-札幌市 中央区-
宮門 亮介 24歳 巡査 北方警察中央署警備部警備課
明後日に控えた大演説を前に署内は慌ただしい。なんせこの国の閣僚と世界のVIPが集うのだ。警備の体制がサミット以上に厳しい。私も交代しながら街の警らにを繰り返していた。下っ端は大きな荷物を持った人は観光客でも職質、荷物検査とのお達しだから疲労が半端ない。
「交代の時間だ」
「了解です」
しぶしぶ重い腰を上げて同僚と二人組で出る。
「しかしこの観光都市で大きな荷物持った人など星の数ほどいる。上はなにを考えているの」
同僚の女性巡査片桐が愚痴をこぼす。
「それなら観光都市のど真ん中で世界の要人集めて世界に演説しようなんて考えた日本政府を憎みたい」
「同感ね」
公園通りの近くは徒歩で周り、裏路地まで巡回をする。観光客に片っ端から職質して嫌な顔されるのも慣れてきて怖い気持ちだ。
「あら、キレイな髪の女の子」
片桐が嬉しそうになにかをみつける。紫がかった青のロングヘアーに赤いリボン、白のパーカーにフリルのかわいい黒のスカートで幼い顔立ちの少女は重そうな荷物を車から降ろしていた。
隣には黒髪ロングでショートパンツにTシャツ(働いたら負けとかいてある)の少女が荷物と格闘していた。
「外国の娘か?ほら、赤髪の子も連れみたいだ」
「かわいい!すっごくかわいい!なにあの子たち、お人形さんみたい!」
目をキラキラさせながら別の世界へ飛ぼうとしている。
「仕事中だ。ほら、たぶん楽器のケースだけど職質かけるぞ」
「はーい!
でも日本の子じゃなかったら困るから宮門くんお願い」
俺が声かけかよ!!
女性には女性の警官が良いのだが、もし日本語ダメなら適当に逃げよう。
「こんにちは 今少しお時間大丈夫かな?」
まるでナンパ。
「…?なんでしょうか?」
良かった日本語だ…
「中央署の者なんだけど、お嬢さんたちは学生かい?」
痴漢と勘違いされて叫ばれたらこまるので警察手帳をみせる。
「そうです」
若干不審感を抱かれてるが身分は証明できた。
「大荷物だけど旅行かい?」
「いえ、授業の一環と言うか、練習と言いますか」
少し曖昧な返事だ
「学生証とかないかな?今この辺は警備を強化してて大きな荷物持った人には聞いて回ってるんだ。ごめんね」
「これで」
かなりの名門校じゃないか・・・でも名前的にハーフか帰国子女か。
「国立音ノ木坂学院の生徒さんか。その荷物だと軽音楽部かな?」
「そですね。三人で活動してます。今回は札幌のイベントでライブと強化練習をしに」
なるほど、だから楽器から機材から持ってきているのか。
「大変だな。事前に宅配とかできなかったのかい?」
「大切なものですから、いつも側に置いておきたいんです。ギリギリまで練習もしますし」
よほど愛着があるのか。ほほ笑んだ笑顔がかわいい。
「一応中身を見せてもらってもいい?決まりで、爆弾とか警戒しているんだ」
「もちろんです。どうぞ」
普通は抵抗されるが以外に素直
ケースを開けると素人でも高いだろうとわかるギターが入っていた。
「弦に気をつけてください」
わかってはいるけどどこも不審な点はない。
「ありがとう。こっちの機材もいい?」
「よいしょっ、どうぞ」
重そうな箱を開けて見せてくれるが私にはわからないような機材ばかりだ。ゲーム機かPCのようなこれでチューニングとかするのだろう。
「ご協力にか感謝します。あと、明後日の演説の日が近いから、テロとか危険が身近に潜んでるかもしれないから気をつけて、なにかあれば警官がいるから声をかけてね。それじゃ。」
思わず手を振りながらその場を離れる。
「かわいかったぁ!声もたまらない」
片桐はさっきのまま。
「しゃっきとしろ。次行くぞ」
あの子と喋ったら少し気分がスッキリした。あと数日で解放されるんだ。がんばろう。
気合を入れなおし巡回ルートをたどる。
-札中央区 西7丁目通-
あの後何事もなく署に帰り、引き継ぎを済ませて今日はもう帰路につく。
男の一人暮らしなのでコンビニか外食だが、今日もなにか食べて帰ろうと思い麺屋を探す。どこも夕飯時で行列ばかり…ここは 空いてるな。癖のある坦々麺のお店の前に到着すると様子が変だ。ザワついて人々が店内を凝視している。
職業柄気になり、人ごみ割り込んで中を覗くと青髪の少女が巨大な坦々麺のような建造物を目の前にしているではないか。
夕方ホテル前で職質したあの子だ。まさか俺でも食べるのに苦労したあの特別な大盛りを頼んだのか?無茶だ。
そう思った瞬間、彼女の箸が高速で動き次々と口に運んでいく。この勢いどこまで続くか・・・
誰でも最初は勢い良いが数分でバテる。
が、彼女の食べる速度は衰えない。あの高さの麺が半分まで減っただと…夢でもみているのか。
あっけにとられていると、その食事は終盤を迎え、最後の一口を入れて飲みこんだ後に水を飲み干し
「ごちそうさまでした」
とご機嫌な笑顔と声で手を合わせた。あの量を食べて笑顔か・・・たまげたなぁ・・・
度肝を抜かれた客と店員で静まりかえってる中を彼女は立ち去った。
ああ、俺もメシを食いにきたのだった 。並盛でいいかな。
-中央区 南二条西-
食後に遊んで帰ろうといつものゲーセンに立ち寄る。警察官だって勤務時間外は遊ぶさ。
最近マキ部をプレイできてないので腕を落とさないように。たぶんこの時間は地区大会の優勝者とか強いメンツしかいないだろうけど、負けない自信がある。今日こそあの調子に乗った連中をぎゃふんと言わせよう。
アーケードフロアにたどりつくと歓声が立ちこめていた。なにが起こっている?
まき部の台に近寄ってみると地区覇者や全国出場者と間違いなく北海道最強プレイヤー達がそこにいた。泣いていたり怒り狂っていたりショックのあまり床に倒れ込んでいた。
こいつら全員負けたのか?誰が。今のプレイしている手前の男性は挑戦者だ。
裏に回ってみると画面には60連勝の文字 一瞬なにが起こっているのか理解できなかったが、プレイヤーをみるとさらに謎が深まる。 青髪に赤リボン そうあの少女だ。
隣に誰も座っていないのだからCPUとのコンビで60回も挑戦者に勝ったのか。
シャアザクで
今日は不思議な事が多すぎて頭がパンクしそうだ。練習なんてできやしない。
と思ったら彼女は側の青年にクレジットを譲り退席する。疲れたのか?
階段に先回りして捕まえよう。
「や、また会ったね」
げっ って顔した後に悪い笑みを浮かべながら彼女が訪ねてくる。
「暇なの?」
「今は非番で帰り道だよ」
「あら 不良さんなのね」
「練習忙しいのに坦々麺食べてゲーセンで女帝になってる子に言われたくないなぁ」
「それを言われるとつらいな」
「ホテル前でも言ったけど、今は情勢的に治安がよろしくない もう帰るのをすすめるよ」
「それは巡査として?それとも紳士として?」
「後者かな」
「かっこつけ」うっさい
「危ないからホテルまで送るよ」
「一人で大丈夫だ」手をひらひらさせながら立ち去ろうとするのを捕まえ
「君が思っているより危ない だから送らせてくれ」
「ふふーん 別のホテルに送ってくれるのかな?」
少しスカートを翻す
「冗談 現役警官が未成年と以下略なんて御免だ」
「あら、私に女としての魅力ないのか…」
胸を見ながらうつむく
「ちがっ そーじゃなくて」
「じょーだん それじゃ騎士様に送ってもらいます」
突然腕にしがみつかれる
「ちょ、待て、お前」
「もしかして女性経験ないのぉ?ふふふ」
この娘は
「帰るぞ」
「つれないなぁ」
腕を組んだまま彼女と歩く
こんなドキドキした気持ちは初めてだ からかわれてるとしても嬉しくてにやけそうになってしまう ふと彼女の顔を覗くと見たことない笑顔だった 悪くないかも
彼女の体温を感じながら夜の札幌を歩く