●マネージド・ケア [管理された医療]
1980年代後半からアメリカで急速に普及してきた医療形態です。
主に医療費を押さえ,合理的な医療を安く提供する目的で設立されたのがマネージド・ケアです。
現在アメリカでは約1億8,000万人がこの医療サービスを受けていると言われています。
それまでの医療保険の主力は,伝統的プラン(Fee-for-Service Plan)と呼ばれるもので,加入者は自分の気に入ったどこの病院,医師にでもかかれるという利点がありました.
しかしこの伝統的プランでは,保険会社の審査は主に治療が終わった後で行われるため,医師の過剰な診療,検査,投薬等を招きやすく,医療費の高騰につながるという欠点がありました.
マネージド・ケアでは,HMO (Health Maintenance Organization)と呼ばれる大きな医療機関(主に保険会社が経営)が,自分達の医療プランに患者を募り,その会員達の医療を管理していくというシステムになっています.
HMOは管轄地域内の病院・医師を合理的に組織化することで,加入者に対して伝統的な保険と比べると比較的安価な保険料前払い制のもとで,医療サービスを提供する事をうたい文句にしています.
この方式では診療を受けられる病院・医師が限定されるものの,伝統的プランと比べると自己負担部分が少なく,一定額の会費を支払うだけで,総合的な医療サービスが受けられるメリットがあります.
また加入者の企業側にとっては保険料の節約につながるため,大きな企業を中心にこの制度が採用されるケースが多くなっています.
マネージド・ケアでは,加入者一人一人が,そのHMOに加盟する医者からゲート・キーパーと呼ばれる主治医(Primary Care Physician)を選び,ほとんどの場合にまず主治医にかかることを義務付けられます.
それから必要に応じて専門医に紹介してもらうという事になるため,多くの場合に1つの病気でも2人の医者に診てもらわなければならないという煩わしさが出てきます.
マネージド・ケアの良い面は,医療機関がかなり厳しく患者の医療に対するアクセスを管理するので,不必要な検査や入院がしにくくなり,医療経費が低く押さえられる事です.
その反面で,時には患者や医師にとって必要だと考えられる医療が,保険会社の意向によって拒まれることもあり,医者側からは十分な医療行為ができないという反発,患者側からは治療が十分に受けられないという不満が多く,よく問題を起こしています.
ニューヨークタイムズの世論調査によれば,HMOについては,回答者の58%が医者の診療の妨害をしていると答えているほどで,1980~1990年代にかけて保険医療費抑制のために普及したマネージド・ケアは,コスト削減のための過剰な努力のために,アメリカの医療の質とサービスの低下を招いたというのが一般的な意見です.
最終更新:2007年03月21日 16:34