Pulse Of Z "Plus" - BEYOND THE Z -

Z系、と呼ばれるMSがある。
Variable "Mobile-suit And Wave-rider" system…VMsAWrsと呼ばれる機構を備え、変形による飛行性能と、優秀な基本構造から来る戦闘状況下での高機動性を兼ね備えた傑作機Zガンダムを祖とする、一連の可変MS群を指す言葉である。
高性能であるが故に極めてピーキーな操縦特性を持ち、航空機とMS双方への高い操縦適性を要求され、さらに少数生産の機体であるZ系MSパイロットへの門は狭く、見事その座を射止めたパイロット達はZ乗り、ZDriverと呼ばれ、エースパイロットの代名詞として羨望の対象となり、本人達もそのことを誇りとしていたのである。
その伝説が打ち砕かれた。
数ヶ月前の戦闘で、そのZDriver2名を含む1個中隊が全滅。周辺地域に展開する部隊には、激しい動揺が走った。
以来、ここでこのような会話が何度交わされたか、もはや数えるのも馬鹿馬鹿しい。
「訊いたか、JDの次の配属先。」
「紛争地でもない辺境の試験駐留部隊だってな。生え抜きエリート・パイロットも、もう終わったってことか?」
「前回の出撃で部隊は全滅してバディも戦死だ、再起不能だよ。Z Plusを二機も落とされて…高コストな可変MSなんて、もう既に幻想なんじゃないのか?」
「俺は、未だに信じられないんだがな…Z乗りの腕っこきが幻想なんかじゃないことは、一度演習すりゃあ解る。あいつらが通用しなかった敵、ってのはやっぱり…」
ブリーフィングルームで会話する士官達の顔に当惑の色は隠せない。ニュータイプ、一年戦争の頃から確かに確認されながらも、その戦果は最前線の現場の人間からは度々疑いの目を向けられてきた存在だからである。
そして、話題に上るJDと呼ばれるパイロットを撃墜したとされる敵こそが、そのニュータイプであると、士官達の間では専らの噂であった。
場に困惑とも恐怖ともつかない空気が一瞬流れたが、それを打ち砕くかのようにエントランスが開き、さらに一人の士官が駆け込んでくる。
「おい!JDの次の機体、やっぱりZ Plusらしいぞ!・・・しかも、パーソナルカラーの専用機だって!」
専用機…辺境の試験部隊になぜそんなものが?
皆目検討がつかず顔を見合わせる士官達にも、一つだけ解る事実がある。
JDは、ZDriverは、まだ終わっては居ないらしい、ということだ。



望遠鏡を覗きこみながらJDは言う。
「あそこが俺の次の配属先っすか?」
「あぁ、激務続きのお前さんだ。ちょっとのんびりし過ぎて見えるかもしれないがな、負傷明けのリハビリと思って、少し羽を伸ばしてみちゃどうだ。」
「…ガンダム・タイプのMSが見えますね。」
「気に入らんか?」
「ええ、今までの部隊じゃ、許されていたのは"Z""ガンダム"だけでしたから。」
「ははは!Zでないガンダムも気に入らないし、ガンダムに乗っているパイロットも気に入らないか。ZDriverの鼻っ柱の高さってのは、なるほどマンハッタン並だな。」
「嫌味に聞こえるな、こっぴどく叩き折られましたからね。失うものは何もないんです、Zのエンブレムも、俺自身も。」
「Mk-IIが跳んでるだろう。あいつがファンネル実験機だよ。」
「…楽しみになってきました。つまりアレに乗ってるのが、俺から何もかも奪ったヤツの仲間ってわけだ。」
「おいおい、仲間割れは勘弁してくれよ。ニュータイプ全体を敵視するなんて、それじゃあお前さんがまるでティターンズじゃあないか。」
「フン、こんな辺境の実験部隊が仲良し子良しなわけがあるまいに・・・」



『諸君、ブリーフィングルームに集合だ。』
館内放送が響き渡り、アルクはやや不機嫌にブリーフィングルームに向かった。
別に演習後自室に戻る間も与えられなかったことが不満なのではない、今日は意識して抑え目にしていたのに、今日もまた口うるさく突出し過ぎと言われたことが不満なのだ。
くそ、やつらの指示に従っていたらサーベルはおろか、ライフルさえまともに当てられるとは思わない。
俺に後方支援をやらせたいというのならそもそも人選ミスだろうが、今の機体についているファンネルとは、そういう武器ではないらしい。戦術的存在意義、というがサッパリ解らん、くそ。
ルームには全員が揃っていた。普段は真っ先に入室しているんだ、考え事をしていたからに違いない。
部屋の前方中央に、司令と見慣れない男。白人だ、ブロンドの髪を短く刈り込んでいて、初対面だというのにサングラスを付けっぱなしにしている。
司令に促されると、そいつが口を開いた。
「本日付でAICに着任致します、ジェシー・JD・ドライブス中尉であります。6番機のパイロット、乗機はZ Plus C1であります。」
「おぉ・・・」と室内がどよめく。
イマイチよく解らんが、皆にはZという響きが軽く衝撃だったらしい。
と、ジェシーという男が周りを見回して、言葉を続けた。
「3番機のMk-IIのパイロットは?」
「む・・・」
向こうが気づいたらしく、視線がぶつかる。なんだ、俺はこの男とどこかで会ったか?
「お前、ニュータイプなのか?
 素材は悪くないようだが、戦術や連携ってものはスッポリ抜け落ちてるみたいだな。
 一騎打ちなら10分、ネモが一機俺の支援に付けば、3分で落とす。」
「なにー!」
サングラスを外した男の目は、笑っている。
いきなりバカにした物言いをするこの男は、俺に喧嘩を売っているのか。
ツカツカとこっちに歩いてくるジェシーを見て、俺は立ち上がり拳を握る。別にここでも、あるいは演習でも、喧嘩がしたいなら買ってやろうじゃないか。
だがしかし、シェシーは間近で俺の目を覗き込むと、軽く肩に手を置き司令の元へ戻っていった。
依然、室内にはやや剣呑な雰囲気が漂っているが、それを楽しんでさえ居るようだった。
すぐに司令の説明は終了し解散の運びとなり、ベースのクルーが数名、ジェシーに因縁をつけに近づいていっている。
俺も、それを制止しながら、やはりシェシーに近づいていった。
「さっきのは、どういう意味だ?」
「はは、ほんの挨拶だ。だが、謝らんよ?」
「やりあいたいなら俺が相手になるが?」
「俺達は仲間だ、正直な感想を言っただけさ。俺が言いたいことは、今後の演習と実戦で伝える。」
気勢をそがれた俺やクルーを尻目に、ジェシーはさっさと引き上げていく。
「あぁ、俺のことはJDと呼んでくれ。テネシー産のウィスキーが好きでね、地球に降りることができて嬉しい。」
そう、JDは第一印象は決して良い男ではなかった。
だが俺が、JDという男を本当に知るのは、数日後の出撃の時だった。

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最終更新:2007年08月21日 03:18
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