タイトル未定
-津軽海峡 大間崎沖 強襲揚陸艦ふらの艦内-
真冬の強い風で激しく時化る波に船体をぶつけながら進む船 全長約200mの巨体も冬の海の中では軽々と持ち上げられる。艦内は上下左右に激しく揺られ、波を超えるたびに体を叩き付けれる。若い者はもちろん、歴戦の古兵たちまでもが胃の中身を出してしまう始末だ。私は乗艦前に時化を見越して食事を取っていないので気分が悪くなろうと出すものはなかった。
すし詰めにされて私的な空間もないので暇つぶしは愛銃のメンテナンスぐらいだろうか……いや、どうせまた吐いたものをかけられる。今は寝て体力を温存しよう、あと数時間で上陸して大規模な戦闘になるのだから。
こんな身元不明の少女に小隊長なんて任を預けるくらいには組織は不敗してるが、報酬がいいのであまりぼやいてもいられない。敵対勢力への斥候 暗殺 妨害工作など先行き不安な仕事よりも「派手にドンパチするほうが儲かってしばらく困らない」と軍から依頼を請け負った。
どうせ依頼主が変われば今いる勢力も敵になるのだろうが。
-津軽海峡 下北郡沖-
上陸準備の号令がかかった。海上からの妨害は思ったより少なく快適とは言えないが平和な船旅だった。予備弾倉 無線 ナイフ と持ち物を確認し、太ももに吊るした拳銃の弾込め確認、そして小銃に弾倉を装てん。鉄帽をかぶり上陸用舟艇に滑り込むと同時に艦尾門扉が開き吹雪が艦内に舞い込んだ。舟艇のエンジンが始動し荒波の海へと投げ出されていく
目標は目の前に広がる大地 下北に上陸し、陸路から大湊を占拠、無効化すること 陸奥湾へは陽動と囮を兼ねた主力艦隊と空挺が向かっているので私たちは裏からこっそり上陸する
波に跳ねながらも陸へ近付く。はやり反撃はない?舟艇から様子を伺おうと隊員が頭を出した瞬間 「ドスッ」 っと重い音が聞こえ、血しぶきが舞う。
その一発を皮切りに砲撃と激しい弾幕が海面を叩く。いつ当たってもおかしくない。
水深2mぐらいはあるだろうが飛び降りるよう指示をして身を投げ出す。20kgの装備で深く沈むも被弾を避けながら陸へ近付く すでに上陸した者も多くいるが海岸線に作られた防御陣地からの銃撃でなぎ倒される。海が赤く染まり、陸の雪もまた深紅に塗られていく。
「進みなさい!地面とキスしてると死にますよ!」
無線にそう怒鳴りつつ自分も足元が悪い中必死に前へ進む。
波消しブロックなどを陰になんとかたどり付くも部下はほとんどいない 生き残った者を集めたっ臨時の編成で前に進む まずは鉄の雨を作り出している機関銃を排除しなければならない。
が、手元にはEOT-Cホロサイトに3倍ブースターのブッシュマスターACRと手りゅう弾に拳銃だけ。部下は揃って支給品のM4と分隊支援火器M249が数名 生憎と長距離を狙える武器がない。
「私の合図で12時方向のトーチカに一斉射撃、木村、篠塚両名は一緒にきて制圧を手伝って ちゃんと手りゅう弾投げてから入ってくださいね?」
「ムーブ!」
叫ぶ
援護射撃を受けながら前に出る。
見えた。
驚いた敵が陣地から身を乗り出し構えるも 「遅い」 私が先に撃ち込む。 タン タン タンとリズムよく撃ち込み、的も倒れていく。
後ろ二人もなんとか当てながら進んでる 無駄弾は多いが。
トーチカの死角に辿りつき、弾倉を交換 手りゅう弾の安全ピンを抜き銃眼へ投げ込む。
重い爆発音が響いた後、出入り口へまわろうとした瞬間、応援に来た敵分隊に出くわしてしまった。
セレクターをフルオートに切り替え横へ薙ぎ払うようにばらまいた後、太もものSP2022を抜き頭に一発ずつ撃ち込む。まるで演習のよう。
二人を急がせ弾倉交換をしてから扉をけ破って突撃。
中は先ほどの手りゅう弾で混乱していたために三人で手早く排除し、制圧完了。
これで正面から大量の味方と車両を投入できるだろう。そうすれば後は物量で押せる。
無線で防御陣地の一角の無力を報告し、ひとまずは息をつく。
身にしみるような冷たい風が硝煙をかき消して吹き込む。
鍋食べたいなぁ などと考えながら隊員を招集して次の指令に備える。
-函館市郊外 自宅-
うるさい電子音が夢の中に割り込み現実世界へと私を戻す。初夏になろうというのに涼しく布団が気持ちよいのでもうすこし眠っていたい。寝起きの冴えない頭をそんな事を考えながら二度寝しようとすると扉の開く音とともに。
「起きて下さい!遅刻します!」
と怒鳴りながら赤髪サイドテールのエプロンをつけた少女が入ってくる。
「もう少し あと5分」
「だめです」
「あい」
今日は依頼主と大切な約束があるので家でゴロゴロする訳にはいかないようだ。寝巻のYシャツを脱ぎ捨てとりあえず顔を洗いたいと体が反応し洗面所へふらふら移動する。
「脱ぎ散らかさないでください!洗濯物は洗濯機か洗濯かごっていつも。」
と言いつつ彼女は床に落ちたシャツを拾い上げ洗濯機へと運んで行く。
冷たい水で顔を洗い 下着を替え、正装用のパンススーツを取り出す。一見普通のスーツだが、伸縮性が高く格闘戦にも優れ、多機能のポケットにホルスターを装備しても違和感ない設計になっている。会談や要人警護、潜入など幅広く使う。
上着は羽織らずに居間のソファーに投げる
先に朝ご飯だ。 トーストに簡単なサラダと質素だが朝は量を食べない私にはちょうどよく、コーヒーで流しこんでやっと頭もフルに回転する。
「あれは起こさなくていいの?」
と私はCOUとネームプレートのかかった部屋を見る。
「絶対起きないですし、今回は出番ないでしょう」そう言いながらサラダの器にラップをして「食べなさい」とメモを貼る。
食後ウエスを敷いてホルスターの中にあるSP2022を解体しながら並べ毎朝行う銃のメンテナンスを始める。
慣れた手つきでスライド バレル トリガー ピン トリガーなど解体し、クリーニング用のスプレーを噴いてから磨く。
些細な汚れが詰まり 排夾不良を招きかねないので丁寧に仕上げる。ちなみにこの机の上では目の前でイベリコが食事も摂るために「油臭いから別所で」と口うるさく言われるが専用箱にウエスを用意したところ少しは小言が減った。今は何食わぬ顔でトーストをかじりながら朝番組の占いを観ている。
「今日は最下位です」
結構気にするタイプなのだろうか。
「上に上がれるからいいじゃん。」
「そーゆー問題じゃなくって」
時間は午前8時となりテレビも報道番組へと変わる。
「さーていきましょうか」
イベリコが着替える さすがにビジネスでかわいい動物などをあしらった服はきれないためカジュアルスーツだ。
「今日はどこだっけ」
たぶん私は鶏頭。
「市内の大学。情報系の教授だったかな?」
手帳を開きながら答える。
「雑務なら断るよ?」
草刈りとかひたすらなにかをカウントする作業とかこれまでも多かった。
「内容はそれが必要になるらしいですよ。」
そう言いながら彼女がSP2022を視線を送る。
「これだけかねぇ」
きっと長物使うんだろうな。
拳銃に弾を込め、安全装置をかけてから脇に納める。ちなみに袖と足首には小型のコンバットナイフも仕込んでいる。仕事柄いつなにがあるかわからない為である。
部屋の窓を閉め、火の元と電気を確認してから家を出て駐車場の愛車へ 愛車と言っても移動と買い物に使う程度なので中古で買ったミニクーパー 世間で言う旧ミニで色は赤 屋根には荷物を載せるキャリーがついている。コンパクトで女暮らしにはちょうど良い。ただ壊れやすいのが難点で修理代がもったいないと部品だけ買って私が直してる。この日の運転はイベリコ 私は場所を知らないから当然であるし、緊急時には応戦しなきゃいけない。助手席の扉を閉めるとすぐに車を出した。
「今日は話だけ聞いて帰るだけだから帰りどっか寄っていきませんか?」
賽銭守が珍しい。
「ドケチ王が珍しい事を言い出すものだ」
「失礼な……無駄な出費を抑えてるだけです。 食事ぐらいいいですよ」
「なに食べるかな」
んーっと迷う
「ラッキーピエロ?」
「冗談を。」
「じゃあ海鮮でも」
「いいねぇ たまには地元グルメを味合わないと」
車は郊外へと走る。
-むつ市 海上自衛隊樺山送信所-
戦術の上で重要となるのが通信と兵站である。大湊を制圧するのが最終目標ではあるが、道中敵通信施設があるのでここも制圧、不可能なら破壊の命令が下った。所属がバラバラの兵をまとめて新しく小隊を組み、ひざ丈の雪の中前に進む。車両を載せたLCACは先ほど接岸したらしいがこの 雪で四苦八苦してるらしいので結局は兵が前線を歩く。
雪中行軍など施設のVR訓練以来だろうか。進みにくいがなんとか前に前にと足を動かす。
アンテナや四方八方に張り巡らされた空中線が見えてきた。あれが送信所 周囲は除雪されており、89式を持った歩哨に軽装甲車とあまり防御は厚くない。対抗手段としてはこちらも無反動砲は数名が所持しているのでなんとか対応できるだろう。双眼鏡をしまい、ハンドサインを飛ばす。陣形を横に広げ、飽和攻撃の準備をする。
無線で合図し、各自目標へ一斉射撃 地面が一瞬で赤くなり、軽装甲車が爆風を上げる。寒さと疲れで外す奴も多いが装甲車の無力化には成功したため、私が残りの歩兵を掃討をする。
奇襲にあたふたする敵兵を一つ一つ排除 こちらの損害はほぼなしで周囲の制圧を完了した。
フェンスを破り、管理小屋へ近付くと慌てて乱射しながら敵が出てくるもそんな弾には当たらず5.56mmを胸と頭に叩き込む。
小屋で一息つこうと安全装置をかけた刹那、目の前で味方の頭が飛ぶ。
「狙撃だっ!!」
すぐに散開し、遮蔽物へ隠れようと走る隊員たちの頭部が次々と撃ち抜かれていく。
着弾の数秒後に発砲音が聞こえる 1000m以上の狙撃 しかも偏差も完ぺきで、走っている兵士に当てる。
そんな凄腕が敵に 鏡で狙撃手のいる方向をみると増援か、伏兵か敵がぞろぞろとこちらに向かってくる。味方が反撃しようと身を出すもすぐに狙撃され、数がどんどん減るばかりだ。
どのくらいたったのだろうか 直接制圧をしてくる歩兵はなんとか排除できてるものの、小銃の残弾は底をつき、周りに落ちている火器で応戦しているもその弾も尽きようとしていた。腹をくくるか。ACRと空になったチェストリグを捨てる。SP2022と落ちていたSR-25を拾い上げ、照準器を調整する。こちら陣営は数えるほどしか残っていない。しかも手負いばかり。
「私が引きつけますのでそのうちに逃げてください」
無線で海岸線までの撤退を命令。
数名は私と残ると言って聞かないため残りの弾を確認し、撤退用の乗り物を探す。
合図を出しスノーモービルが動いたのと同時に動く。
一瞬にしてエンジン音と銃声が入り乱れる。
まず敵の群れに走って突撃、混戦となればうかつに狙撃はできまい。
拳銃の乾いた発砲音を響かせながら怯ませ、左手に持ったナイフで敵の喉元を切り裂く。
返り血が私の雪上迷彩がを染め上げる。木やアンテナなどに身を隠しながら排除していく。
いける と思ったその時。
ターン
重い銃声が聞こえる。この混戦の中味方の頭を撃ちぬいたのだ。
なにか光のようなものが見えた。 とっさに身を投げた瞬間、足に違和感を感じる。
熱い、そして血が止まらない。撃たれた。急所は避けたがこれでは。
「隊長!ご無事d」
彼も撃たれる。
私は雪に深く埋まったから見えないのか二発目がない。
SR-25を構え一瞬スコープの光った方角を除きこむ この倍率では小さくしか見えないが奴はいた。
届くのか?奴の使っているのは間違いなく狙撃銃 こちらはマークスマンライフルせいぜい500mが射程の限度。
風 弾道落下を予測し、撃ち込む 近くに着弾したか?
セミオートですぐに修正して撃つ 手ごたえは感じない。
もう一度と引き金に指をかけた瞬間 SR-25の銃身に着弾に奴の弾が命中し花を咲かせるようにバレルがぐしゃぐしゃになる。
その腕を持っていてなぜ急所を狙わない。
相手が女だから退けと言うのか!?
なんたる屈辱!!
と考えていたが、脚の止血もままならないこの状況では逃げることも無理だろう。
動かなければ……だが、出血が思ったより多いのか頭がぼんやりする 意識が 目の前が暗くなり、ここからの事はなにも覚えていない。