これは、手だ。
多分あの娘の手だ・・・
子供の頃、よく手を取って歩いていた。その光景だ。きっと。
「え?何でお前ここにいるの?」
「お父さんがここでご飯食べなさいって・・・」
初めてあの娘が俺の家に来た時。
ウチの親父は多忙で、あまり家に居た記憶が無い。母親と2人で暮らしていたようなものだ。
子供ながらに、いや子供だからこそ寂しさはあった。
あの娘の親父は俺の親父と一緒でほとんど家に居ない。俺と違うのは母親も居なかった事。
寂しいといえばあの娘のほうが寂しかったはずだ。
この頃から何年だろう・・・ずっと一緒に暮らしてきたようなものだ。
ああ、そういえばあの手を最後に握り返した日。
思えばあの日、いつもと違って寂しそうな目をしていたように感じる。
結末を知ってしまった今だから言える事なのだろうが。
なぜか帰り道で手をつないできたアイツは・・・何を訴えていたんだろうか。
翌日に、居なくなると解っていたなら。
俺はどうしていたんだろうか。
・・・
「・・・夢か」
安物のエアコンの大きめな音が聞こえる。サハラ基地の自分の部屋である事がすぐに知覚できるほど耳慣れてしまった音だ。
疲れ果てていつのまにか寝てしまったのだろう。時計をみたら中途半端この上ない時間だった。
夢を見るなんて何年ぶりだろうか・・・恐らく今日のミッション。あまり思い出したくも無いが・・・あの感覚だけ鮮明に残っている。
何か懐かしい感じがして、そして恐ろしくなる。何が恐ろしいのかは解らなかった。
しかしただ一つ言えるのはあの時、あんな場面で叫び、JDの攻撃を静止し、俺は直撃を受けた。本来ならば死んでいる所だという事。
死にたくない。
俺にしかできない仕事というものがあるらしい。
サイコミュ、C-SYSTEM、何だかよくわからない事だらけだ。
だが。
「俺のデータが、俺の放つ一撃が、俺の奪った命が・・・アイツが生きるこの世界の糧となるならば」
眠い身体を起こし、ドックに行っても誰もいなかった。この時間なら当然だ。
明日は一番でジリアンさんの所へいってこいつがいつ治るのか聞いてみよう。
目の前にはアークオブノア。ノアの箱舟。
「お前と共に行けば、世界を救えるんだろうかな・・・箱舟」
世界を救うという表現に苦笑する。戦っているのは人間と人間なのに。
この世界・・・結局は俺の中の小さな世界なのだろう。
そんな事を考えれば考えるほど、今日味わった死の恐怖が頭をよぎる。
・・・明日も早い。寝ちまおう。
最終更新:2007年09月25日 23:54