空の軌跡・外伝
百日戦役で、王国軍と帝国軍の戦闘に巻き込まれた俺は、母と妹を失い、
さらに戦地の父も生きて帰ってくる事は無かった。
戦後、俺は王都の叔父夫婦に引き取られ、そこで数年を過ごしたのち、
ルーアンのジェニス王立学園へ入学した。
試験は難関と言われたが、それなりに勉強が得意だった俺は合格する事ができた。
俺は選択教科として武術を選び、部活もフェンシング部に入部した。
王立学園では武術は単なるスポーツではなく、
将来兵士や遊撃士となっても通用する実戦向けの教科だった。
幼い頃に母と妹を目の前で失った俺は、あの時、俺に力さえあれば、と必死で剣術を習得し、
軍人であった父の才能を受け継いでいるためか、その力を延ばしていった。
やがて剣の腕にかけては学園内では右に出るものはいなくなった・・・が、
男女混合の大会で、決勝で対戦した後輩のクローゼ・リンツという女子生徒に見事に敗れた。
決勝に上がるほどだからそれなりの力はあるだろうとは思ったが、
いざ戦うと、何処で覚えたのか彼女は凄まじい剣の達人で、
その実力には圧倒され、こちらの荒削りな技は通じず、
防戦一方に追い込まれた末に剣を叩き落されて、勝負は終わった。
俺は準優勝となり、周囲からは素晴らしい戦いだったと褒められたものの、
後輩の女子生徒に負けたという事実はあまりにもショックで、
落ち込んだ俺は授業をさぼって林道や海道で魔獣を狩ってウサ晴らししていた。
そんなある日、海道で魔獣に襲われていたマーシア孤児院の子供を助け、
孤児院で子供達の面倒をみていたクローゼから感謝される。
俺は複雑な気分にかられながらも、孤児院の子供達からなつかれる彼女の姿を見て、
大会で負けて以来、抱いていた恨みや屈辱が消えてゆき、
これまで知らなかった彼女の一面を見て、そんな彼女に少しずつ惹かれてゆくのだった。
同じ部活にいたとはいえ、後輩で、しかも女子生徒の彼女とはまともに手合せをしたこともなく、
だからこそ全く気にかけていなかった相手が強敵として立ちはだかり、負けた事がショックだったのだが、
それからは積極的に手合せを願い出た。彼女は快く引き受け、放課後も遅くまで対戦し、
時間が空いている時はメーヴェ海道の砂丘を使い、2人きりで対戦した。
まともにぶつかっても勝てない相手だと解かり、
とにかく彼女の動きや技を覚えて応戦するという方法を使った。
最初はそれでも歯が立たなかったが、元々筋がいいのか、次第に彼女の動きを捉え、
技を奪いとり、やがては互角に渡り合えるようになっていった。
対戦の合間の休憩時には一緒に昼食を取ったり、雑談をするほど親しい間柄になったが、
俺はそこで自分の身の上話を彼女に話していた。
もう2度と目の前で愛するものを失いたくない、そう思って剣術を覚えたという俺に対し、
クローゼは、「人を守る為に戦うことができるのなら貴方はもっと強くなれる」と告げた。
そんな彼女が孤児院の子供達を大切に思う姿を見て、俺は彼女の強さの秘訣が解かった。
今まで剣一筋だった俺は女子生徒との色恋沙汰など無縁なものだと思っていたが、
自分の心が彼女に強く惹かれている事に気づいていた。
だが、その想いは胸に秘めたまま、俺は卒業を迎えた。
これからは王国軍の士官学校に入るのだった。
飛行場で飛行船に乗り込む俺を学園で元に過ごした仲間が見送る。
その中にはクローゼもいた。
飛行船が発進すると、発着場に残る彼女は大きく手を振り、俺に何か呼びかけた。
だがそれは飛行船の音にかき消され、やがて彼女の姿は小さく消えていった。
3年間を過ごしたルーアンの街が遠ざかってゆく。
俺はいつかまたクローゼと再会する事があるのだろうかと漠然と考えていた。
それは後年、思いも寄らぬ形で実現する。
その時の俺は王室親衛隊の隊員となり、
若き女王クローディア・フォン・アウスレーゼの警護を命じられたのである。
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最終更新:2006年10月07日 13:22