-札幌市北区 札幌駅前-

 残暑も過ぎ本州では秋雨前線が停滞して雨が続いているらしい。こちらもだいぶ涼しくなり薄手の上着がないと肌寒いくらいだ。朝晩は15度ぐらいまで下がるので気を抜くと風邪を引いてしまう。

 「肌寒いかね」

 「さほど」

 続いてバスから降りた黒髪の少女に返事をする。晴れているが特別暑い訳でもない。

 「で、どこから回るの?」

 「ゾフマップ行ってからツクモかな」

 「5時間も座りっぱは疲れる」

 「レア掘りしてる方が疲れるぞ?」

 「それ自分の部屋でしょーが…コウみたいな廃人様とは違うの」

 「言うね我らが荷物持ち」

 「さて、かかるぞ」

 ここは札幌 私たちは高速バスで片道約5時間をかけて函館から来たのだ。電車だと4時間弱だが、料金が倍以上するので比較的安い高速バスを利用した。車での移動も考えたが我らの母イベリコが仕事で使っているから諦めた。

 そもそもなぜここに来たのかと言えばコウが新しいPCのパーツが欲しいと言ったからだ。函館にも専門店は一応あるのだが規模が違う。本州に比べたら比較的大きく多数のお店が集うここ札幌駅前に脚を運んだのだ。

 「通販の送料とこっちの移動料、どっちが安くつくかね」

 「通販のが圧倒的に安いが、やはり現物を見ないとこの手の買い物は怖いんだ。ゲームに使う程度のパーツならば通販でポチッって4日くらい待つが、家計に関わるものだから不良だったり規格外は困る」

 ちなみに全国送料無料は98%北海道、沖縄など離島は除外される。即日配達なんてなければ翌日届く物が3日以上かかって届く。これが辛いところだ。

 「あー、それわかる。使う獲物はやっぱ試し撃ちぐらいしたいよね。この前もディーラーお勧めのFN FAL買ってみたんだけど、いざ届いたらコピー品でライフリングも違うし精度悪いの」

 「銃は最悪部分交換でいいだろうけど、こっちは変な電流が走ったら全部飛ぶからね。目で確かめたい」

 普段からやる気とか意欲を感じないコウだが、PC関連の買い物になると真剣で熱心に話をつける。武器商人と会話してる私みたいなものだろうか。人は好きな物には必ず意欲を出す。私も適当な節があるので偉い事は語れないのだが、銃器と乗り物、食べ物に関しては譲れない物がある。横浜での一件以来火力不足を感じ新しい小銃をいろいろと試している。

 独立後の北海道は日本より銃刀法は緩和され、民間人でも厳しい審査を通れば指定の場所での射撃は可能だ。例外として軍属、もしくは軍に出向している者は自宅外での持ち歩き(ケースに入れるなど外観、安全面の配慮の必要あり)が可能だ。招集された時にすぐに対応するためと、治安維持活動が認められているため。私が普段から持ち歩けるのは特例みたいなもの。軍属から除籍はしたものの、私的な交友もあったり、訓練など基地に出向く事がよくあるから銃の携帯を許可してもらっている。

 「そういえばコピー品の話じゃないけど、私たちの装備全部見直すって本当か?」

 交差点で歩行者信号が赤になり、立ち止まるとコウが質問を投げてきた。

 「予算の都合もあるから現状維持の路線もあるけど、最低でも全員5.56mmにはしたいかも~ 私が7.62mmで二人がカービンとかも考えてるかな?」

 「やはり西側武器か?火力なら東でもいいと思うが 安いし」

 「市場の量と価格で言えばロシア製がコスパいいんだけど、やっぱ拡張性と精度、アフターサービス考えると西なんだよねぇ。あと君ら二人はカラシニコフとか振りまわす感じじゃないでしょ?」

 「そりゃ軽くてバリバリ撃てる方が楽でいいよ。ミニミも楽しかったけどやっぱ重い」

 20歳そこそこの若い女子が持ち歩く武器なんて普通は9mm拳銃程度だろうけど私たちは生死に直結するために手抜きはできない。銃の選考に関してはイベリコから一任されているので予算もある程度は自由がきく。

 「ただ民間向け出てるものじゃないと高くてしょうがないから、映画とかに出るようなかっこいいやつは買えないぞ?ACRとMPシリーズは得意の武器商に値切ってもらったから別枠だ」

 「新たな脅威に対して装備の更新、増える予算…世知辛いねぇ」

 「それが現実ってもんよ。さ、ゾフマップに着いたぞ」

 女子力溢れるトークに花を咲かせていたら第一目的地に到着した。コウは即座にお目当ての商品を探しに店内へ消える。

 「私は、っと」

 そこらの女性よりPCやタブレットなど扱えるが、コウみたいなスーパーハカーではないので特に見る物がない。荷物持ちで付き合ってるのだから目的もなし。ゲームやDVDコーナーで最近話題の物を物色してみるも興味を引くものはない。スマホコーナーへ行くと各メーカーがこぞって秋の新型を売りにしていた。よりスペックは高く、機能も増えたり、画面が大きくなったり、ケースで好みの色にカスタムしたりと様々だ。同年代ぐらいの大学生や制服を着た女子高生がカタログを片手に展示品を触って悩みこんでいる。自分も手に取り感触を確かめる。

 「ピンクもかわいいかも」 

 今使っている機種はやはりコウが選び少し中身に細工をしており、契約会社の圏外でも他の会社の電波に接続するか専用アンテナを装備すると衛星に接続して通話が可能である。周りの女子みたいに友達や恋人と使うような物じゃない。

 「欲しかったら自分のお小遣いで買うんだぞ?」

 不意を突く形でコウが後ろから話しかけてきた。買い物を終えたのか手には紙袋を下げていた。

 「びっくりした… それに買わなくても今あるので通話もメールもできるからいいよ」

 「そうか?ちょっと恨めしそうにそれと周りを観てたように思ったが」

 「きーのーせーい」

 「そ、なら行くぞ。まだ買い物は終わってない」

 「まだ買うの?」

 「ここになかったが沢山ある ハシゴする」

 「りょーかい」

 返答すると紙袋を渡され彼女は足早に次へ向かった。

 

-札幌市北区 高架沿い-

 「少し、休憩しよう」

 何件かハシゴして両手には何の部品か知らないがずっしりと重い紙袋でふさがっていた。

 「我が家の体力自慢はこの程度なのか?」 

 「限度がある!!」

 軽く10kg超える物を持ち手が細い紙袋の紐は手に食い込みとても痛い。

 「そこの路地入ったとこに自販機あるからなんか買おう。なにがいい?」

 「スポドリ」

 荷物を降ろして一息つく。この自販機は絶妙な場所にあるようでベンチもあり、買い物客やビジネスマンが休憩している。

 「アイスティーしかなかったけどいいかな?」

 「冷たい物なら」

 コウから冷たいペットボトルを受け取り封を開けると一気に飲み干す。

 「一気飲みは身体に悪いぞ?水分補給は100mlずつ摂取するが効率いいってMGの大佐が言ってたぞ」

 「知らん。私の身体はこれが一番なんだ。」

 簡易のベンチで一息つきながら少し女子トークを弾ませる。

 

 「っと…」

 スーツ姿の男性がぶつかりペットボトルが落ちて残りの紅茶はアスファルトの染みとなった。

 「あ、っと、あの、失礼!!」

 慌ただしそうに誤ってその男性は小走りで駅の方に向かった。

 「危ないやつ 捕まえてジュース奢らせよう」

 「たった160円に向きになるなよ…一気したからほとんど飲んでたし、あの人仕事で急いでるだろ。隣で休憩してた時もずっとパソコン弄りながら通話してた。」

 「へぇ、そこまで見てたのか。さすが」

 「情報はなるべく多い方がいい、どんな時もー」

 「もー?」

 男性が休憩していたベンチに目をやると一泊二日はできそうなボストンバッグが置いてある。もしかしなくとも

 「忘れ物だ!コウさっきの人呼びとめて!」

 「合点招致の助、わかってるよ!!」

 すでに彼の向かった方へ走って向かっていたが

 「ダメだ。いない」

 「遅かったかー」

 「そうする?パクって売る?」

 無駄に走ったコウがゆっくりこちらに戻ってくる

 「バカ言え、落し物は交番に届けるって先生から教わっただろう」 

 「さすがは日本、これぞ優しい世界だ。」

 「今は北方だぞ。ツクモの荷物ぐらい持て この鞄持つから」

 コウに紙袋の半分を渡して忘れ物を持ち上げる。なにか不思議なバランスの重量が手に伝わる。中に鞄が入っているようだ。そして軽い金属音とプラスチックのぶつかる音

 「不思議な重さだな」

 「中身見ちゃう?見ちゃう?」

 コウがチャックを開けようとするも

 「ダメ プライバシーがあるでしょうが」

 「もし札束なら手数料頂こうかと」

 「ダメ、兎に角交番へ向かおう」

 買い物の荷物もあるので少し不安定に歩く関係で鞄も揺らしてしまう。プラのぶつかり合い、擦れる音が中から響く。時には金属の様な音も混じる。この音どこかで…

 「んっ?」

 少し鞄を振って音を確かめる。ああ、間違いない。

 「…コウ、中身を確かめよう」

 「はやり売るか?質屋なら近いぞ」

 「違う、ヤバイのが入ってる気がする」

 コウの顔が少し冷静になる

 「どの程度やばい?」

 「数か月前にヤクザと追いかけっこしたやつよりヤバイかも」

 交番まで近いが人目につかない看板の背後に回ってチャックを開けると中には拳銃とその予備弾倉が何本か、A4サイズの鍵つきブリーフケースも見える。

 「あー、やっぱり銃の音だったか…」

 「するとこのケースはかなり重要なものだな」

 「コウ、スマホのライトで照らしてみて 銃の種類で業界の人間か判別できる」

 「ほぉら明るくなっただろう?」

 照らされた拳銃はポリマー素材で包まれており、先端には恵方巻きのような筒が装着されていた。

 「消音機付き、USPコンパクトか…」

 「民間向けモデルもあるがサプ付きに何本も予備マガを持ち歩くとはずいぶん金持ちだね。てか普通はスーツの下とかに装備してないのか?」

 「時と場合によるけど、かさばるから鞄に入れたのか、これは予備なのか 兎に角中身は知らなかった事にして交番に提出して返ろう。厄介事はご免だ」

 「だな」

 チャックを閉めて一番近くにある駅前交番へ向かった。

 

-中央警察署交番札幌駅前-

 「すみませーん」

 普段なら絶対入りたくこの場所に脚を踏み入れ中で事務仕事をしていた警官を呼ぶ

 「どうされましたか?」

 30代ぐらいの警官がこちらに気づき対応をする。

 「落し物…忘れ物を届けに来ました。持ち主を呼びとめようとしたらもう居なくて」

 最大限の笑顔で状況を説明する。

 「ありがとうございます。こちらの書類に記入をお願いできますか?」

 落し物は落とし主が届け出を出さなかった場合や謝礼を受け取る権利が拾った側にも発生する。そのために少々書類に記載が必要である。

 「中身は…」

 記入に必死な振りをして目線を反らす。あくまで知らなかった事にしなければいけない。

 「ん?これって…巡査部長!」

 上司と思わしき中年警官を呼んでなにか話し合っている。そりゃ拳銃セットが出てきたら問題だよね。

 「すぐに拳銃のシリアルナンバーと所有者リストを検索しなさい。私は本庁に…」 

 だだだ と足音が響く

 「すみません!落し物をしたのですが!!」

 先ほどのスーツの男性が息を切らして交番に駆け込んでくる。あーこれはマズイ。非常にマズイ。

 「(逃げる準備)」

 コウに目線を送って合図する。

 「何を紛失されましたか?」

 「このくらいのボストンバッグ…それです!」

 机に置かれ中身を確認されていた鞄を指さす。警官二人は顔を強張らせる。

 「あなたの物と証明するものをがありましたら助かるのですが…中に入っている物を覚えていらっしゃいますか?」

 遺失物、落し物は携帯電話やカードなど個人情報以外は受け取りに身分証はいらない。中になにが入っているかなどを言い当てればよいのだ。

 「……黒い鍵付きのブリーフケースが入っているはずです」

 「確かに貴方の物ですね。ただ、今回は身分証が必要な物が入っています。」

 この言葉に男性は少し躊躇いながら答える

 「身分証ですか」

 その時後ろで所有者リストを検索していた中年警官は厳しい表情をする。銃の所有が認められてるこの国では買ったときに銃のシリアルナンバーと身分証を警察に登録する必要がある。犯罪があった場合などすぐに割り出すためだ。私の感が正しければこれはそのリストにない。たぶん持ち込まれた物だ。

 時間を気にしているのか男性は急かす。

 「中身は俺のだって証明できたし犯罪もしてないからいいだろう?早くしてくれ」

 「では所有者リストから名前を出しますからお名前と生年月日を口頭でお願いします」

 「くっ…」

 男性はごもる

 「中島、なにしてんだ!早くしないと電車行っちゃうぞ!」

 大きな声でこれまたスーツ姿の少しがっしりした体形の男性が入ってきた。仲間のようだ。

 「磯野さんすみません。私のだと言ってもなかなか渡してくれなくて」

 少し横暴な言い方で、上から目線で警官にお願いをする。

 「あー、すまん そのバッグ俺たちのなんだわ。急ぎの仕事で待たせてる相手いるからすぐに渡してくれない?」

 「お急ぎでしたらなおさら身分証をご提示いただければすぐにお渡しできます」

 警官はあくまでも強情だ。規則は規則、立場上譲れない。

 「ちっ…しゃーねーな… 一般人の前で荒事はしたくないのだが」

 磯野は拳銃を引きぬくと左手を添えて片足を引き、身体を斜めにして少しだけ前傾姿勢を取る。その構えに心当たりがあった。

 「っ…!銃を降ろしなさい!」

 警官もとっさに銃を抜いて構えるも互いに狙ってにらみ合う。これは場数を踏んだほうが勝利する。

 「危ないからこっちへ」

 中年警官が盾になるように私たちは交番の奥へ押しこまれる。双方がにらみ合って注意がない今、例の鞄に手を引っ掛け中にあったUSPと予備弾倉をくすねる。コウはすでにケースを引きぬいて手元でダイアルロックを弄っていた。

 「そのバッグをこっちへ、はやぁく!!」

 磯野はフレームに沿うように伸ばしていた人差し指を引き金にかける。残念ながらその中身はもうないのだが

 

 バシュッっと音がした後、床に落下した軽い金属が室内を響かせる。その数秒後に警官は倒れ込んだ。

 「やばい やばい やばいコウ逃げるよ」

 「言われなくても 裏口あるから奥へ走れ」

 慌てて銃を構えた中年警官は正当防衛として発砲はできるが引き金を引けなかった。彼らが立っている入口の背後はたくさんの人が歩いているのだ。外せば関係のない人が犠牲になる。その事情を知ってか知らずか磯野は躊躇わず銃を撃った。

 「これで終わりですか…逃げた少女はどうしますか?」

 「逃がしておけ 無駄に殺すと上がうるさいぞ。特に民間人はな」

 「了解です。バッグを…あっ」

 「どうし…」

 二人は空っぽになっている事に気づき、急いで奥へ向かうも

 「逃がした!!くそぉぉぉ!!」

 

 久しぶりに全力疾走している。北5条手稲通りを西へ

 「この先どーするの!!?」

 ケースを抱えて走るコウ

 「こっちのほうに警察本部とかあったでしょ!どっか逃げ込もう!」

 拝借したUSPを片手に陸上競技のように走る。先ほど交番から罵声が聞こえたのですでに追いかけれてるはずだ。早く警察関係の施設にたどりつけばこちらの勝ちと考える。

 「次を左!」

 横断歩道を渡ろうとするも大きなスキール音と共に外車が突っ込んでくる。周囲を通行していた一般車にぶつかりながら、私たちの道を阻むように停まった。

 「行き止まりってことか!こっち」

 コウがさらに西へ向かおうとするも、別の車が歩道に乗りあげて停まり、中から複数の男性が拳銃を手に降りてくる。

 「止まれ!」

 そう言われて止まる奴はいるはずなく、全力で走って間合いを詰めると私は肘を入れ、コウはケースの角を腹に入れて怯ませるとボンネットを飛び越えて歩道をひた走る。とりあえず応援を呼ばないといけない。

 「イベリコに緊急事態のコール入れて、それから発砲を許可、なにしてでも自分とそのケースを護れ!」

 「あいよ!」

 コウはスマホを何度か操作して通話ボタンを押す。これは事前に緊急時の危険度に応じてパターン化されたコールをすることで相手に喋れなくとも状況を知らせる。あとは隙を見つけて細かい事を伝えればいい。少しでも情報が伝わることでその後の生存性は変わるのだ。

 「で、警察署方面塞がれたけどどこ向かうの!?」

 「そこの緑地を抜けて駅へ、電車で逃げる!」

 「危なくないの?」

 「人ごみは盾になるさ」

 車での妨害や銃撃を避けるため緑地を出てすぐ大型ショッピングモールに入り駅までの最短ルートを走り抜ける。すでに2km近くを全力で走っているが買った荷物を全部置いてきたおかげかまだ体力に余裕はある。コウも汗かいているがまだ余裕そうだ。

 「のどかわいた」

 余裕そうだ。

 

 

-予告-

絡みゆく大人の都合 突然現れる謎の優男

それは命をかけて護るべき物なのか 少女は選択を迫られる

ところで今年の秋刀魚は去年より少し価格がお値打ちなのに脂が乗って美味しいんですよ。あつあつご飯に焼きたての秋刀魚、大根のおろしに醤油をちょろっと

秋ですから芋煮もいいですよね!地方で味付けが違うので各地を巡ってみたいものです。

次回、「いい旅夢気分 秋の味覚スペシャル」

 

 

最終更新:2015年09月14日 21:16