戦艦は動き出した。
俺たちは、それからの事など考えてはいなかった。
「ソレ」は基地が見えなくなってから起こった事なのだから。
ただ、夕暮れに染まりつつある外を見ながら、ジェシーが言った。
「この地球にはな・・・Rock 'n' Rollって言葉があるんだぜ」
「ペガサス級新造戦艦アルカオルクス。これがお前らの新しい職場だ。奇しくも敵艦と同じ形状である事がまた、皮肉なものだがな」
サハラ基地AIC部隊所長、
ガルシア・マックラーレンの説明を聞いていた者は居ただろうか。
あわただしく引っ越し作業に追われる整備員達、そしてそれを呆然と見つめるパイロット。
さらにその様子を、人事のように葉巻をくわえて見守るガルシア。
「やれやれ・・・お前らが新型艦奪取に成功すりゃあ、もっと有意義な部隊にこの戦艦を使わせてやれたってモンだがなぁ・・・とっとと引越しするんだぞ。時間は無いんだ」
ガルシアが欠伸を一つ。所長室へ帰ろうとする。
「ガル・・・いや、所長。アンタはどうするんだ?」
メトロ・シングが煙草をふかしながら見送る。
「俺を誰だと思っている。サハラ基地の所長だぞ?サハラ基地の所長は、サハラ基地の所長をやるんだよ」
「でもほとんども抜けのカラだぜ!?」
「やっと俺ァお前らみたいな厄介者とオサラバだぜ?ちょっとは自分勝手に動かせて欲しいもんだな」
「違いねェ」
パイロット達の中から笑い声があがるなかひとり・・・
ジェシー・JD・ドライブスは表情を硬くした。
自分の荷物の移動のため、自分の部屋に散らばっていくパイロット達。
ジェシーの進む先だけが違った。
「ガルシア所長」
「なんだ」
「俺じゃないんですか・・・?残るのは」
「お前はまだやる事があるだろう?」
「あの機体じゃ無理だ!」
「宇宙へ戻れ、ノゥスクラッチ・JD。そこにはお前の望む相手がいるだろう」
「・・・ニュータイプか」
「ソイツらからAICを守れりゃ本物だよ。エース。それにな・・・」
夕闇に染まるサハラ。
ドムタイプが2機に・・・ザク系のが3機。砂漠に座したガンキャノンは照準を付ける。
「追わせねェよ!」
両肩から実弾が発射され、5機の編隊の中心部で錯乱する。
奇襲を受けた編隊は四散して発射点に居るガンキャノンを発見する。
「そして・・・こっちもだなぁ!!」
砂の中から掴み取ったのは、ガンキャノンの全長を2倍は超えようかというロングライフル。
コネクト・・・システムダウンロード。超長距離望遠のスコープが画面上に移る。
そのスコープに写されていたものは、敵戦艦ブラッディホースの姿。
トリガーを引き、着弾を見届けずにライフルを捨てる。第2波を打っている時間は無い。
スロットルを全開に開け、旋回。
鈍重なその機体が、ドムの放ったバズーカの着弾を何とかかわす。
2発、3発・・・もう肩のキャノンでは捕らえられない距離まで迫られる。
そして背後から閃光。
「・・・来やがったな、ティターンズども」
ニヤリと笑う。
彼にとって最愛の女達。
アイツらは、いったいどこまで行っただろうか。
ふとそんな事が頭をよぎる。
あるいは、ジャエシー・JD・ドライブ。
ノウスクラッチJDならば、損害を出しながらも生還したかもしれない。
だが今踊っているのは、それにふさわしい舞台を与えられた一人の男。
「サハラの所長は、サハラの所長をやるのさ」
新型ペガサス級戦艦アルカオルクス。
その後を追う敵機はおらず、AICは宇宙への機動へ乗った。
最終更新:2008年02月06日 04:14