-横浜市 飲食店-
様々な種類と部位のお肉、お寿司に揚げ物と大量の料理が並ぶ中、一つのテーブルは殺気に溢れていた。網で焼かれるお肉は適切な時間で裏返され、まんべんなく火が通されていく。少しでも食べたい気持ちをごまかそうとタレを調合したりする者も出るが、未だ緊張感は保たれている。
「これでが最後の返しだ」
リーダー格の男がそう言いながらトングで牛ヒレ肉を裏返すと周囲はすでに割り箸を抜刀しており、獲物へと飛びかかる寸前であった。
「待ちな!!」
静まり返る 沈黙とその皆の視線の先には一人の少女が仁王立ちしていた。
そこには腰まで伸びる青髪が特徴の少女が手に大皿を3枚持ち、いずれも肉が山のように盛られていた。
「あんた、焼肉奉行ぶってるがこの店ではその焼き方は違う」
鋭い眼光はお肉へと向けられていた。
「なんだ嬢ちゃん、引っこんでな」
レィバンサングラスを指で直しながら邪魔者を追い払おうとする。
「ココの火はガスなんだヨ。炭火に慣れてるのかその焼き加減じゃまだレアだろう。炭火の遠赤外線と違って直接炙るから中に火が通りにくい、そして通ったと思えば屋きすぎて硬くなる。しっかりそこを見据えるんだな」
少女はそう言い残し自分のテーブルへと向かった。
それは何日も前に遡る
-函館 コンビニ-
「らっしゃせー」
自動ドアが開くと残暑厳しい外の熱風が店内に入り込む。アクシズでも落として地球を冷やしたいと毎年思いながらも過ごしている。レジに客は来ないので陳列ついでに冷蔵庫で涼もうとしたが「休憩入りなさい」とエアコンが生ぬるい事務所で休憩する事になる。今日のお昼を決めようと弁当と睨めっこしているとスマホが震えだす。着信だ。
「ぼくひで」
「ニュースですよ、ニュース!」
元気なイベリコの声が耳に響く
「Cat驚くニュースなら毎日見てるだろう」
「なんとまた関東でお仕事です!!」
「ほう、どこで?」
「それはですね…横浜!!」
「中華か!!」
横浜で思い浮かぶのは中華街と山もりの中華料理だ。食さなくては
この暑さでのだるさも吹き飛ぶ知らせだった。
-函館市 自宅-
「横浜行きってマジかー!!?」
光の速さで帰宅して黒猫の刺繍がされたエプロンの主に問い詰める。
「先ほど契約しました。出発は明後日」
晩御飯の準備中でお玉と小皿を片手に答える
「中華街行く暇あるかな?な?」
「飛行機での移動ですから、サクっと仕事を終えればチャンスはあるんじゃないですか?ちなみに内容はお掃除です。7つと数が多いのと大衆が集まる飲食店なので狙撃は無理 よって直接襲撃ですね。」
「じゃあ、しっかり準備をしないといけないな~ 相手の武装とか、能力とかは?」
「不明 写真をみる限りでは一般人で格闘技でも使う程度かと」
「軽い装備でいいかな」
「使う道具はお任せします。」
「今から支度するからご飯できたら呼んでね~」
「わかりました」
リビングを後にして自室へ入り、銃金庫のカギを開けて眺める
「何使おうか」
備品リストを片手に使うものを吟味する。
今思えばこの時もっと相手の事を調べてから武装を整えるべきだったと彼女は報告書に記載している。
-函館空港 駐車場-
久しぶりの飛行機での移動である。荷物検査などの理由から使用は避けていたが今回は依頼主が銃器を別で配送してくれると言うので、丸腰ではあるが平和な移動を楽しめる。駐車場に車を預け、各自衣類などを入れたトランクを降ろしてチケットロビーへと向かう。
「飛行機なんて本当に久しぶりですね。」
心なしか笑顔がこぼれるイベリコ
「あんま得意じゃない」
乗り気じゃないコウ
「まぁ、楽しもうじゃないの」
ゴロゴロとトランクを引きながらカウンターでイベリコが手続きを済ませると、各自にチケットを配る。
「なんとシートはプレミアムクラスです。」
「え なにそれkwsk」
「函館空港にはありませんが、専用保安検査ゲートで混みあわずにチェックインできたり、待合では一般客は利用できないラウンジを使えます。シートは機材によってシートは様々な種類がありますが、今回はB787型なので座席間隔57inch(約144cm)と一番ゆとりあるシートです。パーソナルライト・PC電源・USB充電ポートなどを備え、隣の席とは仕切りがあり、アメニティも音質にこだわった高性能ヘッドフォン、ウール100%の毛布、国際線ビジネスクラス用のスリッパがあります。枕 ・アイマスク ・耳栓 ・マウスウォッシュファーストクラス並みと言えるでしょう」
「マジかよ!そんなすごいのに乗れるのか」
「ちなみに食事も特別な物がでます。飲み物も各種ソフトドリンクからアルコール各種までありますが、羽田でレンタカーを用意していますので飲まないでくださいね?」
イベリコの目線が突き刺さる。しかしこんな贅沢なシートで移動できるとはとてもうれしい。
「さぁ、荷物を預けて保安検査をくぐりましょう」
出発1時間前 日も暮れかけた頃私たちは搭乗手続きを進める。
-函館空港 専用ラウンジ-
ラウンジのソファでグラスに入った飲み物(ジュース)を片手に寛ぐ。イベリコは今後のスケジュールの確認のため手帳とタブレットを操作し、コウは無線LANが入るのでノートPCでネットの海に潜っている。私はTVでニュースが流れていたのでぼーっと眺める。
「AMA810便でご出発のお客様へご連絡申し上げます。間もなく搭乗開始となりますのでプレミアムメンバー・プレミアムクラスの方からご案内いたします。」
放送が入り出発ゲートまで移動する。12席しかないシートなのでエコノミーをしり目に優越感を味わいながらゲートで並んで待機する。
「ドキドキしますね。」
イベリコも楽しそうな表情でチケットを握りながら列に並んでいる。
その笑顔で俺の息子も握ってもらいたいものだ。
「誰だ今の声!?」
つい叫ぶ
「どうした独り言か?」
コウの不思議そうな表情
「いや、何かが聞こえたような」
「貴女疲れてるのよ」
イベリコの満面の笑みから放たれる会心の一言であった。
「これよりご搭乗のお客様を機内へとご案内します。」
最前列に並んだ私たちはすぐに搭乗券のQRコードを機械にかざし飛行機へと歩いて向かう。
「この搭乗するときのわくわく感がたまらないですよね!」
イベリコは相変わらず童心に帰ったかのように楽しそうである。コウはいつも通りだが
「ご搭乗ありがとうございます。座席へとご案内致します。」
座席番号を見せるとCAさんが案内してくれる。そこにはTVでみるような金持ちしか乗れなさそうなすごい座席が待っていた。
「夢のようだ。」
コウも予想外の豪華なシートに驚きを隠せない。一方イベリコははしゃぎながらシートをリクライニングさせたり、ライトをつけたりととても楽しそうだ。
私は深く腰掛けてシートベルトを合わせるとアイマスクをつけて眠る体勢についた。離陸しないうちに意識は遠のき眠っていた。
次回予告
食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。
牙を持たぬ者は生きてゆかれぬ暴力の街。
あらゆる悪徳が武装するヨコハマの街。
ここは百年戦争が産み落としたネオ・ジャパンのカントーの市。
メスガキの躰に染みついた硝煙の臭いに惹かれて、
危険な奴らが集まってくる。
次回「出会い」。
メスガキが飲むヨコハマのコーヒーは苦い。