-道南 洞爺湖-
この仕事は儲かるか?と聞かれたら
「コンビニバイトのが安定していい」
と私は答えるだろう。
大体が成功報酬制で毎日依頼をこなせるはずもなく、大きな金額を貰っても衣食住に消耗品の支払いへと消える。ましてや女三人暮らしの生活費の収入源にしてると自転車操業極まりない。移動用の車ですら中古のミニクーパーで最低限の荷物は載るが居住性は最悪、銃身の長い狙撃銃を載せようものなら中は限られる。バラして現場で組み立てているが、利便性が悪いのなんの。
「ねぇ、やっぱ車買い替えない?」
後部座席では銃器・弾薬・食料品で揺れる度にガチャガチャ音を立てている。
「荷物満載になる度にそのセリフ聞きますね。現状どうにかなってるしこのままで耐えましょう」
ハンドルを握っている彼女はキッパリ答える。
「いやさ、最近の軽でもここまで狭くないよ?」
「あれはCMでやってる新車ですよ!買えるわけないじゃないですか!!」
「普通車でも安いのあるだろ!!」
燃費は置いといてな。
「かわいくて、小回りきいて便利じゃないですか。なによりかわいくて」
そう、このミニクーパーを買った最大の理由が『イベリコが気にいってるから』である。
私は別の10.年落ちの荷物も載る普通車を選んでいる最中、店頭で一目ぼれしてこっそり契約していたのだ。形・デザイン・小ささ・英国製がいいらしく、あの007やミニミニ大作戦など有名作にも出ている車なのだ。普段は余分なもの以外が一切買わず、ブランドなどこだわらない彼女が譲らない。
現在イベリコと向かっているのは札幌市の中央区。狙撃による暗殺の依頼を受けて車を走らせている。もちろん高速など賽銭守のイベリコが許す訳なく下道で北上している。片道5時間、約300kmの道のりを薄いシートではツラいものがあるが、コンビニや道の駅で交代しながら走る。
電車移動のほうが楽だが、銃器を運ぶために重量と手荷物検査など職質をされたら一発アウトなので車での移動だ。駐車場と狙撃場所は依頼主が抑えているため安心はできるが、ギターケースなどを改造した格納容器で偽装はしている。
「そろそろ交代しましょう。」
イベリコがそういいながら洞爺湖近くのドライブインに車を入れる。
「あ~ 腰が痛い…本当辛い…。」
フラフラと助手席から逃げて自販機へ向かう。
「交代ですよ、起きて下さい!」
イベリコが後部座席に荷物と一緒に埋まってるコウを起こす。 そういえばあいつも載ってったな。
「ん…ここ、どこ?」
寝むそうコウが答える。
「洞爺湖です。あと100kmほどで札幌に着きますよ」
冷たい水とタオルを渡す。
「あーい」
なにか脱力する返事。
そんな会話を耳にしながら私は自販機で苦い珈琲を買って左手小指を立てながらグイっと飲む。
-札幌市 中央区-
コウの運転は荒い訳でもなく、上手い訳でもなく、ごく普通だ。イベリコほど普段運転はしないので、普通に走らせる程度はできる。けどなぜか必ず助手席にはイベリコが乗るために私は狭い後ろのシートに詰められていた。そろそろ苦しい。
「今日はビジネスホテルで一泊、明日現場を視察して明後日の本番に備えます」
タブレットの情報を確認しながらイベリコが読み上げる。
「そこの道を右に入ってすぐのホテルです。正面につけて」
「あいよー」
車をホテル玄関へつける。 時間は夕方
茶色いレンガ張りの建物。どこにでもあるビジネスホテルって感じだ。チェックイン関係はイベリコに任せて私とコウは荷物を運ぶ。
「重い…」
コウがプルプル震えながらギターケースを引っ張る。
「それ今回使うメインが入ってるやつだから落とすなよ」
私は弾薬や通信機材の入った箱を担ぐ。
やはり観光の都市なのでビジネスでも荷物運ぶカートがあったのでそれにとりあえず下ろす。
「こんにちは、今少しお時間大丈夫かな?」
スーツ姿の若い男性が声をかけてきた。後ろには連れっぽい女性もいる。
「…?なんでしょうか?」
「中央署の者なんだけど、お嬢さんたちは学生かい?」
その人は警察手帳をかざしながら質問を続ける。警備課の巡査か。
「そうです」
「大荷物だけど旅行かい?」
「いえ、授業の一環と言うか、練習と言いますか」
「学生証とかないかな?今この辺は警備を強化してて大きな荷物持った人には聞いて回ってるんだ。ごめんね。」
「これで」
「国立音ノ木坂学院の生徒さんか。その荷物だと軽音楽部かな?」
「そですね。三人で活動してます。今回は札幌のイベントでライブと強化練習をしに」
「ご協力に感謝します。あと、明後日の演説の日が近いからテロとか危険が身近に潜んでるかもしれないから気をつけて、なにかあればそこらに警官がいるから声をかけてね。それじゃ」
女性警官は笑顔で手を振りながら二人は去っていった。
っとイベリコが受付の人と少し揉めているように見えた。
「どうした?」
「あ、3人一部屋で予約したのだけれど、なにかの手違いで2部屋に別れてまして、他に空き部屋もないらしいのですよ」
イベリコの珍しい困り顔。カウンター越しでは支配人と名札につけた人がひたすら謝っている。予約を取り継いだ担当者のミスらしいので料金はそのままで2部屋提供をしてもらえると。
「別に困ることないし、いいんじゃないかな?荷物の置き場も困らなくて」
広々と寝れるのなら問題ない。
「でも…」
なにか言いたそう顔で下をみる。
「私も別に構わないぞ」
荷物を降ろしたコウが答える
「なら、わかりました」
なにか気になる感じがする。
幸いなことに部屋は隣だった。問題はベッドの数。
「ダブルベッドとシングルベッドねぇ。3人では寝れないな」
「部屋割りどうします?」
「ネット繋げて寝れたらどっちでもいい」
さて、なにで決めようか
誰と寝ますか?
1.イベリコ
2.コウ
3.1人で寝る
なんか目の前に見たことあるような選択肢が浮かぶ。右端にはSAVEとか見えるぞ?なんだこれは・・・
ここはやはり普段から一人に慣れている私がシングルで寝るべきだろう。
「いつもがんばって貰ってますしここは私が一人で」
イベリコ
「いや、一人でゲームできるし私が」
コウ
「私で大丈夫ですって」
イベ
「なにを言う私が一人だ」
コ
「じゃあ、私が…」
「「どうぞ、どうぞ」」
「お前ら…」
かくして部屋割が決まったので各自の荷物と仕事道具を部屋に入れる。
部屋は質素で備品もテレビ 冷蔵庫 ポット ユニットバスと普通だ。部屋の鍵を確認してからギターケースを開けてAWM狙撃銃を取りだす。
AWMはイギリスのL96A1のマグナム弾に対応したモデルで、G22 L115などの名前で軍にも導入されている。最大射程は1500m 全長1230mm 重量6.5kg 装弾数5
クリーニングはしてああるので軽く拭いて磨き、弾倉に.338Lapuaを一発ずつ込めていく。
コンコン(迫真
「私です」
イベリコだ。
「ちょっと待てね」
一応銃が外から見えないようにして扉をあける。
「どした」
「夕食は各自自由にしようと思いまして」
「せっかく札幌まできたのに?」
「ではなに食べるんです?」
「言われれば、食べるものないな。吉野家ぐらい」
「なので自由にしましょう」
ニコニコしながら彼女は部屋を去る。
なんだったのだ…?
-中央区 西7丁目通-
ホテルから東へ。札幌駅前通りをうろつく。ホテルにもレストランみたいな喫茶店はあるのだが、メニューはごく普通であるので変わったものを食べたいので街に出た。
だが札幌名物を食べたい訳でもなく、マックでは味気ないのでお店を探していると坦々麺のお店を見つけた。待ちは数人。
一人なので空いてるカウンターへ通されメニューを見るがここはもちもちの極太平打ち麺のようだ。
では
「冷やし坦々麺汁無し大盛りで」
店員や周りのガタイのいい男性客から 「えっ?」 と視線を感じるが間違ったものでも注文しただろうか。
お冷を飲みながらスマホでニュースや明日の天気を確認しているとモノはすぐに目の前に現れた。お皿の上には塔、いや山のように盛られた麺と白髪ねぎで20cmは高さがある。隣で坦々麺大盛りを啜っている男性も眼を丸くする。
「マジかよ あんな子供がアレ食えるのか?」
「初めてみた」
「無茶だ あんな子が食えるわけ」
「おお、ブッダよ」
「いただきます」
の声と同時に割り箸を滑り込ませる。
-中央区 南二条西-
夕食も食べ終え夜の札幌を散策する。
赤い看板にGAMEと描かれたビルを見つける。ゲーセンだ。ホテル戻ってもやることないしここで時間をつぶそう。
中に入るとゲーセン特有の雑音が出迎えた。
ほう、戦闘機シューティングか。しかも戦場のなんとかみたいに密閉式の筺体とは気になる。
中に入ると戦闘機の操縦室を模した造りで、右手に操縦桿 左手にスロットルとシンプルだ。お金をいれて起動する。
「おはようございます。メインシステム、パイロットデータの認証を開始します」
ICカードをかざす。
「メインシステム通常モードを起動しました。これより作戦行動を再開、貴方の帰還を歓迎します」
ゲームがはじまる。
揺れこそないもの、米軍施設で乗ったシミュレーターの下位互換ぐらいにはグラフィックもきれいだ。臨場感もすごい。
「スキャンモード」
こいつは楽しいや。
けどなかなか難しいもので連コせず他を探す。
クレーンゲームはぬいぐるみ一個に万を使いかねないのでアーケードコーナーへ
トゥ!トゥ!トゥ!イヤァァァァッ!! ヘヤァーッッ!イヤァァッ!ヌオォォォー! モウヤメルンダッビャァァ! ソンナコトヲシテモナニモモドリハイヤァァァヌォォォl! トゥトゥヘアーッノホントウノワケモワカラズニタタカッテハダメダ!!オレハ…アセッタノカナ… キラキラバシュゥゥゥゥン! バカヤロウ!
「あるじゃーん」
聞きなれたキャラボイスでそれを見るける。人型ロボットの格闘対戦するゲームだ。最近はあまりやっていないがそれでもたまにやりたくなる。
8台の筺体があるが、2on2と味方と協力しないといけないために一人ではやりにくいからか、連勝している2人組の台の反対は誰も座っていない。
ギャラリーは「お前がいけよ」「やだよ」みたいな雰囲気だ。
カシャン
ギャラリーを横目に100円を投入し2vs1と対戦が始まる。向こうは自信満々なのか笑っている。
「ノルンとクアンタのコンビか、なら」
赤いツノのついた量産機を選ぶと周囲がいっそうざわつく。
「おい、ガキ。遊びなら帰れ」
反対側から。
「遊びじゃねーんだよ」
二人組が
「あいにくどんな事にも手を抜かない主義ですので安心してください」
ニッコリ営業スマイスで返すと
「かわいいよー!!」
「お嬢ちゃんがんばれー」
「てかLINEやってる?」
と歓声が上がると同時に
「ガキは帰れ!」
「女の座っていいとこじゃねぇ!!」
「この二人知ってんのか!?」
と罵声も飛ぶ。
ラウンドがスタートする
連勝してたがさすがに疲れたのでクレジットを傍にいたお兄ちゃんに譲って別のゲームへ行こうと階段へ向かうとした瞬間
「や、また会ったね」
例の男性巡査だ。 暇なのかな
「暇なの?」
ちょっとからかってみる。
「今は非番で帰り道だよ」
たしかに格好がラフだ。
「あら 不良さんなのね」
「練習忙しいのに坦々麺食べてゲーセンで女帝になってる子に言われたくないなぁ」
なんと晩飯も見られていたのか。
「それを言われるとつらいな」
「ホテル前でも言ったけど、今は情勢的に治安がよろしくない。もう帰るのを勧める」
「それは巡査として?それとも紳士として?」
「後者かな」
「かっこつけ」
悪い気持ちでもなく、なにか嬉しい思いがこみ上げてきた。
ホテルまで送ってもらい
「風呂入って寝るか~」
イベリコ達の部屋は 起こさないでください のプレートがかけられている もう寝てるのか。
部屋に入り、靴を脱いで先に湯船にお湯を張る。
蛇口から流れるお湯が轟音を立てるなか服に仕込んである武器を取りだし並べ、上着 スカート と脱ぎ捨てて下着姿の楽な格好になりベットに倒れ込む。
「ねちゃいそう」
眠いがすぐに湯船がいっぱいになったので下着も脱ぎ捨てシャワーを頭から浴び髪のリボンをほどく お湯に指をいれて温度を確認し、ゆっくりとつかる。
「あぁ^~」
思わず声がでる 年々ジジくさくなってるかも。
でもこの湯船につかって一日の汚れを落とす時間も最高に気持ち良い。
すこし長風呂しよう。
力の抜けた声と感情が流れていく。