした曇り空だったのに、いまでは満月が浮かびほのかに明るい
今夜だったらどんな願いでも適いそうな気がする

気がつくと手近にあった紙で短冊を作り、観葉植物に吊るした
七夕の歌は一人で歌うと辛気臭くなるのでやめた

Buono!の、うちが初めて作詞を手がけたあの曲を歌おう
これまた辛気臭い曲ではあるけれど、もものことを想って書いた歌詞だから

ホントにもう……もものバカ


――  ももがさっさと帰ってきますように  みやび  ――


最終更新:2009年07月09日 23:17