-中央区 大通西-
宮門 亮介 24歳 巡査 北海道警察中央署警備部警備課 行動記録
昨夜青髪の子をホテルに送ってから帰宅すると日付を跨ぎ深夜遅くになってしまった。そういえば名前を聞いてなかったな。
なので出勤時間には間に合ったもののめちゃくちゃ眠い。モンエナを飲み干して今日の巡回を始める。
「眠い・・・」
「また女遊び?」
片桐がからかってくる。
「メシ食ってゲーセン行って…」
「行って?」
さらに追及される。
「…女の子をホテルまで送った。」
「ナンパしたの?この色男~」
肘でツンツンされる。
「違う!昨日ホテルで会った青髪の子がゲーセンにいたから夜遅く危ないと思って警察官としてだな・・・」
「ラブホに送ったの?」
「彼女の泊ってるホテルだ!ついでに玄関までだ!」
「ふ~ん」
ニヤニヤしながら彼女はこの話をやめた。
そんな話をしていると雑居ビルに入る少女三人組が目に入る。間違いなく昨日の彼女らだ。
「宮門くん!私たちも付いていこうよ!」
片桐がはしゃぐ。
「勤務中だ。このビルは…音楽スタジオがあるのか。」
「その割に静かね。」
他に店舗や企業が入ってるはずだが休みなのか人の出入りがない。
「付近の警備が厳しくて臨時で休んでるんじゃ?結構多いと聞くぞ。」
「そんなもんかね。」
公園から半径500mはすべて制限され、特に高層で屋上などのある建物は警官が常駐してテロに備える。またこの区域内に立ち入るには金属探知機や身分証の提出など空港並みの審査を得て中に入れる。めんどうくさい。
「屋上はあるようだが会場から遠いし調べる必要もないだろう。さっさと終わらせて帰るぞ。」
「了解。」
-中央区 札幌駅前通り-
今日は夕飯を食べて早く帰ろう と思いすすきのまで出た。飲食店は駆け込み時とどこも開いて客引きに必死だ。
昨日は麺だったから、今日はごはんか?
ふと、カレー屋の前を通るとザワめきが聞こえた。なんだろうこのデジャブは・・・。中を覗くと青髪赤リボンの少女が巨大な皿のカツカレーを目の前にしていた。昔は3000kgカレーなどあったが、いろんな法律や持ったいないなどの理由で廃止されたのであれは大盛りの限界1500kgだろう。俺だってあの量は無理だ。
彼女はコップに浸してあるスプーンを手に取るとすさまじい勢いでカレーを食べ始める。
周囲からは
「無理だ。」
「連れはいないのか?」
「エルタソー。」
など皆無謀な挑戦だと思っているようだ。昨日までの私なら同じ言葉を唱えただろう が、
彼女は勢いを落とす事なくカレーを口に運んで行く。ときどきスプーンで細かくしたカツを混ぜ、水を補給しながら「食べる」作業を続ける。
俺はとりあえず店内に入りテーブル席に通された。いつもの注文をして彼女を見守る。
20分経っただろうか。そのお皿は米粒ひとつ残さずキレイになっていた。いつもと変わらない表情を浮かべながら水を飲んで落ち着いていた。
俺は手仕込みチキンカツカツカレーにチーズトッピングで5辛 400gを食べていた。もっとも普通の量なのでもう食べ終わる。ならここは
伝票を持って立ち上がり、レジで会計をしている彼女の元へ行く。
「この子と会計一緒で。」
自分の伝票もレジに置く。
「本当によく会うね。しかもメシ時に。」
うんざり顔で彼女はため息をつく。
「運命かな。」
「うわくっさ。」
「冗談、この辺りは俺の庭だ。それより奢る。」
「いいの?結構高いよ巡査殿。」
「公務員を舐めるな。なんぼなん?」
「こちら2290円になります。さらにお客様の分を足して3240円になります」
「ら、ライフで受ける。」
思ったより高いがお金をだす
「警告したのに。」
二人でお店を出て通りを歩く
「今日はもう帰るのか?」
「あまり遅いとどっかの紳士様が現れて帰れとうるさいからね。」
「明日も練習があるのだろう?早く休んだほうがいい。」
「なら一緒に『休憩』して帰ってもいいのよ?」
この娘は・・・
「だーかーらー」
「冗談です。一人で帰れるから今日はここで。」
「気をつけてな。」
「明日札幌を発つから、もう会えないかも。」
表情を暗くする。
「そう…か よかったら。」
「これ以上仲良くなったら別れが辛いよ・・・・だからもう帰りましょう。」
俺の言葉をさえぎるように彼女が強く言った。顔をこちらに向けない。
「一期一会ってやつか。楽しかった、また会えたら一緒に食べ放題でも行こう。」
「もちろん君の奢りでね。」
笑顔が戻る。
「それじゃ。」
スカートを翻し彼女は走り去った。
もっと話して、彼女の事聞いて、連絡先ぐらい交換しておけばよかった。
むなしさを抱えながら帰宅する。
-中央区 公園南-
演説当日 道内の警察総動員での警備。報道機関も事前に身元確認をしたものだけを通す。
下っ端の私たちは自爆テロを警戒するべく、5人で公園の南を歩いてまわる。特別に武装が許され、脇のホルスターにはSIG P230JP自動拳銃が入っている。撃ったのは訓練だけ。今回も使わない事を祈りながら持ち歩く。
「警ら中の全署員へ これより要人が会場入りする。より気を引き締めて警戒に当たられたし。」
無線が流れると付近の交差点にいる機動隊員はより気合が入っているように見えた。
「宮門私たちはどうする?」
山田が聞いてくる。
「その辺歩いてればいい。」
「いいのかそれで?」
長谷川がツッコミを入れる。
「どーせこの辺はなにも起きないよ。」
あくびしながらいつものルートを歩く。
「あれ、あれ!」
片桐がはしゃぐ。例のバンド少女三人組みがあの雑居ビルに入るのが見えた。
「よし、青少年をテロから守るためこのビル周辺を警備しよう。」
「は?」
「ほら、あの子たちが危険な目に合うとこみたくないだろ。あのビル人の出入り少ないのだから。」
「私はさんせーい。」
片桐さすが。
「指揮取ってるお前が言うなら。」
他もしぶしぶ従う
「そこの交差点に機動隊も5人いるし完ぺきだな。」
「セコマでアンパンと牛乳買ってくる?」
片桐がノリノリだ。
「ここは自販機で珈琲をかってちびちび飲むほうが渋い。」
他の呆れた視線がささる。
「首相演説聞くか?公務員として。」
長谷川がスマホのワンセグを繋ぎながら聞いてきた。
「興味ない。むしろバラエティーのが心休まる。」
「どこもやってないよ。」
「政治に興味のある国民なんて2%に満たないのに報道まで操ってるのか?」
「パスドラやろ。」
山田はソシャゲを始める。他各自持ってた雑誌スマホで時間をつぶす。
数時間経ったころだろうか、各自それぞれ暇を潰していた最中
ターンッ
大きな銃声が近くから響く。どこから?
「こちら中央18 本部銃声が聞こえ。た」
無線で伝えようとするも
「本部?応答しろ?」
繋がらない。
「片桐お前の無線機は?」
「私のもだめ・・・」
どうなってやがる。
「おい、なにがあった!?」
機動隊員がこちらに走ってきた 銃声を聞いたのだろう。
「わからんが大きな銃声の後警察無線が使えなくなった事は事実だ。」
「銃声はあのビルからした。どうする?」
隊員が指をさす方向。彼女たちが入ったビルだ。一気に血の気が引いた。
「全員ついてこい。民間人の少女が危ない。」
「突入するの?応援は?」
「携帯で誰かに繋いで呼べ。とにかく全員銃撃戦になるかもしれん。」
「なら我々が前に出よう。」
「いや、下手に犯人を刺激してはならい。 私服の俺たちが様子を探ってやばくなったら携帯で連絡を飛ばすから目立たないとこで待機だ。」
「わかった。こっちは応援を呼ぶから気をつけて。」
私服警官5人でビルへ入る。 最優先目標は民間人の救出だ。
「スタジオは5階みたい。」
「上がるぞ。」
エレベーターに駆け込む。
「お前ら射撃の成績は?」
「普通かも。」
「普通以下。」
「普通と信じたい。」
静まりかえるエレベーター内
「…」
「…」
「俺も上手いとは言えないがなんとかなるだろう。」
ポーン と電子音が鳴り5階に到着する。
静寂に包まれ、廊下の明かりもろくについていない。
「ここか。」
収録スタジオと書かれた部屋をみつける 。
ターンッ ターンッ 中から重い銃声が何度も聞こえる。中に敵がいるのか?
「全員構えろ いくぞっ」
ドアノブを軽く開けたあと思いっきりケリ飛ばし中に入る。
「警察だ!(インパルス板倉。全員銃を置いて床に・・・」
唖然とした。皆が。
なぜなら黒髪の少女が沢山のモニタを前に一人いるだけだ。映像は誰かが撃たれる瞬間が流れている。この人物は…。
「首相が撃たれたのか!?」
モニタを掴みながら彼女に問う。
「そうだよ(便乗) 狙撃でね。」
「他の二人は?」
「屋上roof」
「片桐と鳥野はここに残れ。あとは屋上までついてこい。」
「「了解」」
階段を夢中で駆け上がる。もしあの子が? いや、そんなはずは・・・
息を切らして扉までたどり着きそれを開けた瞬間、思考が止まった。
大きくて長い狙撃銃を持つ青髪の少女に、SATなどが使っている軽機関銃を構えた赤髪の少女だ。目を疑う光景。
「警察だ!!」
これしか言葉がでない。
「あら?」
「あら?」
二人が不思議な顔でこっちをみる。
「なぜ……君たちが」
「本当に暇なんじゃない?」
青髪の彼女茶々を入れてくるが
「銃を床に置け!はやく!」
彼女らは武装しているのだ。
「従いましょう。」
赤髪の子が素直に従う
「取り押さえろ。」
山田と長谷川が取り抑えるために銃を降ろしながら近寄る。
次の瞬間
青髪の彼女が手前の山田に飛びつき背負い投げ、長谷川が取り押さえようとするも軽々と避けて受け流し、抑え込んで腕をひねる 。
すでに赤髪の子が先に倒れた山田に拳銃を向けていた。
「さて、どうしますか?」
赤髪の子が主導権を握る。
「二人を離せ。」
一瞬の出来事で混乱しそうだがまず安全確保だ。
「では、その銃をおろしてください。」
「それはできない。」
「じゃあこの二人を撃ちます。」
まずい。
「それは…」
「じゃあ貴方はどうするべき?」
強い口調で、強い目線で彼女に言い渡され、俺は黙って拳銃を降ろす。
「どう処理する?」
青髪の彼女が
「ではみんな俳優になってもらいましょう。」
赤髪の子が満面の笑みを浮かべる。狂ってやがる。
「廃夾して。」
彼女が狙撃銃を操作して薬きょうが落ちる。
「ここに首相を撃った薬きょう。」
「倒れこむ警官。」
山田を蹴り上げてやがる。
「残るのは警官の死体のみ。」
急に手を掴まれ銃口を篠塚に向けられる。なんて力だ成人男性が逆らえない。
「なにをする?」
必死に言葉で抵抗をする。
「彼らは実行犯。貴方は正義。」
彼女の指が引き金にかかる。
パンッ と乾いた音がする。
山田に当たった。血が・・・流れ・・・ている・・・?
「うああああああああ」
無我夢中で殴ろうとするも
「大人しくしなさい。」
脚にナイフを刺される。
「ぐああああああ」
あつい いたい 脚に力が入らない
その場に崩れ落ちる。
「こいつもです。」
長谷川にも俺から奪った拳銃を撃ちこむ。
「貴方は彼らの反撃を受け殉職。そうしましょう。」
長谷川の拳銃を拾って俺に向ける。
「こいつは私がやる。」
青髪の彼女が山田の銃を拾う。
バァンッ
「銃声が聞こえたけどなにがあっ…」
片桐が駆け付ける。逃げ・・・
彼女はためらいもなく撃った 。
「片桐ぃぃぃぃ!!」
絶叫と悲鳴が混じる。
「君のことは嫌いじゃなかったのに残念だ。別の場所を巡回していたらまた会えただろうに。」
とても冷徹な顔で私を見下ろす。
「なぜこんなこと?」
説得する他ない。
「ずっとこうして暮らしてきた。だから理由はない。」
「他に道もあったろ!?」
「ないから今こうしてるんだ。」
「俺ならお前を変えられるかもしれない。だから今すぐやめて・・・」
もしかしたら俺はお前とこれから
「ごめんなさい」
最後に彼女の言葉を聞いて目の前が真っ暗になった。
日本国総理大臣銃撃事件報告書 3ページ目
首相は狙撃銃の.338Lapua弾を頭部に受け即死。他の要人は怪我はなかった。
中略
狙撃のすぐ後に本署の無線システムに不正アクセスがあり、警察無線が使えなくなった。これは犯人グループ警察を混乱させ逃走を優位にするものと考えられる。事実会場に襲撃などはなく、逃げる際に転んだなどの怪我を覗けば怪我人はいない。
中略
また、犯行時刻に近くにいた宮門巡査の警備課署員は、当該ビルの周辺で待機する不可解な行動が見られたが、結果的に即座に犯行現場に機動隊と駆け付けることができた。しかし機動隊ではなく彼らが先に中に入ったのは判断ミスであった。防弾装備をしていたならば犯人を逃がさず生存していたかもしれない。
また、彼の同僚と撃ちあった痕跡が見られることや、隊員の殺害に使われた武器が警察の使うMP5と判明したことから、警備課の長谷川・山田巡査が手引きをしたと思われる。音楽スタジオには大量のコンピュータが設置されており上記の警察無線への不正サクセス、報道機関のチャンネルへ首相殺害時の映像を流すなどの行為はここから行われたとみている。ここで倒れていた巡査は45口径弾を受けているために逃走した犯人に撃たれたと考えられる。
中略
銃声を聞いて突入した機動隊はMP5と私服警官が使用するP230JPで殺害されており、ナイフなどの刺し傷なども見られた。防弾盾など優位な立場での戦闘にも関わらず全員殺害されたのは犯人にSATなど特殊部隊経験者がいると考えられる。
その他にも逃走中の犯人が何度も発砲をしているも牽制だけで死傷者は報告されていない。
目撃した近隣住民から青髪の少女がオモチャの拳銃のようなものをもっていたとの証言もあるが、考えられないことであり事実無根であり、本件とは関係ないものとする。