-函館市 自宅 500-

 太陽が軽く上がり外が明るくなった夏の函館の朝はスッキリとしており、その光はカーテンの隙間から差し込む。目覚ましを使わずとも体内時計で起きる彼女にとって太陽は重要な情報でもある。

 「んっ…」

 

 猫のプリントが入ったワンピース型のルームウェアに身を包み、夏用のタオルケットを肩までかぶっている赤髪の少女は目を覚ます。

 「おはようございます」

 誰もいないが一言朝のあいさつをした。彼女はあいさつを疎かにしない。

 クローゼットから衣服を出すとベッドに並べて着替え始める。

脱いだワンピースもベッドにおいて下着だけになる。一緒に出したピンクのブラジャーを手に取りストラップを肩にかけ、下側を持ち、少し前かがみになった状態で、ワイヤーを合わせる。

胸を中に収めてからホックを止めて、前かがみのまま、左手で左のストラップのつけ根を少し浮かせて、右手をカップの中に入れ、全体を包み、右肩方向に優しく引き上げる。身体を起こしたらストラップを適度に調整して紺のフリルキャミソールを手にし、かぶった後は細くなったと信じたい脚にデニムを通していく。腰でチャックを上げ、ベルトの留めるとヘソが軽く見えるぐらいの夏定番コーデとなった。

 着替え終わると脱いだワンピースを手に洗面所へ向かい、洗濯機の中に入れると側の洗面器に水を張って冷たい水で顔に浴びせる。洗顔フォームを少量取り、しっかり泡立て、指が肌に触れないように優しく円を描きながら伸ばしていく。泡が残らないようにしっかりすすぎ、最後は昨日洗っておいたフワフワのタオルを顔に当てるように水気を取る。

 冷たい水で眠気も飛んだところでボサボサの髪をブラッシングしていく。ブラシを毛先にブラッシングし、徐々に上から梳いて整える。紅の髪につやが戻ったとこで左に全部寄せてから水色のリボンでしっかりと結びサイドテールにする。

 「よしっ、今日も大丈夫です」

 気合のスイッチが入ったのか彼女は上機嫌で台所へと向かう

 

 外部の熱を遮断するために厚くしたカーテンの隙間からこぼれる朝日はわずかに部屋を照らす。クリック音とキーボードのタイプ音、そして誰かと話す声以外は聞こえない。黒髪の少女はマイク一体型ヘッドホンをつけ、3枚のモニタを前にPCを操作していた。

 「もう、朝か この任務終わったら寝るか」彼女は現在人気の無料オンラインゲームをプレイしている。MMOと呼ばれるそのジャンルは奥が深く、レアアイテムを手に入れるのは何千時間とプレイを重ね、裏まで知り尽くした者だけが手にできる称号だ。それを(他ギルドと比べ)簡単に手に入れる世界最強のギルドを彼女は率いているのだ。課金と言ってリアルマネーをゲーム内通過に変換して普通では手に入らないアイテムを購入して優位にプレイする方法は一切嫌い、「無課金で課金勢を打ち破る」をモットーに彼女は最強の座を手に入れたのだ。

が、その代償は大きく一日20時間プレイや徹夜の毎日、ろくな睡眠や食事もとらず引きこもってゲーム内で作業をする毎日だった。一度倒れ同居人に説教されて以来はある程度生活リズムを保ちながらも全力でゲームにうちこんだ。

 「でもあと二時間ぐらいで朝ご飯か、一個任務受けるか仮眠か…」でも根本は変わっておらず厚生の余地あり。

 「怒られるし仮眠しよう」ゲーム内のフレンドにログアウトする事をチャットに書き込んだ後にゲームを閉じてモニタの電源だけを切って布団に入る

この部屋は大量のPCにサーバーが置いてあるために常時涼しい温度に空調が管理されているため肌寒い Tシャツで寝ると風邪を引くので毛布をかぶる。この夏なのに寒くして毛布にくるまる優越感に浸りながら幸せそうな表情で眠りに落ちた。

 

 

 

 その部屋はとてもシンプルで必要な物以外は置かれていない。ガンケースに工作用のブースなどがある以外は世間一般的なワンルームだろう。ベッドでタオルケットを跳ねて抱き枕のようにして青髪の少女が寝ている。朝の陽ざしが顔に差し込むが全く動じず眠り続ける。

 「かつどん…」なにか食べ物の夢でも見ているのか寝言を喋ると寝がえりを打って日差しを背に睡眠を続けた。

 

-600-

 テレビをつけ、朝の情報番組を見ながら朝食とお弁当の調理にかかる。

朝食はシンプルにごはん・漬物・和え物・味噌汁 ごはんは昨夜炊飯器に予約しておいたので鍋に水を張ってコンロで火にかけ、味噌汁の具を冷蔵庫から取り出す。先にダシパックを鍋に投入してから絹ごし豆腐をパックから一丁手の上に出すとそのまま包丁を入れて四角のブロック条にしてから少し湯だった鍋に入れる。次に葱を手慣れた感覚で刻み、水で増えるワカメと一緒に鍋に入れた。味噌をパックから適量、味噌こしでときながら玉ができないようにしっかりと混ぜて味噌汁は弱火で煮込む。

 にんじんは細切りにして、油抜きした油揚げ1cmほどに切り、鍋を出してサラダ油をしいてから熱する。その間に市販の大豆とひじきの水煮の封を開けて水切りし、にんじんなどと一緒に鍋へ入れて炒める。全体に油が回ったところでだし汁・しょうゆ・砂糖・酒などを混ぜた煮汁を加えて中火で煮る。

 二つの鍋がコトコトとふたを揺らしながら煮えてる間に人数分の食器などを棚からだしてダイニングテーブルに並べる。

 「このあとは目覚めるじゃんけんです!」地上波のデータ機能をつかったじゃんけんが始まる急いでリモコンに駆け付けグーの色ボタンを押す。

 「今週はポイント倍です…今日勝てれば抽選の掃除機が貰えるかもしれません」

 「めざめるじゃんけん、じゃんけん ぽん!私はパーを出しました。」

負けた 少しショックを受けた様子だが番組も次のコーナーへ変わるので箸を並べに戻る。

ちょうど煮物の水分が飛んできたので火を消して味見

 「いい感じ」

味噌汁もおたまで少量すくい、小皿に移してから啜って味見

 「こちらも問題なし」

朝食の準備はできたのでエプロンを椅子にかけ、緑茶を入れてソファにゆっくり腰をおろして新聞を広げる。毎日のニュース・世界情勢・為替・株価などは彼女たちの仕事に大きく影響するので重要だ。北海道・毎日・恐怖・虚構新聞と数社の新聞を取っており、多数の情報をチェックする。近年はタブレットの普及で電子版なるネット新聞が普及しており、どこでも手軽に読む事ができるが、彼女は複数あることで並べたり切り取って保管するなど紙媒体でしかできないことをする。

熱く苦いお茶が口の中で香る

 

 

 冷却ファンやLEDが点灯する稼働する機械に囲まれた部屋は快適か と聞かれたら そうではない と答えるが、慣れれば問題ないかもしれない。彼女はすぐに適用して一見落ち着かない空間を我が寝床としていた。「今日も休講」と書かれたTシャツに短パンで毛布でミノムシのようにくるまってスヤスヤと睡眠を続ける

 

 

 彼女にもかわいいとこはあり、部屋のベッドにはゲーセンで獲ったぬいぐるみなどが飾られている。抱き枕にもしたりするが汚すのが嫌なので基本は飾る。そんなファンシーな空間で寝像悪く青髪の少女はまだ眠る

 

 

-730-

 ソファで朝のニュースからエンタメ情報を収集しつつ、同居人を起こそうと立ち上がる。ネコのかたちをしたスリッパを履いて廊下へ出るとほぼ隣の部屋の前に着く。プレートにはCOUと書かれている。軽く三回ノックするも返事はない。彼女はすぐに隣の部屋へ行きノック、「入りますよ」と入室した後に唱える。

 「7時です。起きてください。」足元に置かれているガンケースを避けつつぬいぐるみの置かれたファンシーなベッドへ向かう

 「…んっ…あー あと五分…」布団の中から寝むそうな声が返ってくる

 「……起きてください」笑顔でタオルケットをテーブルクロス引きのように巻きとると、Yシャツ姿の青髪少女が脱力状態で転がっていた。しかしその胸は平坦であった。

 「まぶちい」夏の朝日が顔に照りつけ少女は顔を覆う

 「はーやーくー」赤髪の彼女はシャツのボタンに手をかけ脱がそうとする

 「ななな、なにしとっとですかー!?」少女は先ほどまでの眠気は嘘のように飛び跳ねて起きる

 「着替えでもさせようかと」

 「絶対それだけじゃないよね?ね?」身を縮めて防衛的に後づ去りをする

 「き が え だけ」笑顔のままベッドに膝をつき長い青髪をなでるように顔を寄せていく

瞬間、二人の立場は逆転していた。一瞬のうちに彼女は腕を取られたままベッドにねじ伏せられ、身動きができない。そして少女は必至の形相で技を決めていた。ジュージツに精通する読者のみなさんならお分かりと思うが、少女は一瞬のすきをついて技のカタを使ったにすぎない。その間僅か3秒 ワザマエ!

 「ギブアップです…」彼女は苦しそうに控参する。

 「わかればよろしい」少女は腕を離す。

着替えるからと彼女は追い出され、なにか悔しそうにリビングへ歩いた。

 

 

 人間は面白く現実とは別に何かを体験できるのである。夢 そう夢はレム睡眠(睡眠中に体は麻痺しているが、脳が活発に動いている生理現象)」の生物学的機能を探る疑問と同じと考えられる。まだはっきりとした事は解明されていない。寒くも感じる部屋の中で彼女はその 夢 をみていた。笑顔をこぼしながら眠りを続ける。扉からノックするような音も聞こえる中で

だが、起きねば そんな気持ちがふと頭をよぎった

 

 

-800-

 リビングには二人の少女が食事をしていた。

 「今日も私はバイトだから」 味噌汁をすする

 「私はいつも通り営業してきますので」 ひじきの煮ものへ手を伸ばす

 その時、「おはよ…」黒髪の少女が寝むそうにフラフラと起きてきた。

 「珍しいですね てっきり徹夜でゲームしてたなら今寝てるのかと」炊きたてごはんを口に運ぶ

 「たまには健康的な生活をしたいんだよ」席について箸を持つ

 「徹夜でゲームやってて健康的とは」漬物を口に放り込む

 「私たちは出かけるので留守番お願いしますね」

 「あいー」

 

 朝ご飯も終えたとこで赤髪の彼女は洗濯機を動かし、食器の洗い物をする。大した量の洗い物ではないのですぐに片づけ、洗濯物をベランダに運び干していく。色とりどりの下着から私服まで女の三人暮らしは洗濯物が多い

 青髪の少女は身支度を整え、私服に着替える。

 黒髪の娘は再び部屋に帰っていく

 

-900-

「では行ってきます。」

 「てら~」

赤髪の彼女は車の鍵を手に玄関から出る。一日営業やらで外回りらしい

この家庭に一台しかない車に乗り込んでエンジンをかける

 「エアコンが…欲しくなりますね…」

この旧ミニと呼ばれる車にはエアコンはない クーラーなら後付けであるのだが、北の大地に住む彼女らは必要と考えなかったのだ。にじみ出る汗を拭きながら窓を全開にし、鞄のクリアファイルに挟まってる地図を見ながらギアを入れて走り出す。

 「お客さんのとこつくまでに汗くさくなりそう」

窓から風が吹き込んで多少は涼めるものの、キャミソールは少し濡れていた

 

 

 

 「んじゃ、私も出るか」

青髪の少女が窓や火の元を確認して玄関へ向かう

 「あと頼んだよ~」

部屋の中に声をかけ、玄関の鍵を閉めて熱い空気の中階段を下り駐輪場へ出ると、どこにでもある銀のフレームにかごのついた自転車に荷物を投げ込みダブルロックを解除してて手押しで車道にでる

 「今日もあっついなぁ アクシズ落として冷やしたいよ」

愚痴をこぼしながらも自転車にまたがり風を切って走り出す。少し走り出せば風で涼しい気持ちになり、鼻歌を歌いながら自転車を漕ぐ

 行き先は数分で到着する近所のコンビニで、少女は本業で仕事がないとその間を食いつなぐ分をバイトで養う。他にもファミレスや本屋など掛け持ちがあるが、やはり近所が一番と、言う事で北海道ではおなじみのオレンジ色に鳥のマークのコンビニ大手で働く。

 「おはよーござまーす」慣れたあいさつを交わして店の裏へ行き更衣室兼事務所で制服に着替えるとすぐレジに入る。

 「いらっしゃいませ!!」普段見る事ができないような愛らしい笑顔と声でお客様を出迎えた。

 

 

一人は営業、もう一人はバイトと働きに出てる中、私はこんなことしてていいのだろうか と娘は稀に思いながらネットの海へ乗りだし世界のニュースを集める。ちょっと前の言葉を使うならネットサーフィンだろうか。無論まったく役に立たない訳でもない。集めた情報は皆に共有し、今後のために使われる。また、壁にかかっている別のモニター群にはチャートグラフが並んでおり、株価や為替などをリアルタイムで監視できるようになっている。直接取引に関与している訳でもないが、お客様の多くはトレーダーをしているのも多く、大暴落の後に訪れると姿がなかったり、不機嫌で契約ならずと言った事があるためである。

 「でも建前はこんなもんで結局はゲームしちゃうよね~」

説明ありがとう。呟いた時にはすでにログインしていた。

 

 

-1200-

 「では、またよろしくお願いします。失礼します。」

サイドテールのリボンをなびかせながら、丁寧にお辞儀をして扉を閉める。

額に汗が浮かぶも急いで車に乗り込みハンカチで拭きとった。

 「お昼ですか…どっかコンビニで済ませましょう」

午前中で3件ほど回った後でお腹もすいて少しの疲労も浮かぶ。車をzk7-11の駐車場で日陰に停めると財布だけ手に持ち、空調の効いた店内へと逃げ込む。

 「気持ちいい…癒されます…」

キンキンに冷えた店内で少し涼むと、お弁当コーナーへ向かい値段と中身の選別に入る

 「こちらのがgは多いのに安い、けどこの暑さではやはり王道を往くざるそばでしょうか…でも」

 

結局おにぎり100円フェアに負けてしゃけとエビマヨおにぎり、冷たいお茶を買って熱された鉄の棺桶に戻る

 「やはりまじめに買い替えるべきでしょうか…」おにぎりの包装紙の1番を引っ張り、2番を引いた瞬間

バリッ

 「あっ」

2番のつかみと一緒に海苔は半分に切り裂かれた。

 

 

 「休憩行っていいよ」

 「わかりました」

お昼を買い求めにくるお客の波が止んだとこで交代で休憩に入る

まばらになっていた菓子パンを補充して陳列を終えると事務所へ入り、積まれたお弁当と睨めっこする。これは賞味期限が切れそうな廃棄処分品を安くして従業員の昼食になっているのだ。

 「今日はこれだ!!」

手に取るは大盛り100円パスタ 100円とは思えないほどのボリュームと美味しさの人気商品だ。

 「いただきます」

割り箸を手に少女は一言唱えた。

 

 

 「お昼か」

PC脇の時計に目をやり黒髪の娘は部屋を出てキッチンへ向かう

 「ん~なにか」

冷蔵庫を漁るも無駄な買いだめをしない主義の賽銭守によってほぼ空に近い。常に家にいる身にもなってくれと言わんばかりに他の戸棚を開けカップ麺を取りだし、お湯を沸かす。

 「これは…よく見れば販売中止前の伝説のヘヤングではないか!!」

パッケージをがっしりと掴み写メを撮って興奮する。これは同種の製品に虫が混入したとされる事件があり、製造元が全国一斉回収として店頭から消えた時にファンが高値で取引をした品だ。衛生管理が問題なくなり再販されたものの、パッケージや中身に多少の違いはあるため、改修前のオリジナルは未だにレアだ。

 「誰が買ってきたんだ…?まぁいい、食べて証拠隠滅しよう」

湯切りをして流し台が ボゴォン と鳴ったとこで調味料を混ぜて箸と一緒に部屋に戻る

 

数日前に青髪の少女が名前を書いて戸棚に入れた事をも知らずに

 

 

-1500-

 「これで、今日は終わり」

キャミソールでも暑いものは暑いようだ。下はジーパンではなくスカートにするべきだったか?そう思いながら雑居ビルを後にする。今日の外での業務はすべて終えたのでスーパーに寄って夕御飯の買い出しだ。今朝のチラシを片手にどこが安く、多く仕入れることができるか素早く分析する。

 「今日はラルズにしましょうか」

まだ高い太陽を背に国道をひた走る

 

 

 

 「らっしゃせー」

このコンビニはお店で作る惣菜やパンなどが多く、他店と比べ厨房は忙しい。汗をかきながら夕方のラッシュまでに揚げ物をドンドン作っていく。

 

 

 

無数のファンの音が響く中、静かな寝息も響いていた。

 

 

 

-1630-

時報と共にタイムセールが始まった。これは主婦にとって合戦の始まりである。

まだ若さでは負けないと店内でかごを持ち、目当てのセール品に丸を撃ったチラシ片手に人ごみをかき分けて進む。その小柄な体系を活かして中年層の主婦の波を軽々と交わしてまず野菜コーナーに

 「そのキャベツ いただきです。」

手にかけた瞬間

 「甘いわ小娘」その最後のキャベツは中堅主婦に横取りされてしまう。

 「ちっ…次、そっちの大根を」

 「残念ですわ!!」なんと、フェイントモーションをかけられ有るように思えた大根は目を離したすきに消えていた。

 「まだ、まだ負けるわけにはいきません!!」

髪のリボンをほどき、彼女は眼の色を変える。赤いオーラを放ち、それは通常の三倍の速さで人の波の中を進んでいく

 「白菜はGETだ」若い主婦がそれに手をかけた瞬間

 「その白菜、消えるよ」彼女のかごに白菜は鎮座していた。

 「なっ」周囲がざわめき、動揺が走る

 「王の財宝…」彼女が背後に謎の光を放つと野菜コーナーから目的の物が次々とかごに入っていく そして彼女自身も人の目では追えないほどの動きで店内を駆け巡る ゴウランガ

 「ねぎ…しらたき…春菊…しいたけ…コンプリート」

死屍累々と化した野菜コーナーを抜けるとお肉コーナーへ突入する

メインの食材のお肉コーナーは常人では突破不可能な王の軍勢で固められるも、彼女は黄金のゲートを封じ、別の詠昌を始める

 「破滅への輪舞曲、です。踊りなさい!」

主婦ががっちりと掴んでいたセール品、超お得の牛ロースは宙を舞う

そして滑り込むように牛ロースへ飛び込むとかごで受け止め、お肉コーナーを後にした。

 「しょうゆが足りない…!」

急いでUターンをするもセールのしょうゆは残りわずか 重量過多を恐れて後回しにしたのが運のつきだったようだ。

 「負ける…?私たちが…?味の薄い晩御飯を食べるの…」

 

セール品のしょうゆも最後の一本となり、激しい争奪戦が繰り広げられる。それを掴んだものは勝者となり、あきらめて通常価格の物を買う敗者をしり目にレジへ向かう事が許されるのだ。

 

 「約束された勝利の調味料…!エクス、カリバァァァァァァァ」

 

店内が光に包まれ、その日の出来事は伝説となった

 

 

 

 「夕方までの調理と陳列終わりました」うすら汗をかきながら店長らしき人へ伝える

 「お疲れ 今日は上がっていいよ」

 「お疲れっしたー」

ロッカーを開け、私服に着替えまだ残暑が応える外へと出る。

 「あっち」自転車のサドルも太陽で過熱されており、座るのはあまり好ましくない

 「お尻が焼けそうだなぁ 仕方ない」店内で買った土の味がすると噂のジュース片手に自転車を押して歩道を歩く 海からの風と行きかう自動車の風圧で長いその髪の毛を揺らしながらとぼとぼと歩く 

 「今夜のご飯なにかなぁ」

 

 

 

間もなく日本の株式市場が終わりを告げようとチャートも変化する中、自作のAIに監視を任せて寝息を立てていた

 

 

-1700-

 「た、ただいま帰りました…」

両手にスーパーの袋を抱え、なんとか玄関のカギを開けて帰宅する。すぐにエアコンのスイッチを入れ、空調を整える

 「はぁ、はぁ」息を切らしながら袋の品をキッチンまで運び、冷蔵庫に入れるものとすぐ調理する物と分けていく。

すぐに椅子にかけてあったネコ柄のエプロンを着て手を洗って夕食の支度を始める。

 

 

結局自転車には跨らず駐輪場まできたので、しっかりとロックしてから階段を上がって玄関をあける

 「ただいま~」

 「おかえりなさい」リビングの方から声がする

 「いやぁ、あっつい たまらんね」エアコンが動いているのを確認すると真下に陣取り服をばさばさを仰いだ。

 「行儀悪いですよ?」エプロン姿の彼女は慣れた手つきで野菜などを洗っていた

 「誰も見てないからいいの」

 「私が見てます。」

 「で、今夜はなに?」

 「すき焼きです」

 「…?パードゥン?」

 「SUKIYAKI」

 「whyジャパニィーズピーポー!?」

 「最近見なくなりましたね」

 「でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。 重要なことじゃない。なんでこの暑いのにすき焼きなの!?」

 「いや、こう、電波と言いますか…神のお告げと言いますか…なぜか今日の晩御飯はすき焼きが食べたいと…」

 「しかもすき焼き鍋にカセットコンロまで…そうめん食べたい」

 「夏に冷たいものばかり食べてるとバテますよ?ほら、せっかく牛肉もあるんですし」

 「…肉があるのか!?」ピクッと少女がその単語に反応し、真面目な顔になる

 「ええ、国産牛の」セール品

 「楽しいすき焼きにしよう」今日一番の笑顔だろう

スキップしながらお風呂へ向かい湯船にお湯を張る 

 「にく~♪にくにく、おにく~♪」

先ほどの暑さでダレていた少女とは打って変わって今はすき焼き(の肉)が楽しみな子供になってしまった。

 

 

 

「んっ」寝がえりをうった

 

 

 

-1900-

テレビもニュースからゴールデンタイムのバラエティへと変わり、にぎやかになる。

 「そろそろ始めますか」

下準備を終えてソファでアイスティーを揉みながら寛いでいたが、食事の時間となったので立ち上がり材料を前に意気込む。

まず牛肉を2~3等分に切る。ねぎは1cm幅の斜め切り、しらたきは下ゆでし食べやすい長さに切る。焼き豆腐は10等分くらいに切る。しいたけは飾り切り、白菜はざく切り、春菊は5cm長さに切る。切り終えたらすき焼き鍋を熱して牛脂を溶かし、鍋全体になじませる。ねぎを焼いて香りを出し、牛肉の両面のさっと焼いて適度な色がついたところでしょうゆ・みりん・砂糖・水を加える。弱火にしてしらたき、焼き豆腐、しいたけ、白菜、春菊を入れ、味がしみ込むように時々焼き豆腐の上下を返し、全体に色づくまで煮る。

 

 「煮え切る前に二人を呼んで…」

すでに青と黒の髪の毛の少女たちはダイニグテーブルに着席して自分の器にたまごをいれてといていた。食事になるといきなり湧いて出る二人に呆れつつも、自分の料理を待ってくれる人がいるのは嬉しく、笑みがこぼれる。

 

 

 

一日の汗を流す 温かいお湯でさっと流して湯船につかり、身体と心の汚れを落としていく。

 「日本文化っていいよなぁ」そんな事を呟きながらお湯にとろけている

自宅なので髪の毛は束ねずそのまま浸し、湯船いっぱいに広がっている。その表情はなにか物思いに耽る顔で、何を考えているのだろうか 何事もない日常の一日が終わろうとする中で彼女はまた笑った。

 「さて、さっさと髪を洗って上がろう 今日はお肉だ!」

湯からあがり、シャワーで頭から髪の毛を濡らして長く綺麗なその髪の毛を丁寧に洗っていく

 

 

電子音が部屋に響く

 「んあっ」

その豊満なバストの持ち主は目覚ましのアラームを叩いて止めた。お昼すぎから寝ており、やっと今起きたのだ。

 「ごはんのじかんか」思考が回らない中、現在の状況をまとめる

 「この匂いはすき焼きか あのドケチ奮発したな!?」家の中に漂うその香りに気づき颯爽とリビングへ向かう

 

 

 

 「二人とも早いですね」鍋つかみで煮え立ったすき焼き鍋をテーブルのコンロへ移す

 「そりゃ」

 「お肉とあらば」二人とも箸を構えて臨戦態勢だ

 「朝もこのくらい自分で動いてくれたら楽なのですが」コンロの火を入れ鍋の蓋をとる

 「うわぁ!」

 「うひょお!」

立ち込める甘くて香ばしい香り 煮え立つ中にはお肉の他に豆腐やしらたきの姿もあり、暑さも忘れがっつきたいほど美味しそうであった。

 「私の器も出しておいてください」彼女が遅れて器を出し、急いで卵を割る

 

「「「いただきます」」」

 

元気な声が食卓を包み、わいわいと食事が始まった。

いつもと変わらぬ日常は、決して普通ではないかもしれない。けど、いつも通りに過ごす日々はきっとかけがえも無く、大切なものだろう。三人の笑顔とその談笑する食卓はきっとこれらも続く、何度でも。きっと。

 

最終更新:2015年08月12日 07:38