The day which does not work
「この、ばっかもんがあああ!」
AIC部隊の所属するサハラ基地。
基地とはいえ、所属しているのは
AIC-01より04までの4体のみが整備されている小さな工場のようなものである。
その小さな工場の、これまた狭い所長室にガルシア・マックラーレン所長の怒声が響く。
「また!単独で!相手に!突っ込んで行って!どうする!つもりだ!!」
59の齢を重ねた老兵は、一言一言を吐き出すように叫ぶ。
その前には苦虫を噛み潰したような顔をして、言い返そうとしているのだがその勢いに負けて何も言い返せていない若者が一人。
「い、いやガルシア所長、味方機が・・・」
「やっかましいわい青二才!!何のために!この!AICが!独立しとると思っとるんだ!!お前は!ここではロクに戦えんのだ!!それを!充分に!理解しておればかもんがあああ!!」
ならなんでわざわざ俺をパイロット養成校から引き抜いたんだクソジジイ!俺は戦いたいんだ!
・・・などと言い返せればどれだけ楽だろう。ああ、楽だろう。
そんな事を考えながら若者は耐える。
「何か言いたそうだな」
「いや、何でもありません所長!」
「いいか!03の機体には!金がかかっている!そのわりに今お前が使えるのは!ビームライフル一丁!身の程を知ってこれ以上機体に損害を増やすな!」
「了解しました!サー!」
というのが数分前の話。
「うがああああああああああああああああガルの野郎!ガルの野郎!!ガルの野郎!!!」
工場内ドック。
そこでただ一体、整備係が修理にあけくれているMSの肩には『03』の文字があった。
モビルスーツの足を叩きながら、青年・・・
アルク・E・ガッハークは叫ぶ。
「あーあ・・・またですか?先輩」
今年から配属となった19歳の少女・・・エルカ・パッドはその一部始終を見守りながら、ため息をついた。
彼女は本来ならばAIC-01のパイロットとして配属されたのだが、経験不足のためにいまだ機体は与えられていない。
そんな彼女はこの1年で何度同じ光景を見ただろうか。
きっとこの後、整備兵のクレームがガルシア所長に届いてまた怒られるんだ。
思っているが言わない。
「01から04までは敵のインターセプトに出撃中。戦わなくてもいいときに戦っちゃうから戦えって言われた時に戦えないんですよ」
「はぁ・・・で、メトロさん、今日は何って?」
「『実は俺、結構料理が得意なんだぜ。帰って来たらお前の誕生日祝いをしてやるよ』だそうです。今日も大丈夫でしょう」
「そうか・・・あーあ、なんかうまくいかねぇなぁ。最近」
「いえ、最近じゃないと思います。ずっとです」
「こちら04。来たぞ。一撃かますから突っ込め」
瓦礫の山から
トニー・ブラウンの駆るリック・ディアスが飛び出す。
そのまま砂漠の砂をホバリングして旋回。照準を敵MSに合わせる。
「チッ・・・許せよ。これも戦いだ」
照準をあわせられた機体はRMS-106ハイザック。数は5機。
まさかこんな砂漠の辺境の地で敵に襲われるとは思ってもみなかっただろう。レーダーユニットは省電力になっていた。
いきなり現れたリックディアス。しかも普通の機体とは違い、背中にミサイルポッドを背負ったいかつい外見のMSがショットガンを構えて向かってくる。
恐らく新米であろう。一機に動揺が見られる。
「!? なんだあの動き?!」
「ホバー走行だ! ちぃっ、アナクロな動きしやがって!」
「ホバー?! え、MSでそんなこと出来るんですかっ?!」
「来たぞ!全機散開!!」
「ちぃぃ!今のご時勢でホバリング&ショットガンかよ!!厄介な装備してやがる畜生!当たら・・・うわああああ!!」
「2番機がやられました!え!?敵影さらに2機!?」
新たに出てきた2体のMSの肩には01、そして02。
奇襲攻撃・・・ハイザックの部隊が全滅したのは、その数分後だった。
「そういやあ、アルクはまたスネてんのか?」
全機撃墜を確認した『01』のナンバーを持つジェガン・ランサーからAICの全機に通信が入る。
「いつもの事だろ・・・どーせアイツがいたってここじゃ役にたたねぇけどな」
「ま、補充の機体も来るらしいし、そのうちAICもあの基地を離れるらしいし・・・環境が変わればアイツも変わるんじゃない?」
「え!?やっぱ来るのか?05と06が」
「この前アルクの接触した部隊、アレ対策がどうとかいう話だけどな」
「たまんねぇな。相手も俺達みたいなクセモノ軍団って噂だぜ!?」
「・・・ひでぇ冗談だ」
いつか、このままの世界ではいられなくなる・・・その不安をかき消すようにMS乗りは機体を駆る。
ただ生き残る。それだけが真実を知る道と信じて。
最終更新:2007年08月22日 00:03