「・・・くっそぉぉぉぉ、ついてねぇ!もう一回、もう一回勝負だ!」
「かまわないが、運のせいにするのは良くない。実力の差さ。」
二人で店に入ってしばらくすると後から入ってきた男にビリヤードの勝負を持ちかけられ軽い気持ちで受けたエイヴァールは、
瞬く間に5連敗を喫しすっかり熱くなっているのを対戦相手にたしなめられていた。
ビリヤードの腕にはそれなりに自信があった、
士官学校時代に学生チャンピオンだったホクト相手にだって3回に1回は勝てる。
せっかくカルサに良い所を見せようとしたのに面子が丸つぶれである。
「だいたいこの安物のキューがいけねぇんだ!狙った通りにいかねぇ。」
キューを真っ直ぐに持ち上げ、歪みがあるのではないかと疑っている姿を見て男は肩をすくめる。
「やれやれ今度は道具のせいか?そんな事だからあの似たようなMK-Ⅱモドキでうちの小僧ごときに遅れを取るんだ。」
「っるせぇな、あれは遅れを取ったんじゃ・・・。・・・テメェ、何者だ?」
予期せぬ言葉にエイヴァールの口元から笑みが消え思わず身構える。
小僧?あの白いMK-Ⅱのパイロットの事か?なら目の前のコイツは・・・
男は答える代わりに琥珀色の液体で満たされたグラスを揺らし一口含む。
「JackDnaiel・・・
ジェシー・JD・ドライブスかっ!?」
「ははっ有名人は辛いね、サインでもしてやろうか?」
正体を言い当てられたJDはしかし悠然と、残った1個のボールを落とすべく狙いを定めキューを構えてみせる。
その余裕と上から見るような態度が癇に障らないはずが無かった、
エイヴァールはキューを投げ捨て護身用に携帯していた銃をテーブルに向かうJDのコメカミに突きつける。
「反地球連邦ゲリラがぬけぬけと、俺をティターンズと知ってて絡んできやがったな?」
「おや、随分仕事熱心な事だ。思想も主義も持っているようには見えないが。」
そのただならぬ雰囲気と銃に気付いた隣のテーブルの客が悲鳴を上げるのと同時に店はパニックに陥る、
我先にと逃げだそうとする人々と野次馬根性で距離を空けてJD達のテーブルを囲む人々。
「JDっ、お前これのどこが平和的に、なんだよ・・・。」
カウンターで他の客と何やら話しこんでいたトニーが巨体を揺らし人波を掻き分けて近づいてくる。
「中尉っ、何をしているんですか!?」
その掻き分けられた隙間をぬって慌てて駆け寄るカルサ。
「気が短いな・・・まだゲームの最中だろ」
「はっ!ならさっさと打てよ、正真正銘のラストショットにしてやるぜ。」
張り詰めた空気、周囲の人間の視線、そして突きつけられた銃口。
それらのプレッシャーを一身に集めながら、JDはゆっくり、真っ直ぐにキューを動かす。
キューに弾かれる白い手玉、手玉に弾かれる的球、的球はそれらの直線状にあるポケットに転がり落ちる。
だが、その音は銃声によって掻き消されてしまう。
狭い室内に響き渡った銃声に反射的に閉じられたカルサの目が開かれた時に映っていたのは
天井に銃を向けたエイヴァールと、グラスに残った酒を煽るJDの姿だった。
「・・・良かった。」
だが安堵の息もつかの間、通報を受けた警察が店内へと雪崩れ込んでくる。
「警察だっ、動くな・・・ち、またお前等か・・・ティターンズめ。」
「あ~、民警諸君ご苦労さん。こいつは反地球連・・・いや、何でもねぇ。」
言いかけた言葉を飲み込んだエイヴァールは銃をしまいカルサの手を引っ張りその場を後にしようとする。
「命拾いしたな・・・この借りは纏めて返してやる、覚えてろよ!」
「覚えてろと言っても、あいにく名前すら知らないんだがね?」
「・・・エイヴァール・オラクスだ、すぐにテメェより有名になる。」
「俺の周囲じゃ、そんな事を言っていたやつから死んでいったね・・・。」
テーブルに体重をかけ僅かに遠い目をするJDを憎憎しげに睨みつけ、
だがそれ以上は何も言わずエイヴァールは立ち去った。
その後ろ姿を見送りながらトニーがJDに訊ねる。
「おいおい、本当に撃たれてたらどうするつもりだったんだ?」
「撃ちはしないさ・・・彼もエースだろうからね、勝ち逃げを許すような目はしていなかった。」
「ったく、これだから連邦士官ってな・・・。」
言ってトニーは先ほどまで自分の座っていたカウンター席へ目をやる、
隣にいた男は騒ぎに紛れて姿を消していた。
「そっちも随分話し込んでたが、知り合いだったのか?」
サングラスの奥に隠れた視線の先を追ったJDが逆に訊ねると、トニーの身体が一瞬だけ緊張したように固まる。
「あ・・・あぁ、ちょっとした昔馴染みってやつだ・・・。」
「そうか。まぁいい、飲みなおそうじゃないか。」
何やら歯切れの悪い答えだったが、JDはそれ以上追求はしなかった。
最終更新:2008年09月30日 01:50