かつて、神話の時代。
赤き旗を掲げた男達がいた。
その男達は決して強くはなかった。
しかし伝説に残った。
伝説に残るまでの友情がそこにあった。
1人の友を救う為に10人が犠牲になった。
しかし死んだ連中は最後に決まってこう言った・・・『奴を救う為に死ねるなら』と。
彼らはは1人の仲間を無念のうちに殺すよりも、奴の為に死ぬ事を選んだ。
彼らの名前は、ブラッディホースと言った。
「これが我が艦の名前の由来だよ。
カルサ・ウィリアムズ」
ブラッディホースの名を刻まれた艦。そこのブリッジでカルサ・ウィリアムズは初老の男と対峙していた。
時間は日が変わるほどの頃。非戦闘中でオペレーターなどは居ない。
シンと静まり返ったそこには、男・・・ブラッディホース艦長、ダーツとカルサ・ウィリアムズ。そして10小隊隊長、グレン・ローランの3人の姿。
カルサの反応を待たず、ダーツ艦長は続ける。
「私はね。この名前に誇りを持っている。カルサ・ウィリアムズ、君がもし危機に陥る事が会ったならば・・・私はこの艦を犠牲にしてでも君を助けに行くくらいの気持ちがある。まぁ、立場上そういうわけにはいかないがね・・・」
少し笑いながら、カルサの肩に手を置く。
「だが、君も・・・できることならば、一人の仲間のために。兄弟達の為に・・・己の身を削ってでも助けてやってほしい。苦しいのは判っているんだがね・・・」
仲間。
兄弟。
カルサの中には無かった「単語」が入ってくる。
それは、とても大切なもののように思えた。
「はい。私は・・・ここに居ます。ここで、戦います」
ここに居なければならない理由をずっと探していたカルサにとって、これが一つの答えなのではないか・・・そう思えてきた。
AICの03。
あの機体から感じたもの。自分の心を揺さぶるもの。
手の暖かさは幻覚。きっと。
なぜならば、あの機体は仲間を殺そうとしたから。
「部屋に戻りたまえ、カルサ君。君には期待しているよ。だが・・・無理はする必要は無いんだ。苦しい時は苦しいと言って、いいんだよ」
微笑をたたえる初老の男に敬礼してから、カルサはブリッジを出る。
不透明なこの手の温もりよりも・・・今の現実を見よう。
何かを振り切るように、カルサは部屋に向かって歩き出した。
「ブラッディホースの神話、ですか。ダーツ艦長」
「・・・続きを知っているかね?グレン君」
「ええ」
ブラッディホース。
白馬の騎士団・・・その白馬は、敵の返り血で赤く染まった。
血のような白馬は、見る者の恐怖の対象となったという。
「あの娘は苦痛、恐怖、屈辱・・・あらゆるものに耐えるだろう。だが、一つだけ逃げられないものがある」
「・・・愛情、ですか」
「そうだ。今のカルサ・ウィリアムズは『ここに居るしかない』という強制観念が働いている。それに理由付けをしてやればいい・・・愛情の鎖は、決してあの娘の力で逃れる事はできない」
先ほどの微笑を湛えた初老の老人は、冷酷な無表情の仮面を表す。
艦長席に座り、ディスプレイに小さな画面を写す。
そこに写っているのは
AIC-03.アークオブノア。
「敵の機体にもC-SYSTEMの機動が見えたそうだな。しかもサーベル型のファンネルが実在しているとは・・・」
「我が隊の中でファンネル制御の可能性があるのはカルサ・ウィリアムズだけです。しかし・・・サーベル型を操作するとなると、相手側にどんなニュータイプ特性をもったパイロットがいるのか・・・」
「このさい、AICはいいとしよう・・・問題はそこじゃない。恐らく・・・ネオジオンにもファンネル搭載型のMSを持つ部隊が居るはずだという事だ。その連中を叩くためには、カルサ・ウィリアムズのデータが必要だ」
「・・・は。」
グレンはカルサと同じように敬礼をしてブリッジを出る。
できるだけのデータを集めなければならない。
このブラッディホースが、再び宇宙へ戻る前に。
最終更新:2007年09月25日 23:42