-はこだてフューチャー大学-
順調に走り構内の駐車場に着く。許可を得るために4階事務局へ寄り入校証を受け取る。
職員に案内され研究等へ進むと学生と様々な機材で溢れていた。
「これってコウのが詳しいんじゃないの?」
ふとした疑問。
「話聞くだけなので私たちで十分です」
キッパリと答える。
実験室などを横目に応接室のような部屋に入る。
「ようこそ」
出迎えてくれたのは銀縁メガネに白衣をきた40代ぐらいの男性で、いかにも科学者って感じだ。
「ご無沙汰しております。先日はお世話になりました」
イベリコがあいさつを返し、世間話で盛り上がる中私は部屋の中を見渡す。危険物や死角は特になさそうで、彼自信も武装などしていない様子だ。着席を促されたが
「護衛も兼ねてますので」
と断りイベリコのソファの後ろで待機する。
「聞いてたより凛々しく頼りになりそうだね。では仕事の話をしよう」
そう言いながら複数のコピー紙を差し出す。写真と建物の見取り図のようだ。
「この機関がある実験を成功させたとの噂を耳にした。研究員を送りこんだところその実験は成功しており、もうすぐ世間に公開してより研究を進めるそうだ。だがそのデータと研究員を持ちかえってほしい」
険しい表情で冷たく言葉を放つ。
「どのような機関です?」
イベリコがすかさず聞く。
「つくばの学園都市にある民間会社だ」
「教授との関係性は?」
教授だったのかこの人。
「大学、研究室も一緒だった奴がそこの主任なんだが、そいつとは互いの将来の発展のためにと卒業後は別々になった」
「ふむ」
「私のデータと一緒にね」
「なるほど」
つまり、当時この教授が研究していたデータをこっそり持ち出しそれを教授より早く完成させたので抗議したところ
「これは独自の研究だ」
と事実関係を否定されたために、強硬手段を取ってでもそのデータを取り返したいとのこと。
「データの複製ならまだしも、雷で壊れたようにみせかけ私の記憶媒体はすべて焼失した。故意で盗んだ」
その声は怒りや悲しみの入り混じった重い。
「警察などに相談は?」
「したが奴が膨大な資金で賄賂を贈っているためにもみ消された。だから貴方がたにお願いしたいのだ」
公共機関も敵か。
「しかし、なぜ私たちなのです?他にもこの手の仕事をこなすとこはあるはずです」
イベリコが不思議そうに尋ねる。
「君たちの年齢と容姿なら学生服を着れば学園都市、研究機関など新入は容易いだろう?見た目だけで雇うと荒事に対応できないのだ」
なるほど 筋肉もりもりマッチョマンかひょろい探偵が行っても話にならない。
「荒事はどの程度です?」
「都市の治安を維持する民間組織が小銃と装甲車で武装している。と言えばわかるだろう。最高機密の秘密に触れたら何がでてくるか」
物騒な街だな。
武装してる私が言えた義理ではないが、警察とは別に武装組織があるのは面倒な事 こりゃ派手になりそうだ。
「移動に必要な経費、使った消耗品の代金は報酬とは別でお支払いします。潜入に必要な衣類や身分証などもこちらが用意をします」
話はお金とか書類とか私には難しい内容になって移っていく。 眠い 護衛として失格だがこのような会話を聞くだけは苦手である。
ふと眠りに落ちかけた。
-函館市内 市場通り-
「ねぇ、ちゃんと聞いてますか?」
あの後も眠気がとれなくてぼーっとしてしまった。
「たぶん」
そっけなく返す。
「仕事の再確認。目的は指定された施設へ潜入、データをとり次第破壊・脱出の流れ。破壊までは真面目な学生を演じきることが重要で、目的回収の邪魔になるものは排除しても構わないそうです」
「楽にできるといいねぇ」
「その場判断で臨機応変に対応してくしかないですね」
ラジオから流れる陽気な音楽と共に窓からの磯風を感じながら車は函館湾を一望できる丘を下り海へ向かう。 海鮮丼のために。
車をコインパーキングに停めて歩いて函館朝市を散策する。
「どこにする?」
「食べログで検索しても多すぎるんですよね。観光客向けは高いし」
「なら安くて空いてるとこにしよう」
「こことかです?」
イベリコが足を止めて指さす先は小さな食堂。 古くから市場の人が通ってる雰囲気があり、観光客は寄りつかないようだ。
「けってーい」
のれんをくぐると店内もまた狭く、テーブルは3卓ほどでお客も近所で働いてる感じの人ばかり。
「ぼくひで」
店員が大きな声で出迎える。
おしながきにはいくら丼、鮭親子丼、かに丼、海鮮五目丼と王道が並ぶがどれも500円とお手軽だ。結局二人して海鮮五目丼を注文し「かしこまり!」と元気よく店員が厨房へと走る。
「今日も記録更新したらしいぜ」
席も近いため隣の話声が聞こえる。
「それどこ情報だよ?」
「もちろん某巨大掲示板とつぶやきSNSだ」
「報道機関はどこも取り上げてないぞ?」
「そりゃこっち側で流したら士気低下になるから上がもみ消してるんだよ。敵なのにすごいよな。」
「現代のシモヘイヘとか異名もらってえらいもんだ。」
「お ま た せ」
会話をぶった切るように店員が巨大なドンブリを持ってきた。
「これ本当に500円?」
「0が一個消えてたかな?」
イベリコもポカンとする。
どんぶりのサイズは牛丼店などと同じようなサイズだが、載ってる具が溢れんばかりに盛られている。実際はみ出ているのだが また品数もマグロ、エビ、いくら、かに、ほたて、鮭フレーク、サーモン、とびっこ、卵焼き、菜の花とこれはぼくのかんがえたさいきょうの海鮮丼なのではないだろうか。
「「いただきます」」
二人同時に箸を割る まず付属の味噌汁を啜ってみるがこいつも海鮮ダシがよく効いており、カニの風味が口いっぱいに広がる。
主役を忘れていた。だし醤油をかけると香りが全体から伝わる 。
どんぶりへ箸を入れるがご飯にたどりつけない。具の階層が分厚すぎるのだ。
なんとかかき分けご飯を見つけるも醤油が上の具に吸われ届いていなかった。イベリコは器用にご飯と具を均等に箸で口に運んでいるが、私は無理と判断し、すくった分だけ口に入れる。
「うんまい」
「新鮮なのがよくわかります」
口に入れた時の香りと触感、醤油が引き立てる本来の味が一気に広がった。箸がとまらない ついつい駆け込みたくなってしまうが早く食べ終わってはもったいないと自制し、不器用に細々と口へ運ぶ。
様々な具材があるため組み合わせが自在だが、どの組もハズレはない。これは新鮮な食材にしかできない証だ。これを安く食べれるなら確かに地元の人間が通うはずだ たぶん今頃カップめんを啜っているコウに妬まれるがそんな事どうでもよいくらい今幸せだ。
「あとでコウがうるさいですね」
お前も考えることは同じか。
「朝起きなかった奴が悪い」
きっぱり答える。
「いや、起こさなかったが近いです」
少し表情を暗くする。
こんな美味しいものに辿りつけるのだったら食べさせてあげたかった ぐらいは考えてるのだろう。
「業務的にも同伴する必要なかったし、このお店に入ったのも偶然だ。気にしちゃダメ」
「けどぉ」
さらに落ち込む。
「夜はいつも通りなにか手料理出せばあいつは喜ぶよ」
「うん」
「食事をする時はもっと楽しく、明るく、幸せでいないといけないのだよ少年 食え」
「少女です!!」
そんな会話をしていると話声の聞こえた隣の会社員たちが勘定を済ませ店を出ていく なんか気になる話だったな あとでコウに調べてもらおう。
そう考えながらもどんぶりの半分まで制覇し、順調に胃袋を満たしてく。