モニターをオフにした薄暗いコクピット内で、私は戦場を眺めている。
正確に言えば、見えているというわけでは無い。戦場はこの砂の海を随分と行った先だ。とうてい見える距離ではない。
判るのは知っているものの気配。その動きを追い、それに絡む知らない気配を追い、そうする事で戦況をおおまかにだが知る事ができる。
目を閉じると少しずつ脳裏に描きだされ、戦場を形作っていくものを私は眺めている。
状況は……3つに別れてる。アルクとメトロが苦戦してるかな。
トニーとエルカはとりあず大丈夫……ハーディは言わずもがな。ジリアンに怒られるよ?
あとはジェシー……うわ、すごいな。ゼータはあんな動きができるんだ。
さて、それで敵勢力は?……人の事は言えないけど、統一性がないなぁ。よく言えば個性的?悪く言えばバラバラ。でも動きは凄くいいな。苦戦するわけだ。
でもジェシーと相手の一機の動きが変わったから、多分戦況も変わってくるだろう。これは私の出る幕は無さそうだなぁ。
今日も留守番で終わり。そう思い、手探りで能力制御ユニットを探そうとしたその時。
不意に誰かの声が聞こえた気がした。
酷く悲痛な叫び声だったように思う。多分、女性のものだろうか。
突然の出来事に、私は思わず閉じていた目を開いてしまい、それまで描き出されていた戦場は、まるで霧が晴れるように消えてしまう。
「痛い……?今の、俺のじゃないな。向こうの誰か……?」
私ではない誰かの感じた痛みらしいものを振り払い、改めて目を閉じようとして気づく。
目を閉じずとも、今まで見ていたそれよりはるかに鮮明に映し出されるもの。薄暗いコクピットの映像に重なるそれは、強いがとても不安定な光だ。
そして、それに呼応するように強くなるもう一つの反応は――
「ガルシア。戦闘おわ……」
『クロード、いいかげん所長くらいつけんか!……で、何だ?』
コントロールパネルを操作し、通信回線を開いて早々怒られた。まあ、コレはいつもの事なので気にしない。
「戦闘終わり。06以外はダメージ受けてると思う。あと、01が動かないあたり大破かも……。回収行くよ。」
『またか……判った。破片の一つも残さず回収してこい。まったく、奴らときたら、出費という言葉を知らんのではあるまいな。』
「了解、サー。」
許可が下りると同時に、システムを起動する。全天周モニターが映し出したサハラの空の眩しさに、私は目を細めた。
『クロード、出るのかい?』
モニターに開いた小さなウインドウは、整備士のジリアンだ。その後ろでは他の整備士が忙しそうに走り回っている。流石に無傷じゃ済まないのは予想済みだろう。
でもすでに01の腕っぽいものがあるように見えるのは気のせいかな……。
「回収だよ。もう終わったからね。」
『そうかい。あちらさん、まだ近くにいるかもしれないからね。気をつけるんだよ。』
すでに相手は撤退を始めてる。私が着く頃には多分、相手のレーダーからも外れてるはずだ。
しいて不安要素をあげるなら、あの強い光の主と……それに反応を示したアルク。
あの時は多分、アルクたちが押されていた。にもかかわらず、目の前の敵を無理にかわしてまで……あいつは何で、あの光の主を追ったんだろう。
……まあ、直接聞けばいいか。生きてるんだし。
『了解。クロード・エヴァンス。アズール、出ます。』
モニターの向こうから発せられた言葉と共に、一機のMAが空へと飛び立った。
小柄なパイロットには不釣合いにも思える大柄な機体が、見る見るうちに遠く小さくなっていく。
「ジェイはもう行ったのか?」
「何だい?けが人はまだだよ。それに見送りならもっと早くこなきゃ。」
白衣を着た男の問いに、ジリアンは苦笑を浮かべ頷いた。男もまた苦笑を浮かべ、困ったようにこりこりと後頭部を掻く。
「ま、今回はもう敵さんは居ないらしいけどねぇ……。」
「……。あの子も出る事になるのだろうね。これが続くのであれば。」
「仕方ないだろうね。それも、あの子が選んだ道さ。」
ジリアンが改めてその姿を探した時、アズール――青という名を持つ、その名の通りの色をした機体はすでに空の彼方に消えていた。
最終更新:2007年10月01日 01:33